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我、魔王スペルヴィアなり!!  作者: 黒っち
Phase 2.「熱い夏」
29/41

029.「神様すげええええ」

 土曜日。


 いつの間にかクラスでも少しずつ発言権を得つつあった俺は、牛島に言って教室の鍵を開けてもらい、勉強会を主催していた。


 なんか、伽羅君がやたら持ち上げてくれるんだよなぁ。彼は、チャラ男にしてはいいやつだ。


「それじゃ出席をとりまーす。1番、明日辺くん。2番、入須くん。3番、叡智さん……」


 順々に名前を呼んでいく。


「16番、土丘くん……はいないか」


 彼だけは、未だに苦手だ。よりによって俺の帰り道に近いらしいとの話だが、遅くまで帰っていないのか、あまり顔を合わせたことがないのが幸いだ。


 教壇では牛島が本を読みながら待機しており、生徒たちは思い思いに問題演習に取り組む。不明点があれば随時質問していくという形で進行する。


「う~~~ん……わかりゃ~ん……」

「どのあたり?」


 横からのぞき込むと、叡智さんは机をガーとくっつけてきた。


「このyだのaxだの……」

「あぁ……」

「なんなのこれ? 何を表現してるの? この子たちの意思を感じられないよ。怖……」


 全般的にお勉強が苦手な彼女だが、中でも苦手なのは数学、物理、化学。

 国語、英語、歴史なんかは相対的にマシだ。赤点ラインを反復横跳びする理由はここにある。


「よーし……その辺を重点的にやろうか」


 小谷君は、無事二回戦も勝った。次はいよいよ第三試合――強豪、日太三との戦いだ。

 クラスを挙げて応援に行く段取りは整った――が、その前に。


 我々は期末テストを無事通過しなければならない。


 そしてできれば――土丘君にも参加してほしい。

 純粋に叡智さんのためならばやるはずだが、この件に俺が結構深く噛んでいるということもあって気に食わない様子だ。


 いや――どうだろうか。彼からすれば、恋のライバルである小谷を応援するということ自体がすでに気に食わないことか――なにか変なことをやらかさなきゃいいんだけど。


 ――と考えていると。


 その晩、事件が起きた。

 練習を終えて帰宅する途中、暴漢に襲われて小谷君が右腕を骨折した。


 ――


 週明けの朝。右腕を包帯で吊って登校してきた彼の姿に、教室はお通夜のような雰囲気に包まれていた。


「いやーハハハ……油断した。やっちまったわ! すまんな叡智。あの約束はまた来年な」

「でもさぁデコピン……こんな……こんなのってないよぉぉぉ鬼ガンバッてたのにぶぇぇぇぇ」


 号泣する叡智さん。全体練習中はチームメイトのフォローに時間を取られているから、自分の練習は居残りでやっていたと聞いている。その努力の様子を間近で見てきたからこそ、悲しみも際立つのだろう。

 次いで扉が開き、土丘が登校してくる。彼は小谷君の席にやってくると――


「あーあーやっちまったな小谷ww ま、ご愁傷様ww」


 と、嘲り笑って自らの席へと行った。

 なんてヤツだ。俺は彼女の泣き顔を見るのが辛い。いや俺だけじゃない――みんなそのはずだ。なのにお前は、どうしてそんな顔ができる……?


「アイツ……まさかとは思うがヤッてねーだろーな……」


 伽羅君が不穏なことをつぶやく。


「おい小谷、お前を襲ってきたやつってどんな奴だった?」

「ん~? さぁなぁ……暗かったし、全員フードにマスクだったし、わからんな……」

「全員って、何人いたのよ」

「6人ばかりだったかな。他のヤツは蹴とばしたけど、1人メチャクチャ強くてなぁ。手も足も出んかったわハハハ」


 横でやりとりを聞いていた俺は、一つ、試してみることにした。


 ――


「で……何の用だ、魔王」


 俺は、屋上に勇者を呼び出した。


「話は聞いていたな? お前に小谷を治療してもらいたい」

「……」


 お前らがやれ、とは言ってこない。

 どうやら、治癒魔法が使えるのはこの中では勇者だけのようだ。ありがちだが、闇の魔法? か何かの使い手である俺たちに、それは使えないらしい。


「目的はなんだ?」

「考えてみろ」


 訝しむ勇者に端的に返す。俺が何か言ったところで信じられまい。ならば自分で考えてもらうしかない。小谷を治療して俺に何の得があるというのか。


 ――おそらく。


 勇者が最近教会に足しげく通っているように、我々の喫緊の課題は弱体化した聖気や瘴気の回復だ。自分が信仰の力を集めようとしているように、魔王は恐怖の力を集めようとしている――と、コイツは考えているはずだ。


 ならば、クラスメイトを闇討ち――する方ならまだしも、された小谷を治療するというのは筋が通らない。これは彼の利に反することでも、俺たちに利することでもない。


「……」


 まだ考えている様子の勇者。俺はもう一押し背中を押すことにした。


「例えば……”奇跡”みたいな現象を目の当りにしたら、クラスの連中は神様に感謝するかもしれんなぁ」

「!!」


 ハッと何かに気づいた様子。


「……よかろう」

「ククク、そうか。礼と言ってはなんだが、一つアドバイスをやろう」

「……?」

「キサマが最近通っている……世界平和教会、とかいったか? あそこでは”力”は集まらんぞ。ご先祖様の土地を売るのもやめておけ」

「なっ……!」


 カァッ、と、勇者の顔が赤くなる。


「なんなら、今ここでやってみるか……? 力が戻っている感覚が微塵もないことは、キサマ自身が一番よく知っているはずだ」

「くっ……」


 握りこぶしを震わせるが、図星だろう。反論はしない。


「この日本において最も信仰されている神は、おそらく”天照大神”――だまされたと思って、一度伊勢に行ってみろ」

「伊勢……」


 ――


 放課後。


 俺たちはクラスメイトをゾロゾロと引き連れて、天照大神を祀っているある神社へとやってきた。


 朝からみな気落ちしっぱなしで、誰も信じてはいない。

 せいぜい、「少しでも早く良くなりますように」程度の認識だろう。


 叡智さんが俺のそばへやってくる。


「ねねピヨG、トゥモローが神社の家系でなんかお作法に詳しいってのマ?」

「うん、ホントホント。明日辺くんに任せておけば間違いないよ」


 まずは入口。

 鳥居をくぐる前に一礼し、気持ちを入れる。


 次に、手水舎の水で手を洗う。

 ここで、行為に着手する。


「まずはこのお水を悪いところにかけます。はい、小谷君、腕出して」

「マジか……いてて……」

「ちょっとピヨG! デコピン痛がってるよぉ!」

「いいんだ叡智。どうせならやるだけやってみるさ」


 素直に従い、小谷君は包帯から腕を外した。


「それじゃ明日辺君、よろしくお願いします」

「……」


 明日辺がなんかそれっぽく厳かにやってきて、水を掌に溜める。

 そして何事かをつぶやき始めた。


「ん? なにブツブツ言ってんだアイツ?」

「まぁまぁまぁまぁ! 邪魔しちゃいけない。少し遠巻きに見守ろう」


 周囲を少し遠ざける。

 やがて明日辺の掌がボヤーッと光を放ちはじめ、彼はキラキラと光る水を小谷君の腕に擦り付け始めた。


「あ、イテテテ、イテ、テ、テ……」


「う~見てらんない!」

「よ~しよし」


 ギャル仲間の藤原さんの胸に顔をうずめる叡智さん。


「おいおい……え、なにアレ、演出?」

「なんか水光ってね?」

「日光の反射っしょw」

「でもなんかエモい……」

「神秘的……」


 徐々に生徒たちがこぼす感想が引き締まっていき、雰囲気が厳かになっていく。


 その流れで、最後に拝礼をした。

 パンパンと手を叩き、各々が願い事をして――


「小谷くん!」


 俺は不意に、彼の右側から顔めがけてボールを投げつけた。


「どわっ!?」


 思わず、右手でそれを掴む小谷君。

 パシィーン、と音が鳴る。


「いっっっっ…………!!」

「ち……ちょーーーピヨG!! なにしてんのぉ!?」

「…………たく……ない……?」


 怒りかけた叡智さんは、小谷君のまさかの反応に目玉が飛び出る勢いで驚いた。


「え……え……えぇぇぇぇぇぇっ!!??」


「みんなの願い……神様に通じたみたいだね。次の試合、楽しみにしてるよ小谷君」


「……」

「……」

「……」

「……」


「う…………」


「うおぉぉぉーーーーーっ!!」

「ヤベーーーーーwwww 神様ヤベーーーーーーーwwwww」

「静かに! 静かに! 神社だよココ!」


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