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北方海の守護天使  作者: h.hiro
12/35

第10話「希望無き海にて」

「お前さんはこの世界に絶望した事はないのか、終末を迎えつつあるかもしれないと?」

「私は・・・生きている限り絶望するつもりはありません、自分の出来る事をするだけです。」

中央港・まほろば専用桟橋上

「まほろばか、これであそこにいけるわけか・・・乗せてもらえるんだろうな?」

初老の男性、よれよれの白衣姿は専用桟橋に停泊しているまほろばを見て言う。

「・・・本当に乗られるつもりですか?非常に危険ですが。」

「構わん・・・俺はどうあっても其処へ行かねばならないんだからな。」

恵理香の問いに男性はまほろばを見つめながら答える。

そんな男性を見て、聞いた通り頑固な人物だと恵理香は内心苦笑する。

だがこれでも優秀な学者らしい、ロベリヤに言わせればシーサーペントの研究に関しては。

ただこの頑固さもあって中央海の学会では干されていると、ロベリヤは言っていたが。

事の起こりは10日前に遡る。

巨大シーサーペントの居る北方海奥へ中央海の学会から来た調査隊を乗せてまほろばで向かって欲しいと要請が牧瀬商会にあったのだ。

恵理香は非常に気が進まなかった、それでなくても北方海奥への接近はまほろばでもかなりの危険が伴う。

それに一般人を乗せろと言うのだから無理難題だと恵理香だけなく万理華も難色を示した。

「まあその気持ちは分かる・・・だが依頼してきた人物がな。」

ハンターギルド長室でレイアも困惑しつつ説明てくれる。

「海洋生物学者の田所博士、中央海では有名な学者らしいな。」

「田所博士ですかギルド長?」

話を聞いていたロベリヤが驚いた声を上げる。

「ロベリヤはその田所博士を知っているんですか?」

ロベリヤは恵理香の問いに肩を竦めて答える。

「シーサーペントの研究に関して言えば、中央海だけでなく世界中で第一人者と呼ばれている人だよ。」

その生態研究では知らぬ者が居ないが、その言動で保守的な学者達からは忌み嫌われている存在らしい。

「学会の方針なんてまったく意に介さず、自分のやり方を貫き通すらしいね、だから業績の割りに扱いは酷いものだよ・・・」

このゲーム世界でも出る釘は打たれるものらしいと恵理香は思った。

そして場面は冒頭に戻る。

3日後に中央港に着いた田所博士は早速牧瀬商会に乗り込んで来るとまほろばを見せろと言ってきたのだ。

その為今回の調査を指揮する恵理香が案内しているところだった。

「専門外だがケイ・パークの事は知っているぞ、優秀な技師である彼女の傑作だからな期待しているんだ。」

生物学者である田所博士がケイの事を知っている事に恵理香は驚きを隠せない。

まあケイもかっては中央海のドックに居たが、その言動でこちらに来くる羽目になったらしいから、田所博士にしてみれば合い通じるものがあるのかもしれないと恵理香は考える。

「もちろんまほろばは優秀な艦です、ですが何が起こるかは予想は出来ません、それを忘れないで下さい。」

そんな恵理香に田所博士は皮肉めいた笑みを浮かべて言う。

「その点も心配しとらん・・・何しろ北方海の守護天使様が付いているんだからな。」

恵理香は深い溜息でそれに答えるのだった。

田所博士達が到着してから2日後にまほろばは中央港を出港する事になった。

「出航準備願います。」

まほろばの艦橋で恵理香が命ずると乗員達が出航準備を開始する。

『機関系に問題なし。』

「レーダー及びソナー問題なし。」

『全兵装問題ありません艦長。』

恵理香の指示に火器管制室とレーダー担当及び機関管制室が準備完了を報告して来る。

「準備はいいですか、ロベリヤ、優香。」

「OKだよ恵理香。」

「私もです恵理香。」

ロベリヤと優香は今回の航海にも当然の顔をしてまほろばに乗艦して来た。

「「恵理香が行くなら当然私も行きます。」」

まあ何時もの事なので恵理香も苦笑しつつ受け入るしかなかったのだが。

「では出航します、機関始動、管理事務所に出航の連絡を。」

「機関始動始動します。」

「通信室へ管理事務所に出航の連絡をお願いします。」

機関担当と副長が復唱しつつ恵理香の指示を実行する。

まほろばの機関が始動し、管理事務所から返答がくる。

「管理事務所より返信『調査の成功と航海の無事を祈ります。』との事です。」

副長が通信室からきた返答を伝える。

「感謝すると伝えて下さい、では出航します、両舷微速前進。」

「両舷微速前進。」

やがて港を出た所で恵理香はまほろばの進路を指示する。

「進路を北方海奥の海域へ取ってください、両舷半速前進。」

「航路の設定完了しました。」

「両舷半速前進。」

航法担当と機関担当が復唱すると恵理香は次の指示を出す。

「艦内シフトを警戒配置に移行・・・ではお客様の様子を見て来ましょうか。」

そう言って恵理香はロベリヤと優香と共に艦橋を出て行くのだった。

艦内通路を通り恵理香達は、田所博士と助手4人が居る居住区に向かう。

「牧瀬です、入ってもかまわないでしょうか?」

田所博士に割り当てられた部屋の前に着くと恵理香は室内に声を掛ける。

「ああ良いぞ。」

「失礼します。」

返事を聞き恵理香は扉を開け中にロベリヤと優香と共に入って行く。

室内は雑然としていた、運び込んだ資料があちこちに山積みされて足の踏み場も無いくらいだった。

博士本人はやはり資料が山積みにされた机に向かったままで恵理香達に顔を向けようともしない。

「無事出航しました、まほろばに乗った感想はどうですか?」

恵理香の声にようやく田所博士は顔を上げて言う。

「分かった・・・しかし案外快適なものだな艦艇ってやつは。」

田所博士の感想に恵理香は肩を竦めて答える。

「スペースだけはありますからまほろばは。」

船体の規模に対して高度の省力化と自動化により乗員は全部で40名程で済んでいる。

お陰で乗員は十分余裕のある2人部屋で、食堂などの施設も広く充実している。

「艦艇は狭い中に人間が押し込められているって思っていたんだが。」

手に持っていた資料を机の上に置いて田所博士は艦艇の一般的な印象を述べる。

だが博士の印象はけっして間違いでは無い、この世界の艦艇と言えどもそれが普通なのだ。

つまりまほろばが例外中の例外なのだ、何しろあの『天災』がチートな艦に仕上げたものなのだから。

「まあ快適で良い・・・それなのに助手連中は青い顔して部屋に閉じこもってやがる。」

博士のぼやきを聞きいて恵理香は苦笑する、その助手達には乗艦時にあったが、確かに顔色は悪かった。

だがそれは仕方が無い話しだと恵理香は思う、何しろ巨大シーサーペントの巣窟に乗り込もう言うのだから。

恵理香達の様に危険を覚悟のうえで乗艦している人間なら兎も角、一般人の彼らにそれを期待するのは酷だろう。

「今後の航海予定ですが、前に話した通り北方海奥へ向かう前に、ある島の調査に向かいます。」

巨大シーサーペントの潜む海域に向かう前に無人となった島の調査が航海予定に付け加えられたのだ。

「・・・そうらしいな、まあ文句を言っても仕方が無い、俺は構わんぞ。」

じろりと恵理香達を睨みながら田所博士は答える。

「そう言って頂けると助かります、あとギルドのシーサーペント調査責任者の紹介を。」

そう言って恵理香は一緒に付いてきたロベリヤを紹介する。

「ロベリヤ・レインバークです、初めまして田所博士。」

挨拶したロベリヤをどうやら癖らしくじろりと睨む田所博士が言う。

「お前さんがロベリヤ・レインバークか、論文読ませてもらった・・・中々面白い内様だったぞ」

ロベリヤは半年前に巨大シーサーペントに関する論文を書き、中央海の学会に提出した事があった。

まあ反応は殆ど無く、無視同然の扱いだったらしいと恵理香はギルド長から聞いていた。

「それは光栄です田所博士・・・」

複雑な表情を浮かべるロベリヤ、まさか田所博士の目に止まっていたとは思っていなかったからだ。

「まあ学会の奴は田舎のにわか学者の書いた論文と言って見向きもしなかったが、元々連中にそれを期待するだけ無駄だ。」

辛辣な物言いに恵理香達は苦笑する。

「であんたは?」

ロベリヤと恵理香の一歩後ろに佇んでいた優香に同じ様にじろりと睨みつけながら田所博士が聞いて来る。

「優香・パークと申します、まほろばの技術担当をケイ・パークの代理として行なっております。」

「ほう・・・あのケイ・パークの代理をね。」

自己紹介をした優香を感心した様に眺めて言う田所博士。

「と言う事はあんたも優秀な技師な訳だ。」

「恐縮です田所博士、以後よろしくお願いします。」

ロベリヤと優香の紹介を終えたところで艦内放送が入り艦橋の副長から呼び出しが掛かる。

『艦長、予定海域に到達しましたので艦橋へお願いします。』

「それでは失礼します田所博士。」

「ああ。」

恵理香はそう言うとロベリヤと優香と共に博士の部屋を出て艦橋に向かうのだった。

艦橋に入ると、既にまほろばは目的の島の沖合に停泊していた。

艦橋の前面の窓越しに島を見ながら恵理香が報告を求める。

「レーダーの方はどうですか?」

「今のとこり反応無しです艦長。」

センサー担当が答える。

「分かりました、総員警戒配置に付いて下さい。」

「了解です艦長」

恵理香の指示で乗員達が配置に付いて行く。

「艦長、総員警戒配置に付きました。」

その報告に恵理香が頷く。

「あれが例の島だね」

恵理香同様窓越しに島を見ながらロベリヤが問い掛ける。

「そうです・・・」

言葉少なに答える恵理香。

「初めて見ますが・・・酷いものですね。」

優香もその光景を見ながら眉を顰めて呟く。

3人とも状況を知っているだけにそれ以上言葉が続かなかった。

それは他の乗員達も同様で言葉無く島を見つめている。

「上陸班の準備を。」

「了解です艦長。」

まほろばから搭載艇が降ろされ島に向かって行く。

まほろばが接岸出来る桟橋は無かった・・・破壊されてしまったからだ。

搭載艇に乗って島に向かうのは艦外作業服を着た乗員達だった。

左舷見張り所に出て双眼鏡でその様子を見守る恵理香。

港には沈められた漁船が数隻見える、そして破壊された桟橋と倉庫群。

港から吹き飛ばされて来た漁船が近くの民家を押し潰している。

一応無事らしい家屋もあるが街にはまったく人の気配は無い。

「酷いもんだな・・・これがシーサーペントに襲われた結果か。」

何時の間にか見張り所に出て来た田所博士が恵理香の隣に立って呟く。

「で島の人間はどうなったんだ?」

博士の問いに恵理香は双眼鏡を構えたまま深い溜息を付いて答える。

「不明です、船で脱出した可能性も考えられたのですが結局発見できなかった様ですね。」

今から三ヶ月前、この島はシーサーペントの襲撃を受けた。

直後近くの海域に居たある商会所属の駆逐艦が島の漁船からの救難要請を受け向かったらしいのだが。

到着した駆逐艦の乗員達が見たのは今目の前に広がる光景だった。

その後周辺海域を捜索したものの、何も発見出来ず駆逐艦は空しく帰還するしかなかった。

「やはりそうか・・・」

島に上陸し街を調査しているまほろばの乗員達を見ながら博士は呟く。

襲われた人々がどうなったかを恵理香も博士もあえて言わなかった。

「まるで墓を見て周っている様なものだな・・・気を悪くしたか?」

そう言ってから博士は気にしたのか恵理香に問い掛けて来る。

「いえ間違ってはいませんよ・・・自分としては悔しいですが。」

双眼鏡を下ろし恵理香は肩を竦める、全てを救いきれないのは彼女も分かってはいるつもりだったが。

「お前さんはこの世界に絶望した事はないのか、終末を迎えつつあるかもしれないと?」

暫らく指令塔上に沈黙が続いた後、博士はそんな事を聞いて来る。

「絶望ですか?」

聞き返す恵理香に博士は島を見つめながら続ける。

「洋上にては連中の方が勢力が強い、我々は今辛うじて押し返しているが、正直言ってジリ貧だ。」

人間達は居住している島と一部の海域、それらを結ぶ航路を何とか維持しているに過ぎないと博士は断言する。

「だがそれらだってかなり危うい、まあそんな事は最前線に居るお前さんなら分かっているだろうがな。」

「・・・・」

それについては恵理香は答えなかったが、博士の言った事は間違ってはいないと内心は思っている。

彼我の力の差を考えればはっきり言って状況は絶望的なのだと。

だが例え状況が絶望的でも恵理香に出来る事は戦う以外に無い。

「私は・・・生きている限り絶望するつもりはありません、自分の出来る事をするだけです。」

だからそれが絶望的な戦いであっても恵理香は諦めるつもりは無かった。

「私は諦めが悪い性分なんです、戦う力がある限り止める気はありませんよ。」

そうきっぱり言う恵理香を見て博士は肩を竦めて笑う。

「なるほどねえ・・・そこはやはり守護天使と言われるだけあるか。」

博士は最初『守護天使』と呼ばれる恵理香が理想論でも言うかと思っていたのだが、どうやら彼女はそうでは無かった様だ。

現実を弁え、それでも前進する事を諦めない人間だったのだと博士は理解した。

それが若さ故なのか恵理香と言う女性の本質的な所から来る物なのか興味が沸いてきた博士だった。

「私は天使と呼ばれているだけで違うのですが・・・」

思いっきり困惑した表情で恵理香は肩を落して呟く、何で周りはそんな風に自分を見るのだろうと思って。

「こう言う時代だから人間はすがれる者を求めるものさ。」

困惑している恵理香を見て肩を竦めて見せる博士。

「随分と皮肉な見方ですね・・・」

もちろん恵理香にもそれは分かってはいるつもりだった。

だから困惑しつつも天使と呼ばれる事を受け入れている恵理香だった。

そこで会話は途切れ恵理香と博士はただ黙って島を見続けるのだった。

島での調査を終えたまほろば目的地である巨大シーサーペントの巣窟に向かうのだった。

「総員戦闘配置。」

恵理香の指示でまほろばの艦内にアラーム音が響き、乗員達が戦闘配置に付く。

「艦載砲及びロケットランチャーの射撃準備を始めて下さい。」

『艦載砲及びロケットランチャーの射撃準備に入ります。』

火器管制担当が恵理香の指示を復唱する声が艦橋内に流れる。

「現在レーダー及びソーナーに反応無しです艦長。」

『機関管制室より艦橋へ、機関に問題なし、何時でも最高速度を出せます。』

艦橋内に各部署が戦闘体制に入った事を告げる声が流れる。

「では行きましょうか、ロベリヤに優香、それから博士も宜しいですね。」

艦橋内にはロベリヤと優香そして田所博士の姿があった。

本来なら戦闘配置中の艦橋に関係要員以外居てはならない規則なのだが。

当然の顔をしてロベリヤと優香がおり、

「状況が分からないままで・・・と言うのはごめんだからな。」

と田所博士もまた当然と言う顔で艦橋に居るのだ。

もう今更だと恵理香は思いその点については何も言わない事にしていた。

海流の壁を通過しまほろばは海域の奥に近付きつつあった。

「レーダーに感はありますか?」

前方の海を睨みつつ恵理香がレーダー担当に確認する。

「今のところありません艦長。」

レーダー担当からの報告が入る。

その報告を聞いて恵理香は暫し考え込む。

「レーダーを誤魔化せるとは思えませんが。」

だが油断は出来ない、シーサーペントは狩りについてはこちらの予想出来ない事はするからだ。

「艦長、岩礁が見えてきましたが・・・」

海域の奥までまほろばは到着した。

「両舷停止、警戒を厳重に・・・此処はもう奴の縄張りですから。」

「了解です、両舷停止。」

機関担当が答えると、まほろばが速度を落として行きやがて停止する。

「結構障害が多いな、この駆逐艦大丈夫なのか?」

今まで口を挟んでこなかった田所博士が聞いてくる。

「まほろばではあれば問題ありません、まあ恵理香の指揮があればこそですが。」

優香が我がことの様に自慢して答えてくるので恵理香は反応に困ってしまう。

「守護天使は伊達ではないと言う訳だ。」

「はい田所博士。」

何でそんな風に納得しあえるのか、この2人結構気が合っている様だと恵理香。

「そんなの当たり前だよ優香、恵理香が居れば大抵の事は大丈夫だし・・・ね皆?」

「「「はい。」」」

ロベリヤの言葉に乗員達も声を揃えて返事をしてくる。

大きすぎる信頼感に恵理香は頭が痛くなってくるのだった。

「レーダー依然感無し。」

レーダー担当の報告に恵理香は眉を顰める、何か変だと言う予感を感じたからだ。

「居ないって事は無いんだよね。」

ロベリヤも違和感を感じたのか呟く。

かなり奥まで来ている筈なのに、反応が無い事が恵理香達を不安にさせていた。

「と言う事はやつは何処かに雲隠れしたのかそれとも・・・」

田所博士が腕を組んで呟く。

「雲隠れ・・・まさか?」

「艦長!後方に感ありってこれでシーサーペント!?」

恵理香の言葉にレーダー担当の驚愕した声が重なる。

「面舵一杯、両舷全速前進。」

「面舵一杯。」

「両舷全速前進!」

咄嗟に状況を認識した恵理香が指示を出し、機関担当と操舵担当の両名が復唱する。

舵を切り弾かれる様に速度を上げたまほろばの艦体が激しく揺れる。

「艦載砲射撃用意。」

続いて艦載砲の射撃準備を命じる。

まほろばは進路を巨大シーサーペントに向け速力を上げて行く。

『艦載砲射撃用意よし。』

「打ち方始め。」

艦首の艦載砲が射撃を開始し巨大シーサーペントを怯ませると、まほろばはその横をすり抜けて行く。

「このままここから離脱します。」

そのまままほろばは海域から離脱を図るのだった。

海流の外へ一旦まほろばを離脱させると、艦の左舷側を奥の海域に向けると停船させる恵理香。

「両舷停止、監視を続けて下さい。」

そうなってやっとロベリヤが深い溜息を付きつつ恵理香に問い掛ける。

「つまりあの巨大シーサーペントは・・・僕達が海域の奥に入って行くのを待ち構えていた訳だ。」

うんざりした表情を浮かべ恵理香は答える。

「はい、こちらがノコノコと入って行くのをね・・・」

「そして後方の流氷の下に潜んでまほろばを襲撃しようとした・・・狡猾ですね。」

優香が同じようにうんざりした表情を浮かべながら恵理香の説明の続きを言う。

「・・・言葉が無いな、聞いていた以上じゃないか。」

肩を竦め田所博士は呟く、こちらも普段は泰然している彼にしては深刻そうに。

「これがシーサーペントです、狩りに関しては人間以上ですから。」

田所博士は恵理香の言葉に深く頷く。

「ロベリヤ・レインバークのレポート通りな訳だ・・・中央海の連中がこれを知れば真っ青になるだろうな、まあ信じないだろうが。」

知能は人間以下、しょせん獣すぎない、大半の連中はそう考えているからだ。

「俺達はとんでもない奴を相手にしている訳だ・・・これでもあんたは戦うのか?}

恵理香は田所博士の問い掛けに肩を竦めてきっぱりと答える。

「言った筈です・・・私は諦めが悪いと、絶望的な戦いであっても自分の出来る事をするだけですよ。」

その言葉に周りの者達は頷き、その顔に絶望の色は無い。

ふと田所博士はこれこそ天使と呼ばれる所以ではないかと思った、綺麗ごとを並べた言葉でなく、その姿で人々を鼓舞し戦わせる。

もちろんこの天使は自ら戦う事もいとわないのだが。

「やはり天使だなあんたは・・・この俺だって希望を持てそうだ。」

「・・・それは光栄ですね、私として恥かしいのですが。」

田所博士の言葉に恵理香は顔を赤くしつつ答える、こう言う所は歳相応だなと彼は意地の悪い笑みを浮かべる。

『艦長、レーダーに反応有り、左舷より巨大シーサーペントが急速に接近中です。』

レーダー室から担当の報告が艦橋内に響き渡る。

恵理香と田所博士が左舷見張り所に出て迫って来る巨大シーサーペントを見る。

「せっかくの罠をかわされて頭にきたか・・・こう言う所は獣なんだが、迎え撃つのか艦長?」

「こちらとしても罠の礼をしないといけませんから。」

普段の恵理香に比べればかなり過激な事を言うと攻撃を命じる。

「・・・特殊ロケット弾の発射準備を急いで下さい。」

「火器管制室へ特殊ロケット弾の発射準備開始して下さい。」

副長が火器管制室へ準備開始を行うように連絡する。

『目標データの入力完了、射撃準備よし。』

火器管制室から射撃準備完了の報告が艦橋に伝えられる。

「目標突っ込んで来ます!」

見張り担当が叫ぶ様に報告して来る。

「特殊ロケット弾発射!!」

左舷側に向けられたランチャーから特殊ロケット弾が発射される。

特殊ロケット弾の接近を知ったシーサーペントは慌てて進路を変え逃れ様とする。

「巨大シーサーペントが逃れ様としてます!」

だが発射された特殊ロケット弾は狙いを外す事は無く、次の瞬間激しい閃光と水柱が巨大シーサーペントを包み込む。

やがてそれらが消えると爆発で粉々になった流氷の浮かぶ海面だけが残る。

「巨大シーサーペントは?」

「逃げて行きます艦長。」

そこにはふらふらになりながらも海域の奥へ去って行く巨大シーサーペントが居た。

「あれでも生き残るか・・・本当に化け物だなあいつは。」

その光景を見ながら田所博士は呟く、それについては恵理香も同じ気持ちだった。

「帰りましょう・・・これ以上の長居は無用ですから。」

それに異義を唱える者は居なかった、まほろばは進路を変えると中央港へ進路を取ったのだった。

中央港へ向かうまほろばの右舷見張り所に恵理香とロベリヤ、優香が出て来て田所博士の隣に立つ。

「収穫はありましたか博士?」

ロベリヤが海を黙って見つめている田所博士に聞いてくる。

「・・・そうだな思ったより有ったぞ、巨大シーサーペントの事だけでなく色々とな。」

そう言って笑みを浮かべながら恵理香達を見る博士だった、

「その言い方では何かある様ですね私達に・・・」

博士の意味ありげな笑みに優香が問い掛ける。

「確かにシーサーペントに関しては得る物が多かったよ、まあそれ以上に天使様の方が興味深かったがな。」

「シーサーペントより恵理香がですか?」

その返答に優香が聞き返してくる。

「ああ、天使様についてだな、こんな世界でもあんたみたいなのが居るなら俺でも少しは希望が持てるんじゃないかとな、くくく不思議な気分だよ。」

その博士の言葉に恵理香は溜息を付きつつぼやく。

「それは喜ぶべきなんでしょうか・・・ロベリヤ、優香笑わないで下さい。」

恵理香の言葉にロベリヤと優香も博士の様な意味深な笑みで見つめて来る。

「仕方が無いさ牧瀬艦長・・・それがあんたの定めさ、まあ精々頑張ってくれ守護天使様。」

博士の多分にからかいの含まれた激励に恵理香は憮然とした表情を浮かべ、ロベリヤと優香は更に笑みを深くするのだった。

そのまままほろばは何事も無く中央港に帰還し、田所博士は中央海の研究所に戻って行った。

15:30

中央海研究チームの調査協力終了。

その後の話だが・・・

中央海に戻った田所博士は大胆な見解を発表し話題になったと恵理香はロベリヤから聞かされた。

『狩られているのはシーサーペントでなく人間ではないのか?』

学会やマスコミなどからは例の如く叩かれているとロベリヤは苦笑しながら話してくれたのだった。

だが博士の見解は、恵理香達最前線で戦っている立場から言えば理解出来る話だ。

しょせん机上でしか論議出来ない学会やマスコミの連中には永遠に理解出来やしないと恵理香は思う。

そしてある事に気が付く、田所博士も戦っているのだと、恵理香達と違い武器ではなく知識で・・・

また一緒に航海するのも良いのかもしれないと恵理香はふと考えるのだった。

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