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世界軸9

30MMのスティールヘイズとナイトフォールが手に入ったので、初投稿です


※ニャルの性格を修正しました


「おっと忘れるところだった、みんな出かける前にこれを」


 そう言ってショウケイは小さな木製の箱が付いたストラップを皆に渡していく。綺麗な花柄の装飾がされており、ひとつひとつが丁寧に作られているのが分かる。


「俺の弟子が考案して作ったんだが、それには弟子の呪力が込められていてな。肌身離さず持ってると時期に呪力が見えるようになる」


「呪力の可視化とは、凄いではないか」


「んな上等なもの貰っていいのか?」


「寧ろ、今生きてる同級生全員に配りたいくらいなんだ。でも……ほら、俺友達が少なかったからさ……」


「寂しいこと言うなよ!! 今から私達は友達だぜ!!」


 まさかのグレイダーツが明るい声色でショウケイの肩に腕を回しサムズアップする。流石に憐憫を感じたようだ。


「そうじゃの。それにお主も人魔大戦で戦ったのじゃ。もうあっしらは戦友とも言えるんじゃないかの?」


「……ありがとうなみんな」


 ショウケイは少し感動した様子で胸に手を当て深呼吸をする。弟子からは慕われている様子が窺えるが、やはり同級生というのはまた特別なのだろう。案外可愛い奴なのだなと全員が思った。


「よし、じゃあ行こう」


「ショウケイ、これ私の研究用にもう一個くれ」


………………


 《門》が現れた事で監視していた魔導機動隊の隊員2人は監視の任が終わった事を悟った。ハッキリ言って、胃がキリキリと痛む思いだった。放たれる謎のプレッシャーは、まるで背後に得体の知れない怪物が獲物を前に舌舐めずりしているようで、離れた瞬間に空気が一気に肺へ流れ込む。無意識に呼吸を忘れていたようだ。


 最初に上層部からの『第1調査は一部英雄を雇う』という判断がどれ程正しかったか。精神の強い者でないと、これ程まで……。自分達とて魔法使いではあるが、これを前に雑談できる精神はヤバいと思った。


 同時に、本当に何なのだろうかこれは、とも。不気味な包帯で巻かれ、無数の奇妙な札が貼られた遺物。近未来的なデザインのポッドの中に鎖で固定されている。


 箝口令が敷かれている為に、他者へ確認もできないモヤモヤを後に、まず最初に《門》から出てきたデイル・アステイン・グロウへと2人は頭を下げて室内から出ていった。


 程なくして全員が《門》を通り、部屋に入る。


 瞬間にショウケイは顔を青ざめさせた。胃の中をシェイクされたかのような気持ち悪さが襲い、視界が歪む。

 デイルから事前に、あの中には異世界から来た遺体が入っていると聞いていた。しかし、魔物に限界があるように内包する呪力にも限界がある。これは、どんな呪力よりも濃い。間違いない、世界の危機レベルにヤバいと。


 と、その時。


 ふわりと反転していない魂の余剰エネルギーも感じた。妙な懐かしさと怒りを覚える、不思議な……。


「先に伝えておく。あの物体は俺からしてもヤバいと思う。今すぐにどうにか処分する手立てを考えなければならないってくらいの呪力が渦巻いていて気分が悪い。皆も呪力が見えるようになったら気をつけてくれ」


「専門家っていうか、私らの世代の人間がヤバいっていうレベルか。んで? なにが引っ掛かるんだ?」


「あの中に別の……誰かの死体とか入ってないか?」


「ちょうど封印物で見えない裏側に異世界から来たヴァルディアの遺体もある……」


「彼女の? ……そうか」


 彼とて同級生であり、ヴァルディアと交流が無かった訳ではない。友達が少なかった人間でも、誰1人として分け隔てなく接したのがヴァルディアという人間でもあった。だから、少し思うところもあり。


「先に引き摺り出そう。少し任せてくれ」


 ショウケイはそう言うとポッドの前に近づき、片手を伸ばす。目をゆっくり瞑り、呪力と魔力を練り合わせた特殊なエネルギーを軸にして。


「《銀召金縛》」


 それは、神をも一時的に縛れる人間が手にできる限界の封呪。ショウケイが大戦時代に使った、最も得意な足止めでもある。技が発動すると、封印物とその鎖の表面を黄金の膜が揺らぐ。ミヤノは面白い封印だと思い、興味深そうに目を細めた。それから、ショウケイはポッドの中に入る。


「いた、あの宇宙服みたいなのを着た白骨遺体か。よし、丁寧に引き寄せないと……《念力魔法》」


 長年に培われてきた繊細な動きで、出来るだけ封印物を刺激しないようにヴァルディアの遺体をポッドの外に出した。


 ショウケイはなんとも言えない表情で遺体を床に寝かせる。皆もそれぞれ屈み、ヴァルディアの遺体を見る。


「なんか、複雑なもんだな……。また会ったのに結局モノ言わぬ遺体だってのは」


 グレイダーツが全員の言葉を代弁する。誰もが、狂っていない彼女ともう一度くらい会話したいと思うくらいには、情はあった。今は爪楊枝の先程しかない。しかないが、あるのだ。


 ショウケイが念入りに遺体に手を翳す。遺体は魔物化しておらず、寧ろ清い。


「エネルギー溜まりはない。開けても大丈夫」


「ほんとかぁ? それでもヴァルディアの遺体だぞ?」


「まぁ、そうなんだけど。やらなきゃ先に進まないからな」


「確かに、ほらナイフ」


 グレイダーツからナイフを手渡されたショウケイは、頭部カプセルの周囲を慎重に切り、そしてカプセルを外した。瞬間、支えを失った白骨遺体は崩れ落ちる。


 クロムは崩れた骨を拾う。少し苔むしてもいる。恐らく加湿と酸素の供給装置のような機能があったのだろう。


「皮膚や肉組織は、微生物で分解されたらしい」


「10年くらいは経っているということかの?」


「いや……化石化してる。万年単位だ」


 それを聞いた全員が、このヴァルディアはひとりぼっちで気が遠くなるほど長い時間、次元の旅をしていたのかと思った。


「なんだって、お前は……」


 グレイダーツは憐れみを感じたが、ため息と共に流す。少なくとも、このヴァルディアと自分達の世界のヴァルディアを比べるのは失礼だ。


 皆がそれぞれ思うところがあり、ショウケイが服を慎重に切るのを眺めていると、ふわりと遺骨が淡い光を零す。


「あっ……」


 光は一瞬で、空中に溶けて消えた。何度か見た現象だ。


「死後の世界があるかは分からんが……静かに眠れたようだ」


 願わくば、この世界の輪廻の輪に乗れることを願った。ショウケイの言葉に、クロムを除く皆が少し黙祷する。クロムは珍しい魂の目視できる昇天現象を見て、めちゃくちゃはしゃいでいた。


…………………


 英雄5人からの総決としては、これは下手に手を加える訳には行かない『核』レベルの代物だとアルテイラの連合政府上層に伝えられた。ショウケイの意見では、内包するエネルギーを解き放った場合、最低でも第二次人魔大戦が起こる可能性も示唆される。それ程までに内包される『呪力』の密度が常識を逸脱している。


 ただ、呪力だけならばゆっくりガス抜きするように発散させればいい。しかし不思議なことに対極に位置する正のエネルギーである『神力』、どちらにも転ぶことの出来る『魔力』も内包している事から、手が出せないのだ。


 もし、小さな穴を開けたとして、そこから突き破るように中身が出てこないと誰が断言できる?


 澱んだ魔力と『呪力』の相互作用や、考察と実験の記録、及び日本区域における『呪力』の纏めをショウケイは提示して、専門家としての手出し禁止を申し出る。


 英雄すら手出しできない封印物を前にアルテイラ連合の上層部は頭を抱えながらも、デルヴラインド社から貰った『カラドニウム』と共に他連合へと情報解禁する事を決定。


 空から降ってきたポッドの情報は瞬時に通達された。


 他の連合国も、結局アルテイラ同様に困惑が大きく、魔導機動隊の部隊長などを除けば民に通達するのは早々だと考える。下手に刺激を与えれば世界はほんの少し混乱する。そのほんの少しが恐ろしい。

 真っ当な政治、まっさらで潔白な民間人の為の武装組織。英雄が再編成したこの世界において、全ては平和……ではない。人間は十人十色なのだ。こんな世界にすら不満を抱くものは必ずいて、犯罪は起きるし、テロリストという膿は無くせない。リヴァイアサンの発端もそうだった。


 どこで、誰が何をこまねいているのか分からない以上、連合政府による発表というのは中々に神経を擦り減らすものである。しかし伝えないというのも不誠実であり、悩ましい。


 そして、肝心の封印物。英雄が手を出せないこの『爆弾』を、なら我々がどうできるというのか。


 これが先延ばしに出来る問題ならばどれほど良かったか。けれど現状はいつ爆発するかも分からない。


…………………


 英雄5人はポッドの前で唸る。常に最悪を考えるのはヴァルディアとの付き合いのせいでもあり、良くも悪くも英雄全てにおける考え方でもある。そんな中でグレイダーツは一つ提案を出した。


「擬似4次元空間にぶち込むのは?」


 《門》の魔法の原点。空間魔法を扱う上で必ず壁にぶち当たるのが『擬似的4次元空間』であるが。あくまでも擬似的である。術者が作り上げた空間は、落ちれば帰ってこれない可能性を内包する代わりに術者の魔力が完全に途切れた場合に限り、弾かれるように出る事ができる。その空間に落として封じてしまおうという提案であった。


「じゃが、あくまでも『この世界に繋がっている』のは変わらぬ。それに擬似的4次元空間を維持している時に封印物が暴発した場合……」


「汚染で死ぬかもしれんのぅ。まぁ、死ぬだけ、ならばまだ最良の結果ではあるが」


「……全世界の呪力を纏めてぶち込んだような代物だ。とてもじゃないが、保てるとは思えない」


 ショウケイの言葉に4人はため息を吐いた。クロムは未だにヴァルディアの化石に執着しているので話にならない。


「ならどーすんだよー!!」


 考えても答えが出ない難問に、流石のグレイダーツは頭を抱える。


「ショウケイ、呪力も結局は魔力と同じと言っておったしお主も祓ってきたのだろう? ならば生き物が本来持つ、魔力の浄化能力でどうにかできぬか?」


「難しいなぁ。中和するのに最適なのは莫大な魔力だけど、あくまでも魔力は中立だ」


「あっしの神力では……足りぬな」


「俺の知り合いの神様に協力を仰いだとしても、足りない。それに、そろそろ皆も呪力が見えるようになってきただろ?」


「……集中して見たら、ベンタブラックみてぇなオーラ出てるな」


 そして阿保のクロムはこんな物体の札を何も考えずにペリペリした事に多少腹が立ってきた。いい加減、話し合いに参加しろと立ち上がったところで。


 魔力と神力の混じったような、不思議なエネルギーが差し込まれる。少し特殊だが魔力の構成から即座に分かった。誰かの《門》だと。しかし空間固定の『扉』を必要としていない。こんな時にこんな場所に来る奴には心当たりはなく、クロムを除く全員が警戒態勢に入った。


 デイルが結界を張り、グレイダーツが西洋甲冑を控えさせ、ショウケイが捕縛用の特殊札と《銀召金縛》の準備を整えた。


 神力と魔力の渦はやがて暗い空間を作り、向こうから片足が差し込まれる。ヒールの音が地面を鳴らす。黒いゴシック調のドレスを着た少女だった。けれど……顔が不気味なまでに整っている。均衡が整いすぎた顔というのは、美しいを通り越して不気味さを感じるものなのかと4人は思った。更にこの辺では珍しい濡鴉のような艶やかな黒髪と、黄金の瞳が、どこか浮世離れしている。病的なまでに白い肌は真珠のようで、どこか無機質さを感じた。


 少女は5人に目線を配り、最後にはペコリと一礼した。胡散臭い笑みを浮かべて。


「こんにちは……私は世界の暗躍者で、神の代弁者で、だいたい全ての黒幕……と私のいない世界軸では呼ばれている、ニャルラトホテプ。世界軸10249.2035563%で暮らす私からの通達により介入に来たの。よろしくお願いしますね? 時代を動かした方々?」


「誰だテメェ、なんでこの場所を知ってる?」


「それ以前に胡散臭さ全開じゃの」


「よく言われるわね。けど、この世界の私は別に神の代弁者な訳でも、探索者に試練……は与える事もあるけど滅多に無い」


「なんの話?」


「少しは信頼して欲しいって話。言ったでしょ? そのポッドの来た世界軸の『私から教えてもらった』って」


 本当のことなのか、判断に困るが。デイルは事前にニャルという人物が絡んでいる事も知っていたので、興味は惹かれた。それに、リアと付き合いのあるレーナという探偵とも縁がある事も知っている。ここはひとつ。


「お主なら、どうにか出来るのかの?」


「できないわよ?」


 何しに来たんだよ、という視線を受けながら、ニャルは優雅に微笑んだ。

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[一言] できないのかよ!(総ツッコミ)
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