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2日目④

 レイアとライラはそのまま話し込み始め、やがて話はさっき使っていたカードゲームの絵柄を実体化させる機械へと移行。その後、2人してPCの前で機械を弄り始めてしまった。


 正直、機械を弄る前に吹き飛んでボロボロになってしまった扉をどうにかした方が良いのではないかと思ったが、楽しそうなところに水を差すのも悪いので黙っておくことにした。


 そうして話し相手がいなくなり、この後どうしようかと悩んでいた時。横からダルクが手を掴みながら笑顔で遊びに誘ってくれた。


「あそぼーぜ」


 そう言ってソファまで連れて行かれ、さらに真ん中に座らされる。それから、無造作にポンっとゲーム機のコントローラーが置かれた。

 リアがコントローラーを受け取ると同時に、横から別のコントローラーを持ったティオが、ドサリと荒々しく隣へと腰を下ろす。


「我も付き合ってやろう。まぁ、我に敵う訳がないがな……」


 不敵に笑いながら、コントローラーをギュッと握った。

 それから、ダルクがゲーム機の電源を入れると、画面にそのタイトルが表示される。

 そのゲームは自分もよくやるタイプで、一言で言えば対戦系のアクションゲームだ。最大4人まで参加でき、全員で同じステージで対戦し最後まで残っていた人が勝ちというものである。


「ふっふっふ……この私に勝てるかねぇ?」


 隣に腰を下ろしたダルクは、楽しそうに口角を釣り上げる。


「やるからには……負けない」

「さっさと始めようではないか」


 リアとティオは睨むように画面を見ながら、ダルクの挑発に答えた。


 それから、キャラクターの選択画面を経て、ついにゲームが始まる。ルールは、先にHP(ヒットポイント)を減らした方が勝ちで、残機は3つ。つまり、先に3回HPが0になった者が負けだ。


 画面に開始までのカウントダウンが流れる。


 さて、ではそろそろ、本気で集中するとしようか。


 カウントダウンが0になり、ゲームが始まる。

 まず手始めに、すぐ近くにいたキャラクターに戦闘を仕掛けた。


「ゑ? ちょ、早っ!! なっ、もうライフが半分に。というか、なぜ我の攻撃が全て防がれるのだ!?」


 不思議な事にもう1人のキャラクターは動かなかった。それにより動きやすかったのもあるが、相手のプレイヤーの技量がなかったのか、相手の攻撃はとても反撃(カウンター)で返しやすく、ものの数秒でHPを0にする事ができた。

 因みにリアはゲームにおいて、極限まで集中していると周囲の音を無意識にシャットアウトする癖がある。これは、ゲームに対する集中もそうだが、魔法の感覚などの訓練にもなるので治す気はない癖だ。

 因みにここまでの動作の中でリアは魔法を一切使用していない。これが本気なのである。


 それはさておき、開始早々に残機を減らしたティオは、コントローラーを強く握り直しながら口を開く。


「くっ、クソ。つ、次だ!! って、ダルク貴様ァ!! なぜそんな場所で待ち伏せしているのだ!?」


 復活(リスポーン)した場所には、今まで動かなかったダルクのキャラが待ち伏せしており、ティオはまたも開始早々にダメージを受ける。


「分かりやすいんだよなぁ……おっと、後輩も来たか」

「なっ!? また……あれ、なぜ防御できない!?」

「そりゃー、私が攻撃して防御ゲージを減らしておいたからね!!

 残念無念、そのキャラはもう防御できない」


 爽やかな笑顔で、ダルクはティオにサムズアップした。


「ダルク!! 貴ッ様ァ!!」


 リアは向かった場所にいたキャラクターのHPを0にした。もう防御ができなかったようなので、割と早くに倒す事ができた。それから、もう1人の方へと攻撃を仕掛けたのだが。


「なっ!? 反撃されただと!?」


 まさか、繰り出した連撃(コンボ)の最中に反撃されるとは思ってもおらず、リアは思わず距離を取る。


(こいつ……強いッ!!)


 手に汗を滲ませながら、再び立ち向かおうとしたのだが、すぐ近くに新たにキャラクターがリスポーンした為、とりあえず速攻で倒した。


「お前らリス狩りすんのやめろッ」


 3回連続でほぼ何もできずに負けたティオは、ポフポフとソファに置いてあったクッションにコントローラーをぶつけながら叫ぶ。

 しかし、リアもダルクも集中しきっているせいか、ティオには全く反応を示さなかった。


「こ、この我をまたも無視するとは……くっくっく……なんと恐れ知らずな奴らよ。まぁ、いい、いつかその身をもって後悔する事に……グスッ」


 その後、ゲームが終わるまでの30分間。ティオはソファの上で蹲まって過ごすのだった。


………


「はっは、すまんなティオ」

「ごめんなさい、先輩」

「ふんっ、なんの事だか分からぬな」


 ティオは膝を丸めながら、まるで猫のようにソファに寝っ転がっていた。


 完全に拗ねていらっしゃる。


 正直、ゲームの対戦なんてそんなものだし、なにより負ける時は負けるものだとは思うのだが……拗ねているところに追い打ちをかける事になるので言える訳もない。


 して、どうすれば機嫌を直してくれくれるだろうか?


 そうだなぁ、食べ物で釣るとか。

 なんて考えたが、いくらちょろそうな先輩でも、食べ物ごときで機嫌を直す訳……直してくれそうだと少し思ってしまったのは内緒だ。


 しかしである、誠心誠意謝るのならば食べ物で釣るなど馬鹿にしていると思われるかもしれない。真面目に考えよう。


 ……そういえば、ルナが機嫌を悪くした時、自分はどのようにご機嫌取りをしていただろう?


 思い返されるのは、昔の記憶(男の時)最近の記憶(女になってから)だ。

 昔は、そうだ。よく頭を撫でるように催促されていた気がする。そんなことで機嫌が直るのかと思うだろうが、実際ルナの機嫌はすぐに良くなった。あと、頭を撫でている時の気持ち良さそうなルナの顔はとても可愛いので、撫でる事自体は嫌いではない。むしろ好きな方だ。


 しかし、だ。まだ2、3回ほどしかしていないが、最近はなぜか背後から抱きしめながら頭を撫でるように催促される。実際、10分程撫でるとだいたいは機嫌を直してくれるのでいいのだが……そのせいでルナの顔が見えないのだ。その事が少し寂しかったり。


 話を戻そう。つまり何が言いたいのかと言えば、ルナのように抱きしめて頭を撫でるという手は通用するのか? という事だ。(しないだろうな、知ってる)自問自答しながらリアは溜息を吐いた。

 別の言い方をすれば謝る以外はこれくらいしか思いつかないとも言えるのだが。


(さて、度胸をもっていざ……ってこれ、セクハラにならないよね?)


 とか思ってみたが、よくよく考えれば女だしその点は大丈夫かと、倫理観が少々ぶれ始めたリア。

 あと、ついでに言っておくが、下心なんかは一切ない。こればっかりは本当である。


 そして、いざ手を伸ばし


「先輩、失礼します」

「え? ひゃっ」


 リアは先輩のティオを背後から優しく抱きしめながら、ゆっくりと頭を撫でる。サラサラの髪は指の間にさらりと通り、とても触り心地がいい。


「ほぅ、大胆ですなぁ」

「これくらいしか思いつかないものでして」

「ふむふむ、まぁ、いいんじゃない?」


 横からダルクがニヤニヤと笑みを浮かべまくし立てるが、気にせず撫で続ける。


 そして、当の撫でられているティオはというと


(な、なぜ我は撫でられているのだ!?

 あっ、でも意外と気持ちいいかも……いや、何を考えているのだ我よ!?

 落ち着け、落ち着くのだ……ん?そういえば、何故か妙に落ち着くような。この温もりと、この気持ち良さ、そして心の底から感じる安心感。

 この感覚、我はどこかで……お母さん? なっ、まさか私はこの後輩から『母性』を感じているとでも言うのかッ。し、しかし振り払えん。くっ、なんというテクニック。撫でられるのがここまで気持ちいいとは……あぁ……)


 もうすっかり機嫌は直っていた。

 そして、ティオが自身の胸に顔を埋めているために表情が見えずにいたリアは、機嫌が直ったのか分からず、しかし拒否はされてない為に暫くの間ティオの頭を撫で続ける事となる。

 ついでに、ダルクがニヤニヤしながらも、密かに写真を撮っていた事に誰も気がつく事はなかったのだった。


…………


 ティオを撫でながら、時々ダルクからの「お母さんみたいだね!!」や「その笑顔、母性が溢れているぜ!!」といった戯言に適当に相づちを打ちながら過ごす。

 そうして穏やかな時間を満喫していたのだが終わりは唐突にやってきた。


 ゴウッと突風に当てられたような音と共に、背後から焦った口調でレイアの叫び声が聞こえた。


「や、ばっ!!……リア!! 結界張ってくれ!!」

「え? うぉっ!! 《結界壁》!!」


 こちらに飛来してくるレイア。思わず、結界で壁を作る。

 壁を作ったのはいいのだが、このままではレイアが壁に直撃してしまう……かもしれない。けど、そんなものは杞憂だ。そう、彼女においてはそんな事を心配する必要もない。


「《(ゲート)》」


 ぶつかろうとした刹那。隣に置いてあった大きめのクッションが消えた。そして、そのクッションは結界壁の外側に出現し、飛来したレイアの体を受け止める。同時に、レイアの頭上に立体映像で「error」の文字が浮かんだ。


「危なかった……」

「大丈夫か!?」


 受け身をとったおかげか、大してダメージのなさそうなレイアにライラは焦った表情で駆け寄った。そして、無事な事を確認すると「ほっ」と胸を撫で下ろす。

 とりあえず《結界壁》を解除してから、状況の説明を促した。


「いやー、分解してみるとこれまた面白くてさ。それで、機械を弄ってる時の副産物から『受けた魔法を魔力に分解する』機能が実現できそうだったんだ……」


「それで、とりあえず簡単な風魔法を撃って解析しようとしたのだが、過信しすぎて威力を強くしすぎた。本当に申し訳ない」


 ライラの謝罪に、レイアは全然気にしてないと両手を左右に振った。

 して、話を聞いてこちらに吹っ飛んできた経緯は分かったが。そんな2人に対して、リアより早くダルクが口を開く。


「それ、実現できたら地味に凄いじゃねぇの?

 ライラなら記録系魔法の《情報の保管庫(アーカイブ)》でデータも取れるし、案外簡単に実現できるんじゃ?」

「そう簡単でもないさ」


 ダルクの言葉に答えるように、ライラがスッと手を振る。すると、立体映像となって空中に設計図が展開された。正直、構造がさっぱり分からなかったが、素人目でも何気に凄い事なのは分かる程に細かく設計されている。あと、その立体映像の作り方が気になるので、後でライラ先輩に聞いてみようと思った。


 そんな設計図の中心。「Energie」と記された所をライラは指差す。


「ここが、核となる魔力を利用した動力源、携帯端末で言う所のリチウムイオンバッテリーだな。それで、何が言いたいかと言うと、持たないんだよ」


 持たないという言葉に、イマイチ意味が分からず首を傾げていると、ライラは設計図を一回転させながら

「言い換えれば、常時《解呪》に似た魔法が発動してるって事。それだけでもとてつもない魔力を使うのに、そこから更に物理演算からダメージ計算にまで魔力を使ってしまう。もっと簡単に言えば、携帯端末のリチウムイオンバッテリーでデスクトップPCを動かすようなものだな」

 と、解説してくれた。成る程、分かりやすいとリアは一つ頷いた。


「って事は、魔力さえどうにかできれば、その機械は動くって事ですか?」

「まぁ、そうなるが……あっ、ならば使用者から魔力を供給すればいいのか? いや、しかし……ただでさえとてつもなく消費が悪いのに使用者から魔力を供給するなど……」

「それを調べるのにはまず、どれくらいの魔力で何分持つのか調べる必要がありそうですね」


 レイアの言葉にリアも頷いた。根本的な解決策を得る為にはまず、必要な魔力量を調べる必要がある。それには、やはり使用者の魔力消費から調べたほうが早いし楽そうだ。


「なら、俺も付き合いますよ?」

「いいのか?」

「はいっ、ちょっと気にもなっていますし」

「なら好意に甘えて、恩にきるよ」


 それから、10分程でライラとレイアは機械の動力源をバッテリーから使用者になるように改造し、その機械を手渡してくる。

 その機械は、少しごつい黒色の腕輪のようなものであった。正直ちょっと重いが、とりあえず受け取ってから説明を聞きつつ腕にはめる。すると、腕の大きさに合わせるように形が縮み丁度良い具合に手首を締め付けた。


「うーん重たい。ところでリア……どうせなら僕と軽い決闘をしないかい?」


「ほぅ、決闘を?」


「お互い、実力ってやつを知りたいじゃないか」


「分かりやすい挑発」


 不敵に笑うレイアにつられて笑う。リアは膝枕で寝ているティオを優しく移すと立ち上がった。


「よし、じゃあ先輩達に立会人を頼んでもいいっすか?」


「私は構わないよん」


「私もデータが取れるなら喜んで」


「んじゃ移動するか」

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