第9話 やっぱり馬鹿
朝一、俺はその着信音で目が覚めた。
「ん?」
誰かと目を向けてみれば小畑由良の文字。沙奈のお母さんだ。なぜ俺に電話を?
「もしもし、どうしたんですか?」
『亮太くん、真矢が………。』
真矢、母さんの名前だ。
「母さんが………どうかしたんですか?」
『事故にあって、意識はあるみたいなんだけど骨折して入院してるって………。』
「そう………ですか。」
『行ってあげてくれないかな?』
「………母さんは………俺に会いたいんですか?」
『話をつけるいい機会なんじゃないかなって思って。まだ何も解決してないんでしょう?』
「はい………どころか、あれ以来あってないです………。」
『まぁ、それは知ってる。』
「なんでですか?」
『話せば長くなるからまたの機会に。ほら行ってあげて。』
そう何度も後押しされ、俺は結局母さんの元へ向かった。仕事も今日は昼からなので今から行こうとなった。病院の場所は沙奈のお母さんから聞かされた。行きたくないわけじゃない。ちゃんと話をつけたい。でもいざこうなってみると怖い。俺は、あのときのままなんじゃないかって思っしまう。感情的になって………また繰り返してしまうかもしれない。でも、何もしないのはもっと嫌だ。だから行かないと。
電車に揺られ数十分、歩いてさらに数分。
「ここか………。」
病院を見上げ一言呟いた。受付から病室の番号を聞きその部屋へと向かう。
「母さん………。」
扉の前まで来たんだ。もう後戻りはできない。意を決して目の前の扉ノックする。
「どうぞ。」
中からそう声が聞こえた。紛れもなく母さんの声だ。
「………由良さんに教えてもらった。」
「はぁ………由良ったら余計なことを………。」
ため息混じりにそう言った。母さんのその目は、何故か穏やかだった。
「沙奈ちゃんとは上手くやってるの?」
「あ、あぁ。」
まるで人が変わったみたいだ。一体何があったんだ?
「母さん………もう咎めたりしないのか?」
「何を咎めるのさ?アンタは頑張ってるじゃない。」
まさか………その言葉が飛んでくるとは全く思っても見なかった。
「ごめん、私はアンタのこと舐めすぎてたよ。いつまでも子供扱いばかりしてさ。どうもアンタは私の想像以上に大人だったみたいだよ。」
「ま、待って話が見えない。」
「あぁ、そうだね。由良のおかげだよ。一旦距離をおいてみなって言われてね。そのとおりにして見たんだ。最初のうちはすぐに謝ってくるだろうと思ってたけど全然そんなことなかった。」
「だから仕送りもなくなってたと。つまり、試してたのか?」
「そう。でもいつまで経っても謝ってなんてこないからさ。独り立ちなんてとっくにしててんだなって気がついた。ちゃんとしてることは由良の話からも分かってたからね。」
「じゃあ………引っ越ししたのは?」
「同じ街にいたら絶対にアンタのところに行くと思ったからね。連絡先も変えて連絡もこさせないように………会わないようにしてた。」
「そっか………。」
「まぁ、今日はありがとうね。アンタもスッキリしたでしょう。」
スッキリはしたが………唖然ともしてる。色々まさか過ぎた。由良さんにお礼しておかないと………。
「こんな感じで解決するなんて思ってなかったからな。」
「私もだよ………こんな醜態晒すなんて思ってなかった。」
「………痛々しいな。」
「ちょっとぼうっとしててね。今度からは気をつけるよ。」
「死ななかっただけスゲーよ。」
「ほんと、自分でもびっくりしちゃうよ。そんなに状態も悪くないし。で、そろそろ帰るのかい?」
「あぁ、昼から仕事だからな。」
「朝早くに悪かったね。」
「いや、いいんだ。これでスッキリしたからな。あ、そうだこれ。」
そう言って俺はここに来る途中買ったお茶を差し出した。
「お茶一本?」
「何があるかわからなかったからな。取り敢えずって感じだ。」
「………ありがとね。」
「じゃあ。」
「うん。」
そう言って俺は病院を去った。これで親子喧嘩には終止符が打たれた。まさか由良さんが色々してくれてるなんて全く思っても見なかったが、一件落着と言っていいだろう。何かお礼をしなければ。さて一旦帰って支度するか。
今日、俺の一日はそんなふうにして始まった。久々だな。ここまで爽やかな朝ってのは。さてと何か忘れてるような気はするが………あ、沙奈にどこ行ってるか伝えてない。怒ってるかな?そんなことを思いながら一旦帰宅。予想は大ハズレ。心配そうな顔の沙奈が出迎えてくれた。
「おかえり、亮太………お母さんから聞いたよ。どうだった?」
「無事仲直り。解決した。怪我もそんなに悪い状態じゃないって。」
「良かった……。」
まるで自分のことのように喜んでくれる沙奈。
「あぁ、良かったよ。」
心の底からそう思った。