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Legend of Star Night  作者: パインティー
第二章 革命のための戦い
44/166

Record:9 凶禍の道化師


「そういえば、【特務隊】って何だ?」

 しれっとノイマンの言ってたことばが頭に引っ掛かる。平和維持軍の特殊部隊かなんかなのか?

「あれ? 隊長と知り合いなら知ってるもんだとばかり。」

「平和維持軍の軍人だってことは教えてもらってたんだけどな。特殊部隊かなんかなのか?」

「そっス。平和維持軍にはたくさんの軍隊があって、もちろん各国にはそれぞれ特殊部隊をもっているのもあるんスけど、まあそれは置いといて―――平和維持軍にも何個か特殊部隊ってものはあるっス。そのうちのひとつが【特務隊】っスね。」

 他にもある特殊部隊っていうのは、戦争が起きたときに早期に停戦を行わせるための戦争介入部隊だとか、核兵器使用を阻止するための戦略兵器阻止部隊だとか、はたまた世界を救う役目を負った自警部隊ヴィジランタなんかもあったりするそうだ。

 ヴィジランタ―――そういえば聞いたことあるな、このチームの名前。

 どこで聞いたっけか?

「【特務隊】っていうのは非常に歴史が古い部隊のことで、「平和維持軍」が創設されたときに一緒にできたものっス。数人の隊員と一人の隊長で構成されるドシンプルな一個分隊レベルの組織っスね。」

「……ってことは、千年ぐらい前からあるってことか!?」

「イエス。平和維持軍に属する特殊部隊としては一番古い部隊で、そのルーツは紅津国にあるっす。」

「そうなのか……。」

 【特務隊】。雷神の里と深い関わりがある紅津国がそのルーツだと聞いておれは驚く。

「まあ、その辺の話は追々本部でしましょうや。あんたとコードA―――もといテルシアさんには知ってもらう権利があるし、本部に来る用事も取り付けたそうですしね。」

「そ、そうか……悪い、ちょっと今日いっぺんに話聞きすぎて頭が混乱してる。目眩がしてきたな……。」

 おれは深呼吸をして落ち着かせる。すーはー、よしこの話は終わり。さっさと城に向かおう。

 

 

 

ドォオオンッ!

 

 

 

「ブルァアッ!?」

 突然の爆音が建物に響き渡り揺れる。

 せっかく深呼吸で整えたのに急に乱された。

「何だ? 何事スか!」 

「てっ敵襲……敵襲です! 東側を爆破されました!」

 襲撃はいつも突然起こる。それはそうだ。襲撃なんだから。

「クソッ一体どこの誰が―――!」

「現場にいくッス! クロク、ショート、ついてくるス!」

 突然の爆破事件。それは、この平和維持軍の展開する拠点を狙ってのものだった。おいおい、ここを爆破するって正気かよ!

「平和維持軍って恨まれてるのか!?」

「アタマのおかしいやつは、いくらでもどこにでもどの時代にもいるんスよ。」

 ノイマンは武器―――黒いこん棒みたいなものを取り出す。六角系の金属の棒のようで、長さはおおよそ一メートル強。金属バットみたいなものか?

「十中八九、平和維持軍の拠点を攻撃するのは―――そういうアタマのいかれたやつ、つまり【解放戦線連合】のやつらかなんかってことスよ!」

 おれたちは爆破現場にたどり着く。この内乱で傷ついた人たちが収容され、懸命に手当てを受けていた場所は見るも無惨な状態になっていた。あちこちで阿鼻叫喚の地獄絵図が展開されていた。

「痛い、痛いよ―――誰か助けてくれぇ!」

「クソッ! おい、医者が埋まった! 手を貸せ!」

「状況確認はまだか! どこかに敵が隠れていないか!?」

 これだけの混乱のなかで、それぞれの役割を兵士たちは果たそうとするべく少しずつ落ち着きを見せている。その一方でおれはこの爆破の犯人を見つけた。

 爆炎と粉塵が舞い瓦礫が大量に残るその現場で、おれの目はただある一点を捉えて離せない。

「ショート!? どこ見てるんスか、さっさと現場を―――」

 おれは真月の柄に手をかけ、グッと力を込めて抜いた。

 里を出て初めておれは―――真月を抜いた。

 ぎらりと輝くその刃の光が、粉塵の舞うその向こうを強く照りつける。その真月を握るおれの手には大量の手汗がびっしりにじんでいた。

「ハァッ―――ハァッ―――」

 底知れない恐怖に毛羽立つ。気持ちの悪いこの感触―――奴は―――。

 

 

 

「どうもォ。お邪魔しまーすゥ。」

 

 

 

 粉塵の向こうから、それは現れた。

 まず見えたのは白いスラックスに包まれた細い下肢。次に現れたのは白と黄色の主張の激しいストライプが目立つジャケット。

 そしてそのご尊顔―――ではなく、狂気が塗りたくられた道化師のお面がでてきた。左半分は酷く悲しげに泣いている顔、右半分は心底楽しそうな笑顔という、意味のわからないお面だ。

 そしてその面に空いている視界を得るための穴からは―――爛々(らんらん)と輝く赤い眼光が溢れている。

 

「やァ~皆さんこんにちはァ! アポ取ってないけど遊びに来ちゃいましたァ。」

 

 道化師はケタケタと嗤いながら瓦礫の上を優雅に歩き始めた。その後ろから数人の似たような格好のやつらが続いて出てきた。

「野郎どもォ~! 適当に殺しながら探せェ!」

 ヤバイ。ヤバイぞ!

 おれは一も二も考えず真月を持って突っ込む。やるべきはあの最初に現れたド派手な道化師だ!

「うぉおおおお!」

 ―――が、そうは問屋が下ろさなかった。その道化師の後ろに控えていた一人が横からおれをぶん殴って吹っ飛ばす。

 とてつもない体格から繰り出された頑強な拳はおれの横っ腹を容赦なく抉り、おれはそのまま吹っ飛ばされた。

「ごはぁっ!?」

「おわァッ!? いつの間にか目の前に!? 何だあの子ォ。」

 ボス道化師は大袈裟に驚いたポーズを取り、おれをぶん殴ったデカイやつは拳を振り払う。

「あの「サムライ」、真っ先にボスを狙いに来やがったぞ。危なかった。」

「なんかえらい速度で突っ込んできたよねェ~、まるで雷みたいィ。あんなのまた来られたらヤバイから早く殺しちゃってくれェアハハハ。」

「御意。あのサムライを先に始末する。」

 デカ男がおれの方へ向かってきた。くそっ寝てる場合じゃねえ。おれは真月を再度構え直し、デカ男へ相対する。

「ショート! 援護する!」

 ちょうど後ろにクロクがやって来てサポートに回ってくれるようだ。

「ありがとう、さっさと倒すぞ!」

 クロクは両手に深い青色のガントレットを装備し、構えている。

「チッ増えやがった。まとめて殺してやる!」

 デカ男はコートを脱ぎ、ワイシャツ姿になった。身長三メートル以上はありそうな巨人はワイシャツの上に一部鎧を装着している。

「気を付けて、そいつの鎧はいろんな武器を仕込んでいる!」

「わかった!」

 おれは真月を構え、デカ男の鎧に注視する。両腕と大胸筋に首回り、そして背骨を守るようにその鎧は展開されている。見る限り機械仕掛けの鎧のようだ。

「食らいやがれ!」

 デカ男は手のひらを展開するなり、そこからビームを撃った。ほぼノーモーションで撃たれたそれにおれは反応できず左肩にもろにもらった。

ドカァンッ!

「うぐぁっ!」

 くそっ、いまのはよけられない! 撃たれてからじゃ無理だ!

「動き続けろクロク!」

 いまのおれの被弾を見たクロクは、おれのいったことを理解したようでそこから動く。

 一方で撃たれたおれは体勢を立て直しそのままデカ男のもとへ向かう。

「おいおいおい、オメーの体は戦車か何かかコラ! 今のを食らって穴開かねえのかよ!」

 デカ男は焦ったような表情を浮かべ、おれから距離を取る。

「バカ野郎、おれの真月の前に距離は無意味だ!」

 食らえ! 呀月がげつ

 いつも脇差しで放つ旋月せんげつは円弧を描いて放たれる。それに対して呀月―――それは真月を突くことで放つ技だ。

「がぁっ!」

 弾丸のように小さな光点がデカ男の右肩にカチ当たる。鎧に弾かれたが、その衝撃はしっかり中まで届いたようだ。

 体勢を崩したデカ男の懐へ一気に距離を縮め、もう片手に持っている巌鐵がんてつを叩き込んだ。

ドゴォンッ!

「ボゴハァッ!」

 デカ男は右肩に受けた衝撃を殺せずそのまま受ける。やつが壁の向こうへ消えていくのを確認もせずに、おれはあの道化の元へ急ぐ。

「うぉおおおお!」

 

 道化師は仮面の向こうからこの世界を覗き見る。

「イ、イ、イ、イヒヒヒ……。」

 奇妙な低い笑い声をあげ、道化師は歩を進める。

「ンフフフハハハ!」

 道化師はどこからともなく黒い大きい杭を大量に具現化し、それを平和維持軍の基地へ放つ。圧倒的な質量に急拵えで建てた基地はひとたまりもなく崩されていく。

「愛しのお猿ちゃァ~ん! ボクの元に帰っておいでェ~!」

 耳を覆い穴を塞ぎたくなるほど不快な声はこだまし、平和維持軍の兵士たちを萎縮させる。

「うわぁあっ!」

 兵士たちは訓練されているにも関わらず、その不快さにたまらず離れる。彼らの本能が恐怖し恐れおののいている。

「お猿ちゃア~~~ん!!」

 そして道化師は発見する。鎖でがんじがらめに縛られている『斉天大聖ル・ファルエンテ』を。

「見っけェ~!」

 道化師は奇妙な動きで小躍りし、喜びを体現する。奴の目的だった神獣が見つかってルンルンで踊りふざけている。

「さてさて……気持ちよくお寝んねかァ。他に頼めそうな奴いないみたいだし、まあいいや、ボクが運ぶか。」

 その道化師へ、おれは斬りかかる。

ズバァンッ!

 里を出ておれは初めて斬った。抜き身の刃は道化師の体へ吸い込まれた。

「グゲェッ!」

 斬られた道化師は悲鳴をあげ、倒れる。こいつの目的ははっきりわかった。『斉天大聖』の回収だ!

 おれはさっきから心臓を鷲掴みにされているような感覚に身震いし続けながらも、冷静に立ち回ろうと努める。クソッ! さっきから震えがとまらねえ。

「ショート! 気を付けて、奴は―――」

「いったァ! 痛ァいよ! 人様に刃先を向けるなんてェ!」

 道化師は大袈裟に立ち上がり、まるですれ違い様に肩をぶつけられ骨が折れたと難癖をつける不良のような言葉を発した。

 言葉では怒っているが、その声音はそれとは遥か遠く断絶した違う何かだ。

「あいつはなんだ、クロク!? 知ってるのか!」

「奴は―――ネヴィガル! 解放戦線連合のリーダー!」

 こんなところで因縁つけられてる組織のリーダーとご対面とはな! 

 おれの嫌な予感は悉く的中しやがる。

「ん? その声……『六番目』じゃないの? あれ?」

 道化師―――ネヴィガルはゆらゆらメトロノームのように体を揺らしたかと思えば、あれ?のタイミングで大きく左側に体を曲げ、そのまま下から見上げ……もとい見下してくる。

「その名前は……捨てた! 二度と呼ばないで!」

 クロクが心底嫌そうな顔をしてそう吐き捨てた。どろどろとよごれた汚い何かをぶつけられたかのような表情だ。

「ん~? ボクきみのことを捨てた覚えはないよ? お家に帰っておいでよォ。」

「嫌……絶対に嫌、あんなところになんて帰らない!」

 二人のやり取りを聞いて何となくおれは察し、気持ちクロクの前に立つ。

「そんなにだだこねないでよォ。君はボクのモノォ! とっとと帰ってこいよクソガキがァ、アァハハハ!」

 ネヴィガルはケタケタ笑いながらとてつもない速度で突っ込んでくる。

「邪魔ァ!」

 ネヴィガルはそう言っておれの顔に膝蹴りを食らわせた。底上げした反応力でさえも間に合わない速度におれの体は一切反応できず、もろに食らった。

「グゥっ!」

 ネヴィガルはおれをぶっ飛ばし、そのままさらに畳み掛けようとした。

「ショート!」

 激しい脳震盪を起こされ受け身も取れずおれはもろに叩きつけられる。そこへさらに畳み掛けようとしてきたネヴィガルの攻撃から守ろうと、クロクがとっさに飛び込んできた。

 クロクはネヴィガルの攻撃を防ぎ、そのままおれを救助し脱兎のごとく抜け出して距離を取った。

「『六番目』ェ!」

 ところがそうやってとった距離を、やつは一瞬にして詰めてきた。

 あまりの速度におれどころかクロクもしっかり対応できずあっという間に距離を詰められた。

「っ!」

 もはや逃げても捕らえられると察したクロクは、必死に反撃を行う。道化師はまるで幼い子供と戯れるかのようにそれをあしらった。

「うっ、くっ……うぁああっ!」

 道化師は再びケタケタ笑いながらクロクの四肢を自身の四肢で器用に押さえ、壁に叩きつけた。

ドゴォンッ!

「かっ……はっ!」

「こどもは大人の言うことを聞くもんだよォ! ボクの手を煩わせんじゃねえのォよクソガキがァ! アハハハ……一丁前に反抗しちゃって、かわいいねェ。」

「うっ……!」

「クラウンの暗殺もできないどころか、手下にまでなり下がるクソガキには―――再教育が必要だ。ハッ、また楽しみができたねェ、『六番目』ェ?」

「あぁうっ!」

 ネヴィガルはクロクの手の甲、足の甲それぞれ四ヶ所に細い杭を打ち込んだ。痛々しく食い込んだそこから血飛沫が飛び散る。

「ぐっ……てめえ! このクソ野郎が!」

 脳震盪からまだ回復しきっていないおれの体は全く言うことを聞かず、飛び込もうにも足元がふらつく。

 四肢の先を封じられたクロクは、しかしなんとか抵抗しようと必死に暴れていた。

「おや! まだ言うことを聞かないのか……いい加減暴れるのをおよしよ!」

 ネヴィガルはさらに二本杭を生み出し、それをクロクの両太ももへ打ち付けた。

「あぁあああっ!」

 骨ごと撃ち抜かれたであろうクロクは甲高い悲鳴をあげる。見ていられないほどの血痕がさらに瓦礫に染みていく。クロクは痛みに耐えかねて静かになる。

「やっと大人しくなった。初めからそうしてくれればこんなに酷いことはしなかったのにねェ。」

 道化師は一仕事終えたと言わんばかりに手を叩いて埃を払い落とした。強い……こいつ、めちゃくちゃ強い!

「さてさて……君、誰? 見ない顔だね。」

 ネヴィガルは立ち上がろうとするおれの頭を上から踏みつけた。後頭部に凄まじい力がかけられるのと同時に、瓦礫の尖った部分が顔面に盛大に食い込む。

「うぐぉっ……!」

「カタナか……そういえば「ヤマトの里」にやったテンジがいつのまにか連絡つかなくなったんだけど、君知らないィ?」

 ぐっ……テンジか。あのニンジャみてえなやつのことか……。

「何だ君、まさかテンジを倒したサムライというのは君のことか! なかなかやるじゃないか、テンジはボクのところじゃかなーり強いメンバーなんだけどね。」

 ぐりぐりと後頭部にさらに力がかけられていくのが感じられる。くそっいてえんだよコラ!

「どうだい、君。ボクのところに来る気はないかなァ?」

 いけしゃあしゃあとネヴィガルは組織への勧誘をかけてきた。

 なんなんだよこいつは! 

 この数分の出来事で、おれは何となくだがネヴィガルがどういう奴なのか、ひしひしと魂に刻み込まれた気がする。

 これが全世界にケンカを売っている解放戦線連合の頭領……なるほど、アタマのイカれっぷりが世界最悪レベルだ。

「……その目。」

 ネヴィガルはおれの顔を覗き見てくる。おれの反抗的な目を見て、奴はその仮面の向こうの目を歪ませた。

「イ、ヒ、イ、イヒヒヒ……。」

 再び気持ちの悪い笑い声をあげ、奴は顔を戻して上を見上げる。

 そして、おれの頭にかけてる足に更に力を込めた。まるでスイカを割るつもりのようにぐぐっと圧力がかかる。ヤバい! 死ぬ……! そう思った。

 運命はどうやらここで終わりじゃないようだ。

 再び乱入。

「オオオラァアッ!」

ドガキィンッ!

 金属の強くぶつかったかのような音が鳴り響き、おれの頭にかかっていた圧力がすっと消える。

 ネヴィガルが誰かに吹っ飛ばされたようだ。

「危なかったス―――ショート、クロク!? 大丈夫スか!」

「あ、危なかった……死ぬところだった、助かった……!」

 ノイマンが心配しておれたちのところへ駆け寄った。その後ろには大量の平和維持軍の兵士が武器を構えて突入してきた。

「突入!」

「敵は二人! あのピエロ面とその大男だ!」

「撃てっ、撃てっ、撃てぇ!」

 タタタッタタタッ!

「ウォオアワッ!」

 弾丸がしこたま打ち込まれたネヴィガルは慌てて弾丸を避けまくる。

「いたっいってっ! アレックス、アレックス! 何寝てんのよォ!」

 アレックス、と呼ばれた先程の大男が良いタイミングか何かわからないが、呼ばれて飛び出てきた。

「すまん、あのサムライのガキにやられた……! 回収できなかった、増援もきやがった!」

「この無能が!」

「うるせぇ、『六番目』なんかに目をとられたテメエが悪いんだろうが! 戻るぞ! このままやられちゃたまらん!」

「やだやだやだァ! あの子もそいつも全部ボクのもんなのによォ!」

 アレックスはそのままネヴィガルを引きずって退散した。

「くそっ追え! 追うッス!」

 ノイマンは怒号を発して兵士に命令するが、兵士がその命令を認識する頃にはもう姿が見えなくなっていた。凄まじい逃げ足の早さだ。

 あとに残ったのは凄惨な現場だ。おれはなんとか立ち上がり、急いでクロクのところへ向かう。

「クロク……クロク、大丈夫かクロク!」

 見たところ意識を失ってはいない。あまりの激痛なのかわからないが、汗をびっしょり垂らして耐えている様子だ。

「うぅ……。」

 とてもじゃないが、しゃべるどころじゃなさそうだ。おれはクロクの怪我の様子を見る。手足の先はともかく、太ももはかなりまずいところをやられている。真っ白な肌が真っ赤な血に濡れていてとても痛ましい。

「大丈夫スか! 衛生兵、衛生兵は!?」

 駆け寄ったノイマンが声をかけるが、現場はそれどころじゃないようだ。他にもクロクと同じかそれ以上に命に関わるほどの重傷人がいる。

 これはおれが対処しないとまずい。来るかどうかもわからないこの状況で放置できない!

「ノイマン、クロクの怪我はおれに任せてくれ! とてもじゃねえけど待ってられる怪我じゃねえ!」

「心得はあるみたいスね……役に立たんですまねえス! 医療キットか何かあったら持ってくるス!」

 どうやらこれだけの大ケガへの応急処置の心得はない様子のノイマンは、自分にできることを考え、瞬時に判断を下す。

 よし、任された。早速応急処置に取りかかる

 

 あれが―――ネヴィガル。

 世界転覆を狙う大悪党どものリーダー。その存在は最初から最後まですべてが禍々しく狂っていた。戦闘力もいま体感した通り、少なくともテンジより遥かに強い。アレックスとか呼ばれていた大男も強かったが、まだおれにとっては対処できるレベルだ。

「あいつ、斬擊が効かねえのか……。」

 確実に斬った。斬ったはずだ!

 なのにやつは痛がっただけで何の血飛沫もなかった。あんだけ真っ白な服なのに血痕もない。

 一体何なんだよ、あいつは!

 言動のすべてが狂気で満たされていて、呪いかなんだか知らんがずっと体が震えてうまく動けなかった。

 次会うときはこうはいかねえぞ、ネヴィガル!

 

 

 

 

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