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『最後の春、君と見た空』  作者: 優貴(Yukky)


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第4話 『毎週木曜日の空白』

翌日。

空は少し曇っていた。

昨日までの春の明るさが、ほんの少しだけ薄れている。

教室はいつも通り騒がしいのに、なぜか一部だけ音が抜け落ちているように感じた。

その理由は分かっていた。

水瀬陽菜が、いないからだ。

「また休みか」

誰かの小さな声。

「最近多くない?」

「体弱いのかな」

その言葉が、空気の中に溶けていく。

しかし朝倉幸太郎は、そのどれにも反応しなかった。

ただ机を見つめていた。

陽菜の席。

そこだけ時間が止まっているようだった。

昼休み。

屋上には誰もいなかった。

風だけが、フェンスを揺らしている。

幸太郎は一人で弁当を開いた。

味はしなかった。

(来るって言ってたのに)

スマホを見る。

メッセージは既読のまま更新されていない。

颯太も今日は別の用事でいない。

完全に“静かな屋上”だった。

その静けさが、逆に落ち着かなかった。

放課後。

幸太郎は教室に残っていた。

気づけば、陽菜の机の前に立っていたのは昨日と同じだった。

(また同じことしてる)

自分で自分に呆れる。

その時。

「まだ残ってたの?」

声。

振り向くと、同じクラスの女子が立っていた。

「……忘れ物」

「ふーん」

女子は少し首を傾げる。

「水瀬さんのこと気にしてるの?」

「別に」

即答。

しかし、女子は笑わなかった。

代わりに、小さく言った。

「でもさ、あの子のこと、誰もちゃんと知らないんだよね」

その言葉が、妙に引っかかった。

「どういう意味」

女子は少し迷ってから続ける。

「毎週木曜日だけ、絶対にいないんだよ。

体調とかじゃ説明つかないくらい、規則的に」

幸太郎の指が止まる。

「先生も詳しくは言わないし、誰も聞けない空気あるし」

「……」

「なんかさ、ちょっと怖くない?」

その一言に、胸の奥がざわついた。

帰り道。

空はすでにオレンジ色になっていた。

幸太郎は一人で歩いていた。

いつもの道なのに、今日はやけに長く感じる。

「毎週木曜日」

その言葉が頭の中で繰り返される。

偶然じゃない。

ただの体調不良でもない。

“何か”がある。

でも、それを聞く勇気がまだない。

その夜。

スマホが震えた。

陽菜からのメッセージ。

『明日、屋上行ける?』

昨日と同じ言葉。

しかし違うのは、日付だ。

明日は木曜日。

つまり――

「来ない日」

なのに、なぜ。

指が止まる。

数秒迷ってから、返事を打つ。

『行く』

既読。

すぐにつく。

そして、少し間が空いて。

『じゃあ、少しだけ話そうね』

その一文に、胸が締め付けられた。

翌日・木曜日。

朝の教室。

陽菜は来ていない。

分かっていたはずなのに、机を見ると少しだけ違和感がある。

颯太が横で言う。

「またか」

「……ああ」

「お前、ほんと気にしてるな」

「別に」

颯太はそれ以上何も言わなかった。

「別に」

颯太はそれ以上何も言わなかった。

ただ少しだけ、真面目な顔をしていた。

昼休み。

屋上。

幸太郎は一人で待っていた。

風が強い。

フェンスが鳴る。

空は曇っている。

昨日とは違う“静けさ”。

そして――

扉が開いた。

「ごめん、待った?」

そこにいたのは、水瀬陽菜だった。

しかし、いつもと少し違った。

笑顔はあるのに、どこか薄い。

「来るんだ」

「うん。少しだけね」

幸太郎は立ち上がる。

「今日、木曜日だよな」

その言葉に、陽菜の表情が一瞬止まった。

でもすぐ笑った。

「うん。知ってる」

風が強くなる。

髪が揺れる。

ただ少しだけ、真面目な顔をしていた。

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