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Legend of Star Night  作者: パインティー
外伝:喪われし手
33/167

Record:05 喪手部隊、結成

 ゼロシリーズ:名簿

 

 【一番目】:クルーガー

 男、人族。そこそこ身長が高く青いポニーテールに額にバツ印のような傷跡がついている。武術に秀でており、特に槍術は無類の強さを誇る。

 性格は非常に攻撃的で家族・仲間以外の対象をひどく毛嫌いし距離を取る。必要以上に干渉してくるものに対してはその攻撃性をあらわにする。

 ゼロシリーズのなかでは長男ポジションに当たるが、長男らしく判断力に優れているかというとそうではなさそうだ。頭が悪いが戦闘のセンスは非常に高い。戦闘員候補とする。

 

 【二番目】:ツィゼル

 女、紋様族。茶色の団子の髪型に加え、彼女はひときわ目が細い。また女性としてはかなり身長が高い。武術にも才能はあるが、どちらかと言えば参謀役に近い。武器の扱いは平均的で全般的に技術は高いが突出しているものはない。体を使って働かせるより頭を使わせる方が良い。

 長女ポジションに当たり、非常に落ち着いて状況を客観視できる。恐らくゼロシリーズで最年長と思われる。クルーガーとは真反対の性質で作戦立案等の頭を使った能力、偵察・潜入任務等に才能がある。潜入捜査官候補とする。

 

 【三番目】:クレア

 女、兎の牙獣族。体術や体格には優れないが、こと鉄砲の扱いには一日の長がある。狙撃銃から拳銃、果てはボウガンやミニガンなど各種遠距離武器であればほとんどが高レベルで扱える。身体的な特徴として兎の垂れた長耳ロップイヤーと彼女の好む二つに結んだ髪型によって、ツインテールならぬフォーテール(クアドラテールとでもいうべきだろうか)のように見える頭が目立つ。見た目に相応してゼロシリーズのなかでは特に幼い言動が目立つ。戦闘員候補とするが育成の余地あり。

 

 【四番目】:ジェロム

 男、人族。ゼロシリーズのなかで最も大きな体格を誇り、まさしく巨大な熊のような風貌をしている。身長が三メートルを越える。度重なる実験で肉体が強化された代償として声が出せなくなっている。他にもその影響で一部身体機能に加え、微かながら精神・知的障害の兆候が見られる。

 本人は手話を使用しており、ゼロシリーズには通用するものの外部とのコミュニケーションに難が見られる。聴力には問題がないのでこちらの言うことは聞こえているが、どこまで理解できているかは要観察。戦闘力・知能共に検査が必要。

 

 【五番目】:ソル

 性別未確定、種族分類不可能。大半は人族の特徴があるが、遠い血縁に始天族の遺伝子を持ち、その特徴として身体の性別が定まっていない。未熟ながら両性の特徴をあわせ持つが性自認は男。彫りの薄い顔に黒い髪と黒い目のため、西スルエ方面、紅津国アカツクニの人間と思われる。鉄棒を始めとする長物の扱いに長けており、平均的な性能をもつ。身体の精密検査に加え、クレアと同じように育成の余地がある。

 

 【六番目】:クロク

 女、妖魔族。骨人族スケルタンのクォーターと見られる。彼らは体から骨を自由自在に産み出せる魔族で、その数は非常に少なく限られた地域でしか過ごさない。骨のような白い肌と黒髪、青く輝く瞳が特徴的だ。身長はクレアと同じ。

 恐らくゼロシリーズのなかで最も強く、連合側としては【成功者】に当たる。武器は魚の背鰭せびれのような刃が付いたガントレットを使用する。生粋の暗殺者でその動きに無駄がなく音さえ置き去りにする。戦闘員筆頭候補。ゼロシリーズで唯一即戦力となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ふむ。

 ざっとこんなものか。

「どういうことだよ!!」

 一番目ことクルーガーが、いきり立って俺にブチ切れた。

「なんでオレたちがてめえの配下にならなきゃならねぇんだよ!!」

 同じ話をさっきしたが、お前は人の話を聞く気がないのか?

「俺はお前らを俺の配下に置くと決めた。」

「だからそれがわかんねえっていってんだろ! どうしてオレたちがてめえの奴隷になんかならなきゃならねえんだって聞いてんだよ!」

「それももう話したが、もう一度話す手間を俺にかけさせるのか?」

 俺はいきり立って激昂するクルーガーの首を掴む。

「うぐぶっ―――!」

「お前は何か勘違いをしているようだな。」

 俺はクルーガーの目を見て言い放つ。

「お前は一体誰に命を握られているか理解ができないか。お前のような人材に利用価値はない―――」

「ぐっ……ぐふっ……は、放せ……!」

「―――今ここで縊り殺してその辺のネズミだかハエだかの飯にでもしてやろうか。」

「く、クラウン……!」

「くっくそが……! やるならとっととやりやがれ……!」

 ふむ。まだ勘違いをしているようだ。

 この期に及んでこいつを殺すメリットなど何の価値もないのに、なぜ殺さなければならない?

 そして、この期に及んでなぜこいつは抵抗する?

「自分の命の価値さえ正しく見ることもできない無能だったか。お前が死ねばお前の後ろにいる【家族】のいったい何人が絶望すると思う?」

「……っ!」

 俺はクルーガーの首を掴んだまま部屋のとある場所へ向かう。

「意味のないところで持ち出す反骨精神など何の価値もない。ゴミそのものだ。そんなものは全て捨てろ。」

 そのまま俺はクルーガーをゴミ箱の中に頭からぶちこんだ。

どごぉっ!

「グヘェッ!」

 クルーガーはゴミ箱を頭に被ったまま部屋の中をそのまま転がった。

「今のお前にはお似合いの姿だ。」

「てめえ! てめえ、ふざけやがって、絶対ぶっ殺してやる!」

「それができる男なら俺は安心して死ねる。そこまで来て立派な【ゴミ箱】だ。」

「くっ………! クソックソッ……覚えてろクソがっ………!!」

「クルーガーっ、いい加減にして!」

 悪態をつきまくるゴミ箱に、クロクが注意する。するとゴミ箱は今度はクロクに食ってかかった。

「何だと!? クロク、お前はこんな得体のしれないやつの言うことを聞けって!? ゴメンだね、オレは!!」

「クラウンはそんな人間じゃない! お願いだから言うことを聞いて!」

「ハッ、それこそうさんくせえ話だ。あの拠点のほとんどの兵士を殺してきたんだろ、あいつらより強いオレたちがこうして生きているのにも関わらずだ! そんなやつがオレたちのことをまともに扱ってくれるとでも思ってんのか! ええ、クラウンさんよぉ!?」

 バチンっ!!!

 クロクがクルーガーを思いっきりひっぱたいた。クロクの顔が怒りで真っ赤になっていた。心なしかその目に涙が滲んでいるようにも見えた。

「いい加減にしてっっっ!!」

 クルーガーは叩かれた頬に手を当ててクロクを見た。みるみる眉間にシワがより、怒りを顕にした。

「んなんだよっっっ!!! ウソじゃねぇだろうが!! こいつなら実際できる! オレはそんな力を持っている奴を信用しろって方が無理だってんだよっ!!!」

「クラウンはそんなことしないって何回言えばわかるの!! いい加減にしてよ!」

 ついには俺の目の前で俺が信用できるできないを、あーだこーだ言い争い始めた。こいつは信用できないと喚くクルーガー、そんなことしないと弁明するクロク、それを黙って見守る他のメンバー。

 おろおろと困ったように見つめるクレアとソル、黙って腕を組んで眺めるジェラムとツィゼル。こういうところでも彼らの人間関係がうかがえる。

 このまま眺めていても話が進まないので、俺は言い争っている二人のもとへ近づいて、二人に拳骨を落とした。 

ゴゴチンッ!!

「でっ!?」

「いたっ!?」

 二人共頭を押さえ、痛みに驚く。二人は涙目で俺を見上げた。

「そうやって『信用していない俺の前で仲間割れ』してていいのか?」

「なんだよ急に!?」

 クルーガーが突然の暴行に驚きながら、それでも引かなさそうなので、俺は続ける。

「クルーガー、おまえのその下らない反骨精神はともかく俺のことが信用できないということは別にさしたる問題じゃない。お前らに信用してもらおうと思って俺の部下にする訳じゃないからだ。」

「じゃあなんだってんだ! どうせ連合のやつらと同じことをさせる気だろうが!」

 まだわからないようなので、俺は続ける。

 俺は、特務隊隊長として連合の奴らを徹底的に叩き潰す。

 その上でほしい結果は、犠牲ゼロでなおかつ最も後腐れのない終わりだ。

 ゼロシリーズ含めまだまだ連合に利用されている被害者がいる以上、好きなように拠点を潰すわけには行かないし、せっかく助けたゼロシリーズを再び奪還されて戦うはめになどなりたくない。

 そのためにはお互い結束してもらい、最低限俺のやったことを台無しにされないようにすることが必要だ。

 だから俺の手元に置く。

 優秀な人材は多少なりとも必要であり、なおかつ無駄な手間を取らせないための措置だ。

「わかったな。俺はやろうと思えばいつでもお前たちを始末できる。お前たちがそうやって【家族】とともに生きたいと思うのなら大人しく俺の言うことには従ってもらう。」

「……ッくそが!」

「ようやく話を理解してくれたようだな。この説明も二度目だが。」

 重要な任務のことならともかく、こんなことで同じことを何回も言わせないでほしい。

 時間の無駄だ。

 

 本題に入ろう。

「俺の部下になってもらう件だが……形式としては俺の私兵部隊として動いてもらう。」

「バラバラに異動させるって訳じゃないのね。」

「あぁ。これまでと同じようなものだと認識してもらって構わない。」

 拠点から抜き出したデータには彼ら彼女らの戦績や普段の過ごし方など実にさまざまなものがあった。お陰で今後の取り扱いにも苦労することはなさそうだ。

「基本的には俺か、俺の部下でもある【リザ】の指揮の元で任務についてもらう。今後当面は【リザ】の指揮下に入ることが多くなるだろう。」

「リザ……。」

「女の人かな?」

「けっ。オレたちの知らないところで勝手にいろいろ進めやがって。」

「それと任務についてもらうに当たって、ひとつ変更することがある。」

 俺はゴミ箱の愚痴を聞き流しつつ、続けた。

 俺はゼロシリーズという名前が気にくわない。

 俺の私兵部隊になってもらう際に、ゼロシリーズとかいう面白味も糞もない名前をいちいち呼ぶ気にはならない。

「お前らの【ゼロシリーズ】を別の名前にする。」

「……別にそこはどうでもいい。好きに呼べば良い。」

「実験体として勝手につけられた名前だし、今さら気にしないよ!」

 クロクとソルがうなずく。この二人がうなずくのであれば他の四人も関係なかろう。

 

「お前たち分隊の名前は―――喪手部隊ミラゼルムと呼ぶことにした。」

 

 その名を告げられた元ゼロシリーズは、皆一様にぽかんとした表情になる。

 全くもって聞き慣れないこの単語は別世界の彫像が由来だ。

 知らなくて当然でもあろう。

「みら……ぜるむ?」

「何だよそのすっとんきょうな名前は。」

「変な名前! でもなんか特殊部隊っぽさありそう。」

 メンバーはそれぞれの感想を述べる。

 

 喪手部隊ミラゼルム

 

 俺が新しく得た私兵部隊。ちなみにこの件は平和維持軍にも通してはいない。通す方がいろいろ面倒だからだ。

「それで……僕たちは実際何をするの?」

 ようやく本題にあげようとしていた話をソルが持ち出してくれた。

「この世の問題に取り掛かってもらう。」

「随分ざっくりとした説明だなぁ……。」

 その内容としては大まかに分けるとこうだ。諜報偵察、要人警護、俺と共に連合の拠点を潰す手伝いなどだ。

「今この世界はどこぞの騎士団の宣誓により、不安定的な状態が続いている。ある国は内乱が起き、ある国とある国が戦争勃発の秒読み開始という状態にありと話題に事欠かない状況だ。その影にはお前たちの要人暗殺も大きく絡んでいるだろうな。」

「……。」

 アホの騎士団の宣誓と、解放戦線連合テロリストの最悪の組み合わせがこの世界をいろいろとめちゃくちゃにしている……という状態が、今のこの世だ。

「わかったな。お前らのやって来たことをリセットできる訳じゃない。今後は俺の命令を第一としろ。いいな?」

 俺の二度目の説明を聞き、彼らはそれぞれうなずく。

 問題ないならそれで良い。これで一応の合意も得た。

「ねぇ、クラウン。」

 ツィゼルが俺に向かって問いかけてくる。

「何だ。」

 ツィゼルは細い目をうっすらと開き、静かに見つめた。否、睨んだとみたほうが良いのか。声音が俺の本質を見抜こうとしているかのようにきこえる。

「ひとつだけ忠告するよ。」

 ツィゼルはそういって俺の前に立つ。

「貴方は確かに強い。きっと、私たちがいつどのタイミングで万全の準備で襲いかかったとしても。傷ひとつつけられないだろうって考えるくらいにはね。」

「……。」

 俺は続きを待つ。

 一拍のあと、ツィゼルは告げた。

「もし……私たちを裏切りでもするなら、そのときは地の果てまでも追い詰めて殺してやる。………なんてね?」

 細く開いたまぶたの向こうにある、その虚ろな黒を湛える瞳が俺を捉える。

 その向こうに一瞬だけ俺は感じ取った。象さえ瞬殺して見せるほどの殺気を、彼女は俺に浴びせた。

 俺はその言葉を聞いてどこか安心した。

「お前らを裏切れば俺を殺してくれるのか。それは肝に命じなければな。」


 こうして俺のもとへ七人の部下がやってきた。

「改めて、君たち七人を歓迎しよう。今後ともよろしく頼む。」

「え? 七人?」

 ん? ……そういえば言ってなかったな。

 彼らが家族と認めしきりに「無口男サイラム」と呼んでいる男だが、ちなみに彼はゼロシリーズではない。ただの一般兵士だ。

 元々彼には名前がなく記録もなにもなかった唯一の【名もなき兵士】だった。あれだけの手際で名前もなく組織登録、記録もなかったのには驚きだった。クロクたちにとっては非常に優秀な世話役らしく、この一家の支えになっている……らしい。

「お前たちが【七番目サイラム】と呼んでいる者だが、あいつはなかなか筋が良い。お前らが与えられなかった【痛み】を与えてきたからな。殺すのが惜しくなってこの部隊にいれた。」

「……あいつが……。」

 ああいう人材に会えるとやはり気分がいい。直前で仲間の大量の死体を見ているだろうに、それを抑えた冷静な判断力、そして武器の扱い方……。

 あれだけの素質で鍛えれば、少なくとも【隊員】には抜擢ができる。新しいメンバーが増えそうだ。

「今は療養中だが、そう長い期間はかけずにここに戻ってくるだろう。」

 それまでは六人で運用する。この部隊のもつ本来のポテンシャルは【七番目サイラム】が戻ってくるまでお預けだ。

「さて話を戻そう。今後のことだが当面の間はここを使うといい。任務以外はここでなんでも好きなことをしてやればいい。」

 衣食住足りて礼節足る、そういう意味ってわけではないが。

 任務に挑むからには最高のコンディションで臨んでもらわねばならない。

 この喪手部隊専用の宿舎とも言える建物は、特務隊がいつも使っている秘密基地の隣に建っている。ヘカ・クイスラムの南海岸に接する軍基地と軍港、またそれに触発されて発展した町がある。買い物で一通り買いそろえることもできよう。

「ここで、なんでも、好きなことを?」

「任務以外は、だ。」

 妙にツィゼルに食いつかれたが、その通り好きなことをやって過ごしてくれればいい。

「ふっふふ……ふへへへ……」

 何だか気持ち悪い笑みを浮かべたツィゼルは放っておくとして、とりあえず要望は聞いておかねばなるまい。

 これはあくまであったものの再利用に過ぎない。コンディションを整えるにはそれぞれに合わせた機能が必要になる。

「それぞれ自分の部屋にほしいものを伝えてくれ。俺の方でなんとかなるものなら一通り用意しておこう。」

「じゃあスイートルームの設置をお願いします! 是非! 是非! 大音量でも外に漏れない感じの!」

 ツィゼル、一体何なんだお前は。突然欲望丸出しのぎらついた表情を浮かべてへんてこな要求を出してきた。クレアがそれを聞いて顔を真っ赤にして無言で抗議のポーズを取ってきたが、お前らそういう関係なのか。

「いやぁ、ボスはもうこういう事態を見越してこんな問いかけをしてきたんだね。私もうボスについていきます!」

 名簿に追記しておこうか。どれどれ、ツィゼル、ヤバイ……と。

「けっ。あっさり餌に釣られやがって、情けねえやつだ。」

 それを聞いたツィゼルがギラリと目を輝かせ、なにか含みのある笑みを浮かべた。

「なんだよ、なんでこっち見るんだよ! その目でこっちみんな! オレはなにも求めてねえ!」

「ボス、まんにゃで埋め尽くされた部屋をおひとつ!」

 いよいよ頭がイカれたようだ。まんにゃなどというしょぼん顔栗饅頭のゆるキャラで埋め尽くされた部屋だと? そんなふざけたもので買収にかかっているツィゼルを見て久しぶりの頭痛が起きる。クルーガー、なぜお前もさっきまで言っていた言葉などなかったかのように露骨に反応するんだ。

「てってめえ! 余計なこと言うんじゃねえ、刺すぞコラ!」

「うわー、ぼーりょくはんたーい。」

「くそがぁ!!」

 言い争っているところ悪いが、さすがにまんにゃで埋め尽くされた部屋など用意できない。俺はまんにゃが嫌いなんだ。

「で? 次は誰だ?」

 俺はツィゼルの戯言たわごとを無視して、他のメンバーに問いかける。

「なんかほしいものがある人手を上げてー?」

 ソルがそう呼び掛けると、次々と手を上げて………結局クルーガー以外の全員が手を上げた。

 一人ひとり要望を聞くと、ざっとこんな感じだった。

 刀の手入れ場、台所、調理器具、ソーイングセット、大量の布、ふかふかの天蓋付きベッド、射撃場、シアタールーム………まあ子供の願望なんてこんなものだろう。このあともまだまだ要求が出てくる。

 

 こうして、この家は、やかましいガキ六人と無口一人入って一気に賑やかになることになった。

 久しく忘れていた感触だ。

 正式にみんながこの家に住むことが決まってから数時間後。陽はもう傾き、窓から夕日が差し込んで部屋の中を赤く染めていた。

 皆は俺から金を受け取って、町へと繰り出していった。今頃楽しくのんきに買い物をしていることだろう。念のため彼ら全員に何かあったときにすぐにそこに行けるように魔術式を展開しておいた。

 今日はもう俺もやることはないし、久々にゆっくり休むことにしたので自分の部屋に戻る。

 魔術式を展開し、俺の家へ戻る。

 俺の家の前まで飛ぶと、そこにより傾いた赤い太陽が照りつけていた。

 最低限の部屋しかない小さな一軒家。

 この家に戻るのも久しぶりだ。俺しか住んでいない家。

 随分長い間忘れていた感触。

 俺は、自分の部屋への扉に手をかけ、オートロックを解除する。そして、周りに誰もいないことを確認してから扉を開けて中に入った。

 そこは、狭い部屋だった。 六畳間ほどの大きさの部屋に、十年間お世話になった木机、椅子、ベッドやクローゼットが配置されて、実質三畳間ぐらいの広さだ。

 窓にくっつけて置かれている机の上には、二つの写真立てと、いくらかの小道具が置かれ、その下には分厚いボロボロになったノートがあった。 そこには大量の魔法陣、呪文がかかれている。

 俺は、その写真立てを見つめた。

 それは、写真ではなく、一枚の絵だった。肖像画という種類のものであり、一枚には複数人の人間が描かれていた。

「……………。」

 それを見て、俺のこの心に小さなさざなみが立つ。かすかな寂寥感が俺の心を包む。

「……………。」

 そして、最後には、本当にかすかな心に浮かんだ、とある感情。

「……………………………。」

 俺は、そっとその二つの写真立てを手に持ち、クローゼットの中へしまう。

 

 

 

 

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