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北方海の守護天使  作者: h.hiro
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第10話「希望無き海にて」

「お前さんはこの世界に絶望した事はないのか、終末を迎えつつあるかもしれないと?」

「私は・・・生きている限り絶望するつもりはありません、自分の出来る事をするだけです。」

中央港の商会専用埠頭に停泊中のまほろば後部多目的プラットフォーム上。

「これが特殊潜航艇S1(スーパー1)か、これであそこにいけるわけか・・・乗せてもらえるんだろうな?」

初老でよれよれの白衣姿の男性は格納庫からプラットフォーム上に引き出されている潜航艇を見ながら言う。

「・・・本当に乗られるつもりですか?非常に危険ですが。」

「構わん・・・俺はどうあっても其処へ行かねばならないんだからな。」

恵理香の問いに男性はまほろばを見つめながら答える。

そんな男性を見て、聞いた通り頑固な人物だと恵理香は内心苦笑する。

だがこれでも優秀な学者らしい、ロベリヤに言わせればシーサーペントの研究に関しては。

ただこの頑固さもあって中央海の学会では干されていると、ロベリヤは言っていたが。

事の起こりは10日前に遡る。

巨大シーサーペントの居る北方海奥へ中央海の学者ギルドから来た学者が行うを調査に協力して欲しいと要請が牧瀬商会にあったのだ。

恵理香は非常に気が進まなかった、それでなくても北方海奥への接近はかなりの危険が伴う。

それに一般人を乗せろと言うのだから無理難題だと恵理香だけなく万理華も難色を示した。

「まあその気持ちは分かる・・・だが依頼してきた人物がな。」

ハンターギルド長室でレイアも困惑しつつ説明てくれる。

「海洋生物学者の田所博士、中央海では有名な学者らしいな。」

「田所博士ですかギルド長?」

話を聞いていたロベリヤが驚いた声を上げる。

「ロベリヤはその田所博士を知っているんですか?」

ロベリヤは恵理香の問いに肩を竦めて答える。

「シーサーペントの研究に関して言えば、中央海だけでなく世界中で第一人者と呼ばれている人だよ。」

その生態研究では知らぬ者が居ないが、その言動で保守的な学者達からは忌み嫌われている存在らしい。

「学会の方針なんてまったく意に介さず、自分のやり方を貫き通すらしいね、だから業績の割りに扱いは酷いものだよ・・・」

このゲーム世界でも出る釘は打たれるものらしいと恵理香は思った。

そして場面は冒頭に戻る。

3日後に中央港に着いた田所博士は早速牧瀬商会に乗り込んで来ると潜航艇を見せろと言ってきたのだ。

その為今回の調査を指揮する恵理香が案内しているところだった。

「専門外だがケイ・パークの事は知っているぞ、優秀な技師である彼女の傑作だからな期待しているんだ。」

生物学者である田所博士がケイの事を知っている事に恵理香は驚きを隠せない。

まあケイもかっては中央海のドックに居たが、その言動でこちらに来くる羽目になったらしいから、田所博士にしてみれば合い通じるものがあるのかもしれないと恵理香は考える。

「もちろんまほろばは優秀な艦です、ですが何が起こるかは予想は出来ません、それを忘れないで下さい。」

そんな恵理香に田所博士は皮肉めいた笑みを浮かべて言う。

「その点も心配しとらん・・・何しろ北方海の守護天使様が付いているんだからな。」

恵理香は深い溜息でそれに答えるのだった。

田所博士達が到着してから2日後にまほろばは潜航艇を乗せ中央港を出港する事になった。

「出航準備願います。」

まほろばの艦橋で恵理香が命ずると乗員達が出航準備を開始する。

『機関系に問題なし。』

「レーダー及びソナー問題なし。」

『全兵装問題ありません艦長。』

恵理香の指示に火器管制室とレーダー担当及び機関管制室が準備完了を報告して来る。

「準備はいいですか、ロベリヤ、優香。」

「OKだよ恵理香。」

「私もです恵理香。」

ロベリヤと優香に声を掛ける恵理香、今回の航海にも当然の顔をしてまほろばに乗艦して来た。

「「恵理香が行くなら当然私も行きます。」」

まあ何時もの事なので恵理香も苦笑しつつ受け入るしかなかったのだが。

「では出航します、機関始動、管理事務所に出航の連絡を。」

「機関始動始動します。」

「通信室へ管理事務所に出航の連絡をお願いします。」

機関担当と副長が復唱しつつ恵理香の指示を実行する。

まほろばの機関が始動し、管理事務所から返答がくる。

「管理事務所より返信『調査の成功と航海の無事を祈ります。』との事です。」

副長が通信室からきた返答を伝える。

「感謝すると伝えて下さい、では出航します、両舷微速前進。」

「両舷微速前進。」

やがて港を出た所で恵理香はまほろばの進路を指示する。

「進路を北方海奥の海域へ取ってください、両舷半速前進。」

「航路の設定完了しました。」

「両舷半速前進。」

航法担当と機関担当が復唱すると恵理香は次の指示を出す。

「艦内シフトを警戒配置に移行・・・ではお客様の様子を見て来ましょうか。」

そう言って恵理香はロベリヤと優香と共に艦橋を出て行くのだった。

艦内通路を通り恵理香達は、田所博士と助手4人が居る居住区に向かう。

「牧瀬です、入ってもかまわないでしょうか?」

田所博士に割り当てられた部屋の前に着くと恵理香は室内に声を掛ける。

「ああ良いぞ。」

「失礼します。」

返事を聞き恵理香は扉を開け中にロベリヤと優香と共に入って行く。

室内は雑然としていた、運び込んだ資料があちこちに山積みされて足の踏み場も無いくらいだった。

田所博士本人はやはり資料が山積みにされた机に向かったままで恵理香達に顔を向けようともしない。

「無事出航しました、まほろばに乗った感想はどうですか?」

恵理香の声にようやく田所博士は顔を上げて言う。

「分かった・・・しかし案外快適なものだな艦艇ってやつは。」

田所博士の感想に恵理香は肩を竦めて答える。

「スペースだけはありますからまほろばは。」

船体の規模に対して高度の省力化と自動化により乗員は全部で40名程で済んでいる。

お陰で乗員は十分余裕のある2人部屋で、食堂などの施設も広く充実している。

「艦艇は狭い中に人間が押し込められているって思っていたんだが。」

手に持っていた資料を机の上に置いて田所博士は艦艇の一般的な印象を述べる。

だが博士の印象はけっして間違いでは無い、この世界の艦艇と言えどもそれが普通なのだ。

つまりまほろばが例外中の例外なのだ、何しろあの『天災』がチートな艦に仕上げたものなのだから。

「まあ快適で良い・・・それなのに助手連中は青い顔して部屋に閉じこもってやがる。」

田所博士のぼやきを聞きいて恵理香は苦笑する、その助手達には乗艦時にあったが、確かに顔色は悪かった。

だがそれは仕方が無い話しだと恵理香は思う、何しろ巨大シーサーペントの巣窟に乗り込もう言うのだから。

恵理香達の様に危険を覚悟のうえで乗艦している人間なら兎も角、一般人の彼らにそれを期待するのは酷だろう。

「今後の航海予定ですが、前に話した通り北方海奥へ向かう前に、ある島の調査に向かいます。」

巨大シーサーペントの潜む海域に向かう前に無人となった島の調査が航海予定に付け加えられたのだ。

「・・・そうらしいな、まあ文句を言っても仕方が無い、俺は構わんぞ。」

じろりと恵理香達を睨みながら田所博士は答える。

「そう言って頂けると助かります、あとギルドのシーサーペント調査責任者の紹介を。」

そう言って恵理香は一緒に付いてきたロベリヤを紹介する。

「ロベリヤ・レインバークです、初めまして田所博士。」

挨拶したロベリヤをどうやら癖らしくじろりと睨む田所博士が言う。

「お前さんがロベリヤ・レインバークか、論文読ませてもらった・・・中々面白い内様だったぞ」

ロベリヤは半年前に巨大シーサーペントに関する論文を書き、中央海の学会に提出した事があった。

まあ反応は殆ど無く、無視同然の扱いだったらしいと恵理香はギルド長から聞いていた。

「それは光栄です田所博士・・・」

複雑な表情を浮かべるロベリヤ、まさか田所博士の目に止まっていたとは思っていなかったからだ。

「まあ学会の奴は田舎のにわか学者の書いた論文と言って見向きもしなかったが、元々連中にそれを期待するだけ無駄だ。」

辛辣な物言いに恵理香達は苦笑する。

「であんたは?」

ロベリヤと恵理香の一歩後ろに佇んでいた優香に同じ様にじろりと睨みつけながら田所博士が聞いて来る。

「優香・パークと申します、まほろばの技術担当をケイ・パークの代理として行なっております。」

「ほう・・・あのケイ・パークの代理をね。」

自己紹介をした優香を感心した様に眺めて言う田所博士。

「と言う事はあんたも優秀な技師な訳だ。」

「恐縮です田所博士、以後よろしくお願いします。」

ロベリヤと優香の紹介を終えたところで艦内放送が入り艦橋の副長から呼び出しが掛かる。

『艦長、予定海域に到達しましたので艦橋へお願いします。』

「それでは失礼します田所博士。」

「ああ。」

恵理香はそう言うとロベリヤと優香と共に田所博士の部屋を出て艦橋に向かうのだった。

艦橋に入ると、既にまほろばは目的の島の沖合に停泊していた。

艦橋の前面の窓越しに島を見ながら恵理香が報告を求める。

「レーダーの方はどうですか?」

「今のとこり反応無しです艦長。」

センサー担当が答える。

「分かりました、総員警戒配置に付いて下さい。」

「了解です艦長」

恵理香の指示で乗員達が配置に付いて行く。

「艦長、総員警戒配置に付きました。」

その報告に恵理香が頷く。

「あれが例の島だね」

恵理香同様窓越しに島を見ながらロベリヤが問い掛ける。

「そうです・・・」

言葉少なに答える恵理香。

「初めて見ますが・・・酷いものですね。」

優香もその光景を見ながら眉を顰めて呟く。

3人とも状況を知っているだけにそれ以上言葉が続かなかった。

それは他の乗員達も同様で言葉無く島を見つめている。

「上陸班の準備を。」

「了解です艦長。」

まほろばから搭載艇が降ろされ島に向かって行く。

まほろばが接岸出来る桟橋は無かった・・・破壊されてしまったからだ。

搭載艇に乗って島に向かうのは艦外作業服を着た乗員達だった。

左舷見張り所に出て双眼鏡でその様子を見守る恵理香。

港には沈められた漁船が数隻見える、そして破壊された桟橋と倉庫群。

港から吹き飛ばされて来た漁船が近くの民家を押し潰している。

一応無事らしい家屋もあるが街にはまったく人の気配は無い。

「酷いもんだな・・・これがシーサーペントに襲われた結果か。」

何時の間にか見張り所に出て来た田所博士が恵理香の隣に立って呟く。

「で島の人間はどうなったんだ?」

田所博士の問いに恵理香は双眼鏡を構えたまま深い溜息を付いて答える。

「不明です、船で脱出した可能性も考えられたのですが結局発見できなかった様ですね。」

今から三ヶ月前、この島はシーサーペントの襲撃を受けた。

直後近くの海域に居たある商会所属の駆逐艦が島の漁船からの救難要請を受け向かったらしいのだが。

到着した駆逐艦の乗員達が見たのは今目の前に広がる光景だった。

その後周辺海域を捜索したものの、何も発見出来ず駆逐艦は空しく帰還するしかなかった。

「やはりそうか・・・」

島に上陸し街を調査しているまほろばの乗員達を見ながら田所博士は呟く。

襲われた人々がどうなったかを恵理香も田所博士もあえて言わなかった。

「まるで墓を見て周っている様なものだな・・・気を悪くしたか?」

そう言ってから田所博士は気にしたのか恵理香に問い掛けて来る。

「いえ間違ってはいませんよ・・・自分としては悔しいですが。」

双眼鏡を下ろし恵理香は肩を竦める、全てを救いきれないのは彼女も分かってはいるつもりだったが。

「お前さんはこの世界に絶望した事はないのか、終末を迎えつつあるかもしれないと?」

暫らく指令塔上に沈黙が続いた後、田所博士はそんな事を聞いて来る。

「絶望ですか?」

聞き返す恵理香に博士は島を見つめながら続ける。

「洋上にては連中の方が勢力が強い、我々は今辛うじて押し返しているが、正直言ってジリ貧だ。」

人間達は居住している島と一部の海域、それらを結ぶ航路を何とか維持しているに過ぎないと博士は断言する。

「だがそれらだってかなり危うい、まあそんな事は最前線に居るお前さんなら分かっているだろうがな。」

「・・・・」

それについては恵理香は答えなかったが、田所博士の言った事は間違ってはいないと内心は思っている。

彼我の力の差を考えればはっきり言って状況は絶望的なのだと。

だが例え状況が絶望的でも恵理香に出来る事は戦う以外に無い。

「私は・・・生きている限り絶望するつもりはありません、自分の出来る事をするだけです。」

だからそれが絶望的な戦いであっても恵理香は諦めるつもりは無かった。

「私は諦めが悪い性分なんです、戦う力がある限り止める気はありませんよ。」

そうきっぱり言う恵理香を見て博士は肩を竦めて笑う。

「なるほどねえ・・・そこはやはり守護天使と言われるだけあるか。」

博士は最初『守護天使』と呼ばれる恵理香が理想論でも言うかと思っていたのだが、どうやら彼女はそうでは無かった様だ。

現実を弁え、それでも前進する事を諦めない人間だったのだと博士は理解した。

それが若さ故なのか恵理香と言う女性の本質的な所から来る物なのか興味が沸いてきた田所博士だった。

「私は天使と呼ばれているだけで違うのですが・・・」

思いっきり困惑した表情で恵理香は肩を落して呟く、何で周りはそんな風に自分を見るのだろうと思って。

「こう言う時代だから人間はすがれる者を求めるものさ。」

困惑している恵理香を見て肩を竦めて見せる田所博士。

「随分と皮肉な見方ですね・・・」

もちろん恵理香にもそれは分かってはいるつもりだった。

だから困惑しつつも天使と呼ばれる事を受け入れている恵理香だった。

そこで会話は途切れ恵理香と田所博士はただ黙って島を見続けるのだった。

島での調査を終えたまほろば目的地である巨大シーサーペントの巣窟に向かうのだった。

翌日まほろばは巣窟である海域近くに到着した。

「潜航艇の発進準備に入ってください。」

「はい艦長、格納庫へ潜航艇の発進準備に入って下さい。」

恵理香の指示を受け副長が艦内電話で格納庫の整備班に伝える。

「田所博士を格納庫まで案内する様に連絡を、ロベリヤ、優香行きましょう。」

副長に後の指揮を任せると恵理香はロベリヤと優香を伴い艦橋を出て格納庫に向かった。

そして格納庫に恵理香達が到着数分後、田所博士が乗員に案内され現れる。

「田所博士、準備は出来ましたか?」

「ああ、完了しているぞ守護天使。」

田所博士は恵理香の言葉に満面の笑顔で答える。

「張り切っているね、田所博士らしい。」

「あのままの調子で巨大シーサーペントへ突っ込めなんて言わないと良いけど。」

ロベリヤと優香が恵理香と田所博士との会話を聞きながら顔を見合わせる。

ちなみにロベリヤと優香は当然恵理香と一緒に潜水艇に乗り込む事になっていた。

まあ何時もの事なので恵理香と乗員達はその点については何も言わなかった。

準備が終わり恵理香達が乗り込むと、プラットフォーム上に設置されたクレーンによって潜水艇は海上に降ろされる。

「メインモーター及び燃料電池共に良好。」

操艇席に座った恵理香はディスプレーに表示される項目を見ながら潜水艇各部の点検を開始する。

「ソナー及び各種センサー問題無しだよ恵理香。」

「火器管制も問題無し、何時でもいけるよ。」

センサー担当を担うロベリヤと火器管制を担う優香が報告してくる。

「了解です、それではロベリヤ、優香それから田所博士、シートベルトを装着して下さい。」

恵理香の指示でロベリヤ達がシートベルトを装着すると操艇室内の照明が戦闘時用に切り替えられる。

「それでは行きましょうか。」

潜航艇は恵理香の操艇によって海中に潜航すると、北方海奥の海域へ向かって進路を取る。

やがて海流の壁に潜水艇が接近したので恵理香が博士に伝える。

「そろそろ壁を通過しますので博士は注意願いますね。」

「例の海流のか・・・」

田所博士にはロベリヤが纏めた学者ギルドには黙殺されたレポートを渡していた。

「そいつの所為で外敵の居ない環境になり巨大化したシーサーペントした訳だ。」

博士はレポートの内容を思い出し溜息を付きつつ呟く。

「ギルドの連中は前例が無いとか確証が少ないとか言って本気にしていなかったがな。」

その言葉にロベリヤは肩を竦めて見せ、恵理香と優香は顔を見合わせながら苦笑していた。

実際に相対しなければシーサーペントの恐ろしさはやはり分からないものだなと恵理香は鬱な気持ちになった。

「・・・皆さん注意をして下さい、通過します。」

海流の壁に突入すると潜航艇は横へ流されるが、恵理香は巧みに操艇して抜け出す。

「ソナーに反応はありますか?」

壁を通過した事を確認した恵理香がロベリヤに尋ねる。

「今のところ無いね恵理香。」

複合ディスプレイを確認してロベリヤが答える。

「・・・頭上の氷の厚さはどのくらいですか?」

「3~4メートル位だね。」

その報告を聞いて恵理香は暫し考え込む。

「水上を見られないの辛いですね、ソナーを誤魔化せるとは思えませんが。」

だが油断は出来ない、シーサーペントは狩りについてはこちらの予想出来ない事はするからだ恵理香は考える。

前にも短時間しか水中に潜れないにも係わらず流氷の下に潜み船舶を襲撃した事もあったからだ。

「恵理香、頭上の氷の厚さが薄くなってきたよ、現在1メートルくらいかな。」

どうやら頭上の流氷が薄くなった海域に来た様だった。

「速力を落します、ロベリヤ警戒を厳重に・・・此処はもう奴の縄張りですから。」

「分かったよ恵理香。」

恵理香がメインモーターの出力を下げて潜航艇の速力を落としてゆく。

「水深が浅いうえに海流が早いみたいだな・・・大丈夫なのか?」

それまで口を挟んでこなかった田所博士が問い掛けてくる。

「この潜航艇なら問題ありません、まあ恵理香の操艇技術があればこそですが。」

優香が我が事の様に自慢するので恵理香は反応に困ってしまっていた。

「守護天使は伊達ではないと言う訳だ。」

「はい田所博士。」

何でそんな風に2人は盛り上がる事が出来るのか、困惑する恵理香にロベリヤがからかい気味に続ける。

「そんなの当たり前だね、恵理香が居れば大抵の事は大丈夫だからね。」

「確かにそうだな。」

「ええ絶対に。」

更に盛り上がる3人に恵理香は益々困惑してゆくのだった。

「ソナー依然感無しだね・・・何か嫌な予感がする。」

暫くたった頃ロベリヤが複合ディスプレーを見ながら縁起でもないことを言い出す。

「居ないって事は無いんだよね。」

優香も違和感を感じたのか呟く。

かなり奥まで来ている筈なのに、反応が無い事が皆を不安にさせていた。

「と言う事はやつは何処かに雲隠れしたのかそれとも・・・」

田所博士が腕を君ながら呟いた言葉に恵理香は何かに気づき声を上げる。

「雲隠れ・・・まさか?」

「恵理香!後方で流氷の破壊音が・・・」

恵理香の言葉にロベリヤの声が重なる。

「くっ!、皆さん揺れに注意を、速力を上げます。」

ロベリヤの声に恵理香はとっさにメインモーターの出力を上げる。

操艇席に付けられたディスプレイ上の出力レベルが急速に上昇し艇体が激しく揺れる。

その時だった、激しい衝撃音がセンサーを通さず操艇室内に響き渡る。

「恵理香、頭上から氷が多数落下してくる!」

複合ディスプレーを見ながら叫ぶロベリヤの声に、恵理香は艦体の進路を変え何とか逃げ切ろうとする。

そして間一髪潜航艇は落下してくる氷の塊から逃れる。

「・・・落下の方は?」

暫く航行したあと恵理香が問い掛けるとロベリヤが複合ディスプレイの表示を確認しながら答える。

「止まったよ・・・」

操艇室に安どの息が流れる。

「了解です、ここから後退します・・・」

進路を変え恵理香は潜航艇を海域から離脱させるのだった。

海流の外へ一旦離脱した恵理香は潜航艇を浮上させるとメインモーターを停止して指示を出す。

「マルチセンサーポスト作動。」

「作動良し。」

指示を受けたロベリヤがマルチセンサーポスト作動させる。

恵理香はディスプレーを下げると表示された流氷の続く景色を見つめる。

複合ディスプレーを確認しながらロベリヤが恵理香に問い掛ける。

「つまりあの巨大シーサーペントは・・・我々が海域の奥に入って行くのを待ち構えていた訳だ。」

海域の様子を見ながら恵理香はうんざりした表情を浮かべ答える。

「はい、こちらが無防備に入って行くのを虎視眈々とね・・・」

「そして頭上の流氷を破壊し私達にぶつける様なまねをした・・・狡猾すぎよ。」

優香が恵理香の言葉に続けて言うと深い溜息を付く。

「・・・言葉が無いな、聞いていた以上じゃないか。」

肩を竦め田所博士は呟く、こちらも普段は泰然している彼にしては深刻そうな表情を浮かべながら。

「これがシーサーペントです、狩りに関しては人間以上ですから。」

田所博士は恵理香の言葉に深く頷く。

「ロベリヤ・レインバークのレポート通りな訳だ・・・中央海の連中は絶対に信じないだろうが。」

知能は人間以下、しょせん獣すぎない、大半の連中はそう考えているからと田所博士は言って続ける。

「俺達はとんでもない奴を相手にしている訳だ・・・これでもあんたは戦うのか?}

恵理香は田所博士の問い掛けに肩を竦めてきっぱりと答える。

「言った筈です・・・生きている限り絶望するつもりはありません、自分の出来る事をするだけですと、私は結構諦めが悪い性格なんです。」

その言葉に優香とロベリヤは頷き、その顔に絶望の色は無い事に田所博士は気づく。

ふと田所博士はこれこそ彼女が守護天使と呼ばれる所以ではないかと思った、綺麗ごとを並べた言葉でなく、その姿で人々を鼓舞し戦わせる。

「やはり天使だなあんたは・・・この俺だって希望を持てそうだ。」

「・・・それは光栄ですね、私として恥かしいのですが。」

田所博士の言葉に恵理香は顔を赤くしつつ答える、こう言う所は歳相応だなと彼は意地の悪い笑みを浮かべる。

「恵理香、レーダーに反応有り、前方より急速に接近中、巨大シーサーペントだよ。」

ロベリヤが複合ディスプレイを見ながら報告する。

恵理香は海域奥の画像を拡大さると巨大シーサーペントを探す。

「せっかくの罠をかわされて頭にきたか・・・こう言う所は獣なんだが、迎え撃つのか艦長?」

複合ディスプレイを覗き込み巨大シーサーペントが一直線にこちらに向かって来る状況を確認すると田所博士が聞く。

「特殊ロケット弾噴進弾を使用します、発射準備を急いで下さい。」

「・・・了解恵理香発射準備に入るわね。」

恵理香の指示を受け優香が特殊ロケットの発射準備を開始する。

「恵理香、発射準備完了よ。」

数分後優香がディスプレーから振向いて準備完了を告げる。

「照準を合わせます、ロベリヤ方位を下さい。」

恵理香は準備完了の報告に頷くと、ロベリヤに問い掛ける。

「方位左へ20。」

ロベリヤの指示に簪は潜航艇を目標に向けさせる。

「左20、目標へ軸線良し。」

ディスプレイで巨大シーサーペントを確認し恵理香が言う。

「シーサーペント突っ込んで来る!」

ロベリヤが複合ディスプレイを見つめながら叫ぶ。

「ロケット弾発射。」

照準を再度確認している時間は無かった、恵理香はロケット弾の発射を指示する。

「ロケット弾発射!!」

衝撃音と噴煙を残しロケット弾はランチャーから発射されると目標である巨大シーサーペント一直線に飛んで行く。

前にロケット弾の攻撃を受けた事のある巨大シーサーペントは慌てて進路を変え海中へ逃れ様とする。

「にがしませんよ。」

潜航艇を潜航させながらディスプレー上に映し出される海中へ潜り込もうとする巨大シーサーペントの姿をみながら恵理香は呟く。

そして次の瞬間、激しい閃光と水柱が立ち、その衝撃は潜航した潜水艇さえも揺さぶられる。

恵理香は揺れが収まると海上にマルチセンサーポストを再び上げさえディスプレーを作動させる。

激しい閃光と水柱が消えた海上には爆発で粉々になった流氷の浮かぶだけだった。

「巨大シーサーペントは?」

「レーダーは反応無し、ソナーの方は海中のかく乱が酷くて確認出来ないね。」

恵理香の問いにキーボードを操作しながら複合ディスプレイを確認していたロベリヤが答える。

センサーポストのカメラを操作し海上の捜索を始めた恵理香は満身創痍になって海域の奥へ去って行く巨大シーサーペントを発見する。

「居ました・・・かなりダメージを受けた様ですが。」

恵理香が冷静な声で皆に状況を伝える。

「あれでも生き残るか・・・本当に化け物だなあいつは。」

田所博士はウンザリしたように呟く。

「まほろばに戻りましょう・・・これ以上の長居は無用ですから。」

それに異義を唱える者は居なかった、潜航艇は進路を変えるとまほろばに戻るのだった。

潜航艇を回収後中央港へ向かっていたまほろばの右舷見張り所に恵理香とロベリヤ、優香が出て来て田所博士の隣に立つ。

「収穫はありましたか博士?」

ロベリヤが海を黙って見つめている田所博士に聞いてくる。

「・・・そうだな思ったより有ったぞ、巨大シーサーペントの事だけでなく色々とな。」

そう言って笑みを浮かべながら恵理香達を見る博士だった、

「その言い方では何かある様ですね私達に・・・」

博士の意味ありげな笑みに優香が問い掛ける。

「確かにシーサーペントに関しては得る物が多かったよ、まあそれ以上に天使様の方が興味深かったがな。」

「シーサーペントより恵理香がですか?」

その返答に優香が聞き返してくる。

「ああ、天使様についてだな、こんな世界でもあんたみたいなのが居るなら俺でも少しは希望が持てるんじゃないかとな、くくく不思議な気分だよ。」

その博士の言葉に恵理香は溜息を付きつつぼやく。

「それは喜ぶべきなんでしょうか・・・ロベリヤ、優香笑わないで下さい。」

恵理香の言葉にロベリヤと優香も博士の様な意味深な笑みで見つめて来る。

「仕方が無いさ牧瀬艦長・・・それがあんたの定めさ、まあ精々頑張ってくれ守護天使様。」

博士の多分にからかいの含まれた激励に恵理香は憮然とした表情を浮かべ、ロベリヤと優香は更に笑みを深くするのだった。

そのまままほろばは何事も無く中央港に帰還し、田所博士は中央海の研究所に戻って行った。


15:30

中央海研究チームの調査協力終了。

調査中に巨大シーサーペントの襲撃を受けるが撃退した。

暫くは活動しないと思われるが、引き続き監視は必要と判断する。

報告者:牧瀬商会所属駆逐艦まほろば艦長牧瀬 恵理香。


その後の話だが・・・

中央海に戻った田所博士は大胆な見解を発表し話題になったと恵理香はロベリヤから聞かされた。

『狩られているのはシーサーペントでなく人間ではないのか?』

学会やマスコミなどからは例の如く叩かれているとロベリヤは苦笑しながら話してくれたのだった。

だが博士の見解は、恵理香達最前線で戦っている立場から言えば理解出来る話だ。

しょせん机上でしか論議出来ない学会やマスコミの連中には永遠に理解出来やしないと恵理香は思う。

そしてある事に気が付く、田所博士も戦っているのだと、恵理香達と違い武器ではなく知識で・・・

また一緒に航海するのも良いのかもしれないと恵理香はふと考えるのだった。

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