第28話「北方海のゴーストシップ」
北方海の洋上を1隻の貨客船が航行していた。
そのブリッジで当直についていた航海士の所にコーヒーを持った船長がやって来る。
「眠気覚ましのコーヒー持ってきたぞ。」
「ああ船長ありがとうございます。」
当直に付いていた航海士は双眼鏡を下すとコーヒーを受け取って一口飲む。
「問題は無いみたいだな。」
船長は前方の海上を見ながら呟く。
「ええ平和なものですよ、このまま無事に港に着いて・・・」
だが航海士の言葉は前方に何かが浮き上がって来た事で途切れる。
航海士が慌てて双眼鏡でそれを見て驚きの声を上げる。
「あ、あれって船長!?」
言われた艦長も置いてあった双眼鏡を構えてそれを見る。
「・・・こっちの進路上に突然現れやがって何のつもりだあいつは!!」
双眼鏡を下し船長は怒った表情を浮かべて叫ぶ。
「通信室に言って直ぐ進路を開ける様に連絡させろ、まったく航海法も知らないど素人か。」
「了解です、通信室・・・」
船長の怒鳴り声に航海士が慌てて船内電話を取り上げ通信室を呼び出そうとした次の瞬間。
轟音が響き船長と航海士は何が起こったか気づく事もなくブリッジと共に吹き飛ばさてしまう。
そしてブリッジを吹き飛ばされ擱座した貨客船はやがて船体各部が火に包まれると海中に沈んでいった。
後には漂流物だけが残されているだけで貨客船を沈めたものはいつの間にかその姿を消していた。
「連続遭難・・・事件ですか?」
レイアから緊急の呼び出しを受け恵理香はギルド長室に優香とロベリヤと共に来ていた。
「そうだ牧瀬艦長・・・最早事件と呼ぶしかない状況だな。」
大型ディスプレーに表示された海図の前でレイアは肩を竦めながら恵理香の問いに答える。
「今月に入って既に5隻の船がやられている、一昨日も貨物船が沈められた。」
表示された海図に書かれているバツ印と日付を見て恵理香が言う。
「一定の海域ではありませんね、私には移動している様に見えるのですが。」
その言葉にレイアは頷いて答える。
「私も同意見だ、まあこれがシーサーペントの仕業なら大きな問題だが対処法は単純なんだが。」
「それでは原因はシーサーペントではないとギルド長はお考えなのですか?」
恵理香の隣に立っているロベリヤが深刻な表情を浮かべ問いか開けてくる。
「今回は・・・シーサーペントさえも犠牲になっているんだよレインバーク。」
海図に表示されているバツ印の一つを指し示しながらレイアがその疑問に答える。
「十数匹のシーサーペントの死体を確認しているが、掃討したという報告は無い。」
普通ハンターチームがシーサーペントを撃破すればギルドに報告が上がる筈なのだ。
「そして・・・沈められたり撃破された原因は砲撃を受けた結果だと報告が上がっている。」
恵理香達は顔を見わせる、それが意味する事に気づいて・・・
「砲撃だとすれば艦艇ですが・・・該当するものは見つかっていないのですね?」
恵理香の問いにレイアが深く頷きつつ答える。
「事件後、現場海域にハンターの駆逐艦が急行したが見当たらなかった・・・シーサーペントの時を含めてな。」
「・・・」
商船やシーサーペントを撃破する程の艦載砲を搭載している艦艇を歴戦のハンター達が容易く見逃すとは恵理香には思えなかった。
最早お手上げだと言うようにレイアは肩を竦めて見せる。
「ここまでくれば牧瀬艦長いや守護天使に頼るしかないと言う訳だ。」
レイアの言葉に恵理香は苦笑すると海図を見ながら問い掛ける。
「それで確認したいのですが・・・こいつの目的地は中央港だとギルド長は確信しているのですね?」
「「ええ!?」」
ロベリヤと優香が驚きの声を上げ恵理香を見る。
「流石だな守護天使・・・そう奴の最終目的地はそこだと私は結論した。」
海図上で点々と続く事件現場の先を追って行くと中央港に辿り着く事に恵理香は気づき、レイアもまたそう確信しているらしい。
「想定される被害は説明の必要は無いだろう牧瀬艦長・・・」
中央港に向かう進路上には多くの航路や漁場が存在する、今までの状況から何が起こるかは恵理香だけでなくロベリヤと優香にも容易に理解出来た。
「了解しました、まほろばはこれより正体不明の艦艇の進行阻止に向かいます。」
「ああ頼むぞ牧瀬艦長。」
桟橋に向かった恵理香は待機中だったまほろばに乗艦すると緊急出港させると貨物船の沈没海域に向かった。
「センサーによる監視と見張りを厳重にして下さい、副長総員を戦闘配置に。」
「総員戦闘配置繰り返す総員戦闘配。」
副長が艦内にアナウンスすると共にアラーム音鳴り響かせる。
「さて上手く見つかるといいんだけどね。」
隣の立つロベリヤが共用ディスプレーに映し出されいる海図を見ながら呟く。
「出来れば次の被害が出ないうちに見つけたいものですね。」
同じく恵理香の傍らに控える優香も共用ディスプレーを見て言う。
それは恵理香も同じ気持ちだ、これ以上の犠牲者を出さない為にも。
「艦長!海中をこちらに向かってくる目標を探知。」
捜索を開始て1時間経った時だった、センサー担当が振り向いて報告する。
「シーサーペントですか?」
短時間ならシーサーペントは海中を移動出来る、恵理香がそう考え問うとセンサー担当は首を振って答える。
「いえ、機械音がするので違うかと・・・目標浮上します!」
「外部カメラ作動、画像を共用ディスプレーに出して下さい。」
共用ディスプレーに海上に浮上しまほろばに向かってくる艦艇らしきものが映る。
「拡大して下さい。」
「はい艦長。」
ディスプレーに拡大されたその艦艇の映像が表示される。
それは船体上の大きな司令塔の前部に連装の艦載砲を持つ潜水艇だった。
「シ、シュールクーフ!?そんな何故・・・」
それを見た優香が驚愕の声を上げる。
「シュールクーフ?・・・って総員衝撃に注意。」
画面上でシュールクーフの艦載砲がまほろばに照準を合わせている事に気づいた恵理香が叫ぶ。
その声に優香やロベリヤそして乗員達が身構えた瞬間、まほろばの両舷に水柱が上がり激しい衝撃が艦を激しく揺さぶる。
「一旦離れます、面舵一杯、前進全速。」
「面舵一杯!」
「前進全速。」
操舵担当と機関担当が復唱するとまほろばは舵を切り速度上げてシュールクーフから離脱する。
「目標追って来ません、潜航後そのまま進行して行きます。」
センサー担当が報告するの聞きながら恵理香は考え込む。
「どうやら目の前の障害をしか興味がないみたいだね・・・ところであれを見てシュールクーフって言っていた様だけど?」
そう呟いた後ロベリヤは振り向いて優香に問い掛ける。
「・・・恵理香、あれはシュールクーフよね?」
「ええ間違いないと思いますよ優香。」
ロベリヤの問いに答えず優香は深刻な表情を浮かべて恵理香に確認してくる。
そして恵理香もまた優香に同様に深刻な表情を浮かべながら答える。
ロベリヤはそんな恵理香と優香に困惑する。
シュールクーフ、恵理香が転生前の世界ではフランス海軍の潜水艦であり、ゲームでも登場していた艦だった。
そしてこの世界では・・・
「シュールクーフは中央海のある商会が建造した無人潜水艇です、但し半月前に沈んだ筈だけど。」
気を取り直し優香はロベリヤの問いに答える。
人的被害を出さずシーサーペントを撃破出来ると鳴り物入りで開発された潜水艇だと優香は説明する。
それがケイの作ったまほろばを意識して建造された事は処女航海のゴールに北方海中央港を選んだ時点で想像が付く話だった。
もっともケイはその事実に冷笑を浮かべながらこう言ったものだ。
「はん!機械仕掛けの玩具が果たして中央港まで辿り着けるかしらね、まあ精々頑張って欲しいものだね。」
恵理香としては自動化については否定してはいない、だが自動化だけに頼るのではなく人もまた大きく関わるべきだとは思っている、それはケイと優香も同意見だった。
そして案の定シュールクーフは北方海に入り数度のシーサーペントとの交戦後消息を絶ってしまった。
原因につてはケイは数度の戦闘でその戦闘パターンをシーサーペントに見抜かれたのだろうと言っていた。
シーサーペントの狩りに対する狡猾さを知る恵理香にしてみればケイの結論は納得できる話だった。
「そんな事があったんだね・・・でもそうだとしたらあのシュールクーフは一体?」
事情を聞いたロベリヤは事情を理解したが、同時に疑問に感じて優香に問い掛ける。
「私がケイから聞いた話だけど、シュールクーフには損傷したら自動的に修復するシステムを備えているらしいわ。」
優香がロベリヤの問いにそう答える。
「それじゃ奴は自らを修復したと言う事かい優香?」
「その可能性が高いわね、そして原因は今のところ不明だけどシュールクーフは現在暴走している。」
ロベリヤに答える優香の言葉に恵理香はそれがシステムの欠陥だったのかそれとも何らかの異常が重なった結果なのかと考える。
「一旦戻ります、現状では手が出せませんからね。」
まほろばには水中攻撃用の武装が無かった。
いやこの世界には爆雷等の海中の敵を攻撃する兵器が元々存在していなかったのだ。
シーサーペントは水中での活動時間は短く、その駆除は海上がメインだった為、艦載砲やロケット弾で十分だったからだ。
まあメタな事を言えばゲームの設定がそうなっているからなのだがと恵理香は内心深い溜息をつく。
中央港に戻った恵理香は再び優香とロベリヤを連れギルドに向かった。
「シュールクーフだと!?」
ギルド長室でレイアは恵理香からの報告を聞いて絶句する。
「間違いありません、撮影された映像を見て頂ければわかります。」
恵理香はそう言うと優香に撮影された映像をディスプレーに映し出すように頼む。
「その様だな・・・まさかそんなものが出て来るとは思わなかったが。」
映し出された映像を見てレイアは深いため息を付いて見せる。
「厄介な事になったな、相手がシーサーペントと違って長時間海中に居られるとすれば我々には攻撃手段が無い。」
レイアも有効な攻撃手段が無い事に気づき深刻な表情を浮かべ唸る。
「特殊潜航艇S1で対抗できるか?」
レイアの問いに優香は首を横に振りながら答える。
「難しいでしょうね、速度と機動性では上回っていますが、シュールクーフに比べれば武装が貧弱ですから。」
搭載されている武装はロケット弾用のランチャーのみで、しかも水中では使用を想定したものではなかった。
「・・・優香、ロケット弾の起爆装置を水圧感応信管に切り替えて貰えますか。」
「水圧感応信管?でもあれは精々水深2~3メートルまでしか使えないけど。」
「構いません、奴に水中も安全でないと判断させ水上に引きずり出すしか我々に勝機はありません。」
水圧感応信管は浅い水深に居るシーサーペントに対応できる兵装が欲しいという恵理香のリクエストからケイが開発したものだ。
最近試作品が完成し試験の為まほろばに積み込まれていたのを恵理香は思い出したのだ。
「了解、1時間で終わせる。」
「お願いします優香。」
優香は頷くと桟橋に停泊中のまほろばに作業の為に向かった。
「ギルド長、中央港近海の漁場の漁船と民間航路の船舶への退避勧告をお願いします、多分決着はぎりぎりになると思われますので。」
「分かった牧瀬艦長、頼むぞ。」
1時間後優香から装着を完了したとの報告を受け恵理香とロベリヤはまほろばに戻る。
「出港します、総員準備をお願いします。」
「機関始動します。」
「錨を上げました、出港準備完了。」
「管理事務所より緊急出航の許可がきました。」
艦橋に入って来た恵理香の指示で副長と乗員達が動き即座にまほろばは桟橋を離れ、退避して来た漁船や貨客船の間をすり抜け湾外に向かう。
「前進全速、まほろばはこれよりシュールクーフの捜索に入ります、総員戦闘配置へ。」
「前進全速。」
「総員戦闘配置繰り返す総員戦闘配置!」
港を出て速力を上げたまほろば艦内ではアラーム音が響き乗員達がそれぞれの配置に駆け足で付いて行く。
「艦長、総員戦闘配置に付きました。」
「了解です、センサーによる監視を厳重に・・・では行きましょう。」
まほろばが中央港に向かう航路を逆に辿りながらシュールクーフの捜索を開始して1時間後。
「艦長!前方にシュールクーフを確認、速力13ノットで航行中です。」
センサー担当が複合ディスプレイの情報を読み取ると恵理香に報告する。
「見つけたね恵理香。」
優香の言葉に頷いた恵理香が指示を出す。
「副長、火器管制室に水圧感応信管を装着したロケット弾をランチャーに装填する様指示をして下さい。」
「はい艦長。」
副長が恵理香からの指示を伝えると、火器管制室の操作により艦首のランチャーに水圧感応信管を装着したロケット弾が装填される。
「センサー、シーサーペントの現在位置は?」
「依然中央港へ航行中です。」
「進路上に船舶は残っていませんか?」
「大丈夫です、1隻も残っていません。」
恵理香の問いにセンサー担当が答える。
「どうやら退避勧告は間に合った様だね。」
ロベリヤが安どの表情を浮かべながら呟く。
『火器管制室より、ランチャーへロケット弾の再装填完了しました。』
火器管制室からロケット弾の再装填完了の報告がくる。
「ロケット弾発射用意。」
「はい艦長、火器管制室へロケット弾発射用意。」
『こちら管制室・・・発射データーをシステムに入力完了。』
火器管制室の操作によりランチャーが旋回し角度を取る。
『発射用意良し。』
「発射開始。」
次々とランチャーから発射されたロケット弾は着水すると海中に突入して既定の深度に達すると爆発して巨大な水柱を上げる。
「状況は?」
「海中のかく乱が酷く・・・不明です。」
海中でのロケット弾の爆発により状況が分からくなる。
「見張りは監視を厳に。」
両舷の見張り担当が大型双眼鏡で爆発で濁った周りの海上を見渡す。
その濁った海面を割ってシュールクーフがまほろばの左舷に浮上してくる。
「艦長、シュールクーフが左舷に浮上、進路をまほろばに向け接近してきます!」
「左舷砲撃戦用意!艦尾ランチャーも準備を急いで下さい。」
見張り担当の報告に恵理香が指示を出す。
まほろばは突進してくシュールクーフに艦首と艦尾の艦載砲を向ける。
「艦首及び艦尾の艦載砲に目標データ入力完了しました艦長。」
「シュールクーフが砲撃!」
シュールクーフが艦載砲を向け発砲するのを見た見張り担当が叫ぶ。
砲弾が航行しているまほろばの後方に着弾し艦を揺さぶる。
「シュールクーフが射程距離に入ります。」
センサー担当が複合ディスプレイを見ながら報告する。
「撃ち方始め!」
「撃ち方始め!」
恵理香の指示を火器管制室へ副長が伝えると艦首の艦載砲がシュールクーフへの射撃を開始する。
「シュールクーフ、舵を右舷に進路を変更、潜航します。」
シュールクーフは砲撃を受けると進路を変え潜航を始める。
「艦尾ランチャー発射用意。」
『目標データ入力良し。』
「発射。」
まほろばから再び発射されたロケット弾がシュールクーフに降り注ぐ。
ロケット弾数発がまずシュールクーフの艦尾付近に命中し機関室と推進機を破壊する。
そしてそのまま潜航し続けるシュールクーフの艦中央に次のロケット弾が数発命中し艦はコントロール機能を失ったまま海中に沈んで行く。
海中に没したシュールクーフは真っ二つになり深い海底へ沈んで行った。
「ここの深度は2千メートルあったわね恵理香。」
シュールクーフが海中に消えて行く光景を共用ディスプレーで見ながら優香が問い掛ける。
「ええ・・・どんな艦も耐えられない深度ですね。」
「シュールクーフの反応焼失しました。」
センサー担当の報告が艦橋内に流れると皆何とも言えない表情を浮かべる。
「終わったけど素直に喜ぶ気にはなれないね・・・」
皆の心象を代表する様にロベリヤが深い溜息を付きながら言う。
「そうですね私もそう思います、シュールクーフはただ与えられた命令を実行していただけだから。」
「ですが多くの船乗りを犠牲にしています、それはどんな理由があれど許せるものではありませんよ。」
ロベリヤ同様深い溜息を付き呟く優香達に恵理香が毅然とした態度で言う。
「確かにそうね恵理香・・・ただ今回は人間側にも責任があると私は思うわ。」
恵理香の言葉に優香はそう言って頷く。
「ええ、確かにこれは私達のおごりが生んだ悲劇でしょうから。」
そんな恵理香の言葉にロベリヤも乗員達も反論する事は無かった。
「ギルド長に連絡を、それでは帰りましょう・・・中央港へ。」
「「「はい艦長。」」」
艦橋の乗員達がギルドへの連絡や帰港の準備に入るのを見ながらシュールクーフが沈んで行った海面を見る。
目的を果たせず沈んで行ったシュールクーフの事を思いながら。
17:30
船舶の遭難事件の調査と対処を完了。
原因は行方不明になったシュールクーフと判明。
戦闘の末シュールクーフを撃破した。
報告者:牧瀬商会所属駆逐艦まほろば艦長牧瀬 恵理香。




