第二十話 風邪ひきルーシア(アドルフォ視点)
ルーチャの寝息が整うのを待ち、腕を布団の中へと戻してキッチンへと降りる。スープなら寝込む前に一度ルーチャと一緒に作っているから、何とかなるだろう。パン粥も行けそうだ。
野菜スープを大鍋で作りパン粥を持って寝室に戻ると、大人のルーシアへと戻っていた。そろそろ夜明けが近い。額の手拭いを変えて声をかける。
「ルーシア、そろそろ夜明けが近い。今のうちに薬を取りに行って来る。どこにあるか教えてくれ」
「えっ……あ、ああ。わたし、戻ったんですね……。すみません、お水、もらえます?」
俺もルーシアも、身体の大きさが変わってしまうので、素肌で大きな吸湿性の良い布にくるまって寝ることになっている。子供用の服を、そう何枚も破るわけにはいかないからだ。
ボーッとしているルーシアに、念入りに布を巻きつけてからそっと身体を起こしてやる。ルーシアが布から手を出そうともぞもぞと動かすのを封じて、背中を支えて口元にコップを持ってゆく。
喉が枯れて痛いのだろう。コックン、コックンと、ゆっくり飲み下す。
「試薬は、四階のわたしの工房にあります。でも塔の機能制限で、わたしと一緒でないと上がれないんです」
「ああ、三階の階段の途中に見えない壁があるな。ルーシアと一緒なら抜けられるのか?」
こっくりとうなずきながら、もう眠そうにしている。身体が休息を欲しているのだろう。顔も赤い。
「俺が抱いて行くのでいいか?」
ルーシアの目がパチンと音がするように開き、まん丸に見開かれる。そんなに驚かれると思わなかった。
「じ、自分で歩いて行けますよ!」
「いや、無理だろう。階段でふらついたら危ない」
「でも……」
「もう夜明けまであまり時間がない。さっさと行って持って来よう。失礼するぞ」
膝の裏に手を入れ、腰に手を回してミノムシのように布を巻いたルーシアを、対面で抱きかかえて持ち上げる。
ルーシアが小さく『ちょっ!』と声を上げた。ちょっと待ってと言いたいのだろう。
「は、恥ずかしいですよ、こんなの!」
確かに密着感が高い。だが安定感で言ったら、この抱き方が一番だ。
「やましい気持ちはない。少しの間だ。我慢してくれ」
立ち上がると、彼女の上半身がぐらりと揺れた。
「手を出して首につかまってくれ、危険だ」
ルーシアは『うううーっ』と口の中で唸り声を殺しながら、もぞもぞと手を出した。遠慮がちに俺の首に腕を絡める。
しまった。これは思ったよりもクる。布の下は素肌で、高熱でゆるむ身体はどこもかしこも柔らかい。
俺は腕の中にいるのは、ルーチャだと思い込むことにした。幼女だと思えば、比護欲以外の欲は湧いて来ない……筈だ。
階段を昇り書庫へ入り、そのままルーシアの指示に従って薬を探す。
ルーシアは観念したらしく、俺の腕の中で大人しくしていた。
「お、重くて……すみません……」
「ルーチャとそう変わらない」
ルーシアは俺の耳もとで、『そんなわけないじゃない……!』と小さな声で言った。子供扱いはルーシアもお気に召さないらしい。
試薬は想像の上をゆくシロモノだった。ドロリとした濃い緑色の液体で、所々に赤黒い固形物が浮いている。蓋を開けると強烈な刺激臭がした。
「これを……本当に飲むのか?」
「飲みます。効能は自信があります」
「待て。ま、まずは俺が飲んで、安全を確認する」
「製作者に失礼ですよ! すごく効くんだから!」
ルーシアは俺から薬瓶をひったくるようにして、鼻を摘んでごくごくと一気に飲み下した。
「プハーッ! まずい! にがい! 甘いもの下さい!」
俺が慌ててパン粥の蜂蜜部分をすくって差し出すと、パクリと勢いよく口に入れた。
「うええ……うっぷ。元気がモリモリ湧いて、来ました。ほんとですよ!」
涙目でニッカリと歯を見せて笑う。
「わかったわかった。ルーシアは立派な薬魔女さまだ。ほら、もっと食べて早く元気になってくれ」
「むくぐ。信じてないですね? 今度アドルフォが風邪をひいたら、今度はこっちを絶対飲ませます。座薬も入れます!」
座薬……。
この子は、なんでこう……いじり倒したくなることを言うのだろう。出来ないくせに。
「入れてくれるのか?」
「いやっ、あの……し、シオンになら……」
真っ赤になって、へらっと笑った。
夜明けが、永遠に来なければいいのに。
次話 また夢を見ました
アドルフォだけではなく、ルーシアも過去に秘密がありそうですよ。
明けまして、おめでとうございます。お年玉がわりに、感想やお星さまなど投下して下さると、馬車馬のように書くかも知れませんよ笑
本年も、少しでも皆さまの心に残る物語を作ってゆこうと考えております。おつき合い頂けると幸いで御座います。
はなまる




