エピローグ 制服専門店設立しちゃいました。
今回はジェーン達の後日談と、各キャラクターのその後です。
(´ω`*)<これにて完結です!
今日も慌ただしく部屋の外を走る靴音が聞こえてくる。私は目の前の依頼主と打ち合わせをしている最中にも関わらず、その大げさに響く靴音に苦笑する。
女性の品格とか言うつもりは毛頭ないけれど“パタパタ”を通り越して“バタバタ”はちょっと元気すぎるなぁ……。
「――うちの従業員達が騒がしくて申し訳ありません」
「いえいえ、そんなことはお気になさらず。元気な女性達が働く活気のある会社だと知人に紹介されて来たものですから、その評判通りだと感心していますよ」
商談相手の中年男性は、教育者らしい“元気な子達”に対する理解のある方なようで助かる。とは言っても、うちにいらっしゃるお客さんは皆さんそうなのだけれど。
次回の構想を練った私と商談相手が応接室から顔を出すと、事務所で働いていた女の子達が一斉にこちらを向いた。
「社長~、検品済の商品来ましたぁ!」
「社長、この間の制服もう工場に最終案として回して良いですか?」
「社長ー、この前納品遅れるって報告してきた工場からやっぱりオッケーって返事が来ましたけど、どうしますか?」
次々と私に業務報告をしている彼女達に苦笑しつつ、順番に指示を飛ばしていく。
その間にあまりに彼女達が社長を連呼するので「あの“シャチョー”というのはいったい?」訊かれるのは日常茶飯事だ。そのたびに「あだ名みたいなものですわ」と返すのが少し恥ずかしい。
最初は止めてくれるように頼んだものの、誰も聞いてくれないので最近では諦めている。
さて――こんな風に私が事務所を構えて事業に乗り出したのは三年前。
当初は学園のある街の外では全く知名度がなかったけれど、今では今日のように遠方からも少しずつお客様が来てくれるようになってきた。
あの日アーネスト様達が私にくれた“サプライズ”のおかげで現在はその領地内……詳しく言えば領主宅から程近い場所に事務所を構えて“制服専門店”などというものをやっている。
まさかあの後、嘘吐き女の元・メイドに管理人業務を委任した直後馬車に乗せられてここへ来ることになるとは考えても見なかったけどね……。
ここで働く娘さん達は何故か皆、本来なら有り得ないこの世界の歴史を予知できる能力を持っていた。
――ちなみにどこからかここの紹介状を持って現れる彼女達の正体はだいたいの予想がつくと思うけれど、前世からの転生組である。
彼女達の中には“幼稚舎”のある学校に通ったことのある子達もいるので使用できるデザインの幅が一気に広がったわ。
どうにもこちらでまだ身の振り方が決まっていなければ私のところへ来ると良いという無責任な言葉を発信している人物がいるらしい。……だいたいの想像はつくけど。
私とオーランドさんがその、結婚した二年後にはマリーはユアンと結婚。今は二人とも街に残ってあのお店をやっている。今でも半月に一度は遊びに行ったり、来たり。エメリンも一緒にお茶を楽しむ関係だ。
そんなエメリンは去年念願の武術大会の女性部門で入賞を果たし、門下生も増えて“領主夫人”というより“女武道家”としての地位を着実に重ねているけど――良いのかな……。
アーネスト様もお城にいた頃とは比べものにならないほど元気になられ 、忙しくない時は一緒に郊外までピクニックに行く。
「あ、社長! 旦那様がお迎えにいらっしゃいましたよ~!」
「え? もうそんな時間?」
「そうですよー。忙しすぎて時間の感覚が狂ってませんか? 後は皆でやっときますから帰ってゆーっくりして下さい」
従業員の一人がそう言うと、皆して“ニヤァ”と意味深な笑みを向けてくる。その有り難ーい言葉に甘えて逃げるように事務所から出る。
出てすぐに夕飯の買い出しをしてくれたのか紙袋を抱えた私の“夫”が待っていてくれていた。
「お帰りジェーン。今日は仕事が早く終わったので買い物をしてから来たんだが……迎えに来るのが少し早かっただろうか?」
――幸せを感じるこんな時。今でも時々シナリオが頭の中をちらついて不安になることがある。
それを振り払うように「そんなことないわ」と駆け寄って寄り添うと、オーランドさんは空いた方の腕で私の不安を感じる心ごと抱き寄せてくれた。
家に帰る道すがら毎日その日にあったことを語り合う。とはいっても話すのは大抵私の方で、オーランドさんはそれを微笑みながら聞いてくれる。
「それでね? モデルは領主夫婦がやってくれるって言ったら、お客様がすごく驚いてしまって。今回の学園には“幼稚舎”もあるらしくて、いずれはエメリン達の子供に着てもらうのも良いなぁ……なんて。あの二人の子供だったらきっと天使みたいに可愛いわ」
そんなことを隣で頷きながら微笑む彼に冗談混じりに言ったら――突然屈んだ彼に口付けられた。人目がない場所だったからにしたって不意打ちが過ぎる!
オマケに驚きで顔を赤くしている私に「そこは俺とジェーンの子供でも良いんじゃないか?」と言うものだから、本当に質が悪い。
オーランドさんは結婚してからというもの良くこうして私をからかうようになった。
毎回の不意打ちに怒って見せようと思うのに――背伸びをして自分からその唇に口付けてしまう私は結局一生彼には勝てないのかもしれないわ……。
最後まで読んで下さった読者様、
本当に本当にありがとうございました!(´ω`*)ノシ




