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Legend of Star Night  作者: パインティー
第三章 閉ざされし歴史
63/166

Record:6 伝承

 

 こんなおとぎ話が有名だ。

 光の神様に守られた国があり、王様と王妃様が仲睦まじく暮らす王国だった。その国が突如として邪悪な魔物の軍団に襲われた―――それらを光の騎士団が返り討ちにしたというおとぎ話だ。

 この世界に生きる者なら誰でも知っている。

「僕なりに調べてみたんだ。」

 これからヴェルニトリアへ向かう航空機に乗るため、おれたちは空港の発着場へ向かう。その道すがらハリスさんが話をする。

「千年前の終焉戦争を語ったおとぎ話のことね。」

 彼女はかつて千年前にこの話を作ったであろう語り部の顔を想像してそうな顔で自身の調査と考察を語り始めた。

「まず―――光の神様は白の女神様の昔の名前なんだ。」

「……?」

「大昔は歴史学もまだまだ発展途上で、「黒の男神」の存在もまだ一般的に知られていなかったからね。白の女神様と違って黒の男神なんて世の中じゃまず聞かないでしょ?」

 白と黒の神様がいる、というのは終焉戦争を描いたおとぎ話とはまた別のさらに昔の昔、世界の始まりと言われるおとぎ話に出てきたことだ。

 白の女神、黒の男神。

 なるほど、そういうこともあるのか。

「黒の男神が世間であまり語られない理由は、あの白い巨大な塔のような白の女神をシンボルとした建物がないからだし、【破壊の神】というイメージの悪い性質もあって積極的に推されてた訳じゃないからなんだよね。そもそも終焉戦争のおとぎ話に一切出てこないし。」

「なんかかわいそうだな。」

 ジダゴの感想をよそに、ハリスさんは続ける。

「光の神様イコール白の女神様。つまり、光の神様に守られた国、とはここのことを示す。白之塔がここにある、この国のことなんだ。」

 世界の中心と言われるヘカ・クイスラムが、おとぎ話に語られる国だというのはそこまで驚くことじゃない。

 重要なのはそこに語られていない「背景」だ。

「知っての通り、千年前の終焉戦争ではヴェルニトリアやユーフェミアが一度完全に滅んでいる。それ以外にも沿岸の国々は都市を襲われるなど甚大な被害を被っているんだけど、ここではそれらの国々を【光の神様に守られた国】とまとめているんだ。」

 つまり第一大陸の国々か……。ヴェルニトリアもユーフェミアも、どちらも第一大陸の北部に位置する国だ。

 ……終焉戦争を引き起こした張本人―――【闇の王】はこの大陸の北から来たのか?

「【闇の王】は、【巨大な獣】にまたがって【光の王国】を襲った―――終焉戦争の流れにはそう書かれている。その【巨大な獣】が戦争が存在した大きな証拠なのさ。」

 大戦の大平原に眠る巨大な残骸―――それが【闇の王】がまたがったという【巨大な獣】の亡骸だ。その調査を専門としているからこそ、ハリスさんにはこの終焉戦争の多面的な部分が見えているのだろう。

「【巨大な獣】も含め、おとぎ話で語られた【邪悪な魔物達の軍団】というのは―――機械で出来た兵器群だったよ。」

 【黒い鎧】。その意味するところは機械兵。

 【不思議な武器】。その意味するところは銃火器。

「千年前というその時代、人々は火を手にし、鉄を手にし、争っていた。」

 鋼鉄の船に乗り、空までも我が物にせんとしたその時代―――まさしく人々の文明が次の時代へ歩もうとした時代だった。

「そう、彼ら人類を襲ったのは―――機巧兵。命を持たぬ自動殺戮兵器だった。」

 終焉戦争においては、彼らが経験したそれまでの戦争より次元の異なる敵が相手だった。空からも海からも奴らは大量に侵略し、ただただ機械的に人間を無差別に殺し始めた。

 今まで人類の起こした戦争には必ず目的があった。基本占領、それだけが主目的だった。しかし千年前の機巧兵たちは全く違った―――【人類の虐殺】こそが目的だった。

「自動、殺戮兵器―――ちょっと待てよ。千年前の時代にそんなオーパーツじみたものがあったのかよ!?」

 ジダゴの驚きも全くその通りだ。今でこそ宇宙開発は非常に盛んだけど、自律AIシステムの開発にはそれ相応の時間がかかっている。ましてや千年前の時代―――それこそ分かりやすく言えば真空管がようやく開発された頃だ。

「千年前の残骸からはそういう証拠がわんさか残ってる。いまさら否定もできないよ。文字通り奴らはすべて機械でできていた。」

 ハリスさんは指をひとつ立て、自身の仮説を伝える。

「これは僕の立てた仮説なんだけど―――今僕らが享受している文明の恵み。この文明はおそらくこの星の何回目かの文明であり、彼ら機巧兵軍団は今から二つ前の文明の遺構だと思うんだ。」

 おれたちの文明は千年前の終焉戦争で一度大きく後退した。それを文明の滅びと見れば、確かにハリスさんの仮説―――当時の文明より発展していた過去の文明の遺構が復活し世界を攻め滅ぼしたという仮説には説得力がある。

「僕だけがこの仮説に辿り着いた訳じゃないよ。世界中には、古代文明の遺構がたくさん残されている。星が出来たときには既に建てられた説のある白之塔だってその最たる例。ヘカ・クイスラムは5000年前以上前に建国されていて、機巧兵はちょうどこの頃のヘカ・クイスラムの建国時代と同じ時代のものだという指摘もあるのさ。この仮説を裏付ける証拠がこの世界にはたっぷりあるんだ。」

「機巧兵がヘカ・クイスラムの建国時代と同じ時代のもの……それは本当なんですか?」

 ハリスさんはこのヘカ・クイスラムをぐるっと円形に取り囲んでいる巨大な壁を指差した。

「この大都ウルクラムを取り囲む壁が見えるよね。あれは今から約5500年くらい前に土魔法の賢者と呼ばれた者が魔法を行使して建てた壁だ。白之塔、そしてその周辺にある人々の生活拠点を守るためにね。あの壁のなかに機巧兵と同じ仕組みが使われている機動兵器がたくさんあるんだよ。」

 ハリスさんの口から飛び出た衝撃的な事実におれは驚きを隠せない。

「確定事項って訳じゃなくあくまでも仮説なんだけど―――この壁の中にあった機動兵器と、千年前に世界中を襲った機巧兵には、ほぼ同レベルの技術が使われているかもって話が出てるんだ。」

 ハリスさんは続けた。

「根拠はないけど、多分千年前の戦争の時に出てきた機巧兵は、この壁の中にあった機動兵器を改良して使役したんじゃないかなーって僕は思ってる。………さて、現代から見てもかなりのオーパーツな機巧兵がまったく場違いの時代の千年前に突如侵略者として攻め込んできたわけだ。襲われた人々にとっては地獄そのものだっただろうね。」

 そんな絶望にうちひしがれ、このまま滅びを待つだけに思われた人類のなかに、救世主が現れた。

 光の騎士団だ。

「そんなオーパーツな機巧兵軍団でも倒せないような、英雄クラスに強い人たちが世界中から集まって光の騎士団を結成し―――各地で奮戦し世界を守る戦いに身を投じた。」

「今で言う特務隊のみんなや、列強って呼ばれてるような人たちだな。」

「うん。戦線はやがて人類が優勢なものとなり、人々はついに機巧兵軍団に対抗できるようになった。そして人々は戦争の決着をつけるため戦力を集中し、―――光の騎士団とともに【闇の王】の【巨大な獣】へ全軍で突撃した。」

 その決戦の地が現在に語り継がれている「大戦の大平原」だ。【巨大な獣】の足跡、当時の激しい戦闘の痕跡が今でも生々しく残っていると聞いている。

 彼らは命をなげうち、【闇の王】を討伐するべく果敢に攻めた。

 だがおとぎ話の様子から見るに、それさえも足りなかった。

 世界中からつわもの達が集まって結成した光の騎士団でさえも―――【闇の王】には届かなかった。

「それまでとは比べ物にならない闇の力に彼ら光の騎士団は一人一人倒れていく。この話が本当なのだとしたら……光の騎士団、そして人々の決死の突撃じゃ足りなかったって話になる。」

 このおとぎ話で最大の謎であり、そして―――【闇の王】を倒し得る大きな可能性が描かれている「一条の光」。

「【闇の王】は突如どこからともなく現れた【一条の光】によってもがき苦しみ、その隙を狙った騎士が【聖なる剣】で貫き倒した。機巧兵軍団はどこかへ消え、世界は平和になり、そしてようやく人類悲願の【憲章】を制定し以降は平和を誓いながら歴史を紡いでいった―――これでおとぎ話は終わっている。」

 だが現実は違った。

 ハリスさんも、そしてここにいるみんなも知っての通り―――千年後の未来へ光の騎士団がやって来て『【闇の王】はまだ死んでおらず、この現代、この世界のどこかへ渡ってきて潜伏している』と宣言している。

 おれはハリスさんの解説付き『星空の伝説』を聞いているうちにふつふつと疑問がたくさん沸き上がっていた。

「もし彼ら光の騎士団が宣言している通り、本当に【闇の王】が生きてこの世界に来ているんだとしたら―――今度こそ倒せる算段はあるんですか?」

 少なくともおれは終焉戦争への勝利そのものは達成できると思っている。千年前よりも少ない犠牲で。

 ……だが、【闇の王】が真の意味で倒されず、こうやって復活を遂げるという状況であれば、勝利はしても再び未来に『芽』を残しておれたちは死に、再び【闇の王】が復活して世界の危機が訪れる―――今みたいな状況がまた生まれるのかもしれない。

 そうなったとき、そのときの世界が今と同じ選択を取り、再びの終焉戦争に備えているという保証は―――あるのか?

「ショートくん、君の言う「倒せる」というのは―――二度と復活させずに今度こそ撃滅させるって意味のことだよね?」

「はい。」

 ハリスさんはおれの疑問を聞いて眼を閉じ、顎を指で掻きながら答えた。

 

「できると思うよ。」

 

 この話は全部「仮説」で通っている。

 おとぎ話の通りであり、そして光の騎士団が言うとおり【闇の王】が実際には死んでおらず、千年の節目にこの世へ渡ってくるとした場合の仮説だ。

 もしその仮説で行くなら、このまま人類が戦いに備えたとして―――ハリスさんはできる可能性があるといった。

「【闇の王】がどんな存在かは知らないけど、今の人類には千年前の時になかった武器……核兵器もあるし、戦闘に備えている兵の数も質も比較にならないほど高い。そしてなにより―――世界最強の隊長がいる。」

 ハリスさんの言う言葉に、おれは納得する。

「できない理由を探す方が難しいかもね。」


 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これからオレたちがヴェルニトリアへ行く途中に―――大戦の大平原を通るんだよな。」

 おれたちはハリスさんが個人で所有するプロペラ機に乗り込む。

 だいぶ個性的なプロペラ機だ。プライベート機だが、10人くらいが乗って寝られそうな大型のボディの上に前と後ろにプロペラが付いたエンジンが乗っかっている。センスからして大分古い―――まるでプロペラ航空機の黎明期にでも出来たかのようなデザインだ。

「なんだかオレ、ハリスさんとすげえ趣味が合う気がしてきたぜ。」

「おっジダゴくんわかっちゃう? ハヤトからはお前はいつ時代に生きてるんだってよく罵られるんだけどさぁ、わかってないよねこれの良さ。」

「こういうメカメカしいもんも今じゃ珍しいもんな! 今時のツルツルペチャンコな形はオレにはあんま面白くねえんだ。」

「エルニドのデザインが廃れていったのは本当に残念だよ。」

 機械オタクなジダゴ、歴史オタクなハリスさんは意外なところで価値観が噛み合うようだ。飛行機のデザインでわあわあ盛り上がっている。

「よっこいしょっと……足元に気を付けてくれ。」

 機体に乗り込み、後に続くテルシアにそう声をかけて手を差し出す。テルシアはおれの手を掴み、機体へ乗り込む。

「ありがとう。」

「どういたしまして。」

 続いてウルが乗り込もうとするのが見えたので手を差し出す。乗り込み用の梯子はしごを上がっていたウルはそれをみて一瞬キョトンとした。

「あらありがとう。助かるわ。」

「おう。」

 外を見ればまだハリスさんとジダゴは雑談をしていた。かなり話が合うようで時々笑い声が聞こえる。

「盛り上がっているな。」

「ハヤトと一緒のときはいつもこうよ。」

「隼斗と一緒? ハリスさんの護衛か?」

「そうよ。大戦の大平原以外にも地理的な調査だったり各国の状況調査だったりもたまに兼任しているの。そのときには大体ツーマンセルになるからハヤトさんかグラップのどっちかがハリスさんの護衛につくけど、どうもハリスさんはハヤトさんとは気が合うみたいね。」

 グラップ……あの包帯ぐるぐるになってたひとか。

 そういえば包帯あれはなんなんだろう。 気になったので聞いてみた。

「昨日の顔合わせのとき、なんでグラップは包帯巻いてたんだ?」

 ウルはため息をつく。

「世の中にはいろいろとあるのよ。」

「……そうか。」

 特務隊の隊員があれほどボコボコにやられるんだ。

「世の中にはいろいろと……やばいやつがいるってことなんだな。」

「そういうことよ。」

 グラップの強さがどれくらいかはわからないけど、特務隊の隊員はそもそもハイレベルな人材しかいない。四番ハヤトさんから上は少なくともおれよりはるかに強い。

「グラップは護衛の任務も任されるくらいには戦いに強いはずだ。特務隊の隊員がそうやられるわけがない。―――誰にやられたんだ?」

「異世界の人間よ。」

「―――異世界?」

「そ。全世界で指名手配中。」

 ウルはそう言って紙を一枚見せた。いや、紙じゃない―――写真だ。

 かなり濃い金髪に肌は非常に白く、やけどの痕らしきものが顔の大半を覆った女。その目付きは非常に鋭く、こちらを射殺さんとするほどの殺気が写真から滲み出ている。

「名前は不明。グラップの報告によれば『アメリカ合衆国』という国の陸軍軍人で、異世界の兵器を製造し、それを活用するらしいわよ。」

「異世界の兵器か……。」

「厄介なもんよ。こいつが作り上げた兵器のなかに戦車もあったんだけど―――そいつの射ち放ったミサイルがグラップの怪我の原因よ。」

 戦車がミサイルだと?

「戦闘中のどさくさで垂直発射型のミサイルが発射されて、上からやられたみたい。グラップだから死ななかっただけで、ミサイルの威力は小さい割になかなかの威力をしてたわね。」

 ウルはペシ、とその手配中の女の写真でおれの胸を軽く叩く。

「今は行方不明。ないとは思うけど―――この女も含め、あらゆる敵の存在には用心しといてね。」

「あらゆる敵の存在……か。」

 ウルの言葉には妙な説得力を感じる。里を出てからずっと敵だらけだ。全部連合のやつらしかいないが……今後、こういう奴も敵として出てくる可能性がある。

「肝に命じておく。ありがとう。」

 

 

 

 

 

 

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