side ララ
私の名前はララ。平民だからただのララ。
両親と弟と平均的な平民家庭で平和に過ごしてたんだけど、魔力が高く、珍しい光魔法が使えると言うことで、学園に特待生として入学することが出来た。
そして入学式の朝、花の女神と出会った。不思議な花を頭に生やした超絶美少女な女神様は、この国の王太子殿下の婚約者だった。
貴族令嬢のたしなみなのか、女神様はいつも無表情か貼り付けたような微笑みを浮かべているが、頭の花が全て台無しにしている。
あのふざけた動きをする気になって仕方の無い奴が、女神様の心の中を表しているのだと聞いた時は仰天した。
あの女神のような美しさで……中身はふざけているとか……可愛過ぎでしょう!
女神様の姿が見たくて、木に登って王太子殿下の上に落ちた時はさすがに失敗したと思ったが、まさかその事をネタにあんなにこき使われることになるとは……あの腹黒ドSめ……!いつか絶対正体ばらしてやる!
女神様に初めてお会いする機会はすぐに訪れた。学園の食堂で、ランチの輪に入れて貰えたのだ。
腹黒ドS殿下の後ろから、何とか顔を乗り出して近くで見たお顔の美しいこと美しいこと……しかも、私を見て花を溢れさせてくれたのだ!
どうやら気に入ってくれたらしいのに、その後腹黒ドSに邪魔されて、お話はおろかお顔を見ることも出来なかった。
私からわざと隠すように女神様の方に体ごと座り直したのだ!同性同士なのに……心の狭いやつだ!
腹黒ドSの研究は、女神様の花を見えなくすることだった……しかも、俺以外にと言う何とも横暴な物だった。
この研究には、女神様の弟のワンコ君とその婚約者のリリアン様(優しい妹キャラで好き)、腹黒ドSの妹のヴィクトリア様(姉御キャラで好き)と婚約者の爽やか君、そして脳筋のギルが一緒に……こき使われていた。
爽やか君だけ腹黒ドSと同じ2学年先輩だった。
そうなると、被害者の会メンバーである私と婚約者のいないギルが恋仲になるのは自然な流れだよね。
ギルは可哀そうなやつで、ストレート過ぎる性格ゆえに、女神様に初めて会った時に傷つけてしまったそうだ。
それ以来、女神様の半径3m以内に近付くな、声をかけるな、視界に入るなって……横暴すぎる!
ギルは、何を考えているのか分からない貴族女性が苦手で、女神様の花をこっそり遠くから見ては癒されている不憫な男だった。
そんな中、素直に腹黒ドSに怯えて感情をさらけ出している、単なる平民の私を守るべき存在と認識して、いつも一緒にいてくれるようになった。
私も、何を考えているのか分からない男よりも、単純で分かりやすいギルがすぐに好きになった。
研究は、中々上手く行かなかった。そもそも、腹黒ドSにだけ見えるようにとか……難題過ぎだろ!
伯爵家嫡男のギルとの恋も認めてもらえないし……まぁ、そこはしがない平民の少し魔力が人より高いだけの私じゃね……
そして秋になった。腹黒ドSは焦っていた。女神様のデビュタント、出来れば腹黒ドSの卒業式までには完成させたいらしい。
それなのに、全くなのだ。見えなくすることは出来る。でも、そこから一定の人物にだけ見えるようにと言うのがかすりもしないのだ。
お前、平民で俺達とは違ったアイデアを思い浮かばないのか?絞り出せと言われても……横暴すぎる!
いいアイデアを出して実現出来たら、陛下と王妃様に進言して、婚約を認めてくれるって……俄然燃えてきた!
うーん、うーんと頑張って色々な文献を読みあさり、疲れはてて鏡を見てビックリした秋の終わり……酷い顔の自分が映っていた。
うん……?鏡?女神様は魔力が強くないので自分では鏡を見ても花が見えないと聞いた。
これは……使えるかもしれない!そう思って、急いで腹黒ドSの元に走った私は、立派な社畜だと思う。
私のアイデアはこうだった。何かいつも身につけるアクセサリーの宝石に、反転魔法を組み込んで、つけている間は女神様が逆にみんなの花が見えて、外すといつも通りと言うものだった。
もちろん、女神様は魔力が低いので、反転したところで花は見えない。
どう?どう?と腹黒ドSの反応を待った。結果、驚くほど誉められた!
研究チームのみんなも、やっと光が見えたと喜んでくれた。
そこからは、食事の時間も惜しんで術を完成させることに集中した。
宝石に術を組み込んでは、腹黒ドSが女神様とのランチの時にさりげなく確認してを繰り返し……繰り返し……繰り返し……
「……殿下……もうこれ以上は無理です。過労死してしまいます!」
「ララならまだやれるだろう?まぁ、俺としては死んでもいいから頑張ってくれ。
ギルと2人の未来のために、もう少し頑張れるはずだ」
「本当に、完成したら陛下と王妃様に婚約を認めていただけるのでしょうか?」
「ああ、きっと大丈夫だ。俺が何とかする」
「……でもオリビア様は本当に大丈夫ですか?何も知らないんですよね?こんなこと勝手にして……ばれたら怒られませんか?」
「大丈夫だ。何も気付いていない。だが、俺の目が届かない場所では不安だ。
卒業パーティーにこの指輪を渡してプロポーズする。だからもう少し、頑張れ」
「……はい……愛するギルとの未来のために……
えい!んんっ…………はあ、はあ…………もう、これ以上魔力が出ません……ううう」
指輪は、何とか卒業式当日完成した。物凄い達成感だ!何だかんだで一番魔力の多い私の魔力が一番多く搾り取られた気がする……
途中からずっと、同じ魔術科の生徒達には「俺達の癒しを奪うな」だの言われていたが、知ったこっちゃない。
そう思うなら腹黒魔王に直接言えや!こっちは命と婚約がかかってたんだ!
そして、卒業パーティーで腹黒魔王はプロポーズした……これで、これでやっと終わったとギルの手を握ると、握り返してくれた。なのに……
「え?え?待ってください、ララさんは?」
「ララ……?ララがどうかしたのか?」
はい?もうこれ以上巻き込まないでー!
色々あったけど、今ではいい思い出だ。女神様の花は見えなくなったが、最近表情が柔らかくなった。
たまに、笑いを堪えているような気がするけど……何でだろう?
女神様と仲良くなって色々お話しして驚いたことに、女神様には腹黒魔王が爽やか王道王子に見えているらしい……あんなに今日も腹黒い笑みを浮かべているのに……
いつか本性をばらそうと思っているのに、その度視線を感じる……ええ、まさに蛇に睨まれた蛙ですよ!
もう一生言わないから、助けてくださーい!ごめんなさい!
その後、オリビアが産んだ息子とララが産んだ娘が婚約して、末永いお付き合いになるのは、また別の話……