第3話 ~私、戦います~
スキルスロットにびっしり書かれた全魔法と、同じくびっしり書かれた全スキル。
私は視界の文字列の量に驚きながら、同時に納得した。
ー《ファウル》の名は伊達じゃない。
おそらく、球状に変形して今私の周りを回っているデバイス……ファウルのせいだろう。
私自身には《システムコマンド》というスキルしかないが、ファウルには全魔法と全スキルを使用出来るようになっているのだろう。
「シュワァ!!」
おっと、放置していたらプランターが三体になっていた。
独特の音を発して毒の触手が迫る。
触れればHPを少し持っていかれる。ここは慎重にかわそう。
「お?」
速い。
「おお?」
圧倒的に速い。
「おおお!!」
数十の触手を踊るようにステップを踏み回避する。身体能力もチートだ、かすり傷1つつかない。
回避が出来たら次は攻撃だ。魔法から試そう。
「ええと、《ファイヤ》!!」
炎属性基本魔法、《ファイヤ》。私の前に展開した真紅の魔方陣は小さな火球を出すと、接近した触手を燃やして消滅した。
火球は一体のプランターに直撃、ダメージを与える。ここまでは大したことはない。
問題は、火球が火柱になり、99999という驚異的なダメージ表示を残して消えたことだ。
私の魔法攻撃力が999の為、基本魔法で最高ダメージになっているのだ。
……待てよ、魔王のHPは推定900000。フルパーティでやっと撃破出来る強敵だ。
対する私は……基本魔法+有利属性ボーナスで99999ダメージ。
「まさかのヌルゲー!?」
何故気付かなかった私。すぐに依頼終わらせて魔王倒して幼女をペロペロしなくては……!!
謎の使命感に後押しされ、最高クラスの炎魔法を詠唱する。
「我、不死鳥の炎と、太陽神の炎を使いし者……ええい、めんどくさいから省略!《テラインフェルノ・ブレイザー》!!」
詠唱を省略しても発動した魔法は、天に向かって突きだした手のひらの上に巨大な炎の塊として現れる。
「やっ!!」
炎塊は三体どころか周辺にいた全てのプランターを焼き付くし、消えた。
「よっし!」
私は脇目もふらずに東の森に進む。
森エルフの騎士団、《森の守護者》の騎士、ルインは苦汁をなめていた。
ゴブリンの不意討ちにより気絶して、目覚めたら木に縛られていた。騎士としては屈辱極まりなく、申し訳ない気持ちになっていた。
おそらく助けは来ないだろう。騎士団は捕虜になる者などは必要としていないだろう。
そう思いながら目を閉じる……その刹那。
「おおおりゃあ!!」
火球が奥のゴブリンを吹き飛ばし、高速で何かが突っ込んで来る。
ー速い!
それはゴブリンを殴り、止まる。
赤いポニーテール。色白で黄色のパーカーを着たおそらく人間の女は、接近するゴブリンを蹴る。
踊るような動きで数十体を倒すと、隊長らしきゴブリンを睨み、
「おおおおりゃあああああ!!」
殴り飛ばした。
速い、そして早い。数十秒で大量の敵を全滅させた。それも、たった一人で。
「じゃ!」
いつの間にか拘束をほどいていた女は足早にさっていった。
「近くの村の者か?」
ルインは村を目指すことにした。
後に仲間になる彼女達の出会いは、意外にあっさりしていた。