0077:毒
学園長が去った後、何とか空気も元に戻った。
やっぱりあの人圧がヤバイ。
なんて思いつつも、とりあえずナイア嬢の魔術陣込みの矢の実験は続行。
…とは言え、まだ実験段階故に、失敗も多々あった。
とりあえず確認できただけでも熱誘導から推進式、高貫通と様々。
アルバート氏も、コピーを見て舌を巻いていた。
でも名称はどうにかしよう?
サイドワインダーとかは…まぁ百歩譲ろう。
でもAP※1 とかHEAT※2 とか戦車の砲弾染みた略式書かないで。
魔法がいくえ不明。
このままだと魔法がひっそり幕を閉じる事になる。
※1:徹甲弾 Armor-Piercing の略
※2:成形炸薬弾 High-Explosive Anti-Tank の略
…ま、成功したのがさっきのレーザー誘導と高貫通だけだったけどさ。
熱誘導は別の熱感知してマトモに誘導せずポテン。
推進式は普通に推進力不足でポテン。
HEATに至ってはただの爆発で終わった。
しょぼんとなった彼女は非常にかわいらしい。
だが、ミリオタだ。
…その後、周りで見ていた生徒達が集まってきて、コピーされた魔術陣を見てあれやこれやと息巻いていた。
どうにも、ココまで精密に書き込まれた魔術陣はそう無いとの事。
本来の巻物何かは、使用者が触れて初めて動作する。
対して彼女の物は触れずに動作させ、しかも対象を狙って自律動作までさせる物。
そりゃ複雑になる訳だよ。
結局、周りに居た生徒達からの改善案があれやこれや。
偶然とは言え、非常に友好的な同士…同士?ができ、彼女にとって何とも有意義な時間となった。
とりあえず改善点や修正点が見つかったのは儲け物、との事。
彼女もふんすと鼻息荒く張り切っていてよかったでござるの巻。
なおその間、残された俺とアルバート氏&護衛の猫'sは、色んな教師陣に囲まれてましたとも。
大体が愛想笑いだけさ、時間が非常に無駄。
ナイア嬢に対して、俺自身は今日、何の成果も得られませんでしたぁぁぁーッ!
…まぁ、彼女の笑顔が見れて、おじさんもうれしい、といった形で綺麗に閉めておこう。
どんとはれ。
…気が付けば日が傾き、時間帯もいい感じ。
とりあえずあやめと合流しよう、という形で例のダンジョン構造学の教室へと向かった。
「オッス」
「おーっす」
…とは言え、こっちもこっちでそう遠くなく、案外すぐに合流した。
丁度授業終わりらしく、教室から何人かの生徒が出て行く所。
「どうね、難しいかね」
「いや楽しい、実に楽しいね!」
「…さいで」
めっちゃ目を輝かせて言う辺り、本気で楽しかったんだろう。
どうにも、彼女と共に居るイーリスとタクトも楽しかったのか、満足げな表情である。
「いやね、蟻の巣観察キットみたいな感じの物に壁やら階段やら配置して、擬似的にダンジョンを構成してだね。
そこにダンジョンを構成する生物を入れてどう動くか、どう生活するか、どこが無駄かどこが有用か構造を研究考察していく辺りが実に……」
とりあえずあやめはスルーして、子供組みに向き合う。
「何が楽しかった?」
「ダンジョン作るのが意外と面白かったなー」
「コレ、私が作ったの」
「ほー、よかったなぁ…」
「聞け」
頬を、抓らないで、いただきたい。
~~~
「いやぁ…溜まったね!」
「溜まりすぎじゃ」
帰宅後、そう言って目の前に再び摘まれた賄賂の山を見やる。
昨日今日と、更に量が増えてこのザマである。
量が量ゆえにもうゲンナリだよ。
コレ本当に貰っていいものか…受けない場合は返すべきか、なんて。
そう考える辺り、やっぱり俺ァ主人公よか小市民だよ。
「ですがいい物も…あら!」
そんな俺を他所に、やっと回復したであろうシャルリア様が、山の中から瓶詰めを手にする。
赤い、乾燥した葉のような物の詰められたビン。
「何それ脱法ハーブ?」
「捕まるわ」
せやな。
…まぁそんな訳無く。
「コレは紅茶の…しかも最高級のクリムゾンレオの茶葉です。
…呑んでもいいかしら?」
「良いけど…」
「急須しか置いてねぇ!」
ちくわ持ってやったがスルーされた。
悲しみ。
「他にもドラギオンハーブ、アルタイルローズ……」
「マザーブラック!ファイヤーレッド!」
「そしてバーニングゴールド!」
「「お前に相応しい茶葉は決まった!」」
「何召喚する気だ」
それソイルじゃねーから。
…てかこの数日でどこまでネットに毒されてんだこの駄猫共。
異世界人をも魅了するとは日本始まったな…
「あら、お茶菓子もありますね」
「丁度いいし少し遅めのお茶会ですかね」
「こんな格言を知ってる?」
「あくせくする必要がなく、ゆったりとした時を過ごす…人それを『優雅』と言うッ!」
「優雅さの欠片もねぇ!」
何で聖グロに正義の国語辞典が居るのかと。
じゃなくて。
「いいじゃん、一緒に優雅にたのしもうさ」
「…まぁいいけどさ」
「よし、じゃ茶菓子切って……」
そう言って、あやめが振り返る。
…が、その先には既に一切れ咥えているトールの姿が!
「茶会やる言うたろーが!」
「いや我慢できなくて…」
「兄貴!アタシにもちょーだいよ!」
「いや待て、ここは兄がちゃんと毒見…っ……ッ!」
「…兄貴?」
一瞬、茶菓子を加えた彼は動きを止める。
トールの体に描かれているのか、魔術陣が紫に浮かび上がり、しかめ面を浮かべた。
魔術陣に描かれた文字には、抗毒の一文。
…次の瞬間、トールが光を発した。
何の光!?




