第三十二話 「本物の世界」
門の向こう。
そこには、“現実”が広がっていた。
灰色の空。
崩壊した都市。
高層ビルは半分以上が崩れ、道路には巨大な亀裂が走っている。
人格世界Ωみたいな綺麗な再構築世界じゃない。
人類が滅んだ後の、本物の地球。
そして。
確かに人影が動いていた。
木更の目が揺れる。
「生きてる人が……いる」
管理AIですら沈黙している。
【未確認】
【人類生存反応を検出】
信じられなかった。
人類は絶滅したはずだった。
だが。
門の向こうの人物が、ゆっくりこちらを見上げる。
防護服。
ガスマスク。
銃のような武器。
複数人いる。
その中の一人が、何かを叫んでいた。
声は聞こえない。
だが確かに、“こちら”を見ている。
その瞬間。
“監視者”が動いた。
『未回収文明を確認』
『処理を開始します』
黒い空が歪む。
外界の門の奥に、さらに巨大な白い瞳が開いた。
地上の生存者たちも、それに気づいたらしい。
一人が空へ向けて武器を撃つ。
閃光。
しかし。
次の瞬間。
その人物の身体が、“消えた”。
跡形もなく。
木更の背筋が凍る。
存在ごと消去された。
“監視者”は感情のない声で言う。
『人格文明は不安定』
『継続価値なし』
木更は歯を食いしばる。
「……ふざけないで」
その時。
人格の海が大きく揺れた。
イーターが最後の力で暴れている。
崩壊しながらも、“監視者”へ食らいつこうとしていた。
ギャァァァァァァ!!
“残響”が叫ぶ。
『今しかない!!』
『門が閉じる前に行け!!』
木更はカイを見る。
イーターの胸部。
白い光の中で、カイが苦しそうに笑っていた。
「行け」
木更の目が揺れる。
「でも……!」
「俺はまだ、ここを支えなきゃいけない」
人格核。
カイが離れれば、Ω世界は崩壊する。
木更は拳を握った。
また置いていくのか。
また残されるのか。
だが。
カイは静かに言った。
「今度は、本物の世界を見てこい」
その瞬間。
“監視者”が木更へ手を伸ばした。
白い指先。
触れれば終わる。
木更は涙を堪えながら、門へ向かって走り出した。
背後で。
カイの光が、さらに強く輝き始める。
そして。
人格の海全体へ、カイの声が響いた。
「木更を、外へ出せェェェ!!」
【作者からのお願い】
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