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北方海の守護天使  作者: h.hiro
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第30話「まほろば中央海へ・後編」

「何故まほろばが作戦に参加出来ないのですか!?」

宗武商会長室にイーリスの声が響く。

まみや丸襲ったシーサーペントを撃滅する為に急遽掃討艦隊が結成される事が中央海のハンターギルドで決定された。

エスターク商会の艦艇に宗武商会からはゆきしおそしてまほろばが参加する事になっていたのだが。

その準備中にマドカとイーリスは呼び出され、商会長である真雪にこう告げられたのだった。

「まほろばは今回の作戦に参加出来ない。」と。

突然の通達にマドカは困惑の表情を浮かべ、イーリスは思わず真雪に詰め寄ってしまっていた。

「・・・ハンターギルドの決定ですエーデン副長、エスターク商会からまほろばとの共同作戦は出来ないと言う通告があった為です。」

エスターク商会のシーサーペントの撃破がまほろばの攻撃の為失敗した、そんな者達との共同作戦は断らせてもらう、そうハンターギルドに通告して来たと真雪は説明する。

「あいつら・・・」

イーリスはエスターク商会の理不尽な言い様に怒りが溢れて来る。

「商会長、エリちゃんいえ牧瀬艦長の対応は間違っていなかったと思います。」

マドカはそう言って真雪を見る、彼女も今回のエスターク商会の言い分に怒りを覚えていた。

あの時恵理香が閃光弾でシーサーペントをまみや丸から引き離してくれなければ、救助できなかっただけでは無く、最悪沈没もあり得たのだから。

「・・・分かっています大谷艦長、ですがギルドがそう決定した以上従わなければなりません。」

自分の説明にマドカとイーリスが不服な表情を浮かべるのを見て真雪は苦渋の思いが深くなって来るのだった。

真雪とて今回のエスターク商会の抗議やギルドの決定に納得できない思いを抱ている。

様はギルドに所属する商会の中で大きな影響力を持つエスターク商会にギルド幹部が忖度した結果だった。

とは言え宗武商会もギルドに所属している以上その決定には逆らうのは、これからの商会の活動に影響が出てしまう。

だから真雪もその決定を受け入れざるを得なかったのだ。

ギルドの決定が通告された日、真雪はそれを恵理香に直接説明する為まほろばを訪れた。

彼女を中央海に呼んだのは自分だ、だとすれば人を介して伝えるのではなく自分が出向いてやるべきだと真雪は判断したからだ。

「分かりました宗武商会長、まほろばは港で待機します。」

真雪からの通達を聞いた恵理香は穏やかに微笑みながら答えた、そう理由の説明を求めたり抗議する事も無く。

恵理香が自分と商会の立場を案じて何も言わなかった事が真雪はよくわかった。

「宗武商会長、皆に伝言をお願いします。」

恵理香の伝言を受け取りまほろばを降りた真雪は自嘲気味に呟く。

「教え子の立場を悪くしたうえに、その相手から気を使われる・・・これじゃ恩師なんて恥ずかしくて言えませんね。」

真雪はそんな事を思い出しながら、気を取り直しマドカとイーリスに恵理香からの伝言を伝える。

「2人に牧瀬艦長からの伝言を伝えます、『私の事に構わず、自分の責務を果たして下さい。』との事です、大谷艦長、エーデン副長。」

マドカとイーリスは恵理香からの伝言にはっとした表情を浮かべると互いに顔を見合わせ頷きあう。

「エリちゃん・・・」

「・・・らしいですね。」

自分の責務、シーサーペントの掃討を一時的な感情で忘れないで欲しい、恵理香らしいその言葉にマドカとイーリスは冷静になる事が出来た。

養成学校時代もそうだった、自分達の心情を察し、適切な助言を恵理香はしてくれたものだったとマドカとイーリスは思い出す。

多分このままだったら二人は任務を怒りのあまり放棄してしまっていたかもしれない。

そうなればマドカとイーリスはもちろん宗武商会の立場も悪くしていただろうし二人は後に深い後悔をしただろう。

それに気付いたマドカとイーリスは再び頷きあうと姿勢を正し真雪に向き合い頭を下げる。

「商会長申し訳ありませんでした、自分達は責務を果たします。」

「出来過ぎた真似をいたしました、皆に牧瀬艦長の言葉を伝えたいと思います、きっと皆分かってくれます。」

マドカとイーリスの言葉に真雪は微笑んで頷く。

「ええ二人ともよろしくお願いね。」

冷静になってくれたマドカとイーリス、適切な助言をしてくれた恵理香、私は何て素晴らしい教え子たちを持てたのだろう、そんな感激に真雪は包まれていた。

数時間後、ゆきしおはエスターク商会の艦と共に作戦海域に向かっていたのだが・・・

はっきり言ってゆきしお艦橋の雰囲気は最悪と言えるだろう、誰も押し黙り何時もの明るい会話も無かった。

それはゆきしおに戻ったマドカにエスターク商会の抗議でまほろばが作戦に参加出来ないと知らされた乗員達が皆怒った結果だった。

一応恵理香の伝言をマドカから伝えられ皆は表面的には受け入れたもののやはり感情は別で納得できた訳ではなかった、

だがそんな雰囲気を吹き飛ばす様に事態が動き始める。

「艦長!前方6千にシーサーペントらしき反応有り。」

センサー担当が緊張しつつ事態を報告をしてくる。

マドカが頷くのを見てイーリスが詳しい情報を訪ねる。

「方位と数は?」

「方位右70、数は1匹の様です!」

センサー担当から情報を聞いたマドカが指示を出す。

「総員戦闘配置に付いて!艦載砲及びロケット弾発射準備!」

続いてイーリスが指示を出し操舵担当と機関担当がそれを復唱する。

「進路右70、両舷全速!」

「了解、進路右70。」

「両舷全速!」

『エスターク商会の2艦先行します。』

左舷見張り担当の報告が入る、イーリスは眉を顰めたが何も言わなかった。

ゆきしおは先行するエスターク商会に続きながらシーサーペントへ向かう。

「シーサーペントを確認・・・?目標が進路を変更、後退して行きます。」

やがて接近したところでシーサーペントを発見したのだが・・・

「後退?」

イーリスが信じられないと言った面持ちで言う、何故ならシーサーペントは自分が深く傷つかない限り逃げる事が無かったからだ。

「艦長追撃を・・・」

「待ってイーリスちゃん、エリちゃんの言葉を思い出して。」

取り敢えず追撃を進言しようとしたイーリスの言葉をマドカが遮る。

「だからイーリスちゃんは・・・あっ!?」

マドカの言葉に苦言を返そうとして、イーリスは艦長の言いたい事を理解する。

『シーサーペントは狩りについてはとても狡猾です、もし連中が普段と違う行動を取ったら注意して下さい。』

恵理香が演習前にイーリス達にそう言っていた事を思い出す。

「それじゃ艦長、これはもしかして?」

イーリスの言葉にマドカは頷くと指示を出す。

「ゆきしおは一定の距離を保ちつつ追跡します。」

我先にと追撃して行くエスターク商会とシーサーペントをゆきしおは距離を保ちつつ追う。

「シーサーペントの進路及び速力変わらず・・・前方に双子島を確認。」

センサー担当が報告して来る、ちなみに双子島と言うのは形状が似た島で、艦船がせいぜい2隻通れるかと言う間隔で並んでいる。

マドカとイーリスは双眼鏡でシーサーペントとエスターク商会がその双子島の間の水域に入って行くのを確認する。

そして両者がその水域に入った瞬間・・・

「艦長!?シーサーペントがエスターク商会の2艦の間に浮上して来ます。」

狭い水域に入ったエスターク商会艦の間に突如シーサーペントが浮上して来たのだ。

僚艦が至近距離な為エスターク商会艦は攻撃が出来ずパニック状態に陥る。

「どこから現れたんだ!?」

イーリスがその状況を見て叫ぶ、その水域にシーサーペントが居たならセンサーが捉えた筈だからだ。

「多分海底に潜んでいたんだよ、言っていたじゃないエリちゃんが、やつらは短時間なら水中に潜んで居られるって。」

冷静にマドカが答える、北方海でも流氷の下に隠れ艦船を襲った事が有る、恵理香がそう言っていたのを思い出しながら。

『右舷エスターク商会艦が損傷、速力低下、左舷の艦も攻撃を受けてる!』

両艦の間に現れたシーサーペントによりエスターク商会艦は為す術も無く損傷を受けて行く様子を見張り担当が報告する。

「艦首艦載砲に閃光弾装填、射撃準備急いで!」

マドカが指示をする、憎い相手だが見殺しには出来ない。

『艦首艦載砲に閃光弾装填します。』

艦載火器管制室がマドカの指示を復唱する。

ゆきしおの艦首砲塔が旋回、砲身が仰角を取る。

『射撃準備良し・・・』

「打ち方始め!」

マドカの指示によりゆきしおの艦首砲塔が閃光弾を発射、エスターク商会艦とシーサーペント間に閃光が広がる。

「エスターク商会に離脱する様伝えて、ロケット弾発射準備。」

「ロケット弾発射準備急げ!」

イーリスがマドカの指示を火器管制室に伝える。

『エスターク商会艦離脱して行きます、シーサーペント目標を見失った模様、誘導していた奴が戻って来ます。』

閃光弾によりエスターク商会艦をシーサーペントは見失う、一方誘導していた方は進路を戻しこちらに向かって来ようとしていた。

「面舵一杯、艦首ランチャー発射用意。」

進路を右に切ったゆきしおは艦首のランチャーを左舷側に向ける。

「イーリスちゃん、2匹の進路が重なった瞬間に発射する様に管制室へ指示をお願い!」

「だからイーリスちゃんは・・・管制室、2匹の進路が重なったのに合わせてロケット弾を発射してくれ。」

イーリスはつい何時もの小言を言いそうになるのを抑え管制室へマドカの指示を伝える。

そして指示通りシーサーペント2匹が重なった瞬間ランチャーからロケット弾が発射される。

マドカとイーリスは左舷側の窓に駆け寄り双眼鏡で状況を確認しようとする。

こちらに突進して来たシーサーペント2匹にゆきしおから発射されたロケット弾が正確に命中し激しい爆発音が響き水柱が立つ。

「状況を確認!」

双眼鏡を降ろして振り向くとマドカが叫ぶ。

「シーサーペントの反応消失を確認!」

センサー担当が複合ディスプレーを見ながら叫ぶ。

「・・・それにしても牧瀬艦長はこの事を予測していたんでしょうか?」

双眼鏡でどす黒い体液に覆われる海面を見ながらイーリスが呟く。

「多分ね・・・エリちゃんならそのくらいやりそうだよ。」

イーリスの呟きに苦笑しながらマドカが答える、そう北方海の守護天使ならと・・・まあ恵理香が聞いたら困った表情を浮かべるだろうが。

「エスターク商会艦に救援が必要か確認を・・・」

「分かりました、まあそうだとしても素直に救援を依頼してくるか疑問ですが。」

マドカが指示すると双眼鏡を降ろしたイーリスは肩を竦めながら艦内電話を取り上げて言う。

実際その通りで、『手助けなど要らない、自力で帰る。』と返答が来てマドカ達は皆呆れた顔をしたのだった。

双子島を後にして港に帰って来たゆきしおが接岸し、ほっとした表情で降りて来たマドカ達をある人物が待っていた。

「皆さんお帰りなさい・・・そして任務達成ご苦労様でした。」

それは恵理香だった、その姿にマドカ達は最初は驚いたが直ぐにそれを歓喜に変え彼女を取り囲む。

「エリちゃん!うん任務は大成功だよありがとう。」

「これも牧瀬艦長のお陰だ、感謝する。」

「「「「守護天使の力、やっぱり凄いです!」」」」

マドカ達の称賛に恵理香は皆が想像していた通り困った表情で答える。

「いえ、それは皆さんの実力です、私は助言しただけですから。」

その答えにマドカ達は顔を見合わせて笑う、恵理香らしいと思って。

だがそんな状況に水を差す輩が現れる。

「ふざけやがって!みんなお前たちの所為だぞ!」

エスターク商会の連中だった、ゆきしおの乗員達は皆一斉に呆れた表情を浮かべる。

どう考えても油断していた彼らの責任の筈なのだが、それを棚に上げてマドカ達に文句を付けて来たからだ。

「私は貴方達にも警告した筈です、シーサーペントを侮ってはいけないと。」

恵理香は聞いてくれるか分からなかったが、真雪を通じてエスターク商会に伝えていた筈だった、まあ連中は歯牙にもかけなかった様だが。

「それが無かったとしてもゆきしおは慎重に行動しました、だけど貴方達は油断した、その差が今回の結果じゃないですか?」

エスターク商会の前に出て恵理香は冷静に指摘するが、怒り心頭の連中に通じる筈も無く、余計に怒りを強めただけだった。

「うるさい!今度こそ分からせてやる・・・」

「馬鹿野郎!分からさせられるのはお前達の方だろうが。」

恵理香に掴みかかろうとしたエスターク商会の男の前に、そう怒鳴り付けながら黒い影が入り込んで来た。

「うげぇ!」

掴みかかろうとした男はその影に吹き飛ばされ奇妙な声を上げて、桟橋に有ったコンテナに叩きつけられる。

「商会長!?」

残ったエスターク商会の者達はそう言って固まる。

「商会長?」

突然の出来事に固まった恵理香は目の前に立つ影、自分の倍はある体格の男を見上げて呟く。

「お初にお目にかかる牧瀬艦長、エスターク商会長ジャミル・エスタークだ。」

振り向いてそう名乗る彼を恵理香は思わず見つめてしまう。

「今日はうちの馬鹿共が迷惑を掛けて申し訳なかった。」

ジャミルはそう言って彼の出現に固まっている恵理香に頭を下げる。

「で、でも商会長、俺たちは・・・」

そんなジャミルの言葉にエスターク商会員達が言い訳しようとするが、振り向いた彼の眼光に黙らされる。

「黙れこのエスターク商会の面汚しどもが・・・さっき牧瀬艦長が言った通りだろうが、お前達は一体何をしてやがる。」

「「「・・・・・・」」」

「しかも勝手にギルドに抗議してまほろばの作戦参加を邪魔したな・・・お前達のしでかした事を何処かにやってな。」

どうやらエスターク商会の抗議は彼らが勝手にやった事なのだと恵理香達は気付きマドカやイーリスと顔を見合わせる。

「お前達に海に出る資格は無い、全員再教育を言い渡す、さあそこで伸びている奴を連れて商会に戻って謹慎していろ。」

厳しい沙汰を言い渡された者達はしょげかえるとコンテナに叩きつけられて気を失っている男を連れトボトボ帰って行った。

「さて牧瀬艦長、大谷艦長、正式な謝罪は宗武商会長を通して行う積もりだ。」

もう一度恵理香達に向かうと頭を下げてジャミルは言う。

「いえ、そうであればこれ以上は言う事はありません、そうですね大谷艦長?」

「はい、事情は理解しましたエスターク商会長。」

今回の件が彼らの独断専行だと恵理香とマドカは理解出来たのでそう答える。

「そうか感謝する・・・それでは失礼する。」

ジャミルはそう言うと帰ろうとしたが何かに気付いたのか恵理香に再び向き合う。

「牧瀬艦長、北方海に戻ったらギルド長のレイアに伝えてくれ、死にぞこないのジャミルが会いたがっていたとな。」

そう言ってジャミルはニヤリと笑う。

「ギルド長とお知り合いだったのですか?」

驚いた恵理香が聞き返す。

「ああ、昔色々とな、まあ頼む・・・北方海の守護天使殿。」

最後に茶目っ気たっぷりに言ってジャミル帰って行ったのだった。

なお、後日恵理香がその言葉をレイアに伝えたところ、『まだそんな事を言っているのかあの男は。」と言って呆れていたが。

兎も角演習参加中に始まった一連の騒動は終結し、以後の予定は全て順調に進んだのだった。

そして恵理香は中央海での予定を全て終え北方海へ帰る事になった。

当然、お別れ会が盛大に開かれたのは言うまでも無かった。

3日後・接続海域。

まほろばがゆきしおと共に航行していた。

護衛を兼ねた見送りの為だった、これはもちろん真雪の好意だった。

「まほろばより通信、『見送りを感謝します、大谷艦長とゆきしお乗員の皆さん、またお会いしましょう。』との事です艦長。」

通信室から届いた連絡をイーリスが艦橋に居る者達に伝える、心なしか声を震えさせながら。

「・・・まほろばへ返信、『エリちゃんとまほろば乗員の皆の幸運を祈ります、絶対再会しましょう。』。」

「了解です艦長。」

自分と同じく別れの寂しさを感じながらもそう言うマドカに、艦長らしいなと思いながらイーリスは通信室へその言葉を伝える。

『まほろば離れて行きます。』

見張り担当の報告通りまほろばは北方海へ進路を取ってゆきしおから離れて行く。

マドカを始めとした乗員達はその姿が水平線に完全に消えるまで目を離そうとはしなかった。

「皆、悲しむ事は無いよ、中央海と北方海は繋がっているんだよ、諦めない限りまたきっと会えるんだから。」

努めて明るい表情と声を出しマドカは皆を鼓舞しようする。

「そうですねきっと・・・希望を忘れなければまた会えますね。」

イーリスもそう言って努めて明るく皆に言う。

「うんそうですねまた会えますよね。」

「その時が楽しみです。」

マドカとイーリスの言葉に乗員達は皆生気を取り戻した様に声を上げる。

「だからエリちゃんやまほろばの皆に負けない様頑張らなくちゃね、そうじゃないと笑われちゃう。」

皆の言葉を聞きながら、まほろばの消えていった海を見つめマドカは自分に言い聞かせる様に呟く。

きっと恵理香も私達同様そう考えてくれていると信じて・・・


14:00

中央海での全ての任務終了し北方海へ帰港。

ゆきしおの見送りを受ける。

また会える事を祈りつつ。

報告者:牧瀬商会所属駆逐艦まほろば艦長牧瀬 恵理香。

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