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来世で待つと君はいう  作者: 南のあかり
9/13

ククリの手

 何時か君と離れる日が来ても出会えたあの日を決して悔やむことはない。

君が幼かったあの頃、そう考えたのは嘘じゃない。



ククリと湖にきて彼女が欲しがっていた薬草の藻を目につく限り湖底から     

ひっこ抜く。


ククリは手に抱えてきた藻を見てあまりに大はしゃぎするので、ハクトはもっと

もっと沢山取ってこようとしたが、ククリは薬草になる野草は今いる分だけ     

自然に感謝して頂くのだと教えられているらしく、欲張ってはいけないのだと止め

られた。


ハクトが湖から上がり体を乾かすため二人で並んで湖を見ながら一息つく。

 この前のように顔の傷を見られないように前髪で左側を隠し、右側の顔しか

ククリには見えないように座る。


 ククリは持ってきた握り飯をハクトに渡してくれた。


「隊長が持たせてくれたの。ハクトお兄ちゃんとたべなさいって」


二人でかぶりつく。ククリには少し大きい握り飯を口一杯に頬張ると米粒が頬の

あちこちにくっつきハクトは笑った。


「お前幾つだよ。ほら米粒沢山ついてるぞ。」


「もう9歳だもん。」


「はっそれは大人だな」


米粒をつけたままククリはこちらを睨む。


「ハクトお兄ちゃんは、たまに意地悪だ」


「そうだな違いない。」


ハクトは感じたままを言葉にしていた。

一人でいる時よりククリと居た方が気楽だと気が付いた。


「ねえハクトお兄ちゃん。なんでこの前あんなに怪我してたの?」


「ん?ああ、あれは鍛錬・・剣の練習してると怪我することも多いんだ。」


「じゃあ、お顔の傷もそうなの?」


 ククリの問いに息を詰める。ハクトは顔の傷について誰かに聞かれぬよう      

に常に気を張っていた。

 聞かれたらお前は母に憎まれているんだと念押しされたような気分になる     

から。だから傷を隠して、他人と距離を置いた。

 

でも不思議なことにククリに問いかけられた時、ハクトは違うことが気がかり    

で言葉が喉にからみついて上手く出てこない。


「・・顔の傷・・怖いか?」


「ん~ん全然」


首を横にふり屈託のないククリの返事に緊張で詰めていた息をふっとはいた。


「お顔の傷は痛くないの?」


ククリの問いかけにハクトは本心を打ち明けてしまう。

すっと自分の胸を指さし


「顔の傷は痛くない。でもここがずっと痛いんだ」


ククリはハクトの言葉を聞くと、迷うことなく小さな手をハクトの胸に押し当てた。

それから目を閉じて、じっと動かなくなる。


「ククリ?」


「小さい頃、ここが痛くて痛くて泣いてたことがあったの。そしたらソハヤ様が     

 毎日こうしてくれた。」


「ソハヤ様って?」


「ソハヤ様は、ひとりぼっちの私を見つけて、セイリュウ隊長のところに預けて     

 くれたの。」


「ひとりぼっちってどうして・・」


「とっても小さい頃だからあまり覚えてないけど、こわくてさびしくて泣いていた

 のは覚えてる。そのときソハヤ様がこうして胸に手を当ててね。手当したから

 もう大丈夫って。大丈夫になるまでず~っとそうしてくれたの。」


ククリはハクトの胸に手を当てたままだ。


”もう大丈夫”ククリはきっと心の中でそう唱えながら手を当ててくれている      

のだろう。


小さな頃にそんなに辛い思いをしているのに、どうしてこの子はこんなに

温かいんだろう。

 

ククリがずっとこうやって手を当てていてくれたら、自分の深く抉れた傷口は     

あとかたもなく塞がってしまうかもしれない。


そう考えた途端、ハクトはククリに縋って、一人ではもう立てないほどぐずぐずと

崩れ、取り返しがつかないほど依存してしまいそうな自分が怖くなった。


ずっと一緒にいられるはずもないこの少女はハクトの願望が見せた幻のよう    

な存在なんだろう。いっそ自分の正体が呪われた皇子だとククリに今ここで    

話して、彼女が怖がり離れてしまえば、ククリもやはり皆と同じだったと納得

することが出来るのだろうか。


意気地のないハクトは結局ククリに正体を話せないまま、夕暮れ前に帰ろうと

荷物をまとめ肩を並べて芝居小屋までの道を歩く。


「ハクトお兄ちゃんが剣の練習してるのは、華宮の近衛騎士になるためなの?」


近衛騎士は龍の王族を守る精鋭隊だ。剣の腕は言うにおよばず、人格、容姿とも

に秀でた者の中から選ばれる。

剣で身を立てようとする少年たちが憧れ目指す目標となっている。


「ククリは近衛騎士なんてなんで知ってるんだ?」


「ええとね、隊商の護衛の人で近衛騎士だった人がいるの。その人は誰よりも強い

 って皆が言ってた。隊商のお姉さんたちが色男だから芝居にひっぱり出そうと

 して、いつもダメだって断られてるの。」


近衛騎士を辞めて隊商の護衛に・・・そんな人もあの隊商にはいるのか。


ハクトは先日芝居小屋で感じた疑問をククリに投げかけた。


「なあククリ、あの芝居小屋にいる人たちってどこから来てるんだ?」


「どこからって?」


「普通は、相手が獣人か星人かまたは龍族か、会えば外見や様子で直ぐわかる

 だろう?でも芝居小屋の人たちはリュウセイさんが龍族だとしか俺にはわから

 なかった。」


「芝居小屋にいるみんなはね、代々隊商にいてもう星人とか獣人とかそういうの

 わかんないくらい色々混ざっちゃってる人と、星人らしくなかったり獣人らしく

 なくて、それぞれの領地で窮屈になっちゃった人が集まってるの。」


なるほどあの芝居小屋の人々が得体のしれない龍族の俺を警戒しなかったのは、

その辺りの鷹揚さだったのか。


ハクトは限られた狭い世界しか知らない。

それは養育係のキバが用意した教師が教える座学と兵舎の中での生活が自分に

許された世界の全てだから。


ハクトは無性にあの隊商にいる人々の多様さや自由に魅かれ憧れが募ってしまう。

先の事など考えた事などないハクトは、ククリがいうような近衛騎士どころか、

このまま何者になることも許されないのだろう。


いっそ、誰も自分のことを知らない場所に行ってしまいたい。

誰も知らない場所・・ハクトは降ってわいたような思いつきに息をのむ。


「なあククリ隊商には護衛が何人もいるのか?」


「うん沢山いるよ」


「みんなどうやって隊商の護衛になるんだ?」


「う~んわかんない」


微かに見えた希望に胸がどくんと高鳴る。ハクトはククリと離れないですむ糸口を

必死に手繰り寄せようとしていた。


明日引き続き次話投稿予定です。

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