第二十八話 「核の中の少年」
『木更、下がれ!!』
その声が響いた瞬間。
黒い海が激しく揺れた。
ドゴォッ!!
無数の黒い腕が、一斉に吹き飛ぶ。
白い光。
人格の海の中心――巨大な塔の奥から放たれている。
木更は目を見開いた。
「……カイ」
今の声は間違いない。
コピーでも。
残響でもない。
朝霧カイ本人の声だった。
周囲の“偽カイ”たちが、同時に苦しみ始める。
「アァァァ――!!」
顔が崩れる。
黒い液体が噴き出し、水面へ溶けていく。
“残響”が低く呟く。
『やっぱり残ってたか……』
木更が叫ぶ。
「どういうこと!?」
数秒の沈黙。
そして。
『人格核になった時、カイの自我は完全には消えなかった』
『今もイーターの内部で抵抗してる』
木更の呼吸が止まる。
「内部……?」
“残響”は塔を見る。
無数の人格が積み重なった、巨大な化け物の中心。
そこにカイがいる。
イーターに取り込まれながら。
人格核として。
管理AIの声が響く。
【解析完了】
【イーター内部に“人格核Ω”を確認】
【朝霧カイの存在反応、一部残存】
木更の目に光が戻る。
「助けられるの?」
だが“残響”は静かに言った。
『分からない』
『人格核を切り離せば、Ω世界が崩壊する可能性がある』
つまり。
カイを助ければ、世界が消えるかもしれない。
その時。
巨大な塔が脈動した。
ドクン!!
黒い海から大量の人格汚染体が浮かび上がる。
今度は人型ではない。
顔だけの塊。
腕だけの群れ。
無数の人格が融合し、形を失っている。
イーターが木更を排除しようとしていた。
「侵入者」
「核へ近づくな」
「朝霧カイは我々のものだ」
声が空間全体から響く。
木更は銃を構える。
「……返してもらうわ」
その瞬間。
塔の中心が光った。
白い粒子。
そこに、一瞬だけ朝霧カイの姿が映る。
苦しそうな顔。
ノイズに侵食されながら、それでも木更を見ていた。
そして。
口だけが動く。
『来るな』
木更の動きが止まる。
次の瞬間。
塔の表面が裂けた。
バキバキバキッ!!
巨大な黒い“人型”が姿を現す。
頭部には無数の顔。
胸の中央には、朝霧カイの顔が埋め込まれている。
管理AIが警告する。
【深層存在イーター】
【戦闘形態へ移行】
黒い巨人が、ゆっくり木更を見下ろした。
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