Record:04 蠢く悪意
いよいよこの拠点も落城に差し掛かっていた。
残すは中枢管理システムのある司令部だけだ。
俺から見て下の方にある途中の足場に兵士が集結し始めている。やはり最新式のアサルトライフルを装備している。
巧妙に偽装されているが、あの型式のアサルトライフルを製造するような企業など簡単に特定できる。重要なのは、その企業の武器……あれだけの装備を一体どこから得ているのか。
直通か、転売か、もしくは奪取か、いずれにせよそのルートを洗う必要がある。
とりあえず、俺は愛銃………弾丸製造機関を搭載した大型拳銃を二丁装備し、迫りくる敵部隊のことごとくを粉砕する。
この拳銃に専用の弾薬はない。俺のエネルギーのみを消費し、自動で結晶化した弾丸を射出する。従って煩わしい再装填作業も必要ない。
火薬も無く、弾丸を飛ばすエネルギーも自前のもの。この銃には俺の意思とリンクして弾丸の質量と弾速を変えながら撃つための魔術式機構が備わっている。
つまりこんな見た目だが、小口径の拳銃弾から大型対物ライフル弾などさまざまな質量の弾丸を撃つことも、亜音速からマッハ3以上の速度にまであげて撃つこともできる。これ一丁で近接集団戦闘から遠距離狙撃まで全てこなせる。
そういう風に設計し形にしている。
桁違いの性能を誇る「神器」には遠く及ばんだろうが、俺個人としてはあんなピーキーなものより余程使いやすく強力な武器として使える。
弾丸製造機関と射撃精度、強度を保持した頑強な銃身さえあれば俺の求める銃としては完成しており、仕組みはある程度自由に変えられる。ネックとしてはライフル銃並みの重さ―――総重量五キロを越える重量となっている点だろうが、仕組み的にそもそも俺以外の人間には扱えない代物だ。問題ない。
それにしても多いな。
そろそろ殺した人数が700を超えようとしている。
ここに配属されている敵部隊の人数は非戦闘員を含めて1000人程度と俺はビルの規模から想定している。
そろそろ打ち止めも近いだろうが…。
さっさと仕事を終えよう。
俺は、司令部へ直結するエレベーターのワイヤめがけ撃つ。
ガウン!!
バヂっっっっっ!!!!
回転を加えて鋭く尖った弾丸が銃口から飛び出し、数トンの負荷に耐え得る鋼鉄の紐をあっさり断ち切った。
鋼鉄の縄は張力によって大きくたわんでからエレベーターを落とした。
エレベーターは、落下してその下にいた兵士を肉塊に変えた。
ドゴォン!!
結果を確認せず俺はさらにエレベーターの破壊を続ける。合わせて四つ、ワイヤを撃ち斬って宙ぶらりんだったエレベーターをすべてオシャカにしてやった。
なぜワイヤーが剥き出しになっていたのか理解に苦しむが、恐らくこのエレベーターは後付けの設備で充分な安全追求はしていなかっただろう。
俺は続けてまだ生きている兵士に向かって下に銃口を向け発砲する。
完全に恐慌状態に陥り、ろくに満足な動きもできなくなった小隊レベルの人数の兵士がその数を減らされ、どんどん屍を積み上げていく。
完全に戦闘の意思を放棄し、武器を放り投げて両手を挙げ降参する兵士が次第に増えてきた。
殺す手間が省けて結構。
俺は、もう戦う気力も無くなった兵士を放っておき、降参のふりをして待ち構える兵士を他の戦闘の意思を持つ兵士とともに撃ち殺しながら下に降りる。
ざっと七十メートル降りたあと、金属製の床に着地。俺の体重が持っていた位置エネルギーを金属製の床にすべて叩きつけ、ベコベコにする。
ここがこの拠点の最下層……司令部のようだ。
「【六番目】、ここで最後か?」
俺の後ろについている【六番目】は首を横に振る。
エコーロケーションでこの直下に穴が開いていることも確認できている。
脱出路だな。
俺の目の前には、後ろに侵入者がいるにも関わらず突然のハッキングに騒いでいる司令部の奴らだった。
俺はスタスタと歩いて、司令部にお邪魔する。
司令部のど真ん中にコンピューター制御装置があり、そこから各設備棟を監視するモニターがピカピカ光っている。
「もう10分は経っているはずだが。」
俺の言葉に全員ビクッと振り向くが、俺を認識する前に全員始末する。
俺は堂々と司令部を制圧し全システムを掌握した。
侵入開始から12分程度とそれほど時間が経っていない。
大規模な拠点だったが、ここはただの単なる実験場だったようだ。
ハッキングしたときに得られたデータからしても、これ以上の収穫は無い。とりあえず一応コンソールを操作して、自爆システム、封鎖システム諸々、情報秘匿に関わるシステムをすべて黙らせ、必要な情報を徹底的に奪う。
ゼロシリーズの情報、連合の他の支部の位置、更には連絡履歴もすべて吐かせ、すべてチョークほどの大きさの記憶媒体の中に入れ込む。
その中には特に目新しい情報はなかった。
「……ジン帝国か。」
すべてのデータを確保したメモリを魔術式で生成した亜空間へしまいこむ。
さて。残りはこの拠点の完全殲滅だが、普通にここを爆破したのでは地下通路等に逃げ込まれるのがオチだ。
俺はさらに下へ向かい、司令部の真下にある脱出路へ向かう。
……ふと声が聞こえる。
「ナァァァニやってんのよアイツラ!!! どうしてこんなところにまで侵入者を許すのよ!?」
首が埋まるほど太り尽くした紫色の肌のストライプスーツの妖魔族らしき男と、全身鎧の大男がいる。
数十人の兵士が銀色の棺のような箱を担いでいた。
俺達の姿を視認するなり慌て始めた。
「なんだと? 警報すら鳴ってなかったぞ!?」
「あいつ何者なんだ!?」
「狼狽えるな!! 早く武装しろ!!」
兵士たちが慌てて武装する中、紫色の奴は、俺の黒いロングコートの後ろに隠れるように立っていた【六番目】を発見すると、途端に顔色を変えた。
「…………ッ!!! アナタ、なぜここに! ―――失敗したのね!? それじゃこいつは………!!!」
それに対して【六番目】が、ビクリと大きく体を震わせる。
その小さな躯から感じた精神のゆらぎ―――恐怖。
俺は、状況を悟り、拳銃をヤツの濃すぎる顔に向ける。
丸っこい奴はうるさく悲鳴をあげて、まくし立てた。
「【六番目】ッ!!! 早く殺しなさいッッッ!!! 早くッ!!!」
その叫びに呼応して、さらに俺の後ろから恐怖の感情が伝わる。
殺しなさい、か。
それができればそもそも俺はここにいないだろう。
殺せなかったからここにこうして俺に唯々諾々と従っている。
実力差がよく身にしみている【六番目】は、俺を恐る恐る見上げた。その年相応の幼い顔に俺は選択肢を示す。
「選べ、やつに逆らうか、従うか。」
どのみちお前がどちらを選んでも俺が奴を滅ぼすことに関係はない。
ならば選択肢ぐらいは持たせてもよかろう。
「…………。」
【六番目】は、しばらく黙った。まさか俺にそんなことを聞かれるとは思ってもいなかったのだろう。その瞳が、戸惑いに大きく揺れている。
「クラウン…………。」
【六番目】がしばらくうつむいたあとに、丸っこい奴が再び騒ぎ立てたので、俺は俺の声だけが聞こえるように角度を調整しながらその両耳を塞ぐ。そして、俺はまっすぐ【六番目】の恐怖に揺れる瞳を、見つめた。
「いいか。」
俺は、昔のことを思い出しながら、はっきりと口にした。
「お前は一体何に恐れている? 自分が死ぬことか? 傷つけられることか?」
「っ…………。」
「そうじゃないだろう。お前は何よりも【家族】を失うことを恐れている。俺のような理不尽にある日突然奪われる―――お前が恐れているものはそれ以外存在しない。」
「……っ。」
動かなくなった俺めがけ、兵士が撃つ。弾はすべて俺ではなくあらぬ方向に曲がっていく。
【六番目】は、俺の言葉に目を開き息を呑む。俺の言葉の意味を探ろうとするその眼差しを、俺は黙って受け入れる。
「どうして………?」
銃声、弾が飛び交う音、奴の叫び声がないまぜになった外界の音の中、かろうじて聞き取れるレベルで、彼女の声が漏れた。
「どうして、クラウンを殺そうとしたわたしを、殺さないの?」
どうして、殺さないのか。
それは、答えにくい問題だ。だが、それでも俺は言った。
「お前は過去の俺だ。」
「え…………。」
答えにもなってない答えを、俺は提示した。
「だから殺さない。」
それを説明する気もなく、そしてこれからも話すことはない。
「……なんで?」
「それをお前に話す理由も意味もない。」
俺は【六番目】の疑問を意味のないものとして一蹴する。
「俺にとってのお前がそうであることと、【六番目】、お前のこれからの選択に関係など何もない。もう一度よく考えろ。お前は何を恐れて、何を望むか。」
しばらく言葉を探している様子で、【六番目】のその返答を少しだけ待つことにした。
やがて少女はたどたどしくも、言葉を発した。
「……わたしは、―――わたしは、【家族】を失いたくない。」
「そうか。―――ならば奴らを殺す必要がある。そうだな?」
少女は、ゆっくり頷いた。
子供の選択は、尊重しなければならない。
たとえそれがいいか悪いか、どちらにせよ。
その子供に選択を迫る大人は、果たしていい大人と言えるのか、俺は自己反省しながら、拳銃を握り直す。
他でもない、【六番目】の選択を尊重するために。
「もう一度言う。お前は過去の俺だ。」
自分に言い聞かせるように、俺はもう一度言う。
俺はそう言って銃口をあの紫色のデブに向ける。
「ナァァァニやってんのよ!? ワテクシのめえれえが聞けないの!?」
「隣の寡黙な人間を少しは見習うといい。」
ガガガウンッ!!!
さっきまでバンバン撃ちまくっていた兵士を次々撃つ。すべて頭を撃ち抜き、兵士たちは悲鳴を上げるまでもなく即死する。
それを見ていたデブは、紫色の顔を青ざめる。
「ウソよ、ウソよウソよ…………本部から送られた、……本部から送られた精鋭部隊よ!?」
「それこそ嘘だろう。こんなものが本部から送られた精鋭部隊だとお前は信じたのか。」
「ナッナニ言ってんのよ!? そんなはずが………!!!」
「【列強】がいない時点で話にもならない。」
俺は、動揺が大きくなったデブめがけ、拳銃を向ける。
「クソォォォ!!! お前ら、お前らはワテクシを守りなさい!!!」
俺は悠々と前に向かって後ろに【六番目】を残して歩く。
「コラァァァ! 早くッ殺しなさいヨォォォ!? そんなことはいいから早くッ! 早くッ『ガウンッ』…………ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!」
デブは俺が近づいていくのを見て恐慌状態になった。
俺は奴の手足を撃ち抜く。
そいつは痛みにコテンと倒れジタバタ転がった。
これでも連合の幹部だと思うと先が思いやられる。否、その方が都合がいい。戦場でもっとも危惧すべきなのは強大な敵ではなく無能な味方だ。
「……………ム。」
最後に大鎧が残る。
全身甲冑に身を包む大鎧は、元々の身長が高くだいぶ威圧感を主張している。その後ろに銀色の棺のようなものを守るようにして置いている。中に入っているものについて見当はつく。
俺は、もはや手加減することなく殺しにかかる。
あの鎧はこの世で産み出される鉱物の中でも特に硬度が高いアダマンタイトを使用しているとわかったので、俺は武器を持ち替える。
何のことはない、ただの鉄棒だ。厚さ3センチほど、一メートルの六角柱の形をしている鉄棒。
俺はそれを【ストレージ】から取り出し右手に装備する。
「邪魔だ。そこを退いてもらおうか。」
「……ムッ!」
大鎧は背中から盾と剣を取り出す。
「退け。」
俺は大鎧の懐へ入り込み、どかせるようにして鉄棒で薙ぎ払った。
ズドゴムッ!!
ただの鉄棒が剣と盾を木っ端微塵に砕き、アダマンタイト製の鎧をまるで薄い鉄板のようにへし曲げる。
「厶゛ッ……………!!!」
大鎧はそのまま横へ降っとんで壁の中へ消える。
俺は鉄棒をくるくる回して、丸っこい奴に向けた。今度は自分の番だと悟ったそいつは、おかしいくらいに泣き叫んだ。手足はすでに撃ち抜かれてまともに動けない。
「ヒキャァァァァァッッッ! おゆっおゆるしをっ! ワデグジまだじにだぐない゛いいいい!」
そいつはボロボロに泣き叫んで汚い声で命乞いをした。
「仮にもテロをやってるお前が命乞いとはつまらないな。」
「ピッ………アキァァァアッ!!」
こいつが直接的にゼロシリーズを立ち上げたわけではないにせよ。ゼロシリーズを暗殺部隊にする運用に協力したのは紛れもない事実。
鉄棒を握るその指に力を入れる。
「くれてやるよ。俺に与えようとした死を。」
「ワァァァァァァァジニダグナイッヤメテッヤメデ」
俺はまだ泣きわめくそいつに鉄棒を叩きつけて頭蓋を叩き割った。
紫色の脳漿と血液が迸り、そいつは何も物言わぬ屍と成り果てた。
そして、俺達がいる部屋を静寂が包んだ。
この拠点のほぼ全兵士、幹部が死んだ。
その総数は789人。
命乞いをして戦闘放棄した者を含めれば833人。
「今日は大分殺したな。」
俺は鉄棒についた汚い液体を振り払って落としてからストレージにしまう。
そして、大鎧の後ろにあった棺を見る。
「どんな気分だ? ネヴィガル。」
俺はこの拠点に入ってから俺の様子をずっと観察していたそいつに問いかけた。
ここにはいない。
どこか遠いところから俺のことを観察している。
ネヴィガル。
そいつはこの解放戦線連合の頭領……つまり黒幕とでもいえる存在だ。
「ネヴィガル。近いうちにまた会おう。」
俺は棺の蓋に手をかけ、開けようとする。
「俺から逃げられると思うならどこまでも逃げるがいいさ。」
『…………。』
『…………ンッフッフッフ……。』
『最初からお見通しだったってことか。』
『さすがは平和維持軍最強の男。ボクの考えることなんて何もかもお見通しって訳か。フフッフフフフ……。』
『いいね! 悪くない。悪くないよ、クラウン。それでこそボクを滾らせて止まない強い男、クラウン!』
『ボクの野望を阻む壁は高くなきゃ面白くない。』
『さぁ野郎共。平和維持軍を……クラウンをぶっ殺して野望を果たそう。』
『なぁに、今さら命が惜しい訳があるまい。ボクたちみーんな、人殺しだもの!』
『命を命で奪い合おう。殺し合おう。その夢の果てにボクの願いがある!』
『フフフッフハッフハハハハ……』




