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来世で待つと君はいう  作者: 南のあかり
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折られた望み

鏡ごしに話をする相手の顔色が一瞬で青ざめる。ただでさえ白い肌は

生気が感じられなくなる。


「お~い生きてるかあ」


相手の肩がわなわなと震え出す。


「溺れるなんてあああ~」


「お前の予知能力でわからなかったのか?」


「ああああ~」


あ~しまった!からかい過ぎた。こいつ壊れる


「おいおい、ククリはピンピンしてるぞ。命に別状がないから、お前の予知も     

 必要なかったんだ」


鏡の中で、おろおろと動揺していたソハヤの表情がきりりと厳しいものに変わる。

ひゃっ百面相か?リュウセイは面白くて仕方ない。


「ククリは今どこにいるのですか?」


「今ちょっと外に出てるよ」


「まさか湖ではないでしょうね」


お~流石ククリの事だと勘が冴えるなあ。その湖に男と行かせたなんて言えねえ

なあ。よし面倒は回避するに限る。


リュウセイは鏡に顔を近づけソハヤにニヤリと笑う。


「ククリの元気な様子見たいか?」


リュウセイの問いかけにソハヤは即座に何度も首肯し、頬に生気が戻る。


「鏡をククリに磨かせるから、気配を消して存分に無事を確認しろ」


その瞬間、鏡の表面からソハヤの姿が消えてリュウセイの顔が映るただの鏡に

戻る。


「やれやれ」


そろそろククリが帰ってくる時間だ。ソハヤはククリの姿を見る為に今も鏡の

前で微動だにせず待っている事だろう。早くククリを見せてやらないと。

 

リュウセイが部屋から出ると、扉の外で人が近づかないよう見張らせていた

人物の肩にぽんと手を置き、鏡での会話が終わったことを知らせる。


「隊長~ただいま帰りました。」


「お帰り。」


都合よく帰って来たククリの後ろには暑苦しいマントを羽織ったハクトが立って

いた。


「沢山取れたか?」


「うん。ハクトお兄ちゃんがたくさん取ってくれたの。」


「良かったなあ。ハクトありがとう」


リュウセイは一抱えの薬草を持つハクトに礼を言いながら荷物を受け取る。


「そうだククリ帰ってきたばかりで悪いんだが、また鏡を磨いてくれるか?

 どうやら汚してしまったみたいなんだ。」


リュウセイの大切にしている鏡はククリが必ず磨くことになっている。

リュウセイはククリ以外の者が彼の部屋を掃除したり彼の物を触ったりする    

こと禁じていた。


多分子どものククリが出来る数少ない仕事を他のものが取り上げないよう    

にと考えてくれてのことだろうとククリは思っていた。


「は~い。じゃあハクトお兄ちゃんまたね」


笑顔で手を振りながらククリは去っていく。その背にリュウセイがもう一度声を

かける


「そうだククリ。ソハヤに手紙を書いたらどうだ?この薬草は珍しい物

 なんだろう?」


ククリがソハヤに手紙を書く時は、あれを書こうこれを書こうと独りで呟く癖が

ある。これで鏡を磨きながら、あれやこれやとククリがお喋りしてくれればソハヤもさぞ

喜ぶだろう。


「リュウセイさん」


自分と同じ龍族の少年の金色の瞳が真剣な色を帯びている。


「なんだい?」


「この隊商の護衛になるにはどうすれば良いんですか?」


ほうこれは面白いとリュウセイは口元を緩ませた。


「うちの隊商は大所帯での移動だ。手間はかかるわ、海賊、盗賊、俗物とやりあうのは

 日常茶飯事。だが護衛の人数を増やすと何かと面倒も多いんでな。うちの護衛は少数

 精鋭だ。剣の腕はもちろんのこと客商売だから容姿端麗が条件だ。今のところ欠員は

 ないぞ。」


これ以上聞きたいか?とリュウセイは挑むような顔つきでハクトを見る。


「今いる護衛より腕が立つなら、隊商の護衛になれるってことですか?」


「まあ、模擬刀であちこち傷を作ったりせずに一個小隊ぐらいの人数と一人でやりあえる

 くらいの腕は今の奴らは持ってるぜ」


ハクトは唇を噛みしめた。自分はまだ一個小隊の総当たり戦ですら勝ち越したことはない。

リュウセイはハクトの剣の未熟さを正確に見抜き揶揄してきた。


「ハクトは強くなりたいか?」


勿論だ。ハクトは頷く。


「じゃあなぜそんなマントとフードで姿を隠す?」


「っ・・これは」


「お前と一緒にいるところを見られたらククリが虐められるとでも思ったか?」


ハクトは答えに窮して口をつぐむ。

リュウセイは自分が呪われた皇子だと知っているのだろうか?


「ククリを大事に思ってくれてありがとうな。でもなハクト、お前自身が言葉の呪い

 に掛ってどうする。人がなんと言おうとお前自身しか真実は分らない。だが、お前

 のしていることは、自分が呪われた皇子だと肯定しているようなもんだ。

 黒白は一刻一刻変わり、不変なものなどありはしない。私から見るお前は、ただの

 ヒヨッコの龍族だ」


ハクトの顔は怒りでどす黒くなっていただろう。

固くこぶしを握り締め歯を食いしばり一言も声を発せず出口に向かう。


リュウセイに怒鳴りそうになった。

誰が好き好んで呪われた皇子になりたいものか。


自分は何も分らないまま、生まれた時から嫌われ、遠ざけられ、それを受け入れる

しかなかったんだ。


リュウセイは足早に出て行こうとするハクトの背に大声で告げた。


「ハクト。私たちはこの里から次の場所に移ることになった。」


怒りから絶望へとハクトの頭は真っ白になった。

待って・・・待って・・・ククリと離れたくない。


だがハクトはその時理解した。この怒りをおさめ、自分もどうか連れて行ってくれと

懇願出来ない状況を、リュウセイは仕組んだのだ。自分ははめられたのだと。


「ハクト強くなれ。次に会えるときを楽しみにしてるぞ。」


リュウセイが自分に示す態度もかけてくる言葉もまるで他の大人とはちがう。

何故そんな風に自分を扱うのか分らないまま芝居小屋をあとにする。


ただ機械的に歩を進めて芝居小屋に走って戻りたい気持ちを抑えつけた。


”お兄ちゃんまたね”ハクトの耳に先ほどのククリの声がこだまする。


”ククリ俺を忘れるな。・・・絶対にわすれるな”

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