0029:かみさま
「じゃあ改めて…初めまして、私はあやめ、彼女はイーリス。
手荒な事しちゃってごめんね?」
あやめは、逆さのザルの中にいる妖精に、子供をあやす様に話しかけた。
警戒心を与えないように、非常に優しく。
せっかく話ができそうなのだ、コミニケーションは大事。
そんな所に、ザルの横へとはさはさと下り立つ毛玉。
クルルと未だに威嚇を続ける大福である。
それを見たイーリスは、さっと大福を抱きかかえる。
そんな事をしてはいけない相手だと、わからせる為に。
…わざわざ顔の前に持って「めっ」とやる辺り、やはり子供である。
そしてそれを理解したかのように、ホと一息鳴くと威嚇を止めた。
さてはお前、頭もそれなりにいいな?
…毛玉の癖に。
「痛い痛い痛い止めんか毛玉!」
「…あのバカは悠馬って言ってね、外に出ると危ないからって貴女を捕まえたの。
決していやらしい意味とか、危ない思考はしてないから、ね?」
「………」
思考を読まれて大福に高所からゲシゲシやられる俺、爪が天板をぉ!
10センチも無ぇけど一応猛禽類の類だったね君!
あやめも話しの出汁にしないで!頭皮がやられて毛が!
助けてプリーズ!
「少し黙ってろハゲ」
「まだハゲてねぇててててて!悪かった!許せ大福!頼むから!」
謝るとようやく納得したのか、大福は俺の頭の上にどっしりと腰を下ろした。
完全に上下関係が出来上がったんですが。
そしてそれを見てケラケラ笑うドラン、もう暫く現代の酒は出さんから覚えとれよ。
俺が傷だらけになり、「大福 > 俺」の構図が出来上がったのが可笑しいのか、それともスッとしたのか、クスクスと笑う。
気を許してくれたのか、それとも警戒する必要は無いと判ってくれたのか、彼女は声を発した。
「…私は妖精の里エルドーラの「テレーザ」と言います」
「……! その声……いえそんな…まさか……!」
その彼女の声に反応したのは、他でもないシャルリア様。
それに合わせて、申し訳なさそうな表情のまま、ぽつりぽつりと話してくれた。
妖精族は、数百年所か一千年近い長寿を持つ高等亜人。
寿命以外にも高い魔術適性を持ち、その能力の高さは全生物でもトップクラスだと言う。
魔法は、空気中の魔力を操る事で事象を起こす。
その為に必要なのは、その魔力を操ることが出来る適性。
その適性が魔術適性であり、コレが低ければ簡単な物でも発動に時間が掛かる。
人間であればそこに魔方陣や、魔法発動体こと杖なんかがある。
アレは空気中の魔力を効率的に動かすための補助装備だと、アルバート氏が言ってた。
…因みに、高い魔術適性をもつ俺はどの程度か確認したところ、人間では高いレベルだそうだが、曰く妖精族なら探せばゴロゴロ出てくる程度だそうな。
知ってた、超知ってた。
閑話休題。
…だが、どの世界にも落ちこぼれはいる。
彼女エルザは、妖精の中でごく僅かに発生した落ちこぼれの一人だったそうだ。
本来妖精は、十数年かけて家族や友人、はては師となる人物に教えを請うて術を学ぶ。
だが彼女はいくら学んでも結果が出せず、気付けば早150年。
ようやっと覚えた魔術も念話や、ようやく家庭で使う程度の火や水等の基礎の基礎。
中途半端な隠蔽もこの腕前からくる物だったと言う。
人間ならば、適性の関係上魔法が使えるだけでも十分な人材。
だが彼女は妖精、そんな腕前ではどうしようもなかった。
結局彼女は里を離れ、独学と実戦から学ぼうとした。
…だが結果は燦燦たる物で、学ぶ事以前に戦いにすらならない。
逃げ惑い、飛び回り、気が付いたときには里にすら戻れない。
そんな時に見つけたのがシャルリア様だった。
たとえ落ちこぼれでも、人の内面や能力を見ることに長けている妖精。
今はまだ無名であり、清新な教徒だった原石の彼女を見つけた。
人間にしてはそれなりの魔術適性を持ち、磨き上げれば十分な実力を持つだろう逸材。
ただ、一人一人を調べられるほど人間社会はまだ発達していない。
その結果、こんな辺鄙な所にただの一教徒として、自然に祈りをささげるだけの少女として存在していた。
テレーザは、自身の為ではないとは言え彼女のお供え物によって食い繋ぎ生きながらえた。
その感謝の礼として彼女に付き添うことにしたそうだ。
その始まりが念話による意思の疎通。
魔術の基礎を教え、治癒の術を伝える。
妖精の能力である内面を見る力を使い、悪い所を的確に見抜き、彼女の治癒魔術による正しい場所の正しい治療によって、その腕と名はぐんぐんと伸びていった。
だが誤算だったのは、ただの恩返しだったが故に、テレーザが自分の名を名乗らなかったこと。
そして彼女もテレーザの名を聞く事以前に、聞く気が無かったこと。
「お手をお貸しいただき、まことにありがとうございます、『かみさま』」
『いや私は……』
「いえ…いわなくてもわかっております」
…その念話が、彼女の信奉する神エヴォリアからの神託だと、シャルリア様は信じてしまった事。
結局名乗る事も、修正することも出来ずココまで成長してしまった。
だが例えそうだとしても、意図していなかったとは言えだまし続けてしまったことへ、贖罪の意味もこめて恩を返し続けようとしていた。
「…だから私は、彼女に正しい道を歩んで欲しかった……
神聖教会なんていう紛い物を信じ続けるのも見てられなかった……
その嘘を暴く為にも色々やってきた…でも……」
そう、涙ながらそう胸の内を明かす。
教会の上層部に、出来もしない奇跡を行わせようと迫るように言ったのも。
ありもしない聖書の公開を迫るように誘導したのも。
…全ては彼女の想いがあった。
そんな彼女を捕らえていたザルをイーリスが外した。
逃げる気もないのか、気付いてすらいないのか、彼女はその場で懺悔を続けた。
「シャルリアは私を神様だと信じたまま…!
騙し続けたくなかった!…でも教会は紛い物でも、私を神様だと信じたままだった!
…勇気がなかった、言い出す勇気が……!」
「もう、いいのですよ」
シャルリア様は、そういうと両手で優しく彼女を掬い上げた。
ぺたんと座り込んだまま、本当に小さい目から大粒の涙を流す彼女を。
「教会の事は、それとなく判っていました。
それでも、今の今まで神エヴォリアを信じていました」
その一言に、彼女はビクリと怯える。
だが……
「だからこそ…私は貴女を許します」
そう、彼女は微笑んだ。
とてもやさしく、子供をあやす様に。
ゆっくりと指先を器用に伸ばし、テレーザの頭を撫でた。
「例え神様が嘘だったとしても…
貴女は私を変えてくれた、神様も同然の存在なのですから」
その一言に、彼女はわぁっと泣き出した。
今までの謝罪と、そして感謝と……
たとえエヴォリアが紛い物であっても、彼女は正しい神官なのだろう。
こうして、迷える者を救ったのだから。
「こうして、俺の尊い犠牲によってハッピーエンドを迎えたってワケだ!」
「台無しだよ」
尊い犠牲(尊厳と毛根)




