0010:やさしい世界
自分の誤解を…取れたか取れてないかは分からんが、とりあえずはまずメシじゃ。
広めのリビングダイニングにある机とカウンターテーブル。
今回は4人なので机のほうに座る。
それほど高くない机の上に、あやめと俺とで朝食用の諸々を用意。
食パンとマーガリン、一応トースターや他の調味料系も用意。
皿の上にはカリカリなベーコンと、付け合せにカットキャベツとプチトマト。
そして主役の目玉焼き、当然半熟だ。
とは言えあやめ曰く、今回は人が増えたのもあって簡単な物との事。
ブラック企業勤めの頃はこんな簡単な物も食えてなかったんですがそれは。
「食事前に目から光失うの止めない?」
おっと失敬。
皆が皆落ち着いたところで、今日の朝食といこう。
では……
「いただきます」
「はい、召し上がれ」
早速食パンを手に取る。
一枚をトースターに、もう一枚は手元に。
マヨとケチャップを軽くかけ、付け合せのカットキャベツを載せる。
そして一緒に目玉焼きとベーコン。
できたそれを一口、うんうまい。
食べにくい? 知った事か。
…まぁ途中で半熟の黄身が毀れるのは目に見えてるけども。
対するあやめは素の食パンにマーガリンを塗り、それを一口。
おかずとして箸で卵焼きを食べてる。
上品ね貴女。
…あれ?
「食べないのお二人さん」
対面の席に座る二人は、何故か困惑したまま手を出しかねてる。
手を出していいのか困惑してるのかね?
ちゃんと皿まで出したのに。
「い…いえ……こんな上等な物…よろしいんで……」
「ええんやで」
妙に胡散臭い笑顔で言ったらイーリスちゃんに再度引かれた。
何でじゃ。
「馬鹿なことやってないで、ささっ、二人とも遠慮する事は無いからね」
「ひどいわひどいわ!そんな軽く流すなんて!」
「飲み物は牛乳でいい?」
スルーですかそうですか。
対する二人は、まだおずおずとした手つきで食事に手を出し始める。
とは言え、フォークでそれらを口にしたイーリスちゃんは目をキラキラさせ、テクス氏はその味にか、ほうと声を上げた。
ま、向こうと比べて調味料の差ってのがあるものね。
口に合ったようでよろしゅおますわ。
…そしてイーリスちゃんに餌付けされる毛玉の姿。
例の豆みたいなチビふくろうが彼女と一緒に飯食ってるし……
妙に要領いいなコイツ。
「…さて、今日の予定なんだが……」
「向こう?こっち?」
「こっちで日用品買うべ」
「あぁなるほど」
二人がポカンとしている中、俺達は勝手に超速理解しながら行き先を決める。
まずは二人を風呂に沈めてキレイキレイになってもらおう!
その後はバスで移動した先にある大型量販店に向かう。
そこで日用品やら服やらをそろえましょう。
「と言うことでまずは外出用の服をですね」
「よっしゃ実家から私のお古もって来る」
ノリノリですね。
~~~
二人には遠慮とかそういうの全部無視して風呂にぶち込んだ。
洗い方や使い方を説明しながら、元じいちゃんばあちゃん用に広い風呂場で、ガッツリ洗った。
流石に逃避行を続けていたのもあって泡が立たないの何の……
この感覚、まるで親父の背中流してるみてぇで何とも。
あ、これテクス氏の話ね。
イーリスちゃんは勿論あやめがやりましたとも。
自分達は二人ともしっかり湯船に浸かってもらっている間に、今までの服等を洗濯。
ふはは、日本の風呂は暖かかろう。
その後はテクス氏に自分のサイズの合う服を。
イーリスちゃんは先に上がったので、テクス氏が浸かっている間にあやめの着せ替え人形と化してた。
まぁ…嫌がってる様子もないし、いいとしましょう。
…にしても鎧はどうすっかな……
暫く後、しっかり上がった二人はお古ではあるが服を贈呈。
着替えてもらった後に出かける。
最初はバスやら車やらに驚いていたが、まぁ異世界なので、と納得していただく。
そのうち嫌でも慣れるからのぅ。
まずはバス停まで歩き。
距離としては徒歩1分も掛からん距離なのでなんて事は無い。
「アレ!アレは何!」
「あれは電灯って言ってね、夜になると明るくなるんだよー」
「じゃあアレは!」
「あれは自販機、お金を入れて商品を選ぶと飲み物が買えるんだよー」
「すごーい!」
その間、あやめはイーリスちゃんから質問攻め。
「ほぉ…ではアレは?」
「駐車場、走ってる車あるでしょ?アレを止める場所なの」
「馬が居ないだけで馬車と変わりないのですな」
「とは言え個人所有の上、馬車より早いですが」
「凄まじい技術ですな…」
「ま、魔法が無かったんでこう発展したと言いますか……」
「ふむ…」
俺は俺の方で、テクス氏がイーリスちゃんの出した以外の質問をガッツリと。
結局目的地までそんな問答を繰り返しつつ出発する事に。
傍からは子供と外国人だからか、微笑ましく見られていたのはまぁ幸いか。
バスに揺られて十数分。
大通りに面した量販店に到着する。
都心の巨大デパートと違って、精々地下込みで三階層程度の地元の大型店。
専門店ほどではないが、ある程度の品はある。
とは言え、異世界組みにはとんでもない建物なんだろう。
ポカンと口を開け、二人揃って呆けてるし。
「ここに来るの久々すぎて草も生えん」
「地上二階とか低く感じて困る」
「それな」
都心のデパートとかだと普通に五階六階あるし。
感覚が都心になれ過ぎてて困る。
とりあえず呆けた二人を引き連れて、まずは地下のスーパーで日用品を、必要そうな物を片っ端からカートの籠に放り込む。
ハブラシ、コップ、歯磨き粉、シャンプー、リンス、ボディソープetc…
ついでに今日の晩ご飯の食材も買い込んでいく。
次に向かうのは二階の服飾店。
二人の普段着や下着をまず用意しないとならん。
なお、男女で別れ買い物した訳だが、野郎組みはサッサと決まった模様。
仕方ないね。
結局は決まるまで隅の休憩コーナーで二人、近くの自販機で買った飲み物片手に待機となった。
それなりに質問に答えた後だし、さっきまで呆けてたものの、もう慣れたのか静かだし。
もう会話が無いわ。
…と、まぁ思ってたんだけどもね。
「…ユウマ殿」
「んぁ?」
「何故、我々にここまでして下さるのか、理由を教えていただけまいか?」
そう、めっちゃ真剣な顔で問われた。
あぁ…まぁそうか、お嬢様の護衛としては裏を考えるか。
…でもねぇ……
「…まぁあえて言うなら……お詫び、かなぁ?」
「侘び?」
「いやね、俺達が異世界に召喚されたせいで二人は大変な思いをする事になったんでしょ?
だからその贖罪…って感じかな」
「そんな…貴方方は巻き込まれた側ではないですか」
「まぁそうなんだけどね?」
…でも、二人が寝てからあやめと話したんだ。
ゲーム感覚で冒険とか言ってたけども、アッチはアッチでちゃんとした世界なんだ、と。
自分達の行動で、イーリスちゃんみたいな責任の無い子供も、奴隷落ちになったんだ、と。
そう考えると、ね?
「まぁいいじゃないのさ、あの家に今更2人増えても変わらんし」
「…我々は逃亡者ですぞ?」
「いいったらいいの、どうせ逃亡者の追跡はされてないんだから」
「…貴方は……」
盛大にため息吐かれた。
何でじゃ。
~~~
こんないい思いをしていいのだろうか。
そんな思いが彼女の中に渦巻いていた。
こんな大きな商店で、自分の為に服を選らんで、挙句購入して。
確かにイーリスは貴族だった。
だが、過剰な贅沢はあまり好まなかった。
そんな自分を着飾り、まるで自分のように喜ぶあやめに、色々と考え込んでしまう。
白い髪に合わせて、純白のワンピース。
大人しめな黒いリボンのついた白い帽子。
美しい、綺麗な靴。
この場で着替え、そのまま着て帰ろうと力説するあやめ。
今までの経験から、何か裏や打算があるのではと、少女の胸の内にモヤモヤが募る。
全ての買い物を終え、待っていた二人の元に合流する。
沢山の買い物袋を掲げ、苦笑いするあやめと悠馬。
彼はついでと言って近くの店でソフトクリームを買ってくる。
全員同じバニラ。
それを全員に渡してそれを食べる時になって、少女は彼に声を上げた。
「…このお礼は、いつかきっとお返しします。
今はもう無くなってしまいましたが…我が家フロンタリアの名に賭けまして!」
ほんの少しの恐怖を感じながら、そう言葉を振り絞った。
…だが、その言葉に悠馬は驚き、目を一度パチクリとさせた後、今までとは違う優しい表情になった。
ゆっくりとひざを折り、少女と目線を合わせ頭をなでる。
「子供がそういう小難しい事言うんじゃないの。
子供らしく、普通に生活してくれるのが一番いいんだから」
その言葉に、今までイーリスの中で燻っていたもやもやは、一瞬で晴れた。
様々な人間に利用され、上辺の仮面の笑顔しか見れていなかった彼女にとって、その優しい笑顔は死んだ母と同じ物だったからだ。
あぁ、彼らは何の打算も無く、私達を救ってくれたのか、と。
貴族や名声なんて関係なく、彼の純粋なその思いは、彼女の心へとしっかりと届いた。
もう彼に恐怖を感じることは無い。
このやさしい世界で、彼女はようやく彼に微笑む事が出来た。
胸元にある金のネックレスを輝かせながら。
E 黒リボンの帽子
E 白いワンピース
E 綺麗な靴
E 天運のネックレス




