cord.29 そして消える
「ど…ういう、事だ…!!」
振り絞って出したその台詞にフレインは肩をすくめる。
「まだ分からないかなぁ?さっきの一瞬の移動、あれはそのトゥルエノスヴェートの力さ。そしてジークを吹き飛ばした力、それがデフェールノヴァの力。そして今ジークが動けない理由は…分かるかい?」
「ウィルダネスの、力か…!」
全身から汗が噴き出した。これは笑えない。
「その通りさ。これは禁断魔術ティネンティアの力なんだよ。教えてもらってさ、使えるようになったんだよ。」
禁断魔術とは遥か昔に使用する事を禁止された魔法。帝国はその魔法の使い方をずっと隠してきていたのだ。嫌な予感しかしなかった。ジークの自分の勝ちのイメージが崩れ去って行く。首元に突き付けられた剣先がギラリと光る。
「これで分かったよね?ジークは僕には勝てないんだよ。」
歯がガチガチと音を立て、膝がガクガクと震える。カインよりも冷たいオーラに恐怖を感じていた。ジークはそれに耐えきれず、思わず目を瞑った。その時、剣先が離れるのを感じた。
「一息で殺したら…つまらないよね?ジーク、僕は君の本気をまだ見ていないんだよ。」
そしてフレインは間合いを作り剣を構え直した。それと同時に身体に感じていた重さが消える。
「教えたはずだよ?戦わないといけない時があるって。」
小さく首を傾げてみせるフレイン。その顔に残る痛々しい傷を見るとジークはトゥルエノスヴェートを手の内に召喚し直す。そして大きく深呼吸する。ジークの目が光り、髪の毛が揺れる。
「お前とは、戦いたくなかったよ。フレイン。」
フレインに聞こえないように呟くと瞬時にフレインの背後に回る。そして首元目掛けて双剣を振るう。それにギリギリで反応したフレインがしゃがみこみ、足先から刃を出すと背後のジークに向かって足を振り上げる。ジークは冷静に身体を後ろに仰け反らせその勢いのまま後ろに飛ぶと着地と同時にまた駆け出す。ティネンティアの力は強力だったが、ジークは無理矢理その力を弾き飛ばす。そんなジークにフレインの顔からは笑みが消えていた。
「雷電魔法奥義!!はぁぁ!!閃光魔法奥義!!突風魔法奥義!!!」
ジークは魔法の最高ランク、奥義を発動する。
「くっ…!少しは、やるようだね、ジーク!」
「その余裕がいつまで続くだろうな。」
魔法を避けて後ろへ下がったフレインの背後からジークは斬りかかる。
「奥義!雷光瞬連斬!!!」
目にも止まらぬ速さでフレインに斬りかかった。避けきれなかったフレインは堪らず呻き声をあげた。フラフラと立ち上がって息を荒げる。
「はぁ…はぁ…中々、やるようだけど…!そんなに奥義を連続で使うなんて…!自殺行為だよ?」
人間は皆体内に魔力が流れている。その魔力は生命そのものでもあるのだ。その魔力が尽きると死を意味する。魔力の消費の多い奥義をこう連続で使うのは、魔力が多いジークでも自殺行為であった。
「今と昔は違う!!あの頃の俺は!もう居ないんだ!!」
そう言った瞬間、フレインの身体からは大量のドス黒い魔力が溢れ出した。その魔力からは悪魔の魔力と近いものを感じた。身体の中であの悪魔の魔力が蠢くのを感じ、ジークは堪らず胸を押さえる。
「……ふ…あっははははははは!!!ジーク!!やっぱり君は面白いよ!!!…何にも……変わっていない…!」
フレインは開かないはずの両目を開けてゆっくりと歩み寄る。その目は黒一色。吸い込まれていきそうな感覚に陥り、ジークは堪らず目を逸らす。そして胸を押さえながら後ろへ下がる。その時、背中に硬いものが当たるのを感じた。後ろには大きな扉。もう逃げ場はなかった。城中が振動する。ジークの目には何もかもがゆっくりと動いているように見えていた。いち早くその状況に気が付いたミトが目を見開き駆け出すのが、視界に写っていた。
「…チェックメーイト♪もう充分楽しめたし…ばいばい♪」
フレインはいつものように口の端で静かに笑っていた。フレインの剣が振り下ろされ、ジークは目を閉じた。その瞬間、鈍い音が耳に入る。
ーここまでかー
そう頭の中で小さく呟いた。が、痛みがない事に気が付き恐る恐る目を開ける。
「あ…あ…!!!」
床にはポタポタと血が流れ落ちる。
「フレイン!!!!」
ジークはフレインの名を叫んだ。目の前の友の腹には剣が突き刺さり、口からは血が流れる。フレインの目は先程までのように閉じていた。フレインの後ろに立つ男は口の端で笑って居る。鎧ごと貫通する力、その笑い方、その黒髪、間違う筈もない。
ーあぁ、お前はー
「っ…カイン…っ…!!」
ジークは歯を食いしばってカインを睨み付ける。
「フン、高い魔力反応があったから来てみれば。貴様に死なれたらあいつが可哀想だろ?」
冷たい言葉を吐くカイン。そんなカインの足元にフレインが倒れ込む。
「フレイン…!フレイン!!」
「…貴様を殺そうとした奴だぞ、そいつは。」
そんなカインを無視しジークはフレインの身体を揺する。
「…さわ…るな…!!」
フレインの言葉にジークは固まった。フレインは身体を起こすと傷口を押さえる。
「フ、フレイン…!」
「…はぁっ…!はぁっ…!はは…!優しい、ね、ジークは…!本当に…!見ていて腹が、立つ…!!」
その目は先程までのように鋭かった。ジークは言葉も出なかった。フレインの側に座り込んだまま動けずにいた。
「同情、か…!?んなのいらないんだよ!はぁっ…!はぁっ…!さっさと!行け!!目障りなんだ、よ!!!」
そう言ってジークの足元に剣を投げ付ける。その剣は力なく地面に落ち、ジークの元へ滑り寄る。カインが小さく舌打ちをし、剣を振り上げた。
「死に損ないが…。」
「行けよ!!ジーク!!今すぐ!!消えろ!!!」
瞬間ジークの顔には血が飛び散った。
「カイ…ン…リ…ト……!ガハッ!!」
フレインが力なく倒れ込んだ。ジークの頬には涙が伝う。カインは黙ったままフレインを睨みつけた。
「……は……は…ジー………僕は………お…前……………い………だ…った…。」
「フレイン…!フレイン!!!フレイン!!!!!」
ジークは大声を出して涙を流した。フレインの側で項垂れて泣き続ける。
「…ジーク、覚えておくんだな。自分のしたい事が何の犠牲もなく出来ると思うな。」
「だからって!だからって…!!!こんなの!!何で!何でだよ!!!」
ジークはカインに掴みかかった。涙でぐちゃぐちゃになった顔で睨み付ける。そんなジークをカインは冷たく睨み付ける。
「…フン、美しい友情ごっこだな。俺は…俺はてめぇのそれを壊されたんだ!!俺の気持ちが分かるか!?いいや分かるはずがねぇ!!てめぇなんかに!分かられてたまるか!!」
カインがジークにそう怒鳴ると突き飛ばす。そのカインの瞳には怒りが現れる。何とか息を整えるとカインは掴まれていた服を整えて続ける。
「奴を殺して来い。そこで決着を付ける。それまでせいぜい生き延びる事だな、屑。」
カインはジークの返事も聞かず、剣についた血を振り払うとその場から一瞬にして姿を消した。
「んで!!何で!!ふざけんなよっ…!!ふざっけんなよぉっ!!!」
ジークは泣き叫ぶ。その場で蹲り拳を床に叩きつける。ミト達がその状況に言葉を失う。
「フレイン!フレイン!!クソォ!クソォォ!!!!」
天を仰いで叫ぶ。その声は廊下中に響き虚しく消えていく。ジークは暫くの間泣き叫び続けた。
ージーク、僕はお前の事が大嫌いだったー




