0013:戦いの心得
向こうに着いて装備品を再点検。
問題なしと判断し、さぁ出発である。
場所はエルイーザ近くの森、その森の中にある道。
馬車も通れるほど広く整備されたその道は、隣接する農村へと繋がっている。
ここを進んで別の王城…国に入るまでは徒歩の旅だ。
…とは言え完全に安全ではない。
この森道付近に生息するのは小動物や小型のモンスター。
ただモンスターとは言っても、精々少し大きめな動物程度なのでそれほど脅威ではない。
…というより、本来向こうからちょっかいをかけてくるほど凶暴な奴は、実はそう居ないとか。
何せその殆どが徘徊性であり、森から道に出てくることも少なく、何より人や馬車相手を見かければ森の中へと即座に逃げ込むんだそうだ。
ここいらの小型モンスターは、その大部分が小動物同然との事。
それこそ付近に出たというヘルハウンド自体が特例中の特例。
森の奥深くの縄張りにでも入らない限り、本来襲ってくる事は無い。
恐らく、子の餌を探しに道まで来てしまったのではないか、というのがテクス氏の想像だ。
残る危険性のある原生生物といえば、この森全体に点々と集落を持つゴブリンの群れだろう。
物資の不足を通行人を襲撃することで補う、言ってしまえば根っからの盗賊。
更に奴等はずる賢く、奇襲や戦術、数で補ってくる。
此方の腕が立てば貧弱だが、それでも稀に苦戦する事もあるとか。
ただ、今回は十分腕の立つ御方にご同行して頂いております故。
「…ふむ、数だけでしたな」
テクス氏はそう言うと、剣を鞘へと仕舞った。
前と後ろの挟み撃ちだったが、前は速効で壊滅した。
剣を振るうと共に鮮血が飛び、悲鳴が上がる。
盾で相手を殴りつけ、吹っ飛ばす。
挙句、蹴りでゴブリンが空を飛んだ。
貴方強すぎません?
コッチは苦戦も苦戦、大苦戦してるというのに。
「来てる来てる!」
「わかっとるっちゅーに!」
爆轟でもって地面を発破する。
爆裂と衝撃、飛来する石つぶてにゴブリン達が下がる。
だが勇敢な奴が、棍棒片手に突っ込んできた。
一撃は弱く「いてっ」程度ではあるが、れっきとした攻撃。
それに対して、俺は腰からショートソードを……抜かない。
確かに、明確な敵意でもって殴ってきたが、それでも剣は抜けない。
今まで虫はともかく、動物相手に手を出して殺したことは一度も無い。
現代日本人としては普通の事だ。
そんな俺が、明確な意思を持った相手に剣を突き立てて、殺す?
……できる訳が無い。
「それでは倒せませんぞ」
「わかっとるわ!」
そう背後から言われるも、それでも武器は構えず。
だが、相手であるゴブリンも、俺の行動を見て武器を仕舞う。
一瞬戦闘の意志を放棄したのかと思ったが、んな訳無い。
「うおぉぉおぉぉおお!?」
次の瞬間、一斉に殴りかかってきた。
武器や防具は、正しい状態で存在するからこそ、正しく効果を発揮する。
ただし、戦闘を続ければそれらも消耗する。
棍棒も殴れば、いずれヒビが入る。
剣も斬れば、刃こぼれする。
鎧や盾も、凹めば本来の防御力は落ちる。
装備品は彼らにとっての仕事の必須道具。
壊れでもすれば、修理や作成にどれだけの時間と金と物資を消耗するのか。
僅かな生計でもって生きるには、消耗は可能な限り避けたいのが実情だったりする。
それに伴い、知性のある者達の一部は、武器を仕舞っている相手に、素手で立ち向かう事も間々ある。
命も散らさず、実践訓練にもなるという、戦う者同士の一種のルールだ。
…ただし、それでも容赦なく剣を抜く者も居なくはないが。
とは言え、装備品は消耗品。
あまり消耗したくない、というのは冒険者やゴブリン達も同様なのだ。
…だからって一斉に殴りに来るのはどうかと思います。
咄嗟に反撃するが、まぁ経験も無いのに当てられる訳が無い訳で。
痛みは殆ど無い物の、明確な意思を持って殴られる事に少々困惑する。
コレが命をかけた者同士の戦闘と言えるのか。
剣も抜かず、反撃もできない。
戦いという行為に、意思がついていかない。
…結局、囲んで殴るには威力が足りず、此方も一切反撃する様子が無かったからか、ゴブリン側は引いた。
たとえ敵意を持った命のやり取りだろうと、思っている感情と実際の感情では、やはり難しい物がある。
コレでは足手纏いにしかならない。
テクス氏も苦笑していたが、こればっかりは文化の違いだ。
相手を自らの手で「殺す」という行為は、やはり禁忌感がある。
現代人であるが故の、欠点なのかもしれない。
…なお、引き上げる際におちょくってきた奴は右ストレートでぶっ飛ばした。
ぶっ飛ばすと心の中で考えた時点で既に行動は終わってたわ、流石兄貴ィ。
ヒドォチョグテルトヴッドバスゾ!




