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マキが春と出会ったのは、マキが小学1年の時。
美夜子と一緒にパーティーへ行った時にマキの可愛らしさに春がひとめぼれしたのだ。美夜子のガードが頑丈で中々恋人になれなかったが、美夜子が海外に行ったすきに手に入れた。長年の片思いを拗らせ、若干ストーカーもとい、ヤンデレ?いや本人曰く愛妻家らしい。
なんだかんだでもう長年の付き合いなので、一応春の考えていることは分かるつもりだ。
マキはHP0にまでなったのだから、何がなんでも香山には無事でいてほしいと思っていた。
春の手にかかれば、業界からのつま弾き位で済めばいいが、一家離散なんてもんになってしまえば後味が悪い。ここは元凶の忠仁に責任を取っ手もらおうと考えていた。
マキは翌日、香山の自宅に行くと重々しい雰囲気であった。守衛に用件を伝えると、応接間に通された。しばらく待つと令嬢が姿を表す。昨日とは打って代わり元気がなかった。
「昨日は、すみませんでした。私が社交辞令を鵜呑みにして、いい気分になっていたのが悪かったのです。家族にまで迷惑をかけてしまって。」
ポロポロと泣き出す令嬢。
マキは令嬢にハンカチを渡し、心配しないように伝える。
「要は、令嬢が本当に忠仁さんの婚約者になれば丸く収まると思いませんか?」
令嬢は化粧をなくせば童顔な顔立ちで可愛い部類だ。昨日は化粧で自己主張が強く感じたが、今日は大人しく感じる。冷静を失っていたが、マキが昨日調べた情報では、香山の父親より令嬢の方が経営の才能がありそうだった。少し落ち着けば、忠仁の相手でも十分通用すると考えた。
「そんなの無理です。」
「私に任せて下さい。」
マキは令嬢を連れ出し、ローランド専属の美容スタッフに令嬢を託す。
訳のわからない令嬢はされるがまま。明るい髪を落ち着いたピンクブラウンにし、ショートボブにカットする。付け睫は市販の物を2ミリカットし、自然に見せる。アイシャドウは薄いラベンダーに、ゴールドで華やかさを、アイラインはオリーブ色で引き締める。リップは薄い桃色。
洋服はからだのラインがはっきりは出ないツーピース。胸元は一粒真珠。
完璧な忠仁の好みの女性が出来上がった。
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「昨日は香山の令嬢が来たんだって?マキちゃんに怪我させて、春が出て来たなんて、香山終わっちゃうね。」
忠仁は仕事から帰って来て食卓に来て、マキに昨日の惨事を口にした。すると、マキと一緒にいる女性を見つけ近寄り手を握ってきた。
「マキちゃん!この女性誰?まじで女神なんだけど!好みにドンピシャ!何?何?僕へ花嫁さんのプレゼント?」
分析しただけあって忠仁は令嬢にプロポーズする勢いのアピール。ちょっと皆が引いてるけど。令嬢もひきつっている。
マキは立ち上がり、ドアを開けるとそこには春がいる。
「ね?勘違いさせる忠仁さんが悪いと思わない?」
嫌そうな顔で春は頷く。
「お茶をかけられたのは謝ってもらったし、女性を簡単に口説く忠仁さんに罰を受けてもらいましょう。私がセレクトしたお見合い写真をドンっと送ってあげます。」
「その必要ないんじゃないか?」
春が後ろを指差すので、マキが振り返るとまだ手を握って口説いている忠仁。忠仁はいつもより本気に見えるし、令嬢も最所はひきつっていたが、徐々に顔が赤くなる。
「綾小路家に縁がある家なら、もう何もしない。」
マキは二人っきりにするために春の手を取り食卓を後にする。