Record:26 掠奪者
状況が読めてきた。
まずベースキャンプ。おれたちがいた作業棟は見事に崩落。警戒塔はとっくに倒壊し、居住棟がいままさに砲撃を受けている。
砲撃元は…吹雪の向こう、空だ。でけえものが浮いていてその上に載っかっている大砲がこちらに向かって何度も発砲している。
大気圏・宇宙航行仕様の………宇宙駆逐艦だ!
駆逐艦が一隻、ここへカチコミに来ていると前に聞いた情報からして………アレは連合だ。このタイミングで来やがるか。
視界の悪い吹雪のさなかで幸いにもこっちが見えていないようだ。
どうにかしてあれを撃退するしかないが…どうやるんだ?
「おい、聞こえるかサムライ野郎!」
ん? 下からなんか聞こえる。
「聞こえてるだろうが! あんたのことだよ!」
誰だ? この戦車にはおれとスカリスしかいないはず。そう思って中を覗けば、やはりスカリスしかいない。しかしその運転席すげー狭そうだな………。
「お前だよ、お前!」
!?
この声はスカリスだった。しかし何なんだ。カタコトだったスカリスの言葉が急に流暢に聞こえるぞ。それに口の動きが聞こえている言語と一致してない。すごくムズムズする。何なんだ!?
「お前、喋れたのか?」
「バカ野郎、まだまともに喋れねえよ。面倒くせえからスキル使ってんだ!」
「だいぶ乱暴だな!?」
そもそもなんなんだよ「すきる」って!?
さっきまでのスカリスとはえらい雰囲気の違うスカリスの態度にしどろもどろしていると、スカリスは呆れたようにため息を付く。
「で、あたしはどうすれば良いんだ? あの船を落とせってんなら悪いが時間がかかるぜ。」
スカリスはおれに指示を乞う。………いや。
そもそも宇宙駆逐艦に戦車が戦いを挑んで勝てるのか?
くそっ、頭がこんがらがってて何も判断できない。とりあえず状況把握を急がなければ。
「まず仲間たちを助けなきゃいけねえ、どうにかできるか!?」
「助けに行くならあそこの建物まで突っ込むしかねえけど…。」
「頼む!」
「仕方ねえな、齒ぁ噛み締めてろ! 舌噛むぞ!」
ドルルルルゥン! キュウウウウンッ!!
スカリスが戦車のエンジンをさらに吹かし、発進する。エンジン音が高エネルギーを取り出す音へ変化し、振動が車体を伝う。
埋まっていた雪と瓦礫からその戦車は姿を現す。
「M4A2グレイグ―――【リバティ】。お前の鼓動を響かせやがれ!」
38口径140mm滑空砲を砲架とする巨大な戦車が雪の中から飛び出る。周りの景色に合わせて光学迷彩パネルが戦車を白く彩る。
よく見れば戦車の風貌は、おれの知っているものとはかなり趣が違う。めちゃめちゃたくさんの機外装備? とやらがゴテゴテついている。コイツの風貌を見てからヘカ・クイスラムやヴェルニトリアの戦車を見たとしたらおそらく赤子か何かかと思うほどにむちゃくちゃイカつい。
本当に彼女の故郷では日々戦争に明け暮れていたんだと思わせる程に。
………おれの目が見間違えていなければ、これは彼女の持っていたハンドガンが変形したものだ。
最低限の自衛用火器が、最強の陸上戦力たる戦車へ変身する。そんな技術聞いたこともないし、魔術でもそんなものはない。
スカリスがさっき言っていた「すきる」とやらが関係しているのか?
「うぉおおおっ!」
激しい振動がM4A2グレイグ【リバティ】を襲う。雪の上を爆走し、居住棟へ向かう。
「敵の攻撃範囲の中に飛び込む、いつでも撃てるようにしろ!」
「いつでも撃てるようにって………戦車の操作なんてやったことねえよ!」
「これでも被ってろ!」
スカリスからヘルメットを渡される。いや、楯無があるから別にヘルメットなんか要らないんだが。
「そいつがやり方を教えてくれる。」
なんだって? おれの頭の中にたくさん疑問符が浮かぶが、とりあえず言われるがまま被る。
!?!?
被った瞬間、脳みその中へ大量の情報をぶち込まれる感覚に陥る。ほっほぁあぁっ!?
ヘルメットのバイザーグラスに何かが浮かび上がる。戦闘用のモニターかのように、戦車の外の景色が半透明で浮かび上がり、いろいろアイコンが浮き出る。
何だこれは!?
そして自然とおれは砲塔内部の砲手席に座る。まるで歴戦の戦車乗りのように淀みなく照準装置の操作に入る。なんでこれが照準装置だとわかるんだ、おれは!?
照準装置に備え付けられたモニターは、駆逐艦を映していた。その十字の照準………レティクルががっちりと駆逐艦を捉えていた。
なるほど、こういうことか…!
「おし、ばっちこい。」
「準備はいいな! 突っ込むぞ!」
ズドドォンッ!
外から駆逐艦の砲弾の着弾音が響く。おれはバイザー越しに外の景色を見て仲間がいないか探す。この青色の下向き三角マークが仲間の位置か! 建物の中にいても見えるとかすっげえ便利な機能じゃねえか!
赤く光っている三角マークが四つ、これは閉鎖主義者のやつらだな。
「味方が見えた! みんないる!」
砲弾での攻撃箇所からは離れたところにいる。居住棟からはすでに脱出しているみたいだ。よし、これで心置きなく戦える!
「スカリス! 仲間の脱出を補助したい、行けるか!?」
「了解。前に出る!」
「すきる」の効果とやらかはわからないが、不思議とお互いの考えていることがわかっているような雰囲気で、おれたちは連携を取り始める。
おれは照準装置へ目線を合わせ、駆逐艦をモニター越しに睨む。
スカリスはリバティを進め、敵の前に堂々と躍り出る。これじゃ敵の砲撃に晒される。
だがおれの勘がこう言った。問題ない、リバティを信じろと。
60トンの重戦車は光学迷彩を解き、真っ白な雪模様から瞬時に暗灰色の無骨な姿へと変貌する。当然白い雪の中じゃ浮き上がって見えていることだろう。
「照準よーい、」
おれはレティクルを駆逐艦にがっちり合わせ、射撃用グリップを握り込む。
「てぇっ!」
ドンッ!
主砲が火を吹き、車体を凄まじい衝撃が襲う。放たれた砲弾はものすごい速度で駆逐艦へ飛んでいく。
そして1秒と少しの時が経ち、駆逐艦の船体表面で爆発するのが見える。強風の影響でわずかに誤差が生じたが、それでもしっかりと命中した。
「次弾装填!」
「うっす!」
主砲の尾栓が開け放たれ、そこからぶっとい空薬莢がガシャコォンッ!と勢いよく排出される。しかしその空薬莢は床面で一度金属音を響かせ跳ねてから即座に光の泡となって消滅する。
そしておれは即座に尾栓を開けてから後ろにあるドアを開け、中から装弾筒を取り出し一気に装填させる。
そして再び照準を行う。
「照準よーい!」
「てぇっ!」
ドンッ!!
先程の射撃の補正を行った砲弾が、今度はよりもっと正確に標的を襲う。駆逐艦の主砲塔めがけ直撃した。もう一丁ぶち込んでやる!
「命中!」
「次弾装填!」
っ!
駆逐艦の主砲は一基だけではない。船体後部にある主砲が火を噴いた。その矛先はこちらを向いていた。
「衝撃に備え―――うっ!」
ズドドォオンッ!
駆逐艦の砲弾は僅かに逸れ、リバティのすぐ横へ着弾する。直撃はなかったものの、それでも戦闘艦の主砲の威力は侮れない。
「この程度か!」
ドルルルルゥンッ!
エンジンが再び火を吹き、リバティはその場から移動する。その間もおれの主砲照準は駆逐艦の後部主砲を睨みつける。
これだけの大きな揺れがあっても主砲は上手く衝撃を吸収し仰角を変動させ、その狙いを狂わせることはなかった。
「照準よーい、」
駆逐艦の後部主砲から発砲光が発せられるのが早いか否か、リバティも射撃する。
「てぇっ!」
ドンッ!
ズドォオオンッ!
うぅおっ!
この衝撃、直撃だ!
駆逐艦とリバティの砲弾がほぼ同時に発射されお互いに着弾。後部主砲に命中していればいいが!
「うぅっ!」
どこに当たったのか分からないが、アレほどの衝撃にも関わらず車内は割と大丈夫だった。だがモニターがうまく機能していない。射撃管制用のカメラがやられちまったか?
「目が潰れた!」
「問題ねえ、時間が経てば自動で修復してくれる! ミサイルを撃て!」
「了解!」
急いで別の操作盤の操作をする。レーダーで捉えた駆逐艦目掛け、ありったけのミサイルをぶち込む。
「ミサイル射出!」
ボシュボシュボシュ………!!
車体後部6セル全てから6発のミサイルが射出する。まっすぐ上へ高く飛び、ある程度の高度へ達した時に駆逐艦の頭上へ方向転換し急速に飛び込む。
まさか戦車から6発ものミサイルが放たれてくると思っていなかったらしい駆逐艦は全く防空戦ができず、6発すべて直撃を受けた。次第に本当に回復してきたモニターで敵艦の被害状況を確認する。よっしゃ、後部主砲はお釈迦様だ!
そしていまミサイルが当たった場所も火器管制レーダーあたりだ。向こうはもうまともに戦えないはずだ。
「敵艦、主砲とレーダー破壊!」
「ふぅ…。」
なんとか土壇場でスカリスとの共闘で急場を凌げた気がする。
この戦車すげえな。ほぼ奇襲に近い状況だけど、宇宙駆逐艦にここまでダメージを与えやがった。
そして全回復完了、ミサイルの再装填も全て完了した。
これは普通の戦車じゃない。
受けたダメージを自動で全回復する? 機外セルに付いてるミサイルポッドの自動再装填? ありえない。何もかも原理を無視し尽くしている。
彼女のいた世界じゃこんなものが当たり前だったのか?
「スカリス、この戦車は一体…。」
「おい、敵が動いてるぞ!」
「!」
敵駆逐艦はエンジンノズルから火を吹き、こちらへやってくる。船体横のハッチをガバッと開いている。これは………!
「降りてくるぞ!」
ほぼ兵装は無力化しているとは言え、宇宙艦艇なら必須級の機能である揚陸機能までは封じきれていないだろう。どの大陸だろうが、どんな気候、天候だろうが展開できる頑丈な宇宙仕様の浮遊艦艇には必ず揚陸機能がある。
こんなところまでわざわざ高価な宇宙駆逐艦で出張ってきやがるんだ。相応の人間が乗っているに違いない。
「兵装全部ぶち込みやがれ!」
「了解!」
スカリスの指示の元おれは全力で迎撃に当たる。
ドンッ!
ボボボボボボシュッ!
ズドドドドドン!
主砲、ミサイル、機関砲すべて駆逐艦へ撃ち込む。しかし船体は流石に頑丈にできておりなかなか有効打にならない。小さくても大気圏再突入ができる船体だ。こんなもんじゃ破壊には時間がかかる!
「艦橋だ! 艦橋を狙え!」
「この角度からじゃ当たらないぞ!」
「クソっ!」
スカリスが艦橋を狙えと言うが、そんな脆弱性をカバーしていないはずもなく、地上からでは艦橋周りの防護板に阻まれてミサイルしか当たらない。初撃のときは当てることができたが、流石に2回目以降は防空体制も立て直されている。速力の足りないミサイルが尽く落とされる。
くそっ、やばい!
「スカリス! ここはおれに任せて逃げろ! このままじゃ轢き潰されるぞ!」
胴体着陸でもするつもりか知らんが、駆逐艦はまっすぐこっちへ速度を落とさずに突っ込んでくる。このままじゃ下敷きにされてしまう。
いくら頑丈とは言ってもせいぜい60トン程度の戦車と1000トン以上もある宇宙駆逐艦が事故ったらただじゃすまない。
「早く逃げろーッ!」
「クソッここまでか!」
リバティは爆音を発して急加速しその場から離れる。
そして駆逐艦は居住棟へ直撃する。
ズドーンッ!
頑丈な宇宙駆逐艦は凄まじい衝撃にも関わらず船体がひしゃげることはなく居住棟を木っ端微塵にする。
そのまま駆逐艦は停止する。しかし艦橋後部に動きがある。ハッチが開いた。………そこからだな!
開いたハッチからは二機の垂直離着陸機が発進し、同じハッチから何人かも降りてくる。くそっ、本格的な襲撃だな!
「まずい、近くに仲間がまだいる―――いけるか、スカリス!?」
スカリスは大仰に思いっきりため息をつき、リバティのハンドルを握り込む。
「―――わかったよ!」
ズドドドォンッ! キュルルルルゥンッ!
おれたちは崩壊した居住棟へ向かう。




