水の記憶10 ビルは頭痛い
夜明けをつげる太陽の光でビルは目覚めた。
朝の光をうけて金の髪がきらきらと輝く。
シャンフィールの冬の朝はとても寒い。
生まれ育ったファシル・アルド・バードの春のひだまりのような温暖な気候より、最愛のひとが育ったいつもあおい草の香りがする夏の光のような国の気候ともちがう凍てつく空気は清廉と肌をつきさす。
無意識のうちにとなりにいつもある愛しい妻のぬくもりを探して両手がさまようけれど、
むなしくシーツをつかむだけ。
寝起きの悪い自分よりも草原の民の妻の朝はとてもはやくて、いつもあきれた声で、けれど楽しそうに起こしてくれる。
そんな妻の声をおもいうかべながらビルは身をおこした。
情報収集をかねた酒場での酒でいささか頭がおもい。
独身時代は、騎士学校の悪友たちと毎日のようにのみ歩いても、翌日の鍛練にはなんの支障もなく、二日酔いとも無縁だったのに。
結婚して健康そのものの妻の生活にあわせていたら、すっかり酒に弱くなってしまった。
そもそも昨夜は、情報そのものを主が拒否したようなものだ。
ある程度の話がわかるとそれ以上は興味がないとばかりにビルにおしつけてしまった。
まあ、ビルも繰り返される本命以外の話に内心、
(いや、もうその話いらないから)
と何度心でつっこんだことか。
無駄を嫌う主は、ビルを残して先に部屋に退いてしまった。
主とおなじく部屋にもどることも考えたけれど、せっかくの外国だ。
いろいろな情報を仕入れときたい。
結局、ビルは閉店まで客と一緒にのんでいた。
そして嫌な予感を覚える。
隣のベッドを確かめて彼は頭痛をこらえた。
(やってくれましたね)
主のいないベッドにため息がでた。
今日はながい一日になりそうだ。




