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女神様の星作り  作者: いと
人間の住まう世界編
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序章-すべての始まり-

 鼻歌を交えながら、目の前の女性は宙に浮かぶ丸い玉に手をかざして何かを念じていた。

 黙っていれば絶世の美女。金色で長い髪は上品さを引き立て、肩から膝まで白一色のワンピース。少し幼さを残しつつ、丸い目と可愛らしい口は、僕の住んでいるこの『カミノセカイ』でも大人気だった。

 黙っていれば、完璧な女性なんだけどな。

「あら、カンパネ。そこで私を見て、何残念そうな顔をしているのかしら?」

 視線を感じたのか、丸い玉に手をかざしたまま、僕を見る。仮に僕にも恋という概念が存在していれば、僕はその視線に一目惚れをしていたのだろうか。

「いえ、それよりも女神様は一体何を?」

 女神と呼ばれたその人は、怪しい微笑みを

「ふふ、今回は自信作よ!」

 黙っていれば絶世の美女。しかし僕がこの世界に存在してからずっと近くで見ていたが、声を大にして言いたい。


 この女神は狂っているのである。

 カミノセカイ

 その名の通り、神と呼ばれる存在が住む世界が存在する。

 神以外にも、精霊や妖精と呼ばれる存在が生まれ、自由気ままに生きている。

 そんなカミノセカイで最初に現れ、一番好き勝手に暴れ回っている神が、僕の目の前に居る『女神様』である。


 僕には個体名として『カンパネ』という名前がつけられたが女神様には名前が無い。本人に聞いたら、


「最初に存在したの。つける相手が居なかったのよ」


 と、語った。


 と言っても女神様からしてみれば、名前は上の者が下の者につける行為だとか。

 実際の所この世界には、決まったルールが存在しない。もしくは、女神様が言ったこと行ったことが正であるというのがこの世界である。


 他の精霊達も女神様の言うことは正しいと思い、強者は弱者の言うことを聞くと言った瞬間から、上下関係ができあがった。

 しかし僕だけは何故か疑問に思ったり、不満と思える感情がある。


 これについても女神様に聞いたところ、


「たまには反対意見を聞いてみたいのよ」


 とのこと。

 つまり、女神様は楽しければそれで良いのである。

 そんな女神様の最近のマイブームが「星を生成すること」である。


 女神様の力は言葉にすることが難しいほどに凄く、精霊達も簡単に絶滅することも可能とか。


「ふふふ、今回は練りに練ったわ。そう、中はサクサクで外側がフワッと仕上がるほどにね」

「一体何を言っているんですか?」

「遠い未来でどこかの世界に生まれる食べ物の話よ。あ、もしかしたら今回生成した星にもあるかも」


 食べ物、という単語は少し聞き慣れない。僕を含めて神という存在は何かを食したりしない。

 精霊達の中には魔力という原動力を吸収する必要があるらしいが、僕や女神様は自分から力を生み出す事ができるので必要が無い。

 そもそも魔力って何だろうとも思うけど、深くは考えていない。


「そんな事よりも、今回の星はちゃんと人間を作って、選ばれた人に力を与えてみたわ」

「人間……ですか?」


 人間。


 神の子とも呼ばれる『であろう』存在。


 精霊や妖怪などはそれぞれ力を持ち、その種類によって区分するけど、人間というのは何も力を持たない存在である。


 女神様が新しい精霊を生成する際に、失敗して力を持たない人間を生成すると、いつも『失敗作』と言って消去する。

 その行為にも僕は違和感があるのだけれど、精霊達はそれが普通と思い、それ以上は僕から何かを言うことは無い。


 しかし、今回女神様は『人間』をあえて作った訳だけど、何か心境の変化があったのだろうか。


「今まで消去していた人間を、どうして作ったのですか?」

「以前カンパネに、力を持たない存在は、何も無い場所に放り投げた際、そのまま力つきるのかって呟いたでしょ?」


 まあ、あれだけ人間を作っては消してを繰り返してれば、少しは疑問に思う。まあその疑問に思うのも僕だからであるけれど。


「それで、水と木と、まあ他にも色々と適当に設置して人間を放置した星がこうなったの」


 そう言って、女神様の目の前には映像が現れる。


「これは……何て言葉にすれば良い光景ですか?」


 四角い大きな箱があり、そこは何層にも重なっていて、各層には人間がそれぞれ会話をしている。

 別な場所ではその大きな箱を作っている人間もいて、人間の数は目で追うことが難しいほど多い。


「アレはビルっていう建物ね。人間は文化や技術を自分たちで作り出して、それぞれ役割を持たせて、生きているの」

「生きる……ですか?」

「そうね、神である私たちには縁が無い単語ね。その反対が存在しないからね」


 生きるという単語は知っている。その逆は、女神様がいつも行っていた消去された事だと勝手に思っていた。


「消去は、本当にこの世界から消す事よ。生きるの逆である死というのは、言葉では説明できないわね」


 そう言いながら、画面を切り替える。その場所では人間全員が黒い服を着て、中心の動かない人間に対して何かをしていた。


「人間はどうやら相手を思う事。そして自我を持つ。私にも生成が難しかった喜怒哀楽が偶然この星で生まれたのね」

「女神様にもできなかったことを、人間が?」

 それは、女神さまを超えたのでは?

「理由は簡単。私には感情が無いわ。ああ、自分に対しての喜怒哀楽はあるけど、相手を慈しむ感情は無いわ」


 自分には想像できない事は生成できない。初めて女神様の限界を見た気がする。


「それで、自信作というのは?」

「そうそう、まあ自信作と言っても簡単なんだけどね」


 そう言って、画面が切り替わって、今度は星全体を映し出す。


「まず、この星を複写します」


 隣に同じ星が誕生した。え、そんなに簡単にできるの?


「あ、急に隣に星を作ったから、混乱を生んでしまったわ。記憶の消去っと」


 ブツブツと何か言っている。

 勝手な想像だけど、多分僕を複写して隣に配置して、お互い急に自分が現れて驚いたみたいな現象が起きたのかな。


「結構離れた所に配置してっと。それで、人間はそもそも力を持たない失敗作だったんだけど、研究の結果、人間に力を持たせることに成功したの」

「人間に力ですか?」

「ええ、私は勘違いしていたわ。精霊の生成に失敗して力を持たない存在を失敗作として消去していったけど、元々力の無い存在に力を与えた場合、どう行動するかはその人間次第というのが分かったの」

「というと、以前にもどこかで実験をされたんですか?」

「そうよ。確か……この人間ね。以前は何も力の無い普通の人間だったけど、少しだけ筋肉を増加させた途端、体を鍛え始めて、今ではこの星で一番有名な存在になったの」

「それは、凄いことなのですか?」

「全然凄くは無いわ」


 女神様の言っていることがよく分からない。


「でも、それはカミノセカイではという意味。私が言いたいのは、私の考えつかない行動に対しては賞賛物なの」

「と、とりあえず凄いのですね」


 二度目の質問に答えは無かった。

 とはいえ、人間の行動については女神様の想像以外の事を成し遂げるということだ。


「さて、今回は人間二人に力を与えてみたわけだけど、カミノセカイから見ただけじゃつまらないから、カンパネには目になって行ってきて欲しいの」

「……はい?」

「多少の力を魔法と称して使って良いけど、人間に見られないようにね」

「えっと、いつですか?」

「今から」


 唐突すぎて追いつかない。


「じゃあ、行ってらっしゃい!」


 その一言から、女神様の我儘に僕は付き合わされることとなった。


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