第三十話 「観測者」
黒い空に浮かぶ、“巨大な白い瞳”。
それは生物には見えなかった。
感情も。
意思も。
命の気配すらない。
ただ世界を“観測”している。
その視線が向けられた瞬間、人格の海そのものが軋み始めた。
ギギギギ……。
管理AIが激しくノイズを発する。
【警告】
【高次存在を確認】
【データ照合不能】
【危険度測定不可】
木更は動けなかった。
本能が理解している。
“あれ”を見てはいけない。
理解してはいけない。
イーターが震える。
巨大な黒い身体から、無数の人格が悲鳴を上げ始めた。
「やめろ」
「見ないで」
「観測するな」
今まで人類を喰ってきた怪物が、怯えていた。
白い瞳の奥から、再び声が響く。
『失敗作を確認』
『人格文明は依然として不完全』
その瞬間。
イーターの身体が崩れ始めた。
バキバキバキッ!!
人格が剥がされる。
無数の顔が空へ吸い上げられていく。
イーターが絶叫する。
ギャァァァァァァッ!!
木更は目を見開く。
「……何が」
“残響”が低く呟く。
『あれが……本当の“外側”だ』
『イーターですら、ただの末端だった』
空間が凍りつく。
つまり。
人類を滅ぼした原因は、イーターではない。
もっと上位の存在がいる。
人格文明。
人類。
それらを“観測対象”として見ている何か。
白い瞳が、ゆっくり木更を見た。
その瞬間。
頭の中へ大量の情報が流れ込む。
宇宙みたいな空間。
無数の文明。
崩壊する人格世界。
イーターの群れ。
人類と似た存在たち。
全部、“観測”されていた。
木更の人格が軋む。
管理AIが叫ぶ。
【羽川木更、人格崩壊危険域!!】
【視線を遮断してください!!】
木更は膝をつく。
意識が消えそうになる。
その時。
イーターの胸部から、白い光が放たれた。
朝霧カイ。
人格核。
その光が、木更を包み込む。
「木更!!」
カイの声。
瞬間。
白い瞳の視線が、カイへ移った。
沈黙。
そして。
『異常人格を確認』
『観測継続対象へ指定』
黒い空間が裂ける。
巨大な“門”が現れた。
その向こうには。
さらに深い闇。
無数の白い瞳。
管理AIが震える声で告げる。
【新領域を確認】
【コード:UNKNOWN】
【通称――“外界”】
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