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晴れの章

地下はひんやりと冷たく、静寂に包まれていた

それなのに、耳の奥では太陽の「ジリジリ」という音が幻聴のように響いていた


壁のあちこちには崩落の跡

そこには、かつて誰かが生きた証が残されていた


奥へ進むと不自然な光が通路の先から漏れていた

「ここ……何かある」

ミリの声が緊張に震えた

慎重に通路を進むと、広い空間に出た

そこは古い避難施設のようだった

崩れかけた照明、剥き出しの配管

部屋の中央に、ぽつんと浮かぶ球体

光を放つその中に「晴れの章」が封じられていた


その前に1人の男が立っていた

全身を白い布で覆い、顔までも隠している――フェニックスの伝統的な暑さ対策の装束

「ここまで来るとはな」

男は低く、懐かしむような声でゆっくりと振り返った


「章の力を……抑え込んでるんですか?」

マリョが光の球体を見つめながら訊いた

「そうだ、私はこの都市の生き残りだ もう数十人しか居ない 焼け落ちた太陽にやられた」

男は過去を遠く眺めるように言った

「この章は都市を焼き尽くす 封じ込めるしかない――地下の太陽として」

晴れの章は震えて力が弱っているように見える

「地上は少しずつ暮らせるようになってきた 熱波が和らいだ、あと少しだ」

満足げに男は言う

「でも……それじゃ章の力は……」

「そうだ、いずれ晴れは消える お前たちのように【戻す】ものではない」

悔しそうに唇を噛みながら続ける

「私は、希望が欲しかった たとえそれが……偽りでも」


アオは、一歩前に出て言った

「それでも、僕たちに譲ってくれませんか?世界を元に戻したいんです フェニックスだけじゃなく、全部を」

長い沈黙が流れる

やがて男は深く息を吐いた

「……お前たちは、あの頃の僕に似ている 諦めを知らない馬鹿野郎だ」

男は手を伸ばし晴れの章を球体から出した

「せめて約束してくれ この場所を、忘れないでくれ」

アオたちは力強く頷いた

「きっと世界を元通りにします」


――


男は球体を愛おしそうに撫でた

「私には何も残っていない しかし、いつかお前たちが世界を戻したその日に、この都市もまた目を覚ますはずだ」

彼は振り返らずに言った

「私はここに残り、再び人が住める場所に準備をしておく」


マリョが言う

「彼がいるなら、この街はきっとまた」

アオは頷いた

男は振り返らずに答えた

「任せろ フェニックスは必ず蘇る」


3人は静かに地上への階段を登った

後ろで男が瓦礫をどける音が聞こえる

もう作業をしている

フェニックス復活の第1歩だった

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