二頭の龍
連続投稿いたしました。前話をお読みでない方は「シオン皇子」
からお読みください。
イツキ姫は自分に降りかかる残酷な未来をあの時知る由もなかった。
番いを得て新龍王の即位がきまると同時にイツキ姫には北堂という地位を
与えらえた。しかしこれはシオン皇子の母親というだけの地位だ。
新龍王の第一皇子を産んだにも関わらずイツキ姫だけ王族に迎えられることもない。
王には番いの王妃以外は必要なく、側室など論外。
自分は今代龍王にとって全く関係のない存在になった。
当然ながら龍王と閨を共にしなくなればイツキ姫の時間は動きだし容貌は日に日に
衰えていった。星人にとって容貌の衰えは力の衰えに比例する。
急速な老化を受けいれられぬままそれに追い打ちをかけるように、王妃懐妊の報が届く。
自分はシオン皇子を授かるまで五十年の歳月が必要だった。
それがあの平凡な娘は二年足らずで懐妊とは。
イツキ姫が番いの娘より自分が勝っていると示せる最大の理由は微塵もなくなった。
”このままでこの身を終わらせてなるものか。”
策を練りイツキ姫の思惑通り、王妃から産まれた第二皇子は、呪われた皇子として
華宮を追われ一時期溜飲を下げもしたが、今代龍王に皇子が二人いることに変わり
はない。
息子シオンが龍王になれば、番いの生んだ皇子よりわが子がこの国に必要な存在で
あったことが証明される。
そして王妃は所詮平凡な娘であり、産まれた子は呪われた子だ。
番いである王妃よりイツキ姫の方が国にとってなくてはならない存在であると周囲
の誰もが、そして今代龍王も認めるであろう。
その為にもシオンには番いが必要なのだ。なんとしてでも見つけてみせる。
その日までどんなに醜くなろうとも生きながらえるのだ。
好機は意外に早く訪れた。”次の番いの顕現”と神官長の占がしめした。
誰よりも早く番いを見つけるにはソハヤの力が必要だ。
だが次期神官長と目されているソハヤは龍王族との約定に縛られているため、
最近はこちらの意のままにならなくなっている。
女を送り込み懐柔しようと数度試みたがソハヤはまるでなびかない。
今日の女官は薬で心を操るのに長けた女だ、どんな男も逃したことはない。
さて首尾が気になるところだ。
「北堂様、遅れましてご無礼を、ソハヤ参りましてございます。」
「ああソハヤか。まちかねたぞ。シオンには会ったかえ?おぬしはいつ来るのかと
先ほど聞かれてあの子もそなたに随分懐いておるな。」
「勿体ないお言葉でございます。」
「・・・ソハヤわらわは心配でならぬ。おぬしも良い年ごろだ。そろそろどこぞ
の娘を娶らぬか?」
北堂が会話を始める前に不自然な間が空いた。
おおかた先ほどの女官と北堂は目配せでソハヤが誘いにのらなかったことを知っ
たのだろう。ソハヤをもっと使い勝手のよい手駒にする為、自分の息のかかった
女をあてがおうと近頃は必死だ。
「北堂様。私はそういうことに興味がもてぬのです。」
「ソハヤ、そなたは先読みの能力者。興味のあるなしの問題ではないのだ。
その血を残せと星人族の長がたびたび訴状をこちらに寄越し、うるそうて敵わぬ
のじゃ。」
「北堂様を煩わせるなど、誠に本意ではございません。ですがこのソハヤ至らぬ身
ゆえ、血を残せとの仰せだけは、全く叶えることが出来ませぬ。」
「叶えることが出来ぬとな?そんなに若く健やかではないか。」
ソハヤは北堂に何かを言い出しかねていることを匂わす表情をした。
「もしや・・・ソハヤそなた・・・つかぬことを聞くが女は好きか?」
「・・・・」
ソハヤは憂いを帯びた表情でそっと俯く。
女官達が一斉に息をのんだ様子が手に取るようにわかる。
「・・・あいわかった。そちの気持ちを知らずいらぬ事を聞いたの。」
ソハヤは北堂にちょっとした意趣返しが出来て楽しくなってきた。
これで自分の寝室に北堂の息のかかった女が押し入ることもなくなるで
あろう。だが今日の本題はこんな下らないことではないだろう。
女官を全て下がらせ北堂はソハヤに手ずから入れた茶を勧める。
「良い茶であろう?この良い茶とて味の分かる者に飲まれなければ、その価値は
無きに等しい。のうソハヤ、番いとて目合う相手を間違えれば煌国の為にならぬ
と思わぬか?」
神官長の卜占は”番いが顕現するであろう”というものだった。
北堂の認識では、番いをいち早く見つけ出しシオン皇子に娶らせれば彼が龍王に
なれると考えているのだろう。
確かに番いが月並みな女性ならシオン皇子の魅力に十中八九抗えない。
北堂はシオンの事を良く解っている。
「ソハヤそちには次の番いが視えておるのであろう?どこにおるのじゃ?」
「北堂様、あいにく私には神官長様の占の示すものが視えておりません。」
「何を言う。そなたの力があの神官長に劣る訳がなかろう。隠し事はそちの為に
ならぬぞ。龍王に口止めされたか?」
「いいえ隠してなどおりませぬ。北堂様、私が視たものは神官長と同じものでは
ないと申し上げております。」
これは未来を変える一手になるのか?迷いは常にある。
だがソハヤにはどちらにしても選択肢はないのだ。
慎重に言葉を選べ。間違いなど許されない。
「私には龍が二頭視えておりました。」
「龍が二頭・・・。それはシオンとあの呪われた皇子のことか?」
「定かではございません」
「なんということだ」
ソハヤが視た二頭の龍とは二人の皇子を指すに違いない。
北堂の頭で警鐘がけたたましく鳴り始める。
二人の皇子が番いを奪い合うのか?
神官長が卜占で知り得た番いについての仔細を急ぎ探らせなければ。
ソハヤは北堂の考えていることが手に取る様に分る。
だが北堂がどのように動こうが番いは見つけられない。
新たな歯車が動きだした未来には狂気が待つのか、歓喜が待つのか。
分かれ道はすでに選択され進み始めた。
”ククリは私の手の中に・・誰にも渡しはしない”




