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北方海の守護天使  作者: h.hiro
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第9話「採掘船救助依頼」

洋上を一隻のボートが漂っていた、燃料も尽きたそれはただ波に弄ばれるのみ。

そのボート上に1人の女性、ぐったりとしていて動く様子は無かった。

「お、お父さん・・・必ず・・・助けを・・・」

女性はそんな言葉を呟き続けていたが、それに耳を傾ける者はおらず彼女の命は消えかけていた。

そんな時だった、少女の乗るボート接近して来る船いや艦があった。

それは艦尾に剣と盾を持った女神が描かれた旗を掲げた駆逐艦であった。

だが意識の無い彼女は気付かないままボートに揺られ続けていた。

「エルザ、こうなったらお前だけでもここから逃げるんだ。」

「そんな・・・お父さん、私1人だけなんて。」

「お前だけだったら何とか逃げられる、俺達が注意を引き付けるからな。」

「そして助けを呼んで来てくれ、頼めるのはお前だけだエリカ。」

「分かりましたお父さん、必ず助けを呼んできます、だから・・・」

そこでエルザは意識を取り戻し、自分が固いボートの底でなく、柔らかいベットの上に居る事に気づく。

「ここは・・・?」

ベットの周りは白いカーテンで囲まれていて自分が何処に居るか分からなかった。

助けられたのだろうか?燃料が尽き漂流している所を・・・

エルザがそう思っていると、カーテンが開けられ誰かが覗き込んでくる。

「どうやら気付いた様ですね、気分はどうですか?」

自分とそれほど歳の違わない白衣を着た女性が話し掛けてくる。

いくら何でも医者には見えなおあったので、エルザは看護師だろうかと思いながら答える。

「はい、それほど酷くは・・・あの此処は?」

エルザの答えに白衣の女性は微笑んで答える。

「それは良かった、ああここはまほろばの医務室ですよ。」

「まほろば・・・守護天使様の!?」

突然起き上がりそう聞いて来るエルザに白衣の女性は思わず後ずさってしまうのだった。

医務室のドアからノックの音がすると、医務員は立ち上がり答える。

「どうぞ入って下さい艦長。」

ドアが開けられ恵理香が入ってくる、それをエルザがじっと見つめる、守護天使については話には聞いていたものの会うのは今回が初めてだからだが。

「まほろば艦長の牧瀬 恵理香です、はじめまして。」

恵理香は微笑んでエルザに話し掛けてくる。

「あ、はい始めまして、エルザと言います、助けて頂いてありがとうございます。」

思わず緊張してしまうエルザ、同じ歳の様だけどやはり伴っている空気が違うと感じてしまう。

「いえ気にせずに・・・それでお父さん達を助けてほしいそうですが、状況を教えて下さい。」

そんなエルザの態度に内心苦笑しつつ恵理香は状況を尋ねる。

エルザと父親達は新しい鉱石、通称K鉱石を探して北方海域に採掘船で来て、ハワード島の入り江で試掘を始めた直後にシーサーペント達の襲撃を受けてしまった。

幸い用心の為に設置した機雷で何とか防いでいたが、突破されるのは時間の問題だった、その為エリカの父親は娘だけでも逃がそうと、島の反対側からボートで脱出させたらしい。

「お父さんを皆を助けて下さい、お願いします天使様。」

エルザは恵理香の両手を握り泣きながら懇願する。

「分かりました、必ず助けますから安心して下さい、あと天使は・・・」

「よろしくお願いします天使様。」

天使と呼ばないでと言おうとした恵理香だったがエルザは聞いてはくれなかった。

艦橋に戻った恵理香は直ちにハンターギルド長のレイアと連絡を取る。

『なるほど状況は分った、でもそうなると厄介だな。』

連絡を受けたレイアは状況を考えそう答える。

へたをすれば入り江の奥にいる救助者達に攻撃が及ぶ恐れがあるからだ。

『牧瀬艦長やれるか?』」

「非常に困難な救助ですが・・・まほろばと優秀な乗員達が居ますので問題ありません。」

まほろばと乗員達に絶大な信頼を持つ恵理香の発言に乗員達は艦長の信頼に応え様と決意を新たにする。

言っておくが恵理香は乗員の士気を鼓舞する積りで発言した訳ではない本当にそう思っているからこそなのだ。

恵理香らしいとレイアは微笑む、今更ながらに彼女が守護天使と呼ばれる意味を理解する。

『それでは頼むぞ牧瀬艦長。』

連絡を終わり一息付くと恵理香は艦橋に居る乗員達に命じる。

「それでは本艦もハワード島へ向かいます。」

「「「了解です艦長。」」」

皆の復唱に恵理香は頷くと傍らにいるロベリヤと優香に顔を向ける。

「と言う訳で申し訳ありませんがロベリヤ、この付近の繁殖地探しは一旦中断します。」

「分かったよ恵理香、状況が状況だからね。」

頷いてロベリヤは答える、今回の任務は彼女の要請による付近の繁殖地調査だったのだ。

「優香さん、まほろばには問題はありませんね。」

「ええ恵理香、まほろばは何時でも最高性能を発揮できるから安心して。」

まほろばの全てを知る優香の言葉に恵理香は頼もしいと思いつつちょっと複雑な思いに駆られる。

今回の調査に優香が参加しているのは改良されたまほろばの機関のテストの為だったからだ。

兎に角ロベリヤと優香を無事帰還させようと恵理香は決意する、その凛々しい横顔に2人は見とれるのだった。

3時間後まほろばはハワード島近海に接近していた。

「それじゃあの入り江はシーサーペントの繁殖地の可能性が?」

艦橋で指揮を執る恵理香が傍らに立つロベリヤに問い掛ける。

「その可能性が高いね、シーサーペントにしてみれば自分達にとって大事な所に侵入された様なものだ。」

「それは・・・またとんでもない所に入り込んだわね、彼らは知らなかったのかな?」

ロベリヤとは恵理香を挟んだ反対側に立つ優香が疑問を投げ掛ける。

「採掘船が北方海に来るのは始めだとエリカさんは言ってましたから、気付かなかったのでしょう。」

恵理香は溜息を付く、様は海域に不慣れだったわけで、本当なら誉められた話ではないのだが。

とは言え見捨てるという事は海で生きる者としては出来ない話しだ、もちろん恵理香自身としても。

『艦長、ハワード島を確認しました。』

見張担当の報告が艦橋内に流れる。

「了解です、総員戦闘配置。」

「「「了解です艦長。」」」

「総員戦闘配置繰り返します総員戦闘配置。』

艦内放送が流れるなか、乗員達が配置に付いて行く。

『火器管制室準備よし。』

『機関管制室配置配置に着きました。』

各部署からの報告後が艦橋に入る。

「艦載砲及びロケットランチャー射撃準備。」

『艦載砲及びロケットランチャー射撃準備に入ります。』

火器管制室が恵理香の指示を復唱すると艦載砲とランチャーに自動装填装置が砲弾とロケット弾を装填して行く。

『火器管制室より、艦載砲及びランチャー射撃準備よし。』

管制室からの報告を受けた恵理香が命じる。

「それではハワード島へ突入します!」

まほろばはハワード島へ接近し調査船の停泊して居る湾内に突入して行く。

「シーサーペントです、距離1千。」

「前部艦載砲照準急いで、採掘船には注意願います。」

見張り員の声に答えて即座に恵理香の指示が発せられる。

『照準よし!』

管制室からの報告が艦橋に響く。

「打ち方始め!」

まほろばの艦載砲が恵理香の指示で射撃開始する。

砲弾がシーサーペント手前に着弾する、もちろん採掘船には至近弾すらなかった。

「シーサーペントがこちらに向かって来ます。」

見張り担当がまほろばに目標を変えたシーサーペントの動きを報告して来る。

「取舵一杯、シーサーペントを湾外に誘導します。」

まほろばは進路を湾外に向けシーサーペントを迎撃予定海域へ誘導し始める。

「ランチャー射撃用意・・・念の為特殊弾ロケット弾も準備もして下さい。」

『ランチャー射撃用意、殊弾ロケット弾も準備に入ります。』

火器管制担当が恵理香の指示を復唱する。

「出来れば殊弾ロケット弾は使いたくないですね艦長。」

恵理香は副長の言葉に困った様な笑みを浮かべ答える。

「出来れば私も使いたくはありませんが、用心の為です。」

ケイが作ったとんでもない威力を持つロケット弾を出来れば使用したくないのは恵理香同じだった。

「下手をすればシーサーペントだけでなくまほろばも吹き飛ばされかねませんからね。」

ロベリヤと乗員達は恵理香の言葉に頷く。

「ケイが迷惑掛けてすいません。」

優香が謝罪の言葉を皆にする、彼女も苦労している様だと恵理香達は同情するのだった。

「艦長、目標海域に入りました。」

『後部ランチャーに目標データ入力完了。』

恵理香は右舷見張り所に出ると、見張り担当と共に後方からまほろばに迫って来るシーサーペントを見る。

「後部ランチャー射撃開始。」

『後部ランチャー射撃開始します!』

まほろばの後部ランチャーからロケット弾がシーサーペントに放たれる。

「着弾!」

追いかける事に気を取られていたシーサーペントはロケット弾を真正面から被弾し動きが止まったところを砲撃され海中に沈んでいった。 

その後シーサーペントを撃破したまほろばは湾内に戻って来る。

「採掘船に航行出来るか確認をお願いします。」

恵理香は通信室に艦内電話で指示する、傍には呼ばれたエルザが心配そうにその様子を見ている。

『採掘船より返信・・・我航行可能なり、乗員も全員無事、との事です。」

その事を恵理香に伝えるとエルザはほっとしたのか涙を流す。

「大丈夫かい?」

そんなエルザにロベリアがハンカチを差し出して慰める、流石は男顔負けのイケメンだなと恵理香は思う。

「・・・恵理香、私は女なんだけど。」

「いや何で私の考えている事が分かるんですか?」

一瞬疑問に駆られるがあまり深く考えるの止める恵理香だった、まあ何時もの事だしと思って。

「艦長、採掘船より出発用意が出来たとの連絡です。」

「それでは帰港しましょう。」

副長の報告に恵理香が帰港の指示を出すとはほろばは採掘船と共に中央港に向かうのだった。

中央港に到着し接舷すると恵理香はエルザとロベリヤそして優香と共に桟橋に既に接舷していた採掘船に向かう。

近付くと採掘船から降りてくる船員達、その中の1人の男性がエルザを見ると驚いた表情を浮かべる。

一方恵理香達と歩いていたエルザもまた驚いた表情を浮かべ、その男性の元へ走りだす。

「お父さん!」

「エルザ。」

駆け寄って来たエルザを男性は抱きしめる、どうやらその男性が父親らしい。

2人は無言で涙を流しながら抱き合う、周りの船員達もその光景を同じ様に涙を流し見ている。

「良かったですね。」

恵理香は感慨深くそれを見て言う、こういう光景を見られるなら危険を犯してまでやっただけはあると。

「そうだね・・・良かったよ。」

ロベリアがはそう言って少し悲しい様な表情を浮かべる、自分と父親の事を考えたのだろう。

「はいまったくですね。」

優香もそう言って微笑む、彼女も嬉しそうだった。

そんな光景の中、恵理香は自分の父親の事を考える。

この世界に来る前の記憶は殆んど失われていたので果たしてどんな父親だったかは分からない。

一方恵理香なった今の状態について言えば、幼い頃失ってしまった為にこちらも曖昧なものだった。

そう考えると、エルザとその父親の姿は恵理香にとっても複雑な思いがあるものだった。

そんな思考に恵理香が落ち込みそうになった時、彼女の左右の手が誰かの手に包み込まれる。

「「恵理香・・・大丈夫?」」

それは何時の間にか両隣に立っていたロベリアと優香だった。

「・・・大丈夫ですよ2人共、ありがと心配してくれて。」

微笑みながら恵理香はロベリアと優香の手を握り返して答える。

「気にしなくてもいいさ。」

「うん。」

ロベリアと優香はそう言って微笑み返す、それは麗しい女性達の友情に見えた(そう思っているのは恵理香だけだったが)。

そして此処に妹至上主義の万理華が居たらなら『私の恵理香ちゃんが取られちゃう!?』と騒ぎになっただろう。

そんな時エルザと父親は恵理香達に頭を下げてくる、もちろん周りの船員達も一緒に。

こうして採掘船救出作戦は無事終了したのだった。

その後の話しだが、採掘船の乗員達は一旦ハンターギルドに向かった、もちろん助力を得る為にだ。

そしてハンターギルドの支援の下採掘を続ける事になった彼らが夢の金属K鉱石を発見するのは暫らく後の話しになる。

16:50

救助した女性からの採掘船救出依頼完了。

乗員に死傷者は無く、採掘船にも重大な損傷無し。

無事に中央港に曳航し以後はギルドに一任した。

報告者:牧瀬商会所属駆逐艦まほろば艦長牧瀬 恵理香。

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