act18 回想編10 模擬戦開始
コックピットに入る。そこは密閉空間で狭い。
最低限度のスペースで息が詰まりそうだ。今はLEDの光が部屋全体を照らしている。
計器類のチェックだ。座学やシュミュレーション室で何度もやってきたことだ。
と懲りなくできる。だが、少し苦手なものもある。
「出撃体制になったようだな、覚悟はいいか」
マイク越しに指導官殿の声が響く。
「こちらX9-3379-5。了解です。戦闘時灯火管制」
というと、
「『了解、マスター』」とAMが返事をし、
コックピットの白く照らすLEDの光が消え、モニターの光だけになる。
ヘルメット越しのモニターは見にくい。これは仕方がない。
「ならば、出撃を許可する」
「YES、X9-3379-5シュート」
というと、体がシートにめり込む。いわゆる出撃時のGというやつだ。
キャノピーと呼ばれる部分がすべてモニターとなっており、機体の機動補助をAIが行ってくれる。
右へ旋回すれば左に体が振られ、逆ならば体も逆に振られる。乗り物酔いしてしまいそうだ。
だが、今はその状態になるほど気持ちの余裕がない。
余裕があれば乗り物酔いになるわけではないが。
ここで、あのアホの自信を叩き壊しておかないと後々面倒になる。
策を弄している相手ならなおさらだ、と思った。
お互いに旋回し合い、相手の出方を伺う。
まあ、相手はこちらの後ろを取ろうと躍起になっているのだが、定跡だね。
機体のセンサーが突然のアラート音を響かせる。
ソナーフィールドセンサーからだ。通称デブリセンサー。
これが叫んでる。あちこちにデブリがあるからだ。この機体を中心に天球型に表示された情報では、
わかりやすく道のようにデブリがない所がある。マップかこれは。
「AM事前の打ち合わせ通りに頼む」
「『了解です。マスター。これよりデータ処理を開始します。10秒ほどお待ちください』」
相手の模擬弾をかわしながら、さらにデブリセンサーのアラーム音が響く。
なかなか凝っているダミーデータだ。こちらのデブリセンサーを完全に誤認させている。
正直、うるさい。でも、仕方がない従わないとどこにホンモノが混ざっているかわからなくなる。
どこにあるかは見え見えなんだが。
「『お待たせしました、マスター。』」
この声の後、うるさく鳴り響いていたデブリセンサーのアラーム音が消える。
そして、天球型のセンサーには青と赤の表示がでる。
「『ご要望通り、青はダミーデータ、赤はデブリと分けました。
デブリセンサーにもデータ処理をしましたので表示はされますが誤認情報はなくなりました。』」
「よくやったAM。では、第二段階に入る。訓練空間にいる熱源を検索しロックマーカーをセット。
その後、オレの合図とともにこちらに送り付けられたダミーデータをのぞき見野郎に送り付けろ。
そして、今回の状況データの保存を行え」
「『了解です、マスター』」
本当の優秀なAIだ。こちらの人格、能力査定を行えることはある。
こちらをうるさくしてくれた礼だ。
ちゃんと返礼しないと悪い。それにお友だちにもお礼をしないとこちらの気が済まない。
お仕置きは丁寧にだ。
相手はオレが慌てていると思っているだろうに。
ご丁寧に、本当のデブリがあるところまで道みたいになっている。
このダミーデータをこさえた奴はアホだ。こんなことをすればどこに罠が仕掛けられているか丸わかりだ。
もっとやりようがあっただろうに。
オレは、ダミーデータをよけながら目的のポイントまで移動する。
「AM、返品データは準備できたか?」
「『はい、いつでもどうぞ』」
「今より合図を出す。10秒後にデータを萩原の機体に返品する。では、カウントダウン開始!」
「『カウントダウン10、9、8・・・・・・・・・・・・2、1、0、萩原機にデータ送ります』」
その後、こちらと距離を取りながら後を追いかけていた萩原機の動きが変わる。
小刻みに揺れ始めた。今頃、萩原機の中はデブリセンサーのアラーム音が鳴り響いていることだろう。
自業自得だ。正々堂々と勝負すればいいのにこんな面倒なことをするからだ。
相手の罠があるポイントをうまくよけ、逆噴射で後ろに向かって移動をする。
飛行機でこんなことをすれば間違いなく墜落だ。
でもここは、無重力で宇宙空間だ。墜落することはない。
萩原機はこちらが後ろに移動し始めたことに気づかない。
それどころではないからだ。機首を上に向けながら逆噴射を続ける。
萩原機が目の前を通る数秒前から模擬弾の掃射を開始する。見事に萩原機のどてっぱらにヒットする。
今頃、被弾したことの警報音が鳴り響いていることだろう。
それに、それだけではない。デブリにヒットする。さらに警報音が追加される。
向こうは大騒ぎだ。
でも、これで完了だ。
模擬戦終了だ、と言えればいいんだけどさらなる面倒ごとが発生しなけりゃいいんだが。




