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世界軸6


 リアと妹達のイチャイチャは数時間はかかるだろうから、今日はここまでにしておこうと言う話になった。だが、よく分からないポッドの中の封印物は、やはり放置しておくのは不味くはないだろうかと皆思っているのと、さて国にどう報告したものかとライラは迷う。


「そんなにすぐ報告しなきゃならんもんなん?」


「衛星の監視を掻い潜って攻撃できる手段が生み出された、と考えてみろ」


 それが出来たとすれば、テロし放題だ。


「確かにやべーな……」


 ダルクも頷く。この50年、連合国として戦争は無し、腐敗は一掃して『魔導機動隊』という治安組織を再構築、そして国々は繁栄と平和と技術、作物や綺麗な水、医療など様々な恵みの為に活動している。しかし、だからといって誰もが清廉潔白な訳はない。まだ見つかっていないだけで、内部に闇が蠢いていないとは断言できない。


 だが、そんな中でもデルヴラインド社は100年を研究に捧げ発展してきた大企業だ。魔法が優先されるこの世界において、魔法のみならず科学を突き詰めてきた世界的企業である。故に、他が『今は』黙っている。しかし時間の問題だ。どうしたものかと考えていると、ティオが手を挙げレイアを見る。


「あまり権力に頼るのは良くないが、英雄達に便宜を計ってもらうのはどうだろうか? レイアとリアの師匠は割と甘そうだしな。それに、私もクロム先生の弟子でもある。3人の英雄からの申し出ならば、少なくとも中身を確認する時間はあるのではないか?」


「僕の師匠も、断らないとは思います」


 悪くはない意見だが、ライラは渋い顔をする。自分達で中身を見るなら最善手だろう。だが、今回は本当に『未知』の領域なのだ。『澱み』の時は当事者と土地所有者として戦った部分もある。これは仕方なかったというやつだ。しかし今回は引き際がある。そしてそれ以上に……。


「でもさ、幾ら力や権力があろうが……私達が『学生』な事に変わりはない。リアはかなり有名人だけど、リヴァイアサンだってソロで倒した訳じゃないだろ? 手帳は隠しきれるが、ポッドの中身に関しての調査は大人の領分でもあるんだ」


「……正論だな。けど、ライラの研究室以上の設備など、そうないのも事実じゃないか」


「次期社長なんで」


 ふふんと無い胸を張るライラを、レイアが「社長かっこいい!!」とはしゃいでいる。和やかな空間を作ってくれるレイアには申し訳ないが、事態はどうしようもないのも事実ではある。仮に、あの中身が天使キルエルや太古の魔物リヴァイアサン、奴らに類似する類いの化け物が封じられていたとする。それを、学生が権力を振り翳して自己調査し、何かあった場合……背負うペナルティーが大きすぎる。社会的に死んだ人間は、早々復帰できないのは、いつの世も常だ。インターネットの発達した今なら尚更。


 だが……だからと言って中身が気にならない訳がない。世の中を面白おかしく生きるダルクにとって、アレは宝石よりも貴重な物体だ。故に危険なのも承知だからこそ、少なくとも『何が』入っているのかを知りたくはある。


 未だ理論すら解明されていない『呪』関連かもしれないとなると、とてもとても気になる。


 ただ答えの書いてありそうな、別世界軸のヴァルディアの手帳……もとい日記もかなり長そうなのもあり、下手をすれば全て読むのに1ヶ月はかかる可能性も考えなくてはならない。


「しゃーないか」


「だなぁ」


 ダルクも同意する。結論として、どう頑張っても今日のうちには引き渡さなくてはならないか。安全と危険、言ってはなんだが魔法使いとしては一級品が揃っているので、魔法という暴力で解決できるのなら問題ないかもしれないが。やはりそうじゃなければ……対処を間違えば、場合によってはテロ疑惑をかけられる。

 ここでは流石にダルクも諦める。頷くダルクに、ライラは全員の総意として結論づけると、父ディオのコネクションを経由して魔導機動隊の危険物管理・処理部隊に連絡を通した。父親のコネクションを通したのは、少なくとも調査結果……場合によっては政府のバックアップの元で調査に参加できるからだ。


「んじゃま、ポッドはリアの結界で守られてるし。3人のイチャイチャが終わるまで待ちますか」


「今回は我、役に立たないな……」


「僕も無力を感じるけど、学生の領分を越えることは確かに避けるべきだね。まぁ、アルバイトで探偵とかやってる以上は今更感もあるけど」


「また頼むぜー、レイアー」


 ダルクのウザ絡みをいなしながら、レイアはひとつだけ思う事があった。もし仮に、あの封印物の中身に『魂』のような特殊なエネルギーがあるのならば、《魂静世界『紅夜行』》に引き摺り込めないか? と。だけど、レイアは驕ってはいない。この魔法は確かに最強だが、だからと言って過去に経験した『天使』や『神話』に勝てるかは分からない。分からない、という事は確かな脅威だ。


(でも、安全に正体だけでも分かる可能性はあるよね。僕も魔導機動隊の調査組織に参加できないだろうか?)


 でも、ライラ達の話を聞いて、英雄の威を翳すのもまた違うだろうし、発言権や行動に対する権利は自身で勝ち取っていかなくてはいけない。それに、今の自分は環境に恵まれ過ぎている。少し増長していたなと反省するレイアであった。


…………………


 時刻は15時。リアが戻ってきたので結界を解き、魔導機動隊に電話をかけ、危険物に対する専門チームによりポッドは運び出された。運び出される間も妙に強い気配のような、重圧のようなモノを放っていて、魔導機動隊の隊員も本能的に震えていたのが見えた。この底冷えするような怖気は例えるなら、勇者が魔王に対峙した時、だろうか。実際に魔王と戦ったリアにとってはそうとしか言えない。


 これから国による専門機関で調査される事になるが、ダルク的には「厄の匂いがするなぁ」と、今後に嫌な予感を覚える。とは言いつつも、ヴァルディアの時だってそうだが、向こうから始まらなければ対処もクソも無い。ただ、神様に関する知識と共に過去、呪いや呪物に対しても経験を持つ英雄のミヤノがウーラシールから駆けつけるとのことで、少しは安心できそうだ。


 そんな訳で、一旦色々と落ち着いた。ダルクはニヤニヤと笑みを浮かべてリアの肩に腕をまわす。


「にしてもリアっちさんや。クロエちゃんとそういうことするのは早くないかね」


 リアはダルクの頭を拳で軽く小突きながら応える。決してエッチなことはしていない。ウカノ様の奉仕以降、2人の目がいつも怖いが、家族以前に未成年だからダメと止めている。


「なんか誤解されてんね? 一緒にお昼寝しただけだ」


「あら可愛い。で、2人は?」


 ダルクの質問に、リアに代わってライラが答えた。


「夕飯の買い出しに行ってもらったよ。ルナは《念力魔法》が使えるだろ? 今晩はバーベキューでもしよう。お礼に高い肉を選んでくれと頼んでおいたぜ」


 ライラの言った今日の夕飯に、ティオがピコンとアホ毛を立たせる。彼女なりに今日は思う事があり、暫くはあの奇妙なポッドの事を忘れたかったのかもしれない。だが、せっかくなので調合師、薬師としての腕を振るうところ。ここ一年でリアにも習いながら進化した腕が見せたかった。


「我は塩とタレ、薬味の調合でもしておこう!!」


「冷蔵庫にあるもん勝手に使ってくれていいぞー」


「料理なら俺も……」


「澱みの時にバーベキューの肉を本気で調理してドン引きされたの忘れたのか? 今日は普通にバーベキューしようぜ。朝飯は頼む」


「そっすね」


 それから大量の食材達を《念力魔法》で浮かしながら帰ってきたルナとクロエを出迎えて、夕飯の時刻。海がよく見える波止場前の広場でバーベキューコンロに炭、火を入れ網の上で肉を焼く。


 料理を覚えたいらしいティオと、一応リアには劣るが料理が出来るルナが米を炊いて肉や野菜を焼いている。


「もきゅもきゅ」


 リアは椅子に腰掛け肉を頬張りながら遠くを眺める。


 ここは空気が澄んでいて、天の星々が無数の煌めきを見せていた。テーブルに置かれた魔力ランタンによる灯りもあるが、まだ沈みきらない太陽が海を橙色に照らす。神秘的な雰囲気は心を静かに落ち着ける。今日、そんな空からあの奇妙なポッドは降ってきた。


 そして別世界……いやこの世界、並行世界のとても遠い場所『異世界』から。


「来月の半ばは海静魄楽神社での祭りだけど、この時期に何か起こる運命でもあるんですかね先輩」


「不吉な事言うなよリアっち。ほい、お茶」


「どもっす」


 クロエは初めて食べる高級肉の旨みにテンションを上げて網の前で待機。ライラはクロエを余程気に入ったのかべったりで、しかし優雅にティオの調合したタレや薬味で肉を堪能している。ルナは時折リアの方を見ながらも、少しだけ雰囲気と空気を読んだのかクロエと共に肉を食っていた。


 レイアは何も考えていないような顔でティオと錬金術で脂を落として……やはり野菜は美味いと語り合っていて。まぁみんな好きなように飲んで食っている。


 今は、とても平和な時間が流れている。


「暫くは、平和だと良いのになぁ」


 思わず溢した本音。英雄に憧れ力をつけ、非日常に憧れはあるが、その非日常で人が亡くなる怖さは知っている。だから力をつけて魔法を鍛えてきたが……。偶の休みもいいだろう。リアにとっては、今の平和は心地よかった。


「平和ね。昔は私も世界平和とか願ったもんだ」


「え!? 先輩が!?」


「かなり失礼だな……。まぁ、私の信条は『楽しく生きて楽しく死ぬ』『満足して死ねるなら全て良し』。だからさ、死ぬ時くらい平和な世界がいいじゃん?」


「急に生死観の話しないでください。フラグ立ちますよ?」


「フラグはへし折る為にある!! でも、ヴァルディアの因縁に付き纏われてるリアっちの言葉だしなぁ、不吉だぁ」


「全力の拳で先輩を殴る」


「おん? いくら強力な拳でも当たらなければ意味ないんだぜ?」


「……先輩相手だと本当に当たらなさそうなのが腹立ちます」


 ダルクはリアの隣に折り畳み椅子を展開して座る。リアは再び肉を口にしてもきゅもきゅしているとダルクは「さて?」と話を切り出した。


「正直、あのぐるぐる巻きの物体に何入ってると思う?」


 考察するのは自由だ。憶測で語るのも良いだろう。いざという時に対応できる事が増えるからだ。だから、リアは肉を喉に流して、これなんじゃないかと思う可能性を口にした。


「ヴァルディアの遺体、とかじゃないかなって思います。手帳……いや、日記の中を見るに別世界の自分が自分を喰らい合ってるって書いてあったのが妙にひっかかって……。それに、ヴァルディアは違う世界の自分を捕まえたい、そう書いてましたから」


「あり得るな。私も、その可能性は考えた」


「……ヴァルディア、妙に特異点って強調されてましたけど、結局彼女ってなんなんでしょう?」


「なんなんだろうなぁ。流石に私も分からん。でも、少なくとも手帳の彼女は『自分の世界の為に』狂気を振り撒いたのは事実。この世界のヴァルディアとは違う、人殺しだが最悪ではないと思うぜ。まぁ、向こうの世界の一般住人からしたら、数十億人を殺した悪魔だろうがな」


 確かにそうだ。結局は無差別殺人になる。しかしこの世界と違う事は、少なくも『罪の意識』はあるということ。


 あの手帳の続きは早めに読んだ方がいい。そして、出来るのならばあのポッドの中身を突き止めたい。今は魔導機動隊に預けられているが、ミヤノ曰く『最新の透過装置でも中身が分からなかったから、とても慎重に審議されておるよ』との事で、無理矢理中身を剥く事はないし、かなり時間は稼げている。


 だが、それでも手遅れになる事態も想定しておかなければならない。文化祭でのヴァルディアの襲撃と同じで、いつ何が起こるかなんて分からない。


「この世界に災いを齎すなら、頑張らないといけませんね」


「1人で抱え込むなよ?」


「分かってます、どんなに力をつけたとしても……1人では限界がありますから」


「んまぁ、ダルクさんは、時間止めれるからぁ? 私がいれば何事も余裕よ」


「もー、何本フラグ立てれば気が済むんですか? フラグ建築士さん」


「……今私の最大限を持ってリアっちを殴る」


「おぉん? やれるもんならやってみろよ。当たらなければ意味ないんだぜ?」


…………………


 魔導機動隊、危険物解体部屋の中央に鎮座するポッド。ポッドに使われている素材は全ての検査機器の検査を無効化する厄介なもので。それに纏わりデルヴラインド社より『カラドニウム』という金属についても資料が渡された。つまり、若き天才3人が作っちゃった金属とほぼ同じものが空から降ってきたという訳だ。流石にアルテイラ連合国でも発表するのは……頭の痛い最先端技術であり、また多くの謎を内包するために暫く隠匿される運びとなる。なので、アルテイラは別国へポッドには謎の金属が使われていることを通達した。


 そんな訳で、裏で政治家達が忙しくしている中。


 ミヤノは目の前の、明らかな封印物を前に唸る。これはまた、興味はそそられるが面倒なものが現れたなとため息を吐いた。


 ポットの金属に関しては、検査・調査機器の反応を弾く事は分かったが、この中にある包帯と札でぐるぐる巻きにされた物体は違う。材質はどうみても包帯と紙であり、なぜ検査機器などで中身が見れないのかが分からない。


 それに、魔導機動隊の運搬班により知らされた、妙な威圧感と圧力。ミヤノはそれが、神を前にした感覚に似ていると感じており……。下手をすればかなり厄介なモノでも入っているのではと思った。下手をすれば神に近い何かが……魂でもあるのか?


 そう思ったので魂の研究の最先を行くクロムを……。電話をかけ説明すれば10秒でやってきた。


「これが件の……」


 何やら勝手に魔力を練って札を上からなぞり始めた彼女。「おーい、無視するなー?」と声をかけても完全無視するので、もう放っておく事にする。少なくとも下手な事はしないだろうという信頼だけはある。


 それからいざという時の戦力としてデイルとグレイダーツも呼び込んだ。元より、リアから連なる彼女達が発した件である以上、知らせておいた方がいいとの判断でだ。そしてグレイダーツが《門》を開きデイルを回収して2人揃ってやってきた。ミヤノは歓迎の笑みを浮かべて……。


「久しぶりの登場じゃー!!」


「デイルうるさ……めっちゃイメチェンしたな!?」


「私も最初驚いたけど、こっちの方が好感持てるよな」


 デイルはいかにも物語に出てくるような魔法使いです、と言わんばかりの長い白髪と髭をバッサリと切り、イケイケなお爺ちゃんに変身していた。


「リアが憧れているからと、ちょっと無理して維持してたのじゃが、あやつに『見てて暑苦しいから切ったら?』ってお金渡されてのぅ。久方ぶりに美容院に行った……」


 ……ミヤノはそんなデイルに若い頃の面影を見て、少しだけ笑みを浮かべた。


「って、同窓会してる場合じゃねぇな。確かにここに来てから妙な圧力を感じるし、こいつが話に出てた封印物か」


「見たところ、東の島国の古い封印に近いように見えるが……」


「こりゃ、ジルのやつ呼んだ方が早いか?」


「リモートで見せてみるのも手かもしれん。実はこの間、最先端のタブレット端末とやらを買っての。今こそ実力を発揮する時じゃ」


「《門》で拉致った方が早いわ」


 得意顔で端末を取り出して、電話をかけるデイルを横目にしながらグレイダーツはクロムの横に並ぶ。


「なんか分かったか?」


「……」


「一言くらい言えよ」


 その時である。さっきまで慎重に観察、調査していたクロムが徐に札を一枚、ベリっと剥がした。剥がれた札は燃えるように黒ずんで塵になる。粉とかした札を指で摘み、サラサラと擦り合わせ一言。


「分からん」


「分からんならッ!! 余計な事すんな!!」


 グレイダーツは全力でクロムの頭をしばくのだった。

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[一言] 嵐の前の静けさかな
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