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第九話 深夜の植物園

今日もギリギリ間に合いました。今回は半分スマホ、半分パソコンで書いています。

あまりちゃんと見直していないのですが、文章はそんなにおかしくはない……はず。

 深夜の帝都を歩くのは久しぶりだった。

 回帰前の帝都は内戦の影響で治安が悪く、大通り付近の路地であっても、深夜になると浮浪者や裏社会の住人がうろついていた。人通りが少ない道を女一人で歩くなどもってのほかで、大の男ですら危険なくらいだった。


 いま私が歩いている帝都は静かで、平和だった。外れの方の貧民街にさえ近づかなければ、狭い空路地を進んでも事件に巻き込まれることはないだろう。それよりも、善良な市民や巡回の兵士に見咎められることの方が怖かった。


 だが、心配していたような事態にはならなかった。音声阻害の衣は十分に効果を発揮しており、狭い路地に木箱やら瓶やらが転がっている区画を抜けるときでも物音を立てずに済んだ。


 それにしても、帝都は広い。

 普段は馬車で移動していたから気にしたことがなかったが、我がアルトナー公爵邸から皇宮まではかなりの距離がある。徒歩だとかなり疲れる。目的地である皇宮の植物園の入り口が見えた自分には、足が棒になりそうだった。


「ふう、やっと着いた。さて……」


 一息つき、植物園の東側に回り込む。

 しばらく歩くと、外れにひっそりとした空き地があった。木々がまばらに生い茂っているだけの土地だ。

 一見すると何の変哲もない場所だが、この場所には秘密がある。


「たしか、このへんに……あっと!」


 大きな木の根元に、人が一人入れそうな(うろ)を見つけた。

 実はこの虚、帝国の皇族のみが知るという、秘密の地下通路に繋がっているのだ。


 この通路の存在を教えたのは、ヘルムート皇子だった。

 回帰前、タチアナを失った私が悲嘆に暮れていたころの話だ。ヘルムート皇子は、傷心している私に接触し、巧言令色を用いて接近してきた。

 愚かだった私は、次第に彼の優しさに心を開いていった。その優しさが偽りだと知らずに……。


 そしてヘルムート皇子は、私をほどよく籠絡したタイミングでこの場所に誘い出した。


「きみのことを愛している。いずれ王妃になってほしい」


 輝くような美貌をほころばせ、彼は私に微笑みかけた。


「私の真心を示す証として、皇族しか知らない秘密を教えよう」


 ある夜、彼はこの通路を使って私を皇宮植物園に誘い込み、珍しい花々が咲き乱れるロマンティックな光景を見せ、歯が浮くような愛の言葉を(ささや)いたのだった。

 そして私はその言葉に騙され、彼に心酔するようになった……。


「ああああああ! もう、思い出しただけで腹が立つ!」


 かつての愚かな自分の姿を思い出し、顔が沸騰しそうになった。

 なんてバカだったんだろう。たったあれだけのことで、自分から進んでヘルムート皇子に心も体も委ねてしまうとは!

 バカバカバカ! 死んでしまえ!

 あのときの自分が目の前に現れたから、叫びながら首を捩じ切ってやる! 首斬りリヒャルトの手を煩わせるまでもない。この私自身がぶっ殺してやりたい! あああああああ! 私のバカ!


 いや、いまは苦い思い出に悶絶している場合ではなかった。さっさと用事を済ませないと。


 私は虚に飛び込み、暗くジメジメした地下通路を進む。

 通路は狭い上に分岐が多く、歩いていると不安な気分になってくるが、無心になってかつてヘルムート皇子が教えてくれた道筋を歩いた。

 歩くことしばらくして、出口に行き着いた。

 出口——園内の片隅にある木の虚から頭を出し、注意深く周囲を見回す。人の気配はなさそうなのを確認し、外に出た。春の涼やかな風が、園内の花々の香りを運んできた。腐臭にまみれた皇宮には似つかわしくない馥郁(ふくいく)な香りが心地良かった。


「さて、まずは銀月草を探さないとな……」


 皇宮植物園は、皇室が管理する庭園であり、実験農場でもある。

 今夜の私の目的——それは、この庭園で管理されている銀月草という植物だった。

 銀月草はいまから約十五年前に見つかって新種の花だった。春の夜にだけ咲く不思議な花で、一晩で枯れてしまうが、咲いている間は強い魔力を放ち続けるという特殊な性質を持っていた。

 一時的とはいえ、強力な魔力を放つこの花は厳重に流通が管理されており、この皇宮植物園か、魔道士たちの研究機関である魔塔でしか栽培が許されていない。


 銀月草が植わっているエリアは、ここから少し離れた場所にある。

 私は念のため、音声阻害の衣と気配遮断のイヤリングを起動させ、物陰に身を隠しながら進んだ。


 そして、目的の銀月草があるエリアにたどり着いたとき。

 私は春風に揺れる白銀の花の中に、ぽつんと(たたず)む人影を見た。


 滑らかな黒髪が月の光に照らし出され、その下にある滑らかな肌を輝かせる。

 物憂げな表情で、銀月草の花びらに手を伸ばしている人物は——。


「シモン皇子……」

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