王城でのお茶会に誘われて
僕が子爵家の後継者問題から避難している公爵家の離れでの生活にもだいぶ慣れてきた。まぁ、公爵子息のジュストとの交流に慣れてきたと言っていい。むしろ、餌付けが順調である。
公爵家本邸では、満足な食事を与えられず、服も新調されることもほぼなく、どこぞの貧民街の孤児かと思う生活だったジュストだが、ここ僕が住む離れに通うようになって、肉が付いてきた。
お風呂にも一緒に入り、お昼寝もしているので、輝かしい美貌を取り戻しつつある。もしかしたら、身長も伸びたかもしれない。羨ましいぞ。
後妻の連れ子ヴィートの奴は、ちょこちょこ離れに顔を出しては僕とジュストに罵詈雑言を浴びせ、こちらが言い返すと顔を真っ赤にして暴力を振るおうとする。山猿のような野蛮さである。当然、僕の従者兼護衛のアメデオがさっと素早く捕獲して檻まで返しにいく。
何度も同じことを飽きずに繰り返しているから、もしかしたらヴィートの奴は友達がいないのかもしれない。
あ……僕とジュストも友達はいなかった。
「そうですねぇ。貴族の子どもたちは幼いときはほとんど屋敷から外には出ませんから」
親戚や領地での来客、隣の領主の子どもなどしか接点がなく、親に連れられてお茶会など参加して友達を作っていくらしい。それも、親の利益になり領地にプラスになる付き合いを考えて……それって友達?
そんな毎日を送っていた僕の元に一通の招待状が届く。
「おうじょうでの……おちゃかい?」
なぜ? 僕はまだ六歳だし、王城に行くのに付き添いの親族はいないし……なんで、こんなモノが届いた?
「あぁ~、王子様たちの婚約者や側近候補を選ぶためのお茶会ですね。昔は高位貴族に限ってましたけど、いまは広く招待しているみたいで」
アメデオが僕の手から招待状を奪いヒラヒラとさせる。
「本当なら第一王子に合わせた年頃の子どもが対象のはずですが?」
ソニアの淹れてくれたハーブティーにふぅーっと息を吹きかける。ソニアがアメデオの手にある招待状へ顔を寄せた。
「あれでしょ? 第二王子と第一王女も合わせてお披露目するからでしょ? 第一王子は十歳、第二王子と第一王女は六歳と五歳だから」
僕は第二王子の側近または学友候補かな? 子爵家に王族が嫁いでくることはないだろうし。
「第一王子が十歳……。もしかして、ジュスト様も招待されているのでは?」
確かに十二歳のジュストなら、第一王子の側近候補として招待されていてもおかしくない。王族の血も入っている公爵子息だしな。
「じゃあ、ジュストといっしょに、いけばいいかぁ~」
このときの僕は、なんとも呑気なことを考えていたのだった。
僕の生家、セヴェリーノ子爵家は裕福な家だ。爵位は低いけれど、それなりに贅沢ができる財産がある。だから、両親が死んだあと爵位を巡り親戚同士が争っているのだけれど。
そして、僕が王子様たちの学友候補として王城のお茶会に招かれたことは、子爵代理をしている叔父の耳にも入っていて、ものすごい枚数の手紙が届いた。
「……むずかちい」
まだ六歳の子どもなので、知らない単語や文字が出てきて読めない。解るのは叔父様のテンションがバカ高いということだ。
「ルカ坊ちゃまの支度に張り切っているみたいですね。最高級の布を使って、最先端のデザインで仕立てるそうです」
「ルカ坊ちゃまの採寸した記録は、ニコロ様に送っておきました」
「えー。ただの、おちゃかいなのに?」
もったいないでしょ? 一回しか着ない服だよ? 着回しできないし、すぐに大きくなって着れなくなっちゃうし……もう、古着でもいいんじゃない?
「ダメです。ちゃんと仕立ててセヴェリーノ子爵家の地位を固めませんと。ルカ坊ちゃまは成人したら子爵位を継ぐのですから」
「は~い」
口を尖らせてソニアに返事をする。なんとも、面倒なものだ。こうなったら、ちゃちゃっと王子に挨拶して、ササーッと帰ってこよう。変に王族なんぞと縁を持ちたくないし、王城にはアイツらもいるし。
そして、別に望んで出席するわけでもないのに、ソニアを先生としたマナーと王族の名前を覚える勉強が始まってしまった。
あ~行きたくない!
「ルカ……どこかに行くの?」
身長も少し伸びて、肉も薄っすらと付いて、サラサラの銀髪麗しの紫と瞳の美少年は、困った顔で僕の顔を覗きこむ。
「あー、おうじょうだよ? ジュストもいくでしょ?」
「……?」
こてんと首を傾げたまま動かないジュスト。あれ? ここに天才芸術が作った彫刻があるよ? じゃなくてーっ。
「え? しょうたいされてない? おーじさまたちのおちゃかい? ジュストのところもきたでしょ?」
ブンブンと頭を左右に振るジュスト。まさかのまさか、あの後妻め~っ、王族からの招待状を握りつぶしたのか?
「ソ、ソニア! どうしよう?」
「……アメデオ。公爵様へ確認を」
「えーっ、俺ってば貧乏くじーっ」
文句を言いながらアメデオは公爵家本邸へと向かった。
数十分後、戻ってきたアメデオの手には一通の招待状があり、ジュストはちゃんと招待されていたようだ。
あーよかった。
「でも、顔を化け物みたいに歪ませたベアトリーチェ様が、公爵家の予算で支度はさせないってさ」
……それは、ジュストは王城に行くのに相応しい服も靴も馬車も用意させてもらえないってこと?




