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世界軸3


 ダルクが開けようとは言ったが、やはり3人でこそこそするのは違うだろう。ここには遊戯部の全員が揃っている。ならば!!


「よーし、全員起こせ!!」


「はいよー!!」


 ノリノリなライラの号令により、ノリノリなダルクが笑顔でリビングに駆ける。ぶっちゃけると、確かに危険物かもしれないが、未知なる物体という好奇心をくすぐる塊を前に、自分達だけ頂くのも忍びない。みんなでお披露目会といこう。


 数分すると、眠そうにしながらリア、ルナ、ティオ、クロエがやってくる。リアは欠伸をひとつすると「先輩から面白いものあるよーって叩き起こされたんですけど」と言った。同時に、全員の目線がポッドに向いた。


「バトルスーツの次は宇宙開発でもするんです? 先輩達はやる事のスケールが違いますねぇ」


「我の寝ている間に面白い事してるぅ……」


 リアとティオは他人事のようにポワポワとしながら呟いた。一研究員、そして科学者としては嬉しい評価だが、訂正して説明せねばならない。というか散々遊んだ翌日に出来るわけねぇだろ。


「あー、実はこれは……」


 ライラはさっきレイアにしたのと同じ説明をリア達にもする。空から降ってきた未知の箱。それを皆んなで開けてみないか? と。しかし、ここでキラキラとするであろうと思っていたリアがポッドを見上げながら。


「厄介ごとの香りしかしないんで、宇宙に捨てません?」


 ……最近、リヴァイアサンとの戦いもあったせいか、保身的である。というかサラッと宇宙に捨てれる技術がライラにあると思われてるのは……嬉しいことを言ってくれるじゃあないかと的外れな事を思いつつ。


「宇宙事業の条約で、そう簡単にいかないんだ」


「えぇ……じゃあ海に沈めるとか」


「去年の澱みの一件忘れたのか?」


 むむむっと言葉に詰まるリアの横から、ルナが手を上げて「ならば、私が完璧に凍らせて南極にでも設置、監視するというのはどうでしょうか?」と提案する。ルナもリアと一緒で厄介ごとは避けたい様子だ。


「いやぁ、簡単に言うが監視の費用とかがね」


 ルナは頷き「確かに、すいません寝起きで頭が回らず……」と謝罪する。幾らライラが金持ちと言っても、ポケットマネーでは限界がある。


 にしても、おかしいなぁ、普通はこんなに面白そうな箱があったら開けたくなる筈なのになぁとライラが思っていると。


「私は開けてみたい!! ワクワクする!!」


 無邪気にクロエが両手を挙げて賛成の意を示す。リアとルナはそんなクロエを見て微笑んだ。


「開けますか」


「甘々教育すぎる!!」


 ダルクが最もなツッコミを入れた。それから、ポッドの上から飛び降りる。


「このダルクさんも開けてみたいとは言ったけどさぁ、やっぱリアっちと同じで嫌な予感は拭えないんだよなぁ。あ、でも中身が気になるのは本当だぜ?」


 全員が黙り込んだ。確かにダルクは厄介ごとを引き連れてくるのが得意である。それ以前に厄介ごとに頭を突っ込む方が多いが。そんな彼女の言う『予感』は、異様な当たり判定がある。彼女は嫌に虫の知らせが良いのだ。


 そんなダルクの懸念も分かるなぁと全員が思った。去年対峙した『澱み』、文化祭に襲撃してきた『ヴァルディア』、ヴァルディアを愛した『アラドゥ』、死者蘇生を目指して生まれてしまった2つの魂を持つ『シエル』、邪教が蘇らせた『リヴァイアサン』。多くの人々が存在の証明を余儀なくされた幽霊や、一部の人が知る本物の『神』の存在。レーナの遭遇する不可思議で冒涜的な出来事。


 そして、判明した魔物とは違う、まるで別世界の存在。ミ=ゴやウボ=サスラ、ヨグ=ソトース。


 最後に、この世界に存在する事が判明した『天使』。


 一年でこの量を体験してきたリア達にとって、たかがポッドと侮る者はいない。この世界はまだ『未知』に溢れている。未知だからこそ面白いという気持ちは大変によく分かると全員は思うのだが……いかんせん、色々と経験してしまった今、大人になったという事だ。


「でも、だからこそ俺達が開ける方がいいかもしれないっすねー」


「私はお姉様の隣に」


「リア姉、我が儘言ってごめん……」


「……リアっちの言う通りだな」


「僕もそう思う、最大限警戒していこう」


「私は未知なる物は探究したくなるからな。結局は捨てられん。というか、他を黙らせて回収した以上、私は最低でも中身を国に報告する義務もあるしな」


「じゃあいつも通り、我はライラの補佐をするとしよう」


 そう、だからこそ、最大限の警戒をもって……魔法使い達はポッドを開く決断をした。何もなければいいが、逆に何かあったらあったで少し期待してしまうのは魔法使いとしての性か。


 リアが一応結界を張り、レイアがポッドに触れる。皆が視線で通じ合い、頷くとレイアの錬金術の《分解》が発動してアルミニウム合金は剥がれ落ち、中に鈍く黒い輝きを放つカラドニウムのポッドが顕になった。


 その時、ポーンと機械音が鳴った。


「うぉ!? なんか起動してないか!?」


「クッソ古いPCの起動音みたいな音したな……」


「それよりも、なんか阿弥陀籤のような線が走り始めたのだが?」


 ポーンと音が鳴ったポッドに青白い線が走り、同時に周囲を囲うように無数の青白い幾何学模様が浮き上がる。魔法陣っぽいが、どこか機械で再現されているように見える。

 (カラドニウムを接着する前にプリント基板が仕込まれていた?)とライラは考察しつつも。何かが起動しているのは明白で、焦ったようにレイアが背後を振り向く。


「全員下がったほうが!?」


「レイア以外退避してるよー!!」


「早いね君達!? 人の心とかないんか?」


 レイアも急いで退避して、リアの結界の中に入るとポッドの様子を見る。すると、ポッドの中央に『認証完了』の文字が浮かび、宇宙用ポッドと同じように扉が開いていく。フシューと音を鳴らし、上から下へと扉はゆっくり降りていく。皆が息を呑んで見守る……中で。クロエは背中に氷柱を突っ込まれたような怖気を感じた。思わずリアの腰に抱きついてしまう。


「うぉっと、どうした?」


「リア姉、嫌な感じがする」


「……よしよし。大丈夫、俺が守るから」


 そして、扉が開くと同時にライラ邸のマニピュレーターに搭載されたLED照射装置が動き、中身を照らし出す。中身は、想像とかけ離れていた。いや、ダルクが嫌な予感を感じていた時点で、やはり宇宙に捨てるべきだったのかもしれない。



 中央に鎮座する、およそ2メートルの高さで人間を錆びた鎖と包帯状の呪札のような紙でぐるぐる巻きにした上、更に無数の札が貼られたような物体。誰が見ても人が入っていると思える形だが、凹凸が気持ちの悪いほど歪である。人のようで、中身は違うような気持ち悪さが余計に不気味さを加速させる。それに、とても厳重に巻かれているように見える。一般人が見ても何か封印してんの? と呟くレベルだ。



 札には赤い文字と黒い文字……くずし文字というものだろうか? 赤い文字で目の様な模様と、黒い文字で呪文が描かれているが、何と書いてあるのか分からない。ただ、リアはそれが『封印』または『結界』になっていると感じた。ポッドの中は、中身の物体が倒れないようにだろうか。無数の鎖と札が張り巡らされ、固定されている。


 そして使われている鎖はカラドニウムではなく、どちらかといえば金と別金属の合金に見えた。古来より金には悪魔祓いのような効果がある、なんて迷信があるが、これもそれにあやかっての鎖なのだろうか? でなければ……カラドウニウムの鎖で固定した方がいい。


「想像を遥かに超えてヤバそうなの出てきたんですけど」


「なにこれ、めっちゃ怖い……」


 全員が困惑して、これどうすんの? と視線を泳がせる。どうしたらいいのこれ、と反応に困りすぎる物体、しかも全速力で気味が悪い。誰も近づきたくも無い、呪われていそうな物体。


 この科学と魔法の世において、呪いとは魔物が生まれるのと同じ『濁った魔力』で施す、儀式や術式を用いた技術である。呪いにより、相手に効果を及ぼす、一見オカルトめいているがしっかりと技術が必要なモノだ。あとは、人の感情を利用した技術もある。相手に自分は呪われていると思わせる方法があれば、簡単な魔法も呪術といえる。


 話を戻して、ダルクは札の模様を見て東の島国の封印ではないかと推測する。そうなら、下手に近づくのは得策ではないと本能が訴えた。


「でも、少し調査はしないとどうにも……。みんなは待っててくれ。慣れてる私が行く」


「私も行こうか? スキャンして中身を……」


「いや、ライラ……下手に手を出すのは不味いと思う」


「……お前がそう言うなら、任せるよ」


「気をつけてくださいね、先輩」


「おう、リアっちは結界の維持に専念してくれ」


 ダルクは一歩、結界から抜け出した。瞬間、息が詰まるような圧力を感じた。穢れた魔力溜まりに突き落とされたような、纏わりつく怖気と仄かに湧き上がる吐き気。ヤバい、今すぐ逃げろと本能が訴えかける。


「おいおい、ふざけんなよ。何が入ってんだよ」


 頬が引き攣る。余裕すらなくなる感覚は、とても久方ぶりだ。


 だが!! 故に面白い!!


 感覚がどこかズレているダルクだからこそ、歩みは早い。すぐに近づくと、段差に足をかけて中を覗く。

 外からは微妙に見えなかったが、物体の裏側には座席が用意されており、人間の遺体があった。パイロットスーツのような服ゆえ顔しか見えないが、遠目からでもミイラ化して見える遺体。その手には、大事そうに『手帳』が握られている。


(はいはい、このパターンね)


 大概、厄介ごとの前に手帳を見つけると碌な事がない。インターネットが発達している今の世の中で態々、紙媒体で言葉を残しているという事にはそれなりに意味があると考えている。そして、紙というのは何よりも簡単な記録媒体でもある。だからこれが、今回の厄介ごとのヒントならば見る必要がある。


「《念力魔法》っと」


 手を伸ばして《念力魔法》を発動させると、器用に鎖と札を避けながら、手帳を手繰り寄せ掴んだ……時「カチャン」と鎖が揺れた音がした。気がした。


「え、今動いた? あのー、もしかして生きてますかー?」


……


………


 静かな空間を震わせる程に大きく、「ガチャン!!」と鎖が音を鳴らした。突然の事態に慣れてはいるが、怖く無いわけでは無い。普通に驚いて転げ落ちた。


「うぉおおおお!? あ、腰抜けた」


「ダルク先輩!! 《念力魔法》!!」


「おぉ、妹ちゃんサンキュー助かった!!」


 ルナが素早くダルクを結界内に引き寄せる。ダルクは腰を撫で、呻き声を溢しながら前を見た。全員、警戒体制。中に少なくとも動く何かが入っている事が確定した物体は、鎖から逃れるように「ガシャ!! ガシャ!!」と何度も揺れた後、静かに沈黙した。


「……あの、怖いんだが?」


「どーすんのこれ」


 幽霊は殴らないから怖い。呪いも同様なダルクにとって、キッショ正直ワクワクしてた数分前の自分を殴りたい、そんな気分である。ただ、先程の『時間の逆理』『マルチバース』『世界軸」。カラドウニウムという金属が齎す『謎』が色濃く残っている以上は……無視はできない。

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― 新着の感想 ―
[一言] 無視はできないがとりあえず一度ダンボールでも被せて見なかったことにしよう(
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