0016:忍び寄る病魔
「おお、見えてきましたな」
人の流れが増えてきた所で、テクスはそう言った。
彼の視線の先に、それなりの町が見える。
エルイーザから2つ集落を経由した先、4つの街道が交差する場所。
かつてエルイーザが国であった頃、唯一の非戦闘国であり、貿易対象だった国への窓口。
実質、この先にあるレイスティア公国の貿易集積地でもあるルスティの町。
レイスティア公国から、幾つかの集落を経由することで、目的地でもある魔術都市マギスティアにたどり着く。
とは言え、確認できるだけでも想定で2週間はかかる道のり。
まだ先は長いが、それでもここまでたどり着いたのは大きな一歩だ。
テレビが着てから2日ほど、案外すぐに別の町にたどり着けた、と感心する。
あやめも、イーリスちゃんも、見えてきた町にワクワクしている様子。
だが、ちょっと嫌な雲。
雷と湿り気、雨が降る前独特の匂いを感じる。
一雨来そうだ、何て言葉よりも早く、ポツポツと降りだした。
ローブのフードを被り、しっかり閉じる。
「畜生一雨きやがった」
雨脚は徐々に激しくなり、ザァザァと音を立て始める。
急いで先に進もうとするが、視界に入ったのは人の列。
「ルスティはレイスティア公国の貿易集積街です。
立地的にも街道的にも公国とは目と鼻の先、城壁もルスティを囲んでいます。
その為、入国料をここで徴収しているのですよ」
なるほど納得、とテクス氏の言葉に返事をしながらその列へと並ぶ。
全員黒いローブをフードまで被り、雨に耐えながら待つ。
冷たい雨が、原始的な防水加工しかされていないローブを濡らす。
体温を奪う程に冷たい。
くしゅんと、イーリスちゃんのくしゃみが響いた。
~~~
「いやー参った参った」
入国した時点で、既に日は落ちる寸前。
入ってすぐ宿を探す人の流れから隠れるように、家と家の間、裏路地へと流れてそこから帰宅した。
ローブは全部ぐっしょり。
それどころかその下、服までぐっしょりだ。
「サッサと風呂に入った方がいいな」
「だねー」
野郎組みは二階にあるシャワー室を、女子組みは一階の風呂に入ることに。
俺たちはそれほど時間は掛からず、サッサと入って出て、といった感じに終わらせる。
着替えを終えて、今日の冒険はコレで終了。
といった矢先。
冷蔵庫の中から飲み物でも、と開けると中身が無い。
アルェ?と思い風呂場のあやめに声をかけてみれば……
「あっゴメン!
今日帰ってから買い物するつもりで中身何も無いんだった!」
コレだよ。
ま、仕方無し。
「テクス氏、一緒に買い物行きませう」
「ではご同行いたしましょう」
最早なれた様にそう言って、共に外へ。
向こうと違って、日が落ちて暗くなりつつありながらも、街灯の光が道を照らす。
そう時間も掛からず付いた場所は、近所のスーパー。
高くも無く、だからと言って安いわけでもない。
どこにでもある、普通の店。
入り口すぐに張り出されたチラシを目に、何が安いかを目にする。
おっひき肉が安い。
ハンバーグとかいいかもしれん。
そう思いついたら膳は急げ。
まずは野菜を幾つか見繕い、たまねぎやらにんじんやら、ついでにレタスも安いし買っとこう。
次は生肉コーナーでお目当ての安いひき肉を幾つか。
ついでに冷凍の魚の切り身が目に入る。
白身魚を見て、久々に食べたいと思いコレも籠に。
出来合いの物はポテトサラダの大パックを、揚げ物は買わない。
卵はまだ冷蔵庫にあったけど、たぶん明日残りそうに無いからコレも一パック。
後ついでに飲み物としてチューハイのパック、ジュースも一応。
とりあえずコレぐらいで十分かしら?何て思いつつ店内を進む。
「…本当に、こんな幸せでいいのでしょうか…」
ふと、テクス氏がそう呟いた。
何さいきなり。
「幸せならいいじゃないの」
「いえ…幸せすぎて、その反動が怖いのです」
「幸運のぶり返し…って奴?」
「………」
黙ってしまう氏。
そんな彼の肩をバシリと叩くようにして、持つ。
「心配したって仕方あるまいさ。
なる様になる、なった時はそん時考えればいいの」
「…ですが」
「心配しすぎて足踏みしてちゃ前に進めんでしょうに」
その一言に、調子が戻ったのか彼は苦笑する。
「…前に進むと言うのでしたら、戦えるように努力してもらえますかな?」
「こりゃ一本取られたね」
ついでに、彼用のビールでも買っておいてやりますか。
…その夜、ハンバーグで行こうといった俺の言葉に、あやめはしっかりと答えてくれた。
全員分のガッツリとしたハンバーグ、当然ライス大盛りで頂きます。
おまけで買ってきたポテトサラダも準備され、小皿に盛る。
ポテサラにはソースがうまい、異論は認める。
皆が皆美味しそうに頂く姿に笑顔を浮かべる。
幸せな家庭って、きっとこういう物を言うんだろうな、なんて。
変なフラグ立ててみる。
「黙って食べな」
「ヘーイ」
…後は全員、再度風呂に入った。
イーリスちゃんは自分一人で入れると言ったので、あやめがしぶしぶ、本当にしぶしぶ身を引いた。
どんだけ一緒に入りたいのか。
その後はあやめ、俺、テクス氏の順に風呂へ。
湯上りに野郎組みは酒を一杯頂き、眠る事にする。
明日もいい日になる。
そう思いながら……
…もう一本フラグ追加ですね。
「黙って寝な」
ヘーイ。
~~~
翌朝、事態は一変した。
朝になっても中々出てこないイーリスちゃん。
大福の鳴き声で異常が起きたと判断し、全員で部屋に行った所、様子がおかしい。
はぁはぁと息を荒げ、顔を赤くし、咳を出す。
間違いなく、病気の類のソレだった。
とりあえず病院に、といった所で、テクス氏は語った。
「…向こうの病気の一つで、一度掛かると長く苦しみ抜く。
大人も掛かるが、その大半は幼子が掛かり、助ける手段は教会の治療布を使う他無い。
ソレが無ければ、幼子では一度掛かるとほぼ確実に助からないと言われています。
通称……」
――幼子殺し
ぴしゃりという稲妻の閃光と共に、雨が降り出した。




