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Legend of Star Night  作者: パインティー
第三章 閉ざされし歴史
82/166

Record:25 機神

 【大穴】調査を終え、おれたちはウヴェール第二遺構前のベースキャンプまで戻ってきた。これでウヴェール遺構群の調査は一通り終わったことになるだろうか。

「調査はこれで終わり! 皆さんお疲れ様でした〜。」

 ベースキャンプまで戻り、ある一室にみんなで集まる。狭い一つの部屋に集中して集まっているため、きちきち感がすごい。その中でハリスさんは調査終了を宣言する。

「終わった〜!」

「まだ早いぞ。無事に帰り報告するまでが調査だ。」

 ジダゴの喜びのガッツポーズにレッドが釘を刺す。そう、まだある。またあの長距離を走ってルガリア大氷河を戻らなきゃならない。うぇー、だるいな。釘を差されたジダゴもそれを理解したのかしおしおとしおれていく。

「そうだね、レッドさんの言うとおりだよ。まずは南レクルス基地まで戻らないとね。」

 行きよりも遥かに荷物も増えた。調査関連の資料はもちろんだが、あいつらもいる。火傷之女スカリスに閉鎖主義者だ。

 こいつらも護送する必要があるわけだ。行きの時は過剰だった護衛の戦力も、今こうしていると充分なくらいなのかもしれない。幸先が良いのか悪いのか………。

「今日はもう遅いし、出発は明日にしよう。また長い移動だからみんなしっかり休んでね!」

『了解!』

 

 そういうわけでおれたちは明日に備えて休息を取るのだが、その前にレッドたちに手伝いを頼まれた。明日の出発のための荷物の積み込みだ。

「すまんな、手間を掛けさせる。」

「いいよ。」

 相方のカーボンとジダゴはベースキャンプの設備の追加設営のためにここを離れているようだ。レッドと一緒に必要な物資や資料諸々を積み込む。資料はもちろんウヴェール遺構群からかっぱらってきた残骸だ。

 設計図や資料、それにあの機巧兵の残骸も一部積み込んでいる。コア部分だ。

 千年が経っても起動できる機巧兵のコアを調べることで、エネルギー分野に新しい光明がもたらされるかもしれない。残念なことにエネルギー不足が原因で争っている場所もあるからな。

「あれだけの巨体を、こんな小さなコアが動かしているのか。驚異の技術力だな。」

「とても千年前か、それ以上の大昔にできたやつなんて思わねえな…。」

 そのコアはバスケットボールより二回りほど大きいサイズで、両腕いっぱいで持ち上げられるくらいだ。

 だがこれが10メートルもの高さのあるあの巨大な機巧兵を動かしていた。そこからビームだのなんだの撃つんだぞ。

 これを設計し製造していたあのウヴェール遺構群の正体が気になった。

「これよりも強いとされる前期量産型がまだウヴェール遺構群の中にあるそうだな。」

 レッドはコアを梱包用の素材で包んで積み込みつつ、そう言う。

「妙なことにならなければいいが………。」

「連れてきたぞ。」

 おれたちが積み込み作業をしているところへ、クルーガーの声がする。その方向を見ると、クルーガーとベースキャンプ駐在隊員のテグス、モバリがスカリスと閉鎖主義者たちを連行していた。

「よし。お前らはこっちだ。」

 レッドの誘導により、四人のテロリスト野郎どもはふたつの雪上車へぶち込まれる。乱暴に積み込まれた四人はくぐもった悲鳴を漏らしながらぶち込まれ、中へ閉じ込まれる。

「監視を頼む。」

「はっ!」

 レッドの指示にふたりの隊員は敬礼を返し、それから直立不動の姿勢で監視に入った。ん? なんだか妙だな。

「なんでお前が指揮しているんだ?」

 おれの疑問をクルーガーが聞いてきた。レッドは肩をすくめ、呆れたように言う。

「俺は平和維持軍の元軍人だ。さてはクルーガー、お前新顔だな。」

「少し前まではお前らの敵だったし、お前のことなんて毛ほども知らねえな。」

 クルーガーが平和維持軍かれらの敵だって………?

「ほお、すると連合側からこちら側へ来たクチか。俺はその逆だな。」

「なんで軍を辞めた?」

 クルーガーの出自の片鱗を聞きつつ、クルーガーの疑問にレッドは答える。

「ケジメを取っただけさ…しくじっちまってな。」

 そう言いつつレッドは残りの女、スカリスの手錠をつかむ。

「お前はこっちだ。」

「うっ…!」

 おれのいる車のところまで来て、レッドはスカリスをぶち込む。おれは最後に手錠がきちんと閉じられているかチェックのため、彼女の手元を見る。

 ………すごい傷跡だ。

 テルシアの言っていた通りだな。

「………この傷跡は何なんだ。」

 チェックの傍ら、おれは彼女に聞いてみる。

 まぁ当たり前だが、彼女は何も言わない。

「………。」

 それにしても、あまりにも痛々しすぎる。どんな戦いをすれば、こんな傷だらけの体になる?

 傷跡の形は殆どが銃創。たまに裂傷や火傷痕がある。

 戦争でもなければこんな傷は普通無いだろう。………。

 彼女の故郷では、戦争をしているのか?

「………痛かったらごめん。」

 ゴリゴリの硬い金属にこすれているその腕がなんだか痛そうに見えたので、布をその隙間に入れて感触を和らげるようにする。

 良し。処置としてはこんなもんだろう。いくら完治しているふうな傷跡でもその表面は凸凹しているうえに、変質だってしている。あまり刺激を与えないようにしたほうが良いだろうな。

「………。」

 その瞳がおれを見ていた。

 写真の中で見た、人を殺せそうな殺意を込めたあの鋭い目ではない。不安と安心がないまぜになったかのような………不思議と、幼く見える。

「………何だ?」

 なにか言いたいことがあるのかと思い、おれは問う。

 彼女は目を伏せ、首を横に振る。なにか言いたいことがあったようだが、思い悩んで結局やめた。そう見えた。

「………何か言いたいことあるなら、言っておけよ。一応、ここの車の見張り担当はおれだ。」

「………。」

 彼女の手錠のチェック、傷跡もろもろの観察を終えておれはその車の扉を閉める。

 さて。

 準備も終わったし、戻って休むとするか………

 

 

ヴーッ! ヴーッ! ヴーッ!

 

 

「!」

 突如、ベースキャンプ内で警報音が鳴る。

 何だ!?

『みんな、敵襲だ! 気をつけろ!』

 そのとき爆音が聞こえる。

ズドォーンッ!

 うぉおおっ!?

 何だ、何なんだ!?

 突然の揺れをベースキャンプが襲う。急ごしらえで建設した作業棟がガタピシと不安定的に揺れる。まずい。ここ崩れるぞ!

ズドォーンッ! ズドォーンッ! ズドォーンッ!

「くっ………!」

 この爆音、ここを撃たれてやがる!

「何事だ!?」

「わかりません、状況確認してきます、おいお前そっちを見ていろよ!」

 レッド、モバリがすぐに状況確認のため、警戒棟の方へ向かう。残ったおれとクルーガー、テグスが周囲に注意しながらテロリストたちを運び出すことにする。

「急げ! このままじゃここは崩れるぞ!」

「余計なことをするなよ。少しでも変な動きしたらぶっ刺すからな!」

 脅し文句を発しつつ、クルーガーとテグスは閉鎖主義者たちを連れ出す。おれもスカリスを連れ出す。

ズドォーンッ!

「うっ!?」

 突然大きな衝撃が響く。これは………直撃か!?

 作業棟の屋根が破壊され、上から大量の雪、破片が降ってくる。

「ショートっ! 逃げ―――」

 だめだ間に合わない!

 おれは逃げても間に合わないことを察し、とっさに楯無を展開して衝撃に備えた。

ずどおおおおんっ!

 うっ、いてっ、うぐっ!

 まず一気に建材がおれの上に殺到し、その上から大量の雪が乗っかかる。とてつもない衝撃がおれの身体を押しつぶそうとする。

 スカリスの体はとても貧弱そうで少しでも気を抜けば圧死してしまいそうだ。

「ぬぅおおおお〜!!!」 

 全力でやってくる上からの大質量を二本の腕と脚で踏ん張る。

 

ズドドドドド………

 

 そうしておれはただひたすらに耐え続けた。

 

 

 

 

 

 

「うぅ………収まったか…?」

 揺れが収まり、背中に伝わる重さの追加もなくなってきた。

「おい、大丈夫か?」

 おれの下にいるスカリスへ声をかけた。おれよりも小柄な身体が幸いしておれの身体に収まるような感じであまり潰れずにいたようだ。

「ぁ………。」

 スカリスは何を言えばいいのかわからないようだ。というかおれの言葉も理解ができてないんじゃないか? いや、多少はわかるはず。混乱してるだけのはずだ。

 とりあえず意識ははっきりしている。そんな大怪我も負ってないだろう。大丈夫そうだ。

「くそっ…少し待ってろ、なんとか脱出する。」

 とんとん、とおれの胸を軽く叩く感触がする。なんだ? と思って見ると、スカリスが何か言いたげに口を開いている。いや、なんか言ってる。でも…わからない。

「『ゲイルを渡してくれないか。』」

「えーっと………なんて?」

「〜…! ………はぁ…。」

 スカリスも困ったようにして頭を抱えている。異世界人のスカリスには、おれたちが使っている中央第一標準語をカタコトレベルで話すことしかできなさそうだ。

 たぶんさっきの言葉、スカリスの故郷の言語だな。

 まいった、なんて言っているのか分からなかった。

「じゅう、わたす、わたし。」

 !

 スカリスの言葉が突如、意味のある言葉になった。標準語だ。

 だがその内容がなかなかに物騒だった。

「じゅう…銃!? 銃をお前に渡すのか?」

 スカリスはおれの発音を聞いて眉を一瞬しかめたが、少し時間をおいて理解したのかこくこくと頷く。

 なんでだよ。このタイミングで銃を欲しがるってどういうことだよ!

 おれを撃ち殺すのか!?

 いや、よほどの愚か者じゃない限り、この状況でそんなことは言い出さない。

「銃ってのは…うんしょっ………これのことか?」

 ちょうどスカリスの拘束作業のときに、腰元に持っておいたものがあった。今思えばかなり危ないことしてるな。………?

 あれ?

 スカリスから押収したこの銃、こんな形だったか?

 スカリスは何度も強く頷いてるが、たぶんこの銃じゃなかろう。

「この銃であってるのか?」

「あってる。それ、使う。」

「わ、わかった。………おれには撃たないよな?」

「………? ………あぁ、撃たない。」

 ラグのちょくちょく発生するやり取りを通して、おれはとりあえず彼女に「ハンドガン」を渡す。楯無を出してるので、万が一撃たれても大丈夫だ。

 彼女の手元にハンドガンが収まる。彼女は目を閉じ、何かを思念する。

 するとハンドガンが輝き出した。

「うぉっ!?」

 ハンドガンは突如変形を始め、大きく広がりだした。いや、大きくなんてもんじゃねえ。その体積を著しく膨大化させ、瓦礫や雪を押し出した。

ボンッ!ボンッ!ボンッ!

 気がつけばおれたちはその膨張するハンドガンの中へ取り込まれ、背中を襲っていた重圧から解放された。何かの中に取り込まれたようだ。

「なんだ、何なんだよ!?」

「おちつけ。『問題ない』。」

 取り込まれた暗闇の中で、モニターらしきものがたくさん光を発し、空間の中を照らす。まるで、戦闘機か何かのモニターが起動したかのようだ。

 多種多様な計器がライトアップされ、おれたちが今いるこのやたら狭い空間が一体何なのかを想起させてくる。

 目の前の運転席らしき椅子にスカリスが座っている。スカリスはこれまた独特な形のハンドル? を握り込み、何かを操作する。

 こいつ、何かの乗り物に変化しやがったな!?

 あの小さなハンドガンが、こんなでけえものに!?

「スカリス、お前何してるんだ!?」

「『うるせえ、口を閉じてろ! 舌を噛むぞ!』」

 また母国語で言われてる。この声音、黙ってろとかそういうこと言ってそうだな。

 彼女が何か操作してると突然爆音が響く。

 ちがう、そっちの爆音じゃない! さっきの建物を壊された砲撃音じゃない、何かの駆動音だ!

 ぎゅぅううーん、と低音から高音へ何かの効果音かが鳴り響き、その直後ズドドドド………と腹に響く重低音の炸裂音が響く。

 ん? この音………里で開発してた戦車のエンジン音に似てるな。

 いやそんなわけねえだろ。ありえねえ。

「うぉおっ!?」

 突如空間が動き、おれの身体が慣性か何かで後ろの方へ引っ張られ、低い天井に頭をぶつける。楯無があるので痛くはなかったが、かなり硬い感触がする。

 そして重低音に包まれたまま何かが動き出す。ものすごい揺れだ! おれの三半規管がダイレクトに攻撃を受け、吐き気を催す。

 たまらずおれは上へ向かい、わずかに光が漏れているそこへ登る。ハンドルに手をかけ、押し上げるとそこにはとんでもない光景が広がっていた。

「なっ………!!」

 なんと、おれは戦車に乗っていた。

 

 

 

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