たった10分だけ、会いにきた人
優しかったけど、誠実じゃなかった人の話です。
似た経験がある人に、少しでも届いたらいいなと思って書きました。
出会いは、よくあるやつだった。
でも、こんなふうに終わるとは思っていなかった。
マッチングアプリでマッチして、
何回か軽くやり取りをして、
なんとなく会う流れになった。
正直、その時点ではそこまで期待していなかった。
いい人だったらいいな、くらい。
合わなかったら、それはそれでいいや、くらいの気持ちで。
ー
待ち合わせの場所に少し早く着いて、
スマホを見ながら時間を潰していた。
人の流れをなんとなく目で追いながら、
「どんな人なんだろう」って少しだけ考える。
プロフィールの写真と同じ人が来るのか、
それとも全然違うのか。
そういうのを気にするのも、
もう慣れてきてしまっていた。
—
「〇〇?」
声をかけられて顔を上げると、
そこには、ちゃんと写真通りの人が立っていた。
少し安心して、ちょっとだけ気が抜けた。
「はじめまして」
その一言も、特別なものじゃないはずなのに、
なぜか少しだけ自然に聞こえた。
—
実際に話してみると、思っていたよりずっと楽だった。
無理に話題を探さなくても会話が続いて、
沈黙があっても気まずくならない。
初対面なのに、変に気を使いすぎなくていい感じ。
こういうのって、意外と珍しい。
—
帰り際、彼が言った。
「今度、バイトの合間なんだけどさ、10分だけでも会えたりする?」
少しだけ驚いた。
10分だけって、そんな短い時間でわざわざ?
そう思ったけど、同時に、
そこまでして会おうとしてくれてることが、少し嬉しかった。
—
約束した日。
本当に10分だけだった。
駅の改札の前で待ち合わせて、
少し話して、笑って、すぐに「じゃあね」って別れる。
それだけ。
それだけなのに。
—
帰り道、なんとなく思ってしまった。
「なんで、ちょっと嬉しいんだろう」
たった10分しか会ってないのに、
わざわざ来てくれたこととか、
その短い時間の中でちゃんと目を見て話してくれたこととか。
そういう小さいことが、
思っていたよりも、ちゃんと残っていた。
—
「またちゃんと会おうね」
別れ際にそう言われて、
私は素直にうなずいた。
そのときはまだ、
その言葉を疑う理由なんて、ひとつもなかった。
それが、始まりだった。




