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The battle of darker ③


 姦しく騒ぐ3人の上空から、微かな駆動音とジェットエンジンのような噴出音が降り注ぐ。空を見上げれば、曇天の中でも際立って見える紫色の大きな人型が見てとれた。


 鳥のように、しかし鳥よりも自由な動きでゆっくり降りてくる謎の機体に、リアの中の少年心が擽られる。


「なにあれ……なにあれ!?」

「リアっち興奮し過ぎだって、おい。って、なぁ待って、肩に乗るな!!」

「魔物じゃないよな、明らかに鋼鉄っぽい人工物だし。そうなるとつまり、ロボットなのか? アレは本物のロボットなのか!?」

「痛い痛い、リアっち私の髪の毛掴んでるから!! あと私はちょうど良い土台じゃねぇぞ!!」

「しかも空飛んでる、あの大きさで!! 人型のロボットが!! 何処のだろう? 魔道機動隊? どっちにしても格好良い!!」

「分かったから、なぁ!!」

「先輩!! 俺なんか今すっごく胸がドキドキしてます!!」

「そうかよ!! どけよ!!」


 興奮で語彙力を無くしながら、降りて来る紫色の機体……シストラムを指差すリア。魔法を使う事すら忘れて、ダルクを土台にしながら手を伸ばす。


 そんな彼女の様子に、レイアは苦笑しながら口を開く。


「落ち着きなってリア。アレにはたぶんライラ先輩が乗ってる、あぁー、機密たっぷりの新兵器みたいなものだと思うよ?」

「知ってるのかレイア!? って、先輩が乗ってる? え、あの機体は先輩が作ったの?」


 ダルクから降りて素早く詰め寄り説明を求めるリア。突然、鼻と鼻がぶつかりそうな程に距離を詰められたレイアは、キラキラと輝くリアの目を、顔を横に向けて逸らす。それから少し上ずった早口言葉で説明した。


「設計図及びに構造や理論はライラ先輩じゃないかな、後ティオ先輩が材料の研究兼、助手をやってたよ」

「マジか!?」


 ダルクに向けるものとは真逆の尊敬と純真100%の声で称賛を口にする。そんな彼女をレイアは軽く両手で押す。自分も手伝った部分はあるが、敢えて言わなかったのは……現状を見れば分かるだろう。絶対に面倒臭い。


「ところで、あのリア。近いからちょっと」

「あ、ごめん」

「いやいや、謝る事は無いよ。その、別に嫌じゃないから」


 最後の方は尻窄みになった言葉を聞き逃したリアは「……ん?」と首を傾げて反応した。レイアは何故か胸の奥底でホッと安堵しながら「何も言ってないよ」と笑顔を向けた。


 そういったやりとりをしている間に、シストラムはリア達が足場にしている結界の側まで着ける。リアがまた興奮して騒ぎ出す前に、ライラは外部スピーカーを鳴らした。


『随分と興奮しているようだなリア。もしかしなくてもロボットとか好きなタイプか?』


 ライラは予想できる返答に期待しながら、シストラムの6つのカメラアイを一瞬だけ光らせた。たったそれだけの行為なのだが、浪漫や少年心を擽られるものに結構弱いリアには、効果覿面であった。


「好きです、大好きです!! ロボットは浪漫ですよ!! 仕組みとかどうなっているんですか!? フレームの構造とか!! あと、多分全く理解できないと思うけど、設計図が見たいです!! それに1番気になるのは動力ですが、どんな動力を……まさか小型の原子炉とか?」

『グイグイ来るなぁ……だがすまん、答えてやりたいところだが、それらの情報は企業秘密だから教えられん』


 レイアは(え? 僕は知って良かったのか? あれ、もしかして後で口止めされる?)と軽く戦慄し、その隣ではリアが残念そうに項垂れる。


「そんなぁ……」

『でもまぁ、乗りたければ戦いが終わった後にでも乗せてやるぜ?』

「本当ですか!! 約束ですよ? よっしゃ、気合入った、頑張ります!!」


 表情とテンションが二転三転するリアをライラは微笑ましく見ながらも、話の軌道を引き戻す事にした。


『さて、時間的に猶予がある訳じゃねぇから、そろそろ作戦会議をしたいんだが』

「メインは、ティオ先輩が電磁砲で爆弾を撃ち込む道を作る……でしたか?」

「正直、僕はあの物量の触手が来ない通路を、長時間維持するのは難しいと思うんだけど」

『ティオも遠くからロケランで撹乱くらいはするらしいが、物量が足りない事、それがやっぱり問題になるな……』

「というか、それ以前に俺の負担大きくないっすかね。正直な所いくら《結界魔法》に関しては自信があると言っても、爆風と津波を押さえ切れるかは分かりませんよ?」

『期待してるぞ』

「期待してるぞって……まぁ、頑張ってはみますけども」


 「やらない、出来ない」とは言わない事に、ライラはティオの言った言葉が少し分かった気がした。

 そんな時「ガァア!!」と吠えるようなダルクの声が響いた。


「私を置いてけぼりにして、話を進めるな!!」


 なんて言いながら、シストラムのカメラアイに向かって指を刺すダルクに、ライラはダラっとした口調で返す。


『じゃあ何か? お前に、なんか突破口でもあんの?』

「あるぜ!!」


 自信満々な即答に、傍観していたレイアとリアも反応して、耳を傾ける。そんな2人に気がついたダルクはまず、リアの肩に手を置いた。


「リアっちの『籠手』って、どのくらいの威力が出る? ほら世にサラッと公表された情報と……夏の一件と、砂浜の決闘で、それなりに威力ある一撃を繰り出せると考えて……作戦の要にしたいんだが」

「《境界線の狩籠手》ですか?」

「そう、それ!! あとなんか技名があったような。いやそれはいいや、取り敢えずその『籠手』から繰り出せる最大の大技みたいなのある?」

「……ある、にはあるんですが」

「ですが?」

「一回しかぶっ放した事ないんで、ぶっちゃけ自分でも威力の調整が微妙なんですよね。因みに掌底技です。威力は円方の衝撃波で、たぶんビル一つくらいなら一撃で崩せます」

「いや強っ。なんだそれ……」


 隣で聞いていたレイアは思わず呟いた。自分の《召喚》した西洋甲冑なら一撃で魔力に帰すだろうし、《門》で呼び出した西洋甲冑であっても、一撃耐えれれば良い方である。ちょっと、悔しい。なんて思ってしまったレイアは頬を分かりやすく膨らませた。

 きっと、先の決闘を思い出して手加減されたとでも思っているんだろうなぁと考えて、リアは弁明するように説明を続ける。


「ただ、溜め時間が長いのと、魔力の4分の1は持ってかれるのが問題です。『籠手』自体、片方構築するだけで魔力の半分は消費しますし」

「燃費悪いな。でもまぁ、出来ない事もないって事で、いいんだよな?」

「……はい。ですから、先輩が自信を持って本当に、心の底から、その作戦が突破口になると思うなら俺はやりますよ?」


 リアの言葉には覚悟があった。当たり前だ、ダルクの言う技を使ってしまえば、あとは爆破の余波を防ぐ壁役にしかなれないから。そして、彼女自身の魔法使いとしての矜持とも言えよう。

 《結界魔法》の使い手を名乗るならば、目の前で、誰かを失う事こそ最も忌避すべき事である。


 そんな覚悟をキメにキメて、少しドスの乗ったリアの返しに対して、ダルクは自信満々に言った。


「いけるいける、というか、いくら大量の作戦を考えたところで、んなもんやってみなきゃ結果なんざ分かんねぇだろ? あとはライラやティオ、レイアでさえも突破口が思いつかない以上、私の作戦で行くしかねぇじゃん?」

『……まぁそうだな』

「僕も思いつきませんし、悔しいですが先輩の作戦とやらに頼るしかないですね。悔しいですが、とても」

「……俺も良い作戦は思いつきませんね。けど先輩、『籠手』の生み出す掌底の衝撃波は半分魔力ですよ? 大丈夫ですか?」

「大丈夫だ。そしてリアっちだけでなく私も動く。レイアにもライラにもガンガン頼るからな。特に大事な事と強調して態々2回も「悔しい」って言ったレイアには……キビキビ動いてもらうからな!!」

「んな、私怨反対!!」

「るせぇ!! あとライラァ!! お前はそんな御大層な武装で来てるんだから、覚悟はしてんだろ?」

『お前に頼られるのは心底嫌な予感しかしないのだが』

「俺も嫌な予感するなぁ。まぁでも、これ以上のんびりもしてられない訳ですし。そろそろ、作戦とやらを教えてもらっても?」


 リアの一言で三者は静まった。そしてダルクは皆が耳を傾け、視線が向くのを待ってから……作戦の前に一言だけお願いをする。


「みんな同意でいいな? それじゃあ作戦を説明……する前に一つお願いしてもいいかな? なに、簡単な事さ。もしこの作戦が思い通りに遂行できたら……私の扱いを改善してくれ」


 彼女の本心からの願いに、3人はほぼ同時に「成功したら考えてやるよ」と答えるのだった。


…………………


 粗方、ダルクがやろうとしている作戦を聞き、リアは真っ先に口を開いた。


「先輩、本気で言ってます? ってか、なんでそんな物持ち歩いているんですか……。それに《鍵箱》に入ってるの? 本当に?」

「本気だぜ? あと《鍵箱》は内部空間の操作が出来れば意外と入る、豆知識な」

「世界中探しても、たぶん先輩くらいしか出来ないんじゃ。いや、そこは今はいいとして。その作戦、大雑把すぎません? ってか俺が出来るかどうかに全てかかってるって時点でさぁ」

「リアっちなら出来る」

「応援が欲しいんじゃねぇよ、余りのガバガバな作戦に呆れてるだけです」

「そんなにガバってるか?」

「ガバってますよ。俺がタイミング外して失敗したら終わりだし、それ以前にまず成功するか微妙ですし」


 シストラムの頭部が露骨に横を向き、レイアは苦笑いを浮かべながら行く末を見守るだけに留まる。そんな彼女達を他所にして、ダルクはリアの肩に手を置くと、元気な声で激励した。


「レディファーストってやつだ、頑張れ!!」

「ここに居るのは全員女なんだが?」

「頑張れ」

「やるからには成功するように頑張るけど、失敗しても俺のせいにすんなよ?」


 リアはやけくそ気味に了承し、利き手である右に魔力を集中させ、完全状態の《境界線の狩籠手》を纏った。籠手を纏った以上、覚悟は決まった。


 一方で、作戦の流れを考えつつ、レイアは空を飛べる《戦乙女》を2体召喚する。ダルクは召喚されて間もない《戦乙女》の肩に手をかけ、乗った。


 なんとも間抜けな状況に見えるが、全員の雰囲気は本気であり、真剣そのものである。


 レイアは《門》で予め呼び出していた《西洋甲冑》を待機させ、準備を整える。ライラはギアを切り替えるようにシストラムの両手足のブレードを軽く素振りし、状態を確かめた。


 そうして準備を終えていく、中、最後にダルクはオクタから貰った指輪をメインの《鍵箱》に仕舞い込み、それから自身のネックレスにある別の『鍵』を2つ取り出すと、レイアに手渡した。


「空間系が得意なレイアなら説明しなくても分かると思うが一応、な。

 その鍵2つを斜め上に掲げて魔力を流し込みながら《鍵箱》と唱えるだけで開くように設定してある。座標位置は任せる。あと発動のタイミングは……私が空に行ってから赤い信号弾でサインを送る。その約5秒後だ。

 んじゃ、空までエスコート頼む」


 ダルクの言葉に《戦乙女》2体は頷くと、背中の翼を羽ばたかせ飛翔する。


 一方、西洋甲冑の動きをオートモードに切り替えた。ついでに魔力もありったけ流し込み、限界まで『自己修復』出来る様にし、指示を出す。


「触手を適当に相手をしながら、とにかく撹乱してくれ」


 指示を出すと、大きなグレートソードを肩に担ぎ、西洋甲冑は海の上を高速で駆け始める。それを機に、シストラムもメインスラスターを吹かし、瞬く間に遠くへ飛翔して行った。


 そうして不意に訪れた束の間。ふと、感慨深くリアは呟いた。


「……なんか、こうしてレイアと2人だけで並ぶのも久し振りだな」

「……入学式以来かな? 確かに、久しぶりな感じだ」


 少し照れくさそうに、レイアを頬を人差し指で掻く。それからレイアは空を見上げて話を続ける。


「にしてもダルク先輩も大概、異様だよね」

「作戦の事?」

「そう、この鍵もだけど。マーカーが必要で限定的なモノだけど、まさか《門》が使えた人がこんな近くに居るとは思わなかった。口では罵倒してるけどダルク先輩は魔法使いとしては、結構凄い人だよね」

「俺も凄いとは思うが……」

「思うが?」

「あの人の頭はやっぱり、どこかぶっ飛んでるなぁってる思ったよ。その2本の『鍵』もそうだけど、なんで廃都市に《門》のマーカーなんてセットしてるんだろな。その辺の変人ムーブで損してるよね」

「まぁ、僕もそれは思ったよ。でも、それを言い出したらライラ先輩やティオ先輩も大概だと思うけど」

「そうなのか? なんか色々と気になるな。この戦いが終わったら、のんびり夏休み中の話でもしようぜ」

「いいね、それ。僕もその籠手についてもっと聞きたい事もあるし。その為にも張り切って行こうか」

「おう」


 突き出された拳に、自分も握り拳を作り、軽くコツンとぶつけ合う。

 同時に空では花火のように、赤いサイン代わりの光が煌めいた。

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[一言] まあ、ダルクさんだから( ˘ω˘ )
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