Record:16 閉鎖主義者
「ゲホッ………大丈夫か!?」
何かがヤバいと判断したとき、とっさにおれはクルーガーを突き飛ばして一緒に脱出した。その直後に雪上車は爆炎に包まれた。
とっさの判断で運転席、助手席にいたソルバーとハリスさんは助けられなかった。どうなった!?
おれはクルーガーの無事を確認するまでもなく雪上車のところへ向かう。
「ソルバー、ハリスさん!」
雪上車は大破炎上しており、生存の見込みはないように見えた。だが、おれは信じている。特務隊三番隊員のハリスさんは、こんなところで死にはしないはずだ。
急いで雪上車の扉を開ける。
そこには二人の姿があった。
「くそっ………間に合わなかった…!」
ハリスさんの声が聞こえた。おれが開けたのは助手席側で、運転席側の方は悲惨なことになっているみたいだ。
「ハリスさん! ソルバーは!?」
嫌な予感がする。まさかそんなわけはあるまい!
「うっん〜! よいしょっ!」
ハリスさんがそのまま運転席からソルバーを引っ張り出した。かなりまずい状況………だが、息があるように見える!
「ソルバー、ソルバー! 大丈夫か!?」
「ゔっ………。」
顔面が血塗れだ。だがあの爆発の規模からして頭から上が吹っ飛んでもおかしくなかった。ハリスさんがとっさに障壁を展開して防いだのだ。
それがギリギリ間に合わなかったせいでこんな大怪我を負わせてしまったとハリスさんは自分を責めていた。
「ソルバーをこんな目に合わせたクソ野郎どもには口に―――詰め込んで爪全部―――してミン―――にしてやる! 気をしっかり持って!」
ハリスさんが世間にはお聞かせできない罵倒を発しながら応急救護を始めたのを確認し、おれはクルーガーの方を見る。このままだと後ろを走っているレッドたちの車に乗るしかない。だが乗れる人数は限られている。
「クルーガー!」
「あぁ、わかってんだよボケコラ!『レッド、カーボン! 進むな!』」
『何があった!?』
「『オレたちの車が爆破された! ソルバーが重傷だ、そっちの車に乗せる必要がある、援護を頼む!』」
『くそっ………すぐ着く、待て!』
「クルーガー、周辺に地雷らしきものはない!」
クルーガーがレッドさんたちと話をしている間におれは周囲を見回し地雷がこれ以上ないことを確認した。
いや、厳密には………おれたちの歩ける範囲にはないことを確認した。
意味がわからねえ、一体何なんだ!?
なぜ氷の下の大地に、大量の地雷がある!?
「なんでわかる!?」
「説明はあとだクルーガー! 敵も近くにいる!」
「ちっ! クソがよ!」
………聞こえる!
猛吹雪の中でひときわ目立つ音!
雪を踏み込む音だ!
おれは真月の柄を握り、聞こえた方向に目を向ける。
闇夜に閉ざされた吹雪の中に浮かび上がるシルエット。コイツ………!
そいつは吹雪の中でゆらゆらと蜃気楼のように揺れている。
まさか亡霊なんかじゃあるまいな。
そう思った瞬間、それは消えた。
………いや違う!
「うぅおっ!」
っぎいいっん!
雪の波浪に紛れ的確に隠れながら一瞬で距離を詰めてきやがった!
こいつ、雪の中………吹雪の中で戦うのに慣れてやがる。
「貴様………今のに反応するか………!」
男の驚く声が聞こえた。
吹雪の中でゆらめいでよく見えなかったその格好がよく見える。おれたちのような防寒着ではなく、かなり古い服装に見える。なんだか先住民って感じのそういう意匠が施された服だ。
「貴様ら、このような呪われし地へ何しに来た…!」
「てめえら………なにもんだ!」
「ふっ、それを語る道理はない。大人しくこの雪の下で眠れ!」
ズドォンッ!
うっ!
いまのは………ショットガン!?
こいつ、刀身を埋め込んだショットガンを使ってやがる!
「今のも躱すか!」
くそっ!
クルーガーは何やってるんだよ!?
ボケっとしてねえで援護しやがれってんだ、そう思ってちらりと後ろを見たらもうひとりと戦っていた。くそ、援護にこれないわけだ!
「もし逆だったならばお互いに………早々と死んでたな!」
再び距離を詰めてくる。こいつテンジ以上にやるぞ!
最初から本気でかかるしかないな!
「すぅー……!」
おれは体に雷光を纏い、両の目で敵を見据える。
「奇妙な光をまといおって!」
ズドーン!
銃口から飛び出るペレットの一つ一つさえ何もかもスローカメラで睨めつけるように見る。おれは処理速度の上がった思考の中で落ち着いてその弾道を躱し、すぐに距離を詰めて巌徹を叩きつけた。
「ごっはがぁっ………!?」
防御の体勢を取っていたが間に合っておらず、中途半端なその守りを巌徹が横から全て叩き潰す。
「ぐぅう…!」
おっと距離は取らせねえ! このまま逃がすわけには行かない!
急に攻撃的な態勢で突っ込んでくるおれに、敵も逃げずに迎え撃ってきた。
ガァンッ!
ギィンッ!
ズドーン!
巌徹と脇差しでショットガン銃剣野郎とド至近距離でその鋼同士をぶつけ合う。合間合間にショットガンを撃ってくるが、撃たれる前に銃口の前からおれが消えていれば当たることはない。
「クソッ………なぜ当たらない!」
おれは相手の動きの癖を掴み、タイミングを見計らって勢いよく懐に踏み込む。
「ぬっ!」
今度は銃剣ではなく銃床で懐に潜り込んだおれめがけ打ち込もうとする。だがそれはもう読み取った癖だ!
脇差しでそれを打ち返し、おれは巌徹で相手の土手っ腹にぶち込む。
ズドゴム!!!
「ごぁっあぁっ………!」
そのまま追撃を、と思ったがダメか。かなり無視できないダメージを負ったあとの追撃を無理矢理にでも避けるべく、やつは更に大きく距離を取った。
「くそ………!」
やつもやつで、これ以上の戦闘は無意味と判断したのか、その距離に飽き足らずさらに後退し、吹雪の中に姿を隠す。
戦意はない。ならいまはこれ以上追うことはない。それより………!
「ハリスさん、ソルバーは!?」
「持ち込んでた治癒薬を使ってなんとか止血までは行けたけど、ちょっと頭部の損傷が重いね。」
ソルバーの頭にこれ以上重篤なダメージを与えぬよう、包帯でぐるぐる巻き、保護処置を行うハリスさん。そこに戦闘からクルーガーも戻ってきた。
「今ついたぞ! 敵はどこにいる!?」
そして、少し遅れてレッドがやってきた。だがもう事態はこれ以上どうしようもない流れ。
「おれの目で見たところ、周囲に地雷はない。残った雪上車でシルバーさんを急いで運ばないとまずい。」
「ソルバー…たしかにまずい状況だな。『カーボン! ここは安全だ。ソルバーがまずい、早くこっちまできてくれ!』」
安全を確認し無線で呼び出すレッド。
しかしまいったな。軍が管轄のはずのこの地域も安全ではなくなっていたみたいだが、奴らは一体何者なんだ?
連合の奴らだとは思うけど…そうだとするには今のやつには少し違和感があった。
「クルーガー、さっきの敵、連合だと思うか?」
「あ? そりゃどういう意味だ。」
「おれには奴らが連合とは違う別のテロリストに見えた。」
あいつ何を口走ってやがったんだ?
「呪われし地」?
真理石が欲しい連合なら、そんな事は言わないはず。
「奴ら、この第四大陸のことか何か知らないが、この辺のことを「呪われし地」とか言っていやがった。」
「………妙だな。たしかにそれは連合らしくねえ。」
おれたちの会話を聞いていたハリスさんがなにかつぶやく。
「…呪われし地。たしかにこの大陸は水の真理石の呪いによって呪われているのはそうだけど。」
でも、何か別の………水の真理石とはなにか別のものを守る者の言葉、おれにはそうとも取れるような言葉だった。
「ハリスさん。なんでこの氷の下には………大量の地雷があるんだ?」
それを聞いたハリスさんは神妙な面持ちで答える。
「どうやって知ったの?」
おれには自分の能力をあまりさらす趣味はないが、最低限の説明のために一つのスキルを伝える。それが「雷角」だ。
「ハリスさんは知ってるかもしれないけど、おれは雷に関する力を扱っている。その一環で金属探知もできる。」
「なるほど、それで認識できたわけなのね。」
雷角を使った能力で周囲の空間を電磁波を捉えることで把握する。それによって、おれはこの分厚い氷の下に大量の地雷があることを知覚した。
ハリスさんは続ける。
「僕たちも詳しいことはわかっていない。わかっていることはふたつ。一つ目は、この大陸の『永久凍土』には、およそ一千万以上の地雷が埋められていること。もう一つは、都市圏、かつて人が住んでいた地域に大量に集中配置されていたこと。」
………ハリスさんの言うことから、おれはこの氷の下に閉じ込められた、かつて滅んだ国がどんな国だったのか想像する。
数万以上の地雷………なんでそんなものが国中に埋められていたんだ?
それも、人のたくさん住んでいる都市圏に集中している、だと?
「………千年前、この世界は終焉戦争によって文明後退をさせられた。この話はもう聞いた通りだよね。」
「はい。」
「この大陸だけなぜかそういう痕跡がないんだよ。ショートくん。」
………。
「ごめん、あまり正確じゃないや、この表現は。この国は、おそらく終焉戦争ではなくそれ以前に滅んでいる。」
そして、その後に………【巨大な獣】が起動し、終焉戦争を引き起こした。
最も北の果てに近かったこの国に一体何があったのか。
謎はますます深まるばかりだ。
それから数時間後。
おれたちはウェイポイント1、南レクルス探査中継基地にいた。
ソルバーは緊急治療施設へ移送され、調査隊から脱落する形となった。
案内役だったソルバーが、ここで抜けるだなんて全く想定していなかった。
「くそっ! 散々だよ、全く!」
ハリスさんはイライラを隠しもせずに吐き捨て愚痴をこぼした。
自分がそばにいたにも関わらず、大怪我を負わせてしまったことに責任を感じている。いつもの調査ならこんなことはなかったはずだろうに。
「命に別状はないって聞いたけどよ…心配だよな………。」
ジダゴが心配そうに治療棟の方向を見ている。
まだウェイポイント1………ここからが調査の大変なところなのに、早い段階で案内役が脱落だ。幸先が悪い。
「どうする? 調査は続行か?」
ハリスさんに判断を求めたレッド。もともと護衛として雇われた立場なので、仮に続行だったとしても折り込み済みではあるんだろうけど。
「続行だよ。状況があまり良くない…できれば放置はしたくないんだ。」
「じゃなきゃ、いまこのタイミングで急いで俺達を呼びつけた意味がない………元々そうだったな。」
「感謝する。明日の朝にはまた出発する。各自準備をお願いするよ。残念だけど、ソルバーはここで僕たちが帰ってくるまでお休みだ。」
ハリスさんはそう言って、治療棟の方へ戻った。
「奴らは一体何なんだ!?」
クルーガーがイライラしてそう吐き捨てた。
突然襲われて今後の調査に影響のでそうな事になってるこの状況。明日から調査を再開するが、また奴らに妨害されちゃ叶わない。
「ショート、クルーガー。本当に奴らは「連合」ではないと?」
おれたちの話を聞いていたレッドがこちらにやってきて念を押すように聞いてきた。
レッドの身長はかなり高く、おれよりも三十センチは大きいその位置から見下されるとかなりの威圧感がある。
「あ、あぁ………妙に古風なやつだった。まるで土着的な人だったよな?」
「いけすかねえ物の言い方しやがる。ああいう意識の高え言動はアホしかいねえ連合の人間じゃねえよ。あれもあれでアホだがな。」
クルーガーもクルーガーで独特の感想を織り交ぜつつ、連合とは雰囲気の違う敵だったことを強調する。
おれたちふたりの言葉を改めて確認したレッドは、ひとつ心当たりを明かした。
「………もしかすると、『閉鎖主義者』なのかもしれん。」
へいさ………しゅぎしゃ?
「なんだその頭の悪い名前は。」
「この第四大陸への調査を拒み、妨害をけしかける意味のわからん奴らだ。」
はぁ?
そんな奴らまでいるのかよ…。
「ヴェルニトリアで最近この手の輩が増えたが、こんなところで活動しているなんて話は聞いたことがない。あくまでも可能性の話として聞いてくれ。」
「もし仮にそうだったとしても、次に出会ったら連合だろうが閉鎖主義者だろうが串刺しにして鮫共の餌にしてやるまでだ。余計な仕事を増やしやがって、クソがよ!」
クルーガーが槍の石付を床に打ち付け、その苛立ちを主張する。
殺すかどうかはともかく、ソルバーがこんな目に遭わされている。
そのぐらいの気持ちで相対したほうが良かろう。




