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2日目③

 次に行こうとは言ったものの、ルナが言うには大方の設備や場所は説明したとの事で、行く当てがないらしい。というわけで、予定無くブラブラと校舎内を彷徨う事となった。

 とは言っても、紹介されている部活動の多さと、その魔法学校らしい内容からか、それほど退屈はせずに済んでいた。

 例えば文芸部。よくある部活の一つではあるが、この学校の文芸部では面白い事をしていた。それは、魔法により物語を立体映像(ホログラム)で投影するというものだ。


 これにより、偶に幼稚園などで読み聞かせに行くらしいのだが、子供達にとても好評なのだとか。因みに立体映像や音声、効果音の再生には、一体どのような魔法を使っているのか気になって聞いてみたが「どうしても知りたければぜひ入部してくれ」と先輩方に言われてしまい……諦める事となった。


 また、面白いことに帰宅部なんかもあった。帰宅部とは本来、部活動に参加せず、授業が終わり次第家に帰る生徒の事を言うのだが、この部活動は斜め上を行っていた。まず、家に帰るという部分は普通だ。


 だが、最短距離にする為に魔法を使い住宅街の屋根を飛び越えて、あまつさえ魔法で無理やり道を作る事もあるらしい。一般市民からしたら迷惑極まりない行為である。また、時には科学と魔法を駆使したジェットエンジンで高速帰宅したりもするのだとか。そのせいで、学生寮が半壊しジェットエンジンで帰宅した生徒は半年の間、謹慎&トイレ掃除の罰を受けたらしい。

 しかし、そんな事があっても退部する事は無く今日も帰宅する為の最短ルートを模索している、まさに、日夜リアルタイムアタック(R T A)に命を賭けるスタイリッシュな部活だと自慢されてしまった。そのジェットエンジンで帰宅した先輩に。これには苦笑いを浮かべるしかなく、ルナは傍迷惑さと問題が起こった場合生徒会の仕事が増えると怒りながら、小一時間説教をして先輩を半泣きにさせたりする一幕もあった。


 そんなこんなで、校内を楽しく巡っていた時だ。前方から銀髪のポニーテールを揺らしながら、綺麗な背筋でこちらに歩いてくる1人の少女が見えた。その少女の姿は記憶に新しい。入学式の前に俺のネクタイを直してくれた生徒会副会長のエストである。彼女はこちらに気がつくと、柔らかく笑みを浮かべ向かってきた。


「おはよう、ルナ、リア」

「おはようございます、副会長」

「エストさん、おはようございます」


 軽く会釈をしながら簡潔に挨拶を済ます。

 と、エストの目がチラリと横に向く。それにより、レイアも軽く会釈をしながら自己紹介をする事となった。


「僕はレイアと言います」

「そうか。なら今度は私の番だな。私の名はエスト。今は生徒会の副会長をしている。よろしく頼む」

「エストさんですね。よろしくお願いします」

「……本当はもっと気楽に接してほしいのだがな」


 少し残念そうに目を伏せながらポツリとつぶやく。その言葉を聞いて思う所はあったのだが、なんというか目上の人と言った感じが強いので、例え同級生であってもこの人にタメ口で接するのは中々に辛い。後は性格的なものもある。

 そんな事を考えている間に、エストはこほんと1つ咳払いをすると、目の眼光を鋭くしながらルナの方へ向き直る。


「さて、ルナ。いい所で君を見つけた。少々君に説教をしなくてはならなくてな」

「私何かしましたっけ……?」


 困惑しながら、本当に心当たりが無いといった様子のルナ。

 そんなルナの態度に、エストの眉がピクリと動く。


「昨日、先輩達に生徒会の書類仕事を押し付けてかえっただろう?」

「……」

「この忙しい時期によく人に仕事を押し付けてくれたな……」

「いやでもあの、お願いしたら先輩方が嬉々として請け負ってくれましたし、私は悪く」


 ルナの言い訳に、エストの微笑みが深くなる。その笑みには、側から見ている俺ですら怖いと思ってしまう程の怒気と威圧を含んでいた。

 当然、矛先が向いているルナはガクブルと震えながら後退り始める。そして、脱兎の如く駆け出し、勢いそのまま《念力魔法》を使い、飛んで逃げようと浮かんだ所で、「ジャラジャラ」と金属の鎖が擦れ合うような音が鳴った。

 よく見ると、ルナの身体中に銀色の光を放つ半透明の鎖が巻きついている。そのせいでルナの身体は前に進まず、空中で静止したように止まっていた。

 そんなルナに、エストは笑顔のまま距離を詰める。


「……ルナ、どこに行くつもりなのだ?」

「えっと……見回り?」

「そうか、それは結構なことだ。だがしかし、まだ私が話している途中なのだが?人の話は最後まで聞くべきだぞ?」

「それは……」

「罰として、生徒会室に連行する。縛れ《魔力の鎖(スペル・アリスィダ)》」


 地面から這い回るように、魔力で作られた半透明の鎖が出現し、ルナの身体に巻きついていく。そして全ての鎖が巻き付くと、今度は数本の鎖がエストの手に向かって伸びていった。それをエストが掴むと、離れないように幾つかの鎖が腕に巻きついた。


「っん!! くっ、外れない!」


 鎖の中で必死にもがくも抜け出せない様子。そんなルナを他所に、エストは申し訳なさそうにリアへ向き直ると。


「すまないリア、レイア。ルナを連れて行ってもいいだろうか?」

「お姉様!! ヘルプ!!」


 本当に申し訳なさそうに言うエストと、若干涙目で助けを請うルナ。どちらが悪いかなど明白だからこそ、リアは爽やかな笑顔で言った。


「どうぞ」

「お、お姉様ぁ!?」

「ありがとう。では行こうか、ルナ」

「いやぁぁあああ」


 ルナはどこか「絶望した」といった顔でエストに引き摺られていく。それを手を振って見送ってから、リアははくるりと方向転換した。

 そんな一場面を、レイアは茫然としながら口を開く。


「リアなら助けると思ったよ。……何気に鬼畜だね」

「鬼畜とは人聞きの悪い」


 エストの方に正当性があったから見送っただけである。でも、まぁ寮に帰ったら労をねぎらうくらいはしないとな。何がいいか……そんな事を考えながら、リアはは歩みを進めるのだった。


……………


 レイアと他愛無い会話をしながら適当に歩いていると、いきなり目の前の扉が弾け飛んだ。文字通り、まるで爆弾が爆発したかのように轟音を響かせて。

 「ま、た、か」と思いながら吹き飛んで壁にぶつかった扉に目を向けると、土埃の舞う中から1人の少女が姿を現した。

 髪は青みがかったプラチナブロンドで、髪型はミディアムヘアだ。それから顔立ちは怜悧さを感じさせるが整っていて、髪型も相まってかとても知的な印象を受ける。

 

「こほっ、くっ……」


 そんな彼女の呟きと同時に、空中に「1000」と書かれた数字が浮かび上がる。あれは、立体映像なのだろうか?その数字は「ピピピ」と電子音を鳴らしながら「500」までその数を減らすが、数字の変動が止まると同時に「error」と文字が浮かんで消えた。


「くそが、地味に痛てぇ」


 そんな彼女の声色は、見た目とは裏腹に強気であった。

 それから、彼女の声に応えるように、タンッと大きな足音と


「ふっ、所詮お前はその程度なのだよライラ。この我、煉獄界の支配者たるティオ・レクト・キラニス様の前では、誰だろうと地を這うしかないのだ……クッフフ……フゥーァハッハ!!」


 痛々しい台詞を口にしながら、高笑いをして歩み出てくるのは、これまた1人の少女であった。

 彼女を一言で言えば、幼さの残る顔立ちの少女である。藤色の髪を左右結びツインテールにしている。その髪型のせいもあってか、余計に幼く見えてしまう外見だ。

 それから、何故か制服の上から黒いコートを着ていた。さすがに外で着る分にはいいが、室内で着るには暑そうだ。

 そんな彼女に、吹き飛んで来た方の少女は片手を上げた。よく見ると、円形の機械が取り付けられている。


「高笑いしているところ悪いがシステムエラーだ」

「え、ならば勝負は!? 我の勝ちだったのに……」

「そんな事は知らん」


 と、直後に彼女は言葉を切った。どうやら自分たちの存在に気がついたらしい。

 切れ長の目でこちらに目線を向ける彼女は、キツそうな雰囲気とは裏腹に、優しい声色で話しかけてくる。


「ん? 見ない顔だが……新入生か?」

「は、はい」

「そうか、そういえば今日は部活見学の日だったな……。にしてもよく見つけ……あぁ、すまない、驚かしてしまって。ここは『遊戯部』だ」

「「遊戯部?」」


 共に首を傾げながら、彼女の呟いた部活名を復唱した。すると、横から高笑いしていた少女が腰に手を当てながら口を挟んだ。


「そうだ。ここは加古の歴史をなぞり、古きモノから新しいモノまで千差万別、遊び尽くす部活だ!! 見学できる事を感謝するがいい!!」

「あー、こいつは無視で」

「……中二病ですか?」

「だ、誰が中二病だ!!」


 レイアの言葉に、痛い子は食ってかかるも、2人はスルー。痛い子はちょっぴり涙目になっている。

 それから、リアは早くも意気投合しかけている2人に声をかけた。


「あの、結局……遊戯部とは何をする部活なんですか? あと、さっき飛んできましたけど一体何を?」


 そう聞くと、ミディアムヘアの彼女は腕に取り付けられていた謎の機械を取り外した。


「遊戯部っていうのは名前の通り、単に遊ぶ部活だ。今は殆どコンピューターゲームばかりだがな。それから、さっきのはカードゲームの実験とでも言うか……ほら、よくあるだろ? 有名なのだと……カードゲームを題材にしたアニメやゲームなんかで、カードの絵柄のキャラクターが立体映像として登場してバトルしたりするの。あれを再現してたんだよ」

「おぉ……」


 それが本当にできるようになったなら、科学と魔法を組み合わせた技術になる。そうなれば、凄い事だと思った。あと、さっき文芸部で似たような物を見たせいか、とても興味が湧いてくる。魔法を使えば簡単だが、魔法のみに頼らず立体的な映像を作るのはとても面白そうだ。そんな、こちらの気持ちに気がついたのか、ミディアムヘアの彼女はニヤッと笑みを浮かべると部室を親指で指差す。


「ふっ、見学して行くか?」

「是非!!」


 リアは即答。レイアは軽く頷く。


「僕もちょっと興味あるし、お願いするよ」

「よし、なら部室に招待しよう」


 彼女の背後をついて行き、部室へと足を踏み入れる。その背後から何やら騒ぎ立てる声が聞こえたが、全員が無視したのだった。


……………


 部室には、簡素な長テーブルとパイプ椅子が中央に置かれており、長テーブルの上には沢山のドライバーなどの道具に、ネジや基盤などが置かれていた。それから左奥には小さめのテーブルに3つのディスプレイが置かれ、前にはオフィスチェア、机の下にはデスクトップパソコンが置かれている。

 あとは右奥なのだが、そこには大きめのテレビと最新式のゲーム機が揃い、その前には狭い部屋に無理やり突っ込んだような大きめの黒いソファが置かれていた。


「おぉ、最新式だ」


 レイアがゲーム機の方を見ながら呟くと、ミディアムヘアの彼女は自慢げに胸を張った。


「ふっ、我が部の自慢だからな……」


 ドヤ顔を決める彼女。確かに、PCもゲーム機も結構高価な品物なのでそれを揃えられているのは自慢できる。

 

 そんな事を考えていたその時である。

 

 空気が揺れたような気がした。そう感じた時、ふわりと彼女の背後からいきなり少女が現れ、肩に手を回しているのが見えた。

 彼女の印象は、眠そうな感じであった。ピンクブロンドの髪は肩口で切り揃えられており、前髪はパッツン。その下から覗く眉は長く目鼻などの顔立ちは整ってはいるのだが、垂れ下がった眉のせいか今にも眠っていまいそうに見える。

 そんな彼女は、ゆったりとした口調で言った。


「んやー? 新入生……かな?」


 興味深そうにこちらを見る彼女をよそに、ミディアムヘアの彼女は鬱陶しそうに肩に回された手を引き離した。


「ええぃ抱きつくな。というか、居たのかお前」

「最初からいたぜ?」

「え、マジで?」


 はぁとため息を吐き、疲れたように肩を落とす。

 肩から手を離したピンクブロンドの少女は、表情こそ変わらなかったが、いかにも「ツマラナイ」と言いたそうに唇を尖らせる。


「ちぇー、まぁいいや。ならライラの代わりに新入生ちゃんに抱きつこう」

「うおっ」


 ピンクブロンドの少女はそう言うと、真正面からリアの胸に顔を埋め、腰に手を回した。


「あ、柔らかい。ライラより抱き心地いいなお前」

「それは私の胸が無いと言いたいのか!?」


 両手で胸を抑える彼女を他所に、ピンクブロンドの少女は続ける。


「自己紹介がまだだったな。私の名はダルクだ、2人ともよろしく!! あと、一応部長をやってるぜ」


 ダルクと名乗った少女は、胸をパフパフしながら微笑んだ。

 リアもレイアも流れに沿って自己紹介すると、背後でがっくりとしていたミディアムヘアの彼女も「あ、忘れてた」と言いながら自己紹介をしてくれた。


「私はライラだ。この部活では副部長で、機械いじりが趣味の3年生だ」

「因みに私も3年生だよ」

「……はい、ダルクさんにライラさん、よろしくお願いします」


 俺に続いてレイアも口を開く。


「よろしくお願いします。あと先輩は機械いじりが好きなんですか? 実を言うと僕もなんだ。まぁ、とは言っても、技術的に見て本職には程遠いんだけどね」

「ほぅ、同士がいたとは。私も魔法を組み入れての機械いじりが基本だな」

「先輩のさっきの装置、凄いですね」

「何気に頑張ったからな。

 ふふっ、普段は設計など人に話す事はないが……君は言いふらすような性格には見えないし、構造を見てみるか?」

「是非!!」


 再び意気投合している2人。リアはそんな彼女達へ、会話が始まる前にヘルプを求める。


「あっ、あの。それはそうと、ダルク先輩をどうすれば……」


 正直ちょっと困っていた。それを察してくれたのか、ライラはダルクの首根っこを掴むと引き離してくれる。


「まったく、新入生に迷惑をかけるな」

「あー、桃源郷が……」


 名残惜しそうにこちらに手を伸ばすダルクを他所に、ライラは「そういえば……」と前置きしながら首をかしげる。


「ダルクを見てて思ったんだが、誰か忘れているような」

「ティオじゃない?」


 ダルクの即答に、ライラはハッとして部室を見渡した。


「やっべ、無視したまんま忘れてた……。ところであいつはどこに?」


 周囲を見渡している彼女に、俺はソファの方を指差しながら答える。


「あそこにいますよ? 膝を抱えて寝っ転がってます」

「完全に拗ねてるな」

「……拗ねてない。我が仲間外れにされた程度で拗ねるわけなかろう。我は煉獄界の支配者、常に孤独の身なのだ」


 グスッと鼻をすする音が聞こえ、なんとも言い難い空気が流れる。横でライラが小さく「面倒くせぇ」と言いながらも声をかける気はない様子だったので、リアが代わりにソファに近づいて声をかけることにした。ついでに自己紹介も兼ねて。


「無視してすいません先輩。俺の名前はリアっていいます。できれば貴方の名前も教えてくれませんか?」


 そう言うと、彼女はちらりとこちらを見る。その瞳は薄っすらと濡れていたが、もう涙は止まっているようだ。しかし、何故か一言も発せずにこちらをチラチラと見てくるだけである。

 あぁ、なんとなくこの先輩の扱い方が分かった気がした。リアは頭の中で先程の彼女の台詞を思い出しながら考え、思いついた台詞を口にした。


「煉獄界の支配者様。貴方様のお名前を、この私に教えていただけないでしょうか?」


 丁寧に言ってから頭を下げると、彼女の口元が緩んでいるのが見えた。その何気ない仕草が、見た目の幼さと相まって可愛いと思った。

 そして彼女は、バレていないと思っているのか口元を引き締め直し、バサリとコートを翻しながら立ち上がる。


「ふっ、ならば聞くがよい人間。我が名はティオ・レクト・キラニスッ!! 偉大なる我が名を……とくと心に刻むがいいッ!!」

「よろしく、ティオ先輩」

「せ、先輩……いい響きだ……」


 思春期特有の病気(中二病)を患ってはいるが、素直そうだし結構いい先輩なのかもしれない。まぁ、別の言い方をすればチョロいとも言えるのだが。

 


 そんなこんなで、これが今後長い付き合いになる遊戯部メンバーとの出会いであった。

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