0037:異世界生物録2
街を出て、次の集落へ。
一日たってもまた長い道のり。
森の近くの街道を、ただ只管に歩き続ける。
平和なのは非常にいいのだが、道すがら何もないと、今度は逆に暇になる。
そうなってくると、元貴族のお嬢様であるイーリスが暇をもてあまし始める。
悲しいかな、まだ子供なのだ。
だからって歩きスマホなんてやる訳にもいかん。
確実に事故る。
…結局彼女の提案からしりとりに落ち着く。
「りんご!」
「ゴリラ」
「ラッコ」
彼女の言葉に、つなげるように隣の俺とあやめが即効で答える。
りんごと来たらコレだろう、とでも言うように。
続くドランは、視線を変えず前を向いたまま。
「コニャック」
酒じゃねーか。
そう呟いたドランの目は虚ろ。
主な理由は酒不足である。
3日で飲み干したんだから自業自得じゃ。
「んー…クワ」
「では…鷲」
続くタクトとシャルリア様は気にせずスルーして続ける。
前から一緒のパーティーだったし、慣れてんのね。
「し、ですか……」
続くテクスとその次のテレーザ。
コレで一周となる。
「ではシャドウウォッチ」
「じゃチャルマド」
訳の判らない単語を作るのは止めていただけませんかね。
…と思ったらこっちではそれなりに一般的な物だったらしい。
シャドウウォッチは悪へと堕ちた魔術師軍団の事。
チャルマドはとある地方の名物料理だそうで。
ずるくなーい?
その一言に、次のイーリスは思いついたように声を上げる。
「ドミニゴ!」
おい本当にあるんだろうな。
あやめが一体何なのか問い詰める間に、思考を回す。
ゴから始まる言葉…ご、ご、ご…ご?
そんな時、ふと視界内に写りこむ姿。
「…ゴブリン」
「んが付いた!」
違うそうじゃない。
しりとりの話じゃない。
手で全員に存在を指し示す。
以前俺たちが襲われた種族。
緑の肌、上向きにとがった耳、大きく鋭い鼻。
劣等亜人種・ゴブリン、その集落が森の中にひっそりと存在していた。
見つからないようにそそくさと木陰に隠れる。
見える範囲で家と思われる天幕は大よそ7、一つに5人でも全然余裕そうな大きさ。
逆算で大よそ35~50前後の数は居るだろう。
「…討伐する?」
「いえ、無視で大丈夫です」
素で「えっ」と言ってもうた。
だって襲われるんだったら討伐するべき違うんですか。
「ゴブリンは確かに人を襲いますし、荷物を奪います。
…が、襲っても殺しはしませんし攫いもしません。
奪う物もごく限られてますので……」
「どういう事?」
その言葉に設定厨が反応する。
「ゴブリンは亜人の中でも劣等種扱いではありますが、知能はしっかりあります。
人を攫う理由も無ければ、殺す理由も無い。
何より、その際のリスクをしっかりと考えてます」
「…そっか、攫ったり殺したりしたら討伐隊が結成されて……」
「質も力も段違いな大軍相手にしたら、そら滅ぶわな」
殴る力も弱く、加工技術も低いゴブリンじゃどう足掻いても勝てへんわ。
「…て事は、そうたいした大事にならないのか」
「言われてみれば……」
そう思いつくとあやめも理解する。
殺されれば討伐される。
攫われれば討伐される。
重要物資が奪われれば討伐される。
…が、今も積極的に討伐されないという事は……
「盗まれる物も、大部分が銅貨と食料品位です」
「…まぁ坊主も一度やられてるしの」
「…何かあったんか」
「いやな、タクトの奴余裕こいての、次の日の朝街道で延びた姿が……」
「止めろ言うな!」
タクトが必死にドランの口をふさぐが、もう全部聞こえてるんだよなぁ……
…つまり、襲われても気絶させられる程度で済むって事か。
盗まれる物も大した物もなく……
「主に盗まれるのは、銅貨・保存食・ナイフ・木工品位です」
「装備は盗まれないの?」
「金属装備は奴らにとっては重すぎるようで…
ナイフは獲物を捌くのに必要なようで、作業用のナイフがよく奪われるそうです」
金属加工技術が殆ど無いのね。
「保存食はわかるけど…後の銅貨と木工品ってのは…なんで?」
「私知ってるよ」
「…テレーザが?」
そう話し合う中、背後からフヨフヨとやってくる。
「あいつ等、偽造されないちゃんとしたお金として、人間の銅貨を使ってるみたい。
偽造銅貨作ろうと四苦八苦してたゴブリンをね、チラッと見かけたことあるんだ」
「成程、金属技術が無いから…」
「おまけに普及数も一番多いと来れば…成程成程」
手帳を書く手を止めろ。
「あと木造品は…宗教的な奴」
「…はい?」
そのよくわからん説明に変な声を上げてしまった。
宗教的…ってどういうこっちゃねん。
「以前見た集落だとね…洞窟の奥で馬車の車輪拝んでた」
「えぇ……」
「聞いたことがあります。
ゴブリンは木材加工の、自分達の手の届かない技術を信仰すると……」
「…えぇ……?」
シャルリア様の追伸に、なおさら疑問符を浮かべる。
判らない技術を崇めてるの?
…解析して自分の力にしないで?
「何なのゴブリンって……」
「いいね、興味深い」
あやめさんカメラで連写するの、一旦止めようか。
カシャーカシャーカシャーカシャーカシャーカシャーカシャー




