第四十七話:獅子の裁き
ヴァルデンライヒ王国、謁見の間。
その広大な空間は、今や荘厳さよりも、張り詰めた緊張と重苦しい気配に満ちていた。
中央には、公国の王族たちが並ばされている。
かつては一国を統べる側にあった者たちが、今は罪人として、ただ裁きを待つ存在へと堕していた。
周囲を取り囲むのは、大勢の貴族と廷臣たち。
誰一人として軽々しく口を開く者はおらず、ただこれから下される決定的な宣告を見届けようと、息を潜めている。
壇上には、国王レオポルド。
その傍らに王弟ジャック、そして王太子レオンハルトが控えていた。
やがて、静寂を切り裂くように、罪状の読み上げが始まる。
人体実験。
臓器売買。
違法薬物の使用。
魔物と人を利用した軍事開発。
呪術研究における生贄の使用――
そして――
ヴァルデンライヒ王族に対する洗脳未遂。
同じく、暗殺未遂。
淡々と並べられていくその一つひとつは、あまりにも非道で、あまりにも人の理から逸脱していた。
聞き進めるうちに、顔を顰める者が現れる。
目を伏せ、耐えるように沈黙する者もいた。
それでも、誰も耳を塞ぐことは許されない。
これは、現実であり、裁かれるべき事実なのだから。
すべてが読み上げられたあと、ゆっくりと一歩前に出たのは――ジャックだった。
その瞳には、一片の揺らぎもない。
「公王オスカー」
名を呼ばれた瞬間、場の空気がさらに冷え込む。
「民の命を、己の野心を潤す道具とした罪――」
「そして、王族に刃を向けた大逆の罪――」
「その首を以て、すべてを償え」
絶対の意思を伴った宣告。
それ以上の言葉は不要だった。
続いて、視線は公子エリックへと向けられる。
「公国は、お前が継げ」
思いもよらぬ言葉に、わずかにざわめきが走る。
「此度の一件――そのすべてを背負い、国を立て直せ。
大陸全土に罪は公表される。内外からの非難は免れぬだろう」
逃げ場はない。
赦しもまた、存在しない。
それでもなお――生きて償えと、命じられた。
エリックは、ゆっくりと頭を垂れた。
その肩は震えていたが、逃げることはしない。
「……承知、いたしました」
絞り出すような声。
そこにあったのは、絶望ではなく――すべてを受け止める覚悟だった。
そして、最後に残された一人。
公女ローゼマリー。
ジャックの視線が、冷ややかに彼女へと落ちる。
「お前には、生きたまま償ってもらう」
その言葉に、ようやく周囲の空気が揺らいだ。
「足の腱を断ち、舌を抜き、顔を焼く」
あまりにも苛烈な刑罰。
だが、それに見合うだけの罪を、彼女は積み重ねてきた。
「己の姿を、その罪とともに嘆き続けるがいい」
静かに告げられたその一言は、何よりも残酷な宣告だった。
だが――
当の本人だけは、その意味を理解していなかった。
「そんなの……違うわ」
かすかに笑みすら浮かべながら、ローゼマリーは首を振る。
「だって、私とジャック様は……愛し合う運命なのよ?」
疑う余地など欠片もない、純粋すぎる狂気。
その言葉に宿る歪んだ熱量に、場の誰もが息を呑んだ。
現実を前にしてなお崩れないその認識は、もはや哀れですらあった。
それでも、ジャックの表情は一切変わらない。
ただ静かに、彼女という存在を断罪していた。
そして――
「連れて行け」
短い命令だけが、淡々と下される。
その声には、もはや一片の感情も残っていなかった。




