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ジョブチェン!悪役令嬢は転生ヒロインを堕としたい  作者: 三古谷
Guivre×Princes!

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1/13

1.ハッピーエンドへ復讐を

 悪役令嬢(アレクサンドラ)が世界を救った。


「…これで、やっと」


 裏ボスは、打ち倒された。

 大地に響く祝福の声。世界のすべてが彼女を称える。傍らには第一王子、未来の宰相や騎士団長、そして聖女までも。

 悪役令嬢と呼ばれ、家族からも疎まれていた彼女は、救国の乙女となった。


 誰より愛される乙女に。


「サーシャ!」


 笑みと拍手と包容。溢れんばかりの愛が彼女に降り注ぐ。これ以上ないハッピーエンド。

 それを理解して、サーシャ(アレクサンドラ)は涙した。


「―――――……!」


 この国に、永久の繁栄があらんことを。




「これのどこがハッピーエンドよ!」


 怒りのまま"スマホ"を地面へ叩きつける。


 勧善懲悪の物語。正義の勝利。その中心の女はただ呆けて感涙を流すだけ…。


「何が"サーシャ"よ!!!」


 力の限り机を叩けば、ダンッと鈍い音が響き、カップの中身が服へ跳ねる。けれど、それはシミになる前にすぐさま失せ、スマホさえ手元へ戻ってくる。

 スマホ越しのサーシャはなおも喚くように泣き続け、周りの人間も賛美を止めない。


「反吐が出る。」


 アレクサンドラ・フォン・ディア。最高級の宝石を冠する名は、本来、私を指す言葉だった。

 建国を支えた四つの家紋が一つ、ディア家に産まれた私は、絶大な魔力を持ち、全てを注ぐべき相手もいた。

 この世で唯一、愛した人。


 ふっ、と背後で笑う声がした。


『驚いたな。地獄にしては綺麗すぎる。

 ね、サンドラ。』


 現れたのは、先ほどスマホのなかで死んだ"裏ボス"。王国の第2子であるアレクサンダー・ツー・クラウン大公。

 私は、彼にすべてを捧げた。


「あら、ちゃんとご自分の立場をお分かりなのね。

 大公閣下。」


 それもすべて遠い過去、否、"ゲーム"の中の話。こんな蛇のような男など…、もはや愛していない。


『ははっ。

 やっぱり、アレクサンドラはそうでなくっちゃ』


 ここに来るまでに、この男が対峙していたサーシャ。今も生きている彼女は、私じゃない。

 "転生者"というらしい。


「ご存知?

 ここ、ゲームの世界なんですって。」


 ここは乙女ゲームの世界。そして私は悪役令嬢。世界に混沌を呼び、主人公(光の聖女)に殺されるべき存在。

 そんな悪役令嬢に転生してしまった不運な異世界人。それが今のサーシャ。


「18年。

 ずっとここで見てましたわ。」


 悪役令嬢だった私が、どんどん幸せになっていくのを。

 家族からも愛されなかった私が。生きてるだけで謗られた私が。婚約者にすら裏切られた私が。


 国さえ救って、幸せになる物語を。


「ふざけないで!!!!」


 机を蹴り飛ばせば、甘そうなお菓子や紅茶が地面に散らばる。


「私じゃ幸せになれないっていうの??!?!!」


 努力を怠ったことはない。毎日必死だったし、それに見合う力も持っていた。努力と才能と家紋。全てを持っていた。

 サーシャと同じものを持っていた!

 それなのに


「何でこの子だけ幸せになるのよ!!!!」


 殴っても殴っても元通りになる机に、私は何度でも怒りをぶつける。努力した。強くなった。側にいた。だって愛されたかった。


 何一つ違わない環境で、貴方だけが幸せになるの?


 なら。それなら。それが事実なら。悪いのは、


『間違ってるよね。』


 蛇のような男は、笑う。初めて会った、あの日と変わらぬまま。

 木漏れ日の庭園で、私はアレックスを好きになった。


 王家の第2子。私以上なはずの重圧と孤独のなか、なのに、いつも笑みを絶やさず、転んだ私に手を差し伸べてくれた貴方。尊敬していた。役に立ちたいと思っていた。運命と信じていた。

 愛していた。


 そして裏切られた。


「お黙りなさい。」


 睨み付けども、やはりアレックスは微笑んだまま。

 絵画のように美しい笑みのせいで、この男に心がないと気付くのに8年も掛かったわ。


 息を吐いて、腰掛ける。椅子は独りでに引くし、頼んでもいないのに紅茶は暖かく、甘いお菓子は軽食へ変わる。


「ご遠慮なさらないで?

 閣下も当然、私の憎悪対象でしてよ。

 あんな小娘一人殺せない無能な大公閣下。」


 視線すらやるのが惜しくて、私は紅茶を啜る。

 レモンの爽やかな香りが私の怒りを撫でた。それさえ腹立たしかったけれど、黙って飲み込む。


『サンドラ、契約をしよう。』


 軽食へ伸ばした手を思わず止めてしまった。

 知っていたからだ。この男がどこまでも狡猾で傲慢で卑劣な人間であることを。


 アレックスは契約などしない。


「言葉は正しくお使いなさいな。

 命令、脅し、洗脳、どれかの間違いですわ。」


 動揺は見せぬよう。軽食のサンドイッチを頬張る。

 このエビアボカドという料理は、サーシャの世界の食べ物らしい。彼女が来て以来、この世界に浸透した。


『僕に転生してみない?』


「グッ」


 吐き出さぬよう、とっさに口を覆う。

 自分の耳とそして脳を疑い、それからアレックスの神経を疑った。

 落ち着いて、けれど迅速に咀嚼して飲み込んで、私は大きく息を吸った。


「ご乱心ですの?!?!!」


 力一杯に叫ぶ。

 人生でこんな風に叫んだことは一度もない。断言できる。

 乱心…。確かに、混乱するなと言う方が無理のある状況だった。死んで、天国のような場所に神は居なくて、ましてゲームの世界と告げられて、


 当然受け入れるだろうという、私の考えが間違っていた。


 この男も存外人間…


『復讐したいだろう?』


「当然ですわ。」


 思考を挟むまでもない。私は、世界に、貴方に、サーシャに復讐する。その為なら悪魔とでも手を結ぶ。神だって殺してみせる。


 けれど


「お考えが足りないのね。」


 私は笑う。貴方のような笑みで。


「貴方として生を受けた暁には、私、この世すべての拷問を受けますわ。

 徹底的に貴方の体を辱しめて、甚振って、塵以下の肉塊へ堕とすのみですわよ。」


 その過程で私が痛みを味わおうと、掠り傷とすら思わない。だってその程度の苦しみ、(アレクサンドラ)の1割にも届かないから。


『僕もさ。

 サーシャの鼻を明かしてやりたい。』


 頭のてっぺんから爪先まで、この男に信じられる部分はない。というか…、この世に信頼など存在しない。


 世界にとって私が悪役令嬢なように、私にとって世界が悪だから。


『憎いんだ。』


 蛇は笑う。


「良い響きをお持ちなのね?」


 それだけは信じられる。


『君、サーシャを口説いてきてよ。』

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