表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
123/134

第四十七話:獅子の裁き

ヴァルデンライヒ王国、謁見の間。

その広大な空間は、今や荘厳さよりも、張り詰めた緊張と重苦しい気配に満ちていた。


中央には、公国の王族たちが並ばされている。

かつては一国を統べる側にあった者たちが、今は罪人として、ただ裁きを待つ存在へと堕していた。


周囲を取り囲むのは、大勢の貴族と廷臣たち。

誰一人として軽々しく口を開く者はおらず、ただこれから下される決定的な宣告を見届けようと、息を潜めている。


壇上には、国王レオポルド。

その傍らに王弟ジャック、そして王太子レオンハルトが控えていた。


やがて、静寂を切り裂くように、罪状の読み上げが始まる。


人体実験。

臓器売買。

違法薬物の使用。

魔物と人を利用した軍事開発。

呪術研究における生贄の使用――


そして――

ヴァルデンライヒ王族に対する洗脳未遂。

同じく、暗殺未遂。


淡々と並べられていくその一つひとつは、あまりにも非道で、あまりにも人の理から逸脱していた。


聞き進めるうちに、顔を顰める者が現れる。

目を伏せ、耐えるように沈黙する者もいた。


それでも、誰も耳を塞ぐことは許されない。

これは、現実であり、裁かれるべき事実なのだから。


すべてが読み上げられたあと、ゆっくりと一歩前に出たのは――ジャックだった。


その瞳には、一片の揺らぎもない。


「公王オスカー」


名を呼ばれた瞬間、場の空気がさらに冷え込む。


「民の命を、己の野心を潤す道具とした罪――」


「そして、王族に刃を向けた大逆の罪――」


「その首を以て、すべてを償え」


絶対の意思を伴った宣告。

それ以上の言葉は不要だった。


続いて、視線は公子エリックへと向けられる。


「公国は、お前が継げ」


思いもよらぬ言葉に、わずかにざわめきが走る。


「此度の一件――そのすべてを背負い、国を立て直せ。

大陸全土に罪は公表される。内外からの非難は免れぬだろう」


逃げ場はない。

赦しもまた、存在しない。


それでもなお――生きて償えと、命じられた。


エリックは、ゆっくりと頭を垂れた。

その肩は震えていたが、逃げることはしない。


「……承知、いたしました」


絞り出すような声。

そこにあったのは、絶望ではなく――すべてを受け止める覚悟だった。


そして、最後に残された一人。


公女ローゼマリー。


ジャックの視線が、冷ややかに彼女へと落ちる。


「お前には、生きたまま償ってもらう」


その言葉に、ようやく周囲の空気が揺らいだ。


「足の腱を断ち、舌を抜き、顔を焼く」


あまりにも苛烈な刑罰。

だが、それに見合うだけの罪を、彼女は積み重ねてきた。


「己の姿を、その罪とともに嘆き続けるがいい」


静かに告げられたその一言は、何よりも残酷な宣告だった。


だが――


当の本人だけは、その意味を理解していなかった。


「そんなの……違うわ」


かすかに笑みすら浮かべながら、ローゼマリーは首を振る。


「だって、私とジャック様は……愛し合う運命なのよ?」


疑う余地など欠片もない、純粋すぎる狂気。


その言葉に宿る歪んだ熱量に、場の誰もが息を呑んだ。


現実を前にしてなお崩れないその認識は、もはや哀れですらあった。


それでも、ジャックの表情は一切変わらない。


ただ静かに、彼女という存在を断罪していた。


そして――


「連れて行け」


短い命令だけが、淡々と下される。


その声には、もはや一片の感情も残っていなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ