表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/41

第十九話 風邪ひきルーチャ(アドルフォ視点)

 俺の体調が戻ってすぐに、今度はルーシアが寝込んだ。俺の風邪を移してしまったのだろう。苦しそうな様子を見ると、要らぬ面倒までかけていたことが悔やまれる。

 俺は自分よりいくつも年下の少女を相手に、何を甘えていたのだろう。熱に浮かされていたとはいえ、情けなくて合わせる顔がない。


 とりわけ、幼児の身体で顔を真っ赤にして、ふうふうと熱い息を吐いているのを見ると、もうどうして良いかわからない。

 冷たい手拭いを額に乗せる以外に出来ることがなくて、枕元で名前も覚えていない神に祈った。


 俺が記憶を失ったり、呪いのせいで子供の姿になったりするのは、たぶん自業自得だ。人は普通に生きていたら、呪いを受けたりはしない。

 俺の過去は罪にまみれているのだろう。風邪をひいたのも何かの罰かも知れない。


 記憶が戻らなくても、推測できることはある。旅慣れた様子の旅装、いくつも印の付いた地図。

 おそらく俺は、呪いを解くために旅をしていたのだ。この森へ来たのは腕の良い魔女だったという、亡くなったルーシアの師匠に会うためだろう。


 ルーシアには、何ひとつ関わりがない。シオンを拾ったばかりに俺の呪いの影響を受けて、こんな目にまで遭わせてしまっている。


 ルーチャ(幼いルーシアを俺はそう呼ぶことにした)が目を開き、(うつろ)に視線を彷徨(さまよ)わせる。


「しおんの、ごはんを、つくるのれしゅ……」


「無理に決まってるだろう。俺が何とかするから寝ていてくれ」


 起き上がろうとしたルーチャを布団の中へと戻す。頭からズレた手拭いはすでにぬるくなっていた。額を合わせて熱を測ると、信じられないくらい熱い。


「ルーチャ、師匠の熱冷ましがあると言っていただろう? どこにある?」


「あなたが、のんだぶんれ、おしまいれしゅ。あとは、わたちの、ちちゃくひんしか……」


 ルーシアの作った試作品か。なかなか判断に迷うな。俺にそっちを飲ませてくれれば良かったのに。こんなことになるのなら、多少効果が怪しくても喜んで飲んだ。

 だがシオンを大切にしている彼女は、そのリスクを良しとはしなかったのだろう。ルーシアの俺の扱いは、シオンに比べて若干……いやかなり雑だ。

 俺にしてみると、シオンとは記憶は共有していないものの、まるで別の存在だとは思っていない。根っこの部分は繋がっている……そんな感じだ。

 けれどルーシアは俺とシオンを完全に別の人格だと考えている。呪いの核心について話そうとしないのは、そういうことだろう。


 彼女は、俺を選ばない。


 無理もない話だ。純粋無垢な幼い子供と、罪と呪いにまみれた得体の知れない男。消えるべきなのは俺の方だ。


「俺には判断出来ないんだが、ルーシアの試作品の薬を飲むか? 幼い身体には毒になるのか?」


「わたちが、るーしあに、もろったたいみんれ、のみましゅ。くしゅり、とりにいきましゅ」


 どんどん呂律(ろれつ)があやしくなっている。意識が朦朧(もうろう)としているのだろうか? 『ルーシアに戻ったタイミングで飲む。薬を取りに行く』と言っているらしい。


「わかったから少し休んでくれ。何か食べられそうなものを作ってみるよ」


 冷たい水で絞った手拭いを頭に乗せようと、前髪を上げたついでに頭を撫でた。ルーチャは子供扱いを嫌がるのだけれど。


「手ぇ……ちゅめたくて、きもちいい……」


 ルーチャがへらっと笑って言う。指を二本、きゅっと握られた。幼いルーチャと少女のルーシアの顔が重なる。


 そんな風に笑わないでくれ。俺は君の幼児化が解決したら、こっそり夜中に逃げ出そうとしているんだ。君の、シオンと一緒に。


「君とシオンのために、消えてあげられなくて、すまないな……」







第二十話 風邪ひきルーシア(アドルフォ視点)


まーだ続くんかい! 風邪ひき次話ですおしまいです。皆さま風邪などお召しにならず、良いお年をお迎えくださいね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ