0009:朝の光
チッチッ、という鳥の鳴き声を目覚ましに、彼女は目を覚ました。
随分穏やかな空気だと、そう想いながらゴソゴソと体を動かす。
あの時は確か、とまどろみの中記憶を遡りながら。
森で怪我をしていた鳥を助けようとしていた所で物音。
見覚えのある異世界人二人。
襲い来るゴブリン。
そして、鮮血。
彼女はがばりとその場で飛び起きた。
その光景をフラッシュバックしたのか顔色も悪い。
息を吸って、そして静かに吐く。
そして周囲の光景に、彼女は再度驚く事になった。
自分が寝ていた場所は、冒険者の使う旅布団とテントの中ではなく、ちゃんとした室内。
部屋の装飾こそ大人しいが、その出来は非常に高い。
ベッドも上質な上に、さらにふんわりとした布団。
外からの光は、一切の曇りの無い板ガラスから差し込んでいた。
突如国から脱出する事になったあの日から、もう味わえない物だと考えていた物。
いや、それよりも更に数段上質ともいえる環境と言えるだろう。
扉の外からは色々な音と香り、共に会話も聞こえてくる。
ここがどこなのか、そして何でこんな事になっているのか。
それを知るべく、彼女はベッドから降り、扉へと向かう。
そしてその先にある物を知る為に。
エルイーザ王国に属する一大貴族の一つ。
フロンタリア公爵家長女の一人娘であり、公式な家長。
その少女の名は、イーリス・ティア・フロンタリア。
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「おっ起きたンか」
口に歯ブラシぶち込んだ状態で、扉の開いた音の場所に向かったら彼女…イーリスちゃんが起きてた。
調子よさそうで、いやーえがったえがった。
なーんて言うつもりがサッと逃げられた。
解せぬ。
…あの時は結局、騎士様ことテクス氏の動体視力と剣技で、俺達を避けてゴブリンをサパッと切り捨てた。
それからは互いに助けてくれてありがとう、いや此方こそお嬢様を、何て感じに和解するに至った。
舞踏会の頃からの感じ的に、恐らくは戦争は嫌だったのでは?と考えていた訳で。
一応確認がてら上からの命令で舞踏会に出てたり?何て聞いてみれば、これまた想像が大当たり。
彼女自体はフロンタリア家長女の娘ではあったが、父が早くに病没。
残った母も体が弱く、彼女がいい年に成る頃に亡くなった。
結局家長としては未熟なイーリスは、母の妹が代理の家長として、お飾りという形で就任。
その母の妹が主戦派であったのもあり、いい様に利用されていたそうだ。
その為、利用されてしかも異世界人に手篭めにされては堪らないと睨んでたのね。
アレは怖かった。
因みに彼のフルネームはテクス・クルミナード。
クルミナードの家は、フロンタリア家に代々仕える騎士の家系だそうだ。
最終的には戦争が王城占領と言った形で早期終結。
主戦派だった妹の傀儡として利用されていただけだとしても、犯罪奴隷とされる可能性は十分にあった。
その為に御付の騎士である彼と、侍女達の手助けによって着の身のまま脱出。
当ても無い逃避行の旅となったとの事。
うーむ、まだ小学生程度だと言うのに実に壮絶である。
その後森を抜ける際、彼女が一人で姿を消してしまった所を、ゴブリン達から救った恩人。
…というのが彼の弁。
そのまま成り行きと、自分のせいでもある逃避行の贖罪って訳じゃないけども、彼らを実家へと迎え入れた。
彼女はゴブリンから逃げてる際に気絶してたようなので、そのまま余っていた子供部屋の元俺のベッドに。
テクス氏には一応買っておいた来客用の敷布団を用意させていただいた。
夜の警護とか、自分もこんな上等な物で寝る訳にはとか言ってたけども、問題ないと無理矢理寝かせた。
確かに公爵のお嬢様なんて向こうじゃ襲われても仕方ないだろうけどもね?
平和な現代日本(+ALS○K)なめんな。
因みに彼女の助けた鳥だが、寝たままバランス崩して落ちただけの様子。
小さいフクロウのようだったが、怪我も無く寝っぱなしとか何コイツ。
…こうして平和な朝を迎えた訳だが。
彼女は未だにテクス氏の服の袖つかんで怯えてるし。
そんなテクス氏はあやめの居るであろうリビングへ。
「お嬢様、そんなに怯える必要は……」
「大丈夫、どうしたのイーリスちゃん?」
あやめの優しい笑顔に彼女は少し怯えたが、以前よりは大分マシな様子。
「……ちょっと怖い」
ボク怖クナーイ!
「舞踏会の時に子供が好きな変態かもしれないって思われたんじゃない?」
「違う俺ロリコン違う」
「大丈夫よイーリスちゃん、変態だけどロリコンじゃないから」
「違う俺変態違う」